研究室紹介
以下、グリーテクノロジー学科に就任予定の教員の研究室です(2026年4月1日就任予定)。
青野 健作 准教授
[ 専門分野 ]国際法/地球システム法
人新世における国際法のパラダイム転換
※2027年度より理工学部専任

秋月 真一 准教授
[ 専門分野 ]廃水資源化工学
光合成微生物の機能を利用した廃水資源化

井田 旬一 教授
[ 専門分野 ]材料科学・工学
材料科学と粉体工学による微生物学的排水 処理技術の高度化
井田 旬一 教授
[ 専門分野 ]材料科学・工学
材料科学と粉体工学による微生物学的排水 処理技術の高度化


世の中の問題を解決し、生活を変える「材料開発」
私の研究室では、新しい材料の開発に取り組んでいます。材料開発には、世の中のいろいろな問題を解決する力、生活を変える力があります。近年では、青色発光ダイオードが開発されたおかげで、照明の世界が変わりましたね。宇宙に行くにも深海に行くにも、新しい材料が必要です。
私たちは材料開発の中でも、環境問題を解決するというところを焦点に研究を進めています。いろいろな研究に取り組んでいますが、一部をご紹介しましょう。
現在のメインの研究テーマはゲルの開発です。身近なところにあるゲルといえば、こんにゃくや豆腐、ゼリーなどがそうですね。また、紙おむつにも吸水ゲルが使われています。しかし最近では、このようなゲルとは全く異なる新しいゲルが続々と開発されてきています。例えば、花の上に乗せられるような超軽量のゲルや、車で上に乗っても壊れない高強度ゲル、環境によって性質の変わるゲルなど、様々なゲルが開発されていて、面白い分野です。

微生物の力を活かすゲルで、水処理の低コスト化をはかる
私たちは、メキシコのグアナファト大学と共同で、水処理に利用できるゲルの研究を行っています。微生物の力で汚水を処理するとき、有機物は分解できてもアンモニアは残ってしまうので、それを無害な窒素にまで変換しなければなりません。硝化細菌という細菌を利用してアンモニアを処理することはできるのですが、その処理には大量の空気(酸素)をポンプで送り込む必要があり、莫大な費用がかかります。汚水処理の問題は発展途上国でも深刻で、この莫大な費用を賄いきれない国が多くあります。
私たちの共同研究では、硝化細菌とともに、酸素を生みだす微細藻類を利用しようと考えています。微細藻類は光合成をするのに光を必要としますが、硝化細菌は光があると死んでしまいます。そこで、遮光できる物質の入ったゲルをつくり、その中に硝化細菌を閉じ込めて、微細藻類とともに装置に入れることにしました。これなら低コストなので、途上国でも導入しやすいのです。

スマート材料で、エネルギーをかけずに重金属をリサイクル
また、現在、材料の分野では、スマート材料とか、インテリジェント材料とかいわれるものが注目されています。これは、環境によって性質が変わる材料のことです。
私たちの研究室でも、感温性ポリマーといって、温度によって構造の変わる、長い鎖状の材料を開発しています。構造が変わる温度も自分たちで設計し、その構造変化を利用して汚水中の重金属イオンをつかまえたり放したりする性質をポリマーにもたせ、重金属の回収に応用しています。こうした材料を開発することで、あまりエネルギーをかけずに重金属をリサイクルできるようになります。
このほかにも、光ファイバーを利用した新しいセンサー開発や、二酸化炭素分離のための新規のナノ材料の合成など、複数のテーマで研究を進めています。
また、創価大学内の他の研究室や、メキシコやマレーシアといった海外の大学との共同研究も、積極的に進めています。環境問題は発展途上国で深刻化していますので、現地の大学と一緒に問題を解決していくのは重要なことだと考えています。現地の若手研究者なども、日本と共同研究をすることでレベルを上げていきたいという熱意がありますから、とてもやりがいがありますね。

創価大学工学部の一期生として入学
環境問題を解決したいと思うようになったのは、高校生のころです。ちょうど大気汚染、水質汚染、土壌汚染などの問題が噴出してきた時期でした。目指していた大学があったのですが、受験はうまくいきませんでした。でも、ちょうど創価大学に工学部ができたばかりで、生物工学科があったので、そこで勉強してみようと思いました。
不本意入学といえなくもなかったのですが、工学部ができたばかりで、先生方からは「理想の学部、学科をつくろう」という、ものすごい情熱を感じました。学生たちも「一期生だ。自分たちが歴史をつくるんだ!」という意識がありましたから、不本意だなどと感じている暇もなく、楽しかったですね。なにしろ上級生がいないわけですから、先生方も一年生のときから研究に誘ってくださったり、「研究とは学生も教員も対等にやるものだ」とディスカッションをしてくださったりと、本当に力を引き出してもらえたと思っています。
大学院卒業後には、博士研究員としてアメリカへ渡りました。中学・高校でバスケットボールをやっていて、NBAに憧れていたこともあり、アメリカは憧れの地でした。住んでいた時には夢の中にいるような感じで楽しかったですね。
実は学校一、勉強ができなかった小学生時代
こうお話すると、小さいころから理科ができて勉強好きで研究者を目指していたと思われるかもしれませんが、実は小学校のころは、学校で一番、勉強ができませんでした。
通知表に「よい」「ふつう」「努力」という項目があって、全項目、「努力」だったのは私ぐらい(笑)。自分でも出来がよくないと思っていましたが、母親だけはずっと私を信じて、「お前はやる気になれば何でもできる子だ」といい続けてくれ、一度もけなされたことがありませんでした。母親が信じ続けてくれたおかげで、ある時を境に勉強にも挑戦できるようになり、少しずつ勉強が好きになっていきました。また、小さいころからずっと本の読み聞かせを続けてくれたのも大きかったですね。そのお陰で本が大好きになり、小学校高学年時に、様々な面白い理系の本に出会えたことが、今の自分を方向付けたのだと思います。
人を思いやり、人の力を引き出す環境に救われた大学時代
大学時代は楽しかったというお話をしましたが、実は楽しいばかりではなく、引きこもった時期もありました。もともと性格的に、他人と自分を比較して自分を卑下する傾向があったため、いつの頃からか、自分の欠点を隠さないといけないと思ってしまったのです。何がしたいかよりもどうすれば人からよく見えるかということにとらわれ、「いい子」の自分を演じていたのですが、そういう自分に疲れてしまったのです。
しかし、そんな私を、先生方も友達も、いい意味で放っておいてはくれず、心配してみんなで励まし続けてくれました。でも、当時はそのことに気づけませんでした。
周囲で励ましてくれた人たちの気持ちが本当に理解できたのは、アメリカに渡ってからです。同じ研究室の友人が悩んでいて、何とか励ましたいといろいろ気遣っていたのですが、そのときに初めて、自分がしてもらってきたことに気づきました。周りの人たちがいかに自分のことを考えてくれていたか、ということを心から実感できたのです。
自分を信じて原石からダイヤを磨きだしてほしい
振り返ってみると、私は、縦や横のつながりとか、人のことを心配したり励ましたり、人を信じて力を引き出したりするやさしさといった創価大学の雰囲気に救われたと思います。こうした良さは、今の学生を見ても伝統として息づいていますね。入った学生が伸びる大学が創価大学だと感じています。
ですから、「勉強ができないから」と、やりたいことを諦めようと思っている人がいたら、簡単に諦めず、自分を信じて頑張ってほしいと思います。自分を信じることは難しいことですが、信じて磨かないと、原石からダイヤは出てこないのです。
いい結果が出なくても、科学の進歩には貢献できる
創価大学は学生中心ということをモットーにしていて、私の研究室でも、基本的には研究も勉強も学生に任せています。その一方で、任せきりにはせず、こまめにディスカッションしながら研究を進めています。学生は自主的に本当に一生懸命、研究に取り組んでいます。
その分、思うような結果が得られないときにはこちらもつらいですが、大事なのはいい結果が出ることだけではありません。科学は、共同で大きな「表」を埋めていくような作業で、「この条件でやったらうまくいきませんでした」と、誰かが「×」をつけるのも大事なことなんです。そうすればほかの人は、その作業はやらなくてもいいわけですから。
ですから「研究でいい結果が出なかったことは残念だけれど、それも科学の進歩には貢献していること。そして何より、自身が研究を通して問題解決能力を身に付けることが重要」と、学生には話しています。
自主的に研究を進め、途上国の環境問題に貢献したいと思っている人はぜひ、一緒にがんばりましょう!


先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

共に、の「共」です。研究というのは一人ではできないんですよね。共同研究も増えていますし、学生をはじめいろいろな人と一緒に進めていくのが研究だと考えていますので、「共」を選びました。
プロフィール
共生創造理工学科 井田 旬一 教授
1972年 群馬県生まれ
1995年 創価大学工学部生物工学科卒業
2000年 同大学院博士課程修了
博士 (工学)
2000年 シンシナティ大学化学工学科 博士研究員
2005年 創価大学工学部環境共生工学科 講師
2007年 創価大学工学部環境共生工学科 准教授
亀田 多江 教授
[ 専門分野 ]ロボット工学
環境活動における情報システム活用効果
※2027年度より理工学部専任

久保川 達也 教授
[ 専門分野 ]数理統計学
空間データの解析のための統計的モデリング

久米川 宣一 准教授
[専門分野]植物育種学
桑およびハーブにおける倍数性育種
久米川 宣一 准教授
[専門分野]植物育種学
桑およびハーブにおける倍数性育種


遺伝子という便利な情報を使って 人に役立つ新しい品種を作る
私の専門は植物の「育種」です。植物同士をかけ合わせて、人間にとって望ましい性質をもつ新しい品種を創り出します。農耕が始まったころにまでさかのぼる古い技術ですが、私はそこに遺伝子についての知見を加え、効率よく新しい品種を生み出しています。
かけ合わせる植物を「育種材料」といいますが、それがどのような性質をもつ品種なのかがわかっていないと、目的にかなう育種ができるまで時間がかかってしまいます。育種材料の品種を明らかにするには、植物のもつ遺伝子を調べる「遺伝子解析」が役に立ちます。
ちなみに、私は植物の遺伝子を扱う専門家ですから、人為的に遺伝子を操作して新しい品種を作る「遺伝子組換え」もやろうと思えばできます。しかし、私はその技術を生命現象の解明に使うのにとどめ、従来どおりの手法で育種を行っています。

「植物ハカセ」だった子ども時代から 興味の対象にとことんのめり込む!
私は植物が大好きで、小学生のころは植物図鑑を見るのが趣味でした。今よりもたくさんの植物の名前が頭に入っていて、「植物ハカセ」と呼ばれていたのです。祖父の影響で盆栽と園芸もし、中学のときには自分で作ったキュウリを近所にたくさん配ったりしていました。
理科も大好きで、中学では理科部の部長として20〜30人くらいの部員を率い、花火を作ったり(今では規制があって無理ですが、昔はできたんです)、校区内のタンポポ調査をして市のイベントに出展したり、華やかに活動していました。楽しかったですね。
ところが高校に進学して、暗記中心の勉強が面白くなくなってしまいました。ただ、わからないことを「それはなぜ?」と追究するのは楽しくて、興味のあった化学にだけはのめり込んで勉強していました。
結局、私がモチベーションを持てるのは興味があることだけなのです。それは今も昔も変わりません。
農学部志望だったのですが、創価大学に工学部ができるということで急遽受験。なんとかすべりこんで生物工学科(当時)の第1期生になりました。
大学でバイオテクノロジーに触れ 遺伝子研究の面白さに夢中に!
大学に入ると、大好きな化学の授業があまりにも難しくて打ちのめされました。一方で、生物の基礎を学んでいくうちに、当時新しい学問領域だった遺伝子に興味を持ち始めたのです。
私が大学に入学したころは、ちょうどバイオテクノロジーが花開いた時期です。遺伝子のはたらきや、それによって生物現象をどのように説明するのかが、とてもスリリングで面白く、今度は遺伝子の勉強にのめり込んでいきました。
学部終了後は他大学の農学部の院に進みました。伝統的な農学と遺伝子学という新しい分野が一緒になった時期にあたり、私はイネの品種を見分ける遺伝子解析にも携わらせて頂きました。ちなみに当時の上司がこの基本技術を確立し、やがてブランド米「コシヒカリ」が本物かどうか、正確に見分けることが可能になったのです。
作物が巨大化し栄養素も増える 倍数性育種で新しい品種づくり
いま私の研究室では、染色体を通常より増やす倍数化技術をメインにクワなどの育種をしています。
生物は両親から染色体という遺伝子の乗り物を1セットずつ受け継ぐので、染色体は2セットあります(2倍体)。それが3セット(3倍体)や4セット(4倍体)だと生物はどうなるでしょうか?
その答えはイチゴにあります。イチゴは普通の4倍の染色体セットを持つ「8倍体」なのです。2倍体のイチゴは小指の先ほどの大きさしかありません。いま流通している大ぶりのイチゴのブランドは、先人たちが長年倍数性育種をしてきた結果です。
地元の農業を元気にしたい! その想いが研究の原点
創価大学にはもともとクワ研究で有名な先生がいらして、その研究を引き継ぎました。種苗登録しているクワの品種「創輝」は、葉っぱが30
そもそもなぜクワなのか?というと、創価大学がある八王子は絹織物で有名で、別名「桑都(そうと)」といわれるくらいクワの栽培が盛んな地域でした。そこで「大学の知を地域に還元して貢献しよう」ということからクワの育種が始まったのです。
「創輝」は病気にかかりにくく病害虫も少ないため、丈夫で無農薬でも育てやすいという特長があります。葉っぱが大きいので収穫の効率がよく、地元の農家の人たちには「少ない手間ですむ」と好評です。
美味しくてアントシアニンたっぷり 「食べるクワ」の開発に成功!
私が今手掛けているのは、食品としてのクワです。ここに赴任したとき「クワはカイコの餌だけじゃなく、人間の体にもいい」という話を聞いて、「これだけクワの育種素材が豊富にあるのだから、人間が食べるための育種をしましょう」と、提案したのです。
サイズが大きくなるだけではなく、栄養素が増えるのも倍数体の特長です。まず、とても長くて大きく、食べでがある実をつけるクワができました。通常のクワの実は糖度が15~16度ですが、このクワの実は最高糖度が23度と、クワの実とは思えないほどに甘いです。
もう一つ、実は小さいけれどアントシアニンがブルーベリーの4倍以上含まれるクワも作りました。このクワは3倍体なのでツブツブしたタネが少ない分、アントシアニン含有量が高くなるのです。
視力回復に効果がある量のアントシアニンをブルーベリーで取ろうとすると、1日に300g以上食べる必要があります。このクワなら15粒食べれば十分です。これを新たに品種登録しようとしているところです。

地元の近郊農業を元気にするには、農産物のブランドづくりが不可欠です。育種はオンリーワンのブランドづくりに適しており、特に市場規模がまだ小さくて種苗会社が手を出しにくい分野が狙い目です。そのようなチャレンジができるのが大学の研究の強みですね。クワが一段落したので、次はハーブの育種に取り組み、ブランド化する予定です。
大学内コラボから生まれた 農業用センサーという目標
創価大学は教員の仲がよく、研究室同士で気軽にコラボができます。たまたま情報システム工学科の先生が「農業用のセンシングができないだろうか」と声をかけてくださったとことから始まったのが、「農業用ヘテロコア型光ファイバーセンサ」の開発です。
私もかねてから樹木や植物のセンシングに興味がありました。高齢化と人手不足が進む日本の農業は、ITを使ってどれだけ省力化できるかが問われています。農業とITの融合はいまとても注目されている分野です。
みなさんも鉢植えを育てるとき、植物がしゃべれて「水がほしいよ」とか「ここは暑すぎる」と教えてくれたら枯らさないですむのに、と思ったことはありませんか?しゃべれない植物にかわって、いまの状態を教えてくれるのが農業用センサーなのです。
今手がけているのは、水やりを自動化するために土壌の水分を測るセンサーと、植物の生理状態の変化を捉えるセンサーの2つです。後者はミカンの幹の太さ(周囲長)を毎日マイクロメーター単位で測り、環境変化との関連を探っています。

使っている技術は同じですが、植物の状態を捉えるセンサーのほうがゴールまでの道のりが遠くてたいへんです。幸い年間を通して実験するうちに、環境が変わってミカンがストレスを感じると、センサーの測定データに乱れが出ることがわかりました。
植物の発するストレス物質を測ろうとすると大掛かりな装置が必要で、植物のストレスをモニタリングするのは非常に難しいと考えられてきました。それを気軽に測れるようになればとても便利です。このセンサーひとつで植物の状態がある程度わかるようにして、農業に役立ててもらうのが最終目標です。
好きなことに夢中になりながら 新しい価値を生み出せる喜び
研究していて楽しいのは、一風変わった花を咲かせる新しい品種ができたり、新しい美味しさを実感する瞬間です。遺伝子解析によって、クワの実からパンに最適な天然酵母を見つけました。他の研究室とも協力して、創価大学ブランドのパンづくりを目論んでいます。そういう広がりも楽しいですね。
うちの研究室には植物好きや動物好きなど、自然を愛する学生たちが集まっています。植物を管理しているので、毎日コツコツ面倒をみるのをいとわない人が向いています。育てることに真摯に向き合い、「先生!これちょっといつもと違いますが、どうですか?」と、変化に敏感に気づく人に来てほしいです。
もしかしたらかつての私のように、自分のやりたいことがはっきりしている生徒ほど、高校の勉強が楽しくないかもしれません。でももうちょっとの辛抱です。大学ではほんとうに好きなことにチャレンジして伸びていけます。それを楽しみにがんばってください。

研究を漢字一文字で表すと?
「創」
品種登録しているクワの名前にこの1文字を使っているということもありますが、育種は新しい品種を創りだすことであるからです。

経歴
1972年 大阪府出身
1995年 創価大学工学部卒業
2000年 東京大学農学生命科学研究科 博士(農学)
2000年 (財)かずさDNA研究所 特別研究員
2003年 創価大学工学部環境共生工学科 講師
2015年 創価大学理工学部共生創造理工学科 講師
2020年 創価大学理工学部共生創造理工学科 准教授
黒沢 則夫 教授
[専門分野]微生物学
極限環境微生物の分類と生理生態
黒沢 則夫 教授
[専門分野]微生物学
極限環境微生物の分類と生理生態


マイナス30℃から100℃以上まで さまざまな環境に微生物がすんでいる!
私の研究室は「極限環境微生物学研究室」といいます。極限環境とは、ヒトを含む一般的な動植物が暮らす環境とはかけ離れた環境のことで、そのような環境に暮らすバクテリア(細菌)やアーキア(古細菌)、そして微小な真核生物を極限環境微生物といいます。温度、圧力、pH、塩分濃度、放射線など、さまざまな観点からみた極限環境にすむ微生物がいます。
中でも私は50℃から90℃ぐらいの高温環境にいる好熱菌と、マイナス30℃から0℃ぐらいの環境にいる好冷菌を研究対象としています。好熱菌は生命の起源に近いと考えられているので、その研究は地球生命の起源を探ることにつながります。また、生命活動の高温・低温の限界に迫り、その生存戦略を解き明かしていくことも研究テーマです。
バンド活動に熱中した高校〜大学生時代 卒業研究で微生物と出会う
私は子どものころから生き物が大好きで、よく魚取りや昆虫採集をしていました。高校ではバンド活動に熱中し、生活の中にあまり生き物が入ってこなくなりましたが、熱帯魚の飼育は続けていました。高校を卒業する頃はプロのミュージシャンになりたいと思っていて、親に「音楽学校に行きたい」と言ったのですが、大反対されて(笑)。じゃあ大学に行って音楽活動を続けようと(安易に)考え、理科、中でも化学が得意だったので、化学科に進学しました。大学の勉強の傍ら、高校の時のバンドのメンバーとプロを目指す活動をしていたのですが、3年に進学するあたりで、プロになる難しさを感じ始めました。
一方で大学の勉強のいくつかはとても面白く、特に有機化学系の実験は好きでした。でも、4年生になって選んだのは、生物、酵母菌を扱っている研究室でした。たくさんの種類の酵母菌を培養して、脂質を系統的・網羅的に調べて分類との関係を考察するような卒業研究を行いました。いつだったか、研究室の教授に「酵母菌の脂質を調べることは何の役に立つのか?」と質問しました。教授は「すぐに何かに役立つということはない。未知の世界について人類が新しい知識を得ることに意味があって、それが科学というものだ。」と即答されたことを今でも良く覚えています。それは研究者としての今の自分の信条にもなっています。
アカデミズムにあこがれ メーカーの研究職から大学助手に
卒業後は化学品と食品の両方を扱うメーカーに就職しました。学部卒ですから営業で採用されたのですが、新人研修で各部署や工場を回る一環で研究所の研修をしている時に、そのままそこに配属されることになりました。配属先は新規探索部門で、それまでにない新しいタイプの液晶化合物の合成と物性測定を少人数で進めていました。偶然にも学生時代に一番好きだった有機合成を毎日できる状況になり、毎日が充実していました。
転機となる出来事があったのは入社5年目のころです。1カ月くらい、勉強のために東北大学薬学部の研究室に出張することになりました。そこはとても活発な研究室で、大学院生も多く、みんな朝早くから夜の10時、11時まで研究をしていました。「大学で研究するというのは、こういうことなのか、こんなふうに研究できたら素晴らしいだろうな」と強く感じました。アカデミズムにひかれたんですね。
そんな折、大学時代の研究室の先生から、「創価大学に工学部ができることになり、助手を何名か募集している。どの研究室に配属されるかわからないが、転職する気があるなら紹介する」と言われたんです。迷わず転職することにしました。幸い受け入れてもらうことができ、遺伝子工学研究室に配属されました。助手として学生実験の指導補助をする傍ら、その研究室の講師の先生の勧めもあって好熱菌の研究を始めました。ここでの研究が現在につながっています。
フィールドに出て温泉の土や泥を採取し 実験室で微生物を培養することから始まる
環境中には多種多様な微生物が生息していますが、それらの多くは培養困難な微生物です。そのような「難」培養性の新種微生物を、工夫を凝らして培養し、様々な観点から詳しく性質を調べ、最後に学名をつけて論文として世の中に報告するのが「分類学」です。創価大学に助手として採用されて以降、30年弱の間、私は好熱菌の分類学的研究を続けてきました。

ゲノム配列だけで 生物が理解できるわけではない
現在は、その環境に生息する生き物の塩基配列を一気に読み取る「メタゲノム解析」もできるようになり、一度も培養されたことのない微生物のゲノム配列を再構築することもできます。ただ、ゲノム配列の情報だけでわかることというのは、実は限られています。たとえば、その微生物の生育温度範囲とか、生育pH範囲といった、基礎的な生理学的性質さえ、ゲノムの情報だけではわかりません。生物の性質はたくさんの遺伝子の相互作用で決まってくるものなので、培養しないとわからないんですね。それに、メタゲノム解析というのは言ってみれば化学分析で、生き物を扱うというのとは少し違います。培養して観察し、いろいろな性質を解明していくといった、生き物の飼育と通じるような研究の方が私は好きですね。
調査場所は温泉から始まった
好熱菌を培養するための試料は、主に温泉から採取しています。国内だけではなく、インドネシアなど海外もフィールドです。また、2003年には深海熱水孔の調査に誘われ、「しんかい6500」で与那国島の近くの海底で熱水や岩を採取しました。
初めは好熱菌の研究が主だったのですが、高温下で生きるメカニズムがだいぶわかってくると、正反対の環境にすむ好冷菌は、逆の環境適応戦略をもっているのだろうか、という疑問がわいてきました。例えば好熱菌は、高温でもたんぱく質が変性しないような仕組みを持っていますが、低温に生きる微生物のたんぱく質はどのようなものだろうか、好熱菌は熱くても液状にならない硬い脂質膜を持っているけれども、好冷菌の持つ脂質膜が低温でも流動性を保っているのは何故だろうか、といったことにも興味が湧いてきたのです。
温泉から南極へ
最初は、極地研究所の方から南極の試料をもらってバクテリアを培養したり、それら微生物の多様性を調べたりしていました。そのうち少しずつ研究成果が出るようになり、南極地域観測隊に参加しないかと声をかけてもらえたのです。やはり自分で採取した試料を使って研究したかったので、願ってもない話でした。南極に行ける!という喜びはもちろんのことです。
南極では、地衣類の研究者、コケの研究者と一緒に、昭和基地から離れて3人でキャンプしながら、お互いに協力して活動しました。試料採取の方法はとてもシンプルで、雪や氷が融けてできた湖の岸から「お玉」で水と堆積物をすくって片っ端から滅菌した容器に入れていきます。
草木が全く無い荒涼とした南極大陸は、風が止むと完全に無音の世界となり、どこまでも澄んだ空気の中の景色は神秘的な感じすらしました。もう一度行きたいです…。


誰も見たことのない生き物を 発見して観察する喜び
これまでに培養したり、記載したりした微生物にはどれも思い入れがありますが、一番最初に記載した微生物にはやはり愛着があります。北里大学のグループが箱根の大涌谷で採集し、分離して培養されていたものですが、詳しく解析したところ、新属新種だということがわかりました。学名の属名は硫黄依存性の球菌という意味でサルファリスフェラ(Sulfurisphaera)、種名は大涌谷で採集されたことを表すオオワクエンシス(ohwakuensis)にしました。
ところで、このサルファレスフェラ=オオワクエンシスは、ずっと1属1種だったのですが、去年、20年ぶりに同じサルファレスフェラ属の新種の微生物が記載できたのです。インドネシアのジャワ島の温泉試料から大学院生が分離に成功した微生物で、サルファリスレフラ=ジャヴェンシスという名前になりました。オオワクエンシスは20年間、一人ぼっちだったんですが、ようやく仲間ができたのです。
先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?
「楽」
ただし、「らく」ではなく「たのしい」と読んでください!
研究は本当に楽しいです。自分自身が楽しめなくなったら、研究は終わりだと思っています。

プロフィール
神奈川県生まれ。1985年、北里大学衛生学部化学科卒業。旭電化工業(株)研究員、創価大学生命科学研究所専任研究員、同大学工学部助手、同講師、シンシナティ大学客員研究員等を経て、2015年より現職。2012〜2013年には、陸上生物グループ隊員として第54次日本南極地域観測隊に参加。学術博士。
ビクター・クワハラ 教授
[専門分野]生物海洋学
植物プランクトンの機能タイプの生物光学特性

佐藤 伸二郎 教授
[ 専門分野 ]土壌学
バイオ炭の土壌改良材と作物栽培効果
佐藤 伸二郎 教授
[ 専門分野 ]土壌学
バイオ炭の土壌改良材と作物栽培効果


憧れのブラジルで見た衝撃の光景が、研究者の道を志すきっかけに
よく驚かれるのですが、学生時代は全く理系志向ではありませんでした。英語の勉強が好きで、創価大学の文学部 英文学科に入学しました。理系にシフトするきっかけは、大学3年生の時に交換留学生として訪れたブラジルでの経験です。そこで目にしたのは、アマゾンの深刻な森林破壊の様子でした。その光景が忘れられず、学部を卒業した後に理系学部の大学院に進みました。しかし、なぜ留学先にブラジルを選んだかというと、中学3年生の時に見た1本のビデオ映像に遡ります。

中学3年生のころ、ブラジルの文化や民族を紹介するビデオ映像を見ました。知人の勧めで見たのですが、とにかくその映像を見て、脳天に雷が落ちるような衝撃を受けました。ブラジルという国が持つ文化や歴史、自然……全ての映像が未知の体験でした。なぜ自分がここまで興味を惹かれるのかもわからないまま、ブラジルの虜になってしまいました。それからは自分なりにブラジルについて勉強を始め、大学でもラテンアメリカ研究会に所属しました。それくらい、私にとって衝撃的な出来事だったんです。
次のきっかけも偶然なのですが、大学3年生の時に、創価大学の交換留学制度が始まることを知りました。何気なく詳細を見ると、なんと留学先のひとつがブラジルだったんです。「これは人生の一大チャンスだぞ」と飛び込んだ結果、冒頭でご紹介した、アマゾンの森林破壊の現場に遭遇しました。
土壌から考える、環境保護と社会との関わり
もちろんニュースなどで森林破壊の映像を目にしたことはありましたが、実際にその現場に立つと圧倒的なリアリティの違いがありました。それ以来、環境問題が自分の中で大きな存在を占めるようになり、留学から帰国してからは完全に理系に転身しました。文学部をそのまま卒業して、修士課程から理系の大学院に入りました。今までは文系一筋だったので、化学記号を覚え直すところからの再スタートです。その後一度ブラジルに渡ったのですが、よりアカデミックな面から自然環境に貢献したいと思い、アメリカの大学に入学しました。そこでアマゾンの森林をどう守れば良いのかを勉強するうちに、たどり着いた分野が土壌学でした。

なぜなら森林や木の成長を深く研究すればするほど、その土台となる土の重要性に行き当たったからです。土壌をうまく管理しないと木が育たず、かといって化学肥料を使いすぎると土壌が疲弊してしまいます。有機物を上手に使って土壌を改善することが、森林の保全につながるのではないか。本学に赴任してからはその観点を発展させ、社会の中から出てくる廃棄物を上手く土壌に還元し、社会活動と環境保護を両立させるための取り組みを研究しています。
例えば私の研究室はエチオピアで「SATREPS-EARTHプロジェクト」という国際共同プロジェクトを実施しています。これは過剰に繁殖して湖などの環境を汚染している水草(ホテイアオイ)から、バイオガスなどの有価物を生産するプロジェクトです。環境問題を解決しながら経済的なメリットを生み出すことで、循環型社会の構築を目指しています。まさに共生創造理工学科が目指す「環境と人間社会との共生」を体現するプロジェクトと言えるのではないでしょうか。
「失敗した時ほど面白い」 土壌学が教えてくれる、研究の面白さ

私の専門分野のひとつがバイオ炭です。これは廃棄物に含まれる有機物を炭化して作ったもので、土壌改良材や燃料として使われます。バイオ炭を土壌に撒いた時の環境変化の様子や、そこで育てた作物の収穫量が変わるのか、などの検証をしています。
炭化は廃棄物に含まれる有機物を土壌に還元する方法のひとつなのですが、昨今は技術が進歩し、バイオ炭にできる有機物の幅が広がっています。例えば動物の糞尿など湿っているものもそのまま炭化できるようになり、乾かすための余分なエネルギーや時間を節減できるようになりました。面白いのは、乾燥した有機物と湿った有機物で、炭にした時の性質が大きく異なる点です。私の研究ではそれらの違いを踏まえて作物を育て、栄養素の違いなどを詳しく分析しています。

とはいえ、土壌学は自然が相手なので、実験が思い通りにいかない可能性がとても高いんです。ですが、私は「失敗した時の方がサイエンスとして面白い」と思います。なぜなら、なぜ間違ったのかを検証できるからです。仮説の立て方、実験の手順、数式や化学式の使い方……複雑な要素を一つひとつ検証し、なぜ間違ってしまったのかがわかれば、また一歩、サイエンスを前進させたことになります。この過程こそ研究者の本質と言えるのではないでしょうか。失敗を恐れる学生も多いのですが、私はもっと失敗するべきだと教えています。実験が失敗した時は、科学者としての大事な要素に立ち返られている時間なのですから。
国際色豊かな環境で、
「共生」という発想を学んでほしい
本学の理工学部の中で農学や土壌学に関連しているゼミや研究室は非常に少ないため、私のゼミ生や大学院生は農学や環境問題に興味のある方が多いですね。またもうひとつの特長が、国際性です。大学院生はほぼ半数が留学生です。先ほどご紹介した「SATREPS-EARTHプロジェクト」の関係で、エチオピアからの留学生もたくさん所属しています。自然と学生同士の国際交流が発生するので、学生にとって貴重な機会になっていると思います。
私の研究室を含め、共生創造理工学科では「環境と人間社会との共生」を軸に幅広い分野を学ぶことができます。例えばDNAや脳科学などの生命科学をはじめ、情報系から工学分野まで、たくさんの研究室があります。まずは基礎的な知識を幅広く学び、興味を持った分野の具体的な技術を各研究室で身に付ける、という流れで学びを深めることができます。教員との距離感も近く、非常に充実したカリキュラムを備えた学部・学科だと考えています。
私は学生に対し「自分が学んだサイエンスの知識を、どうやって社会に還元していくか考えてほしい」と伝えています。学生が将来的にどんな進路を選んだとしても、“共生”という考え方を軸に技術を磨いた経験は、学生の力になってくれるはずです。
研究を漢字一文字で表すと?
「土」
自然環境も人間社会も「土壌」の上に成り立っています。人間と自然が共生するためには、豊かな「土」づくりが大切です。
経歴
1993年 創価大学 文学部 英文学科 卒業
1995年 筑波大学 大学院 修士課程 環境科学研究科 環境科学専攻 修了
2003年 アメリカ フロリダ大学大学院 博士課程 土壌・水科学学部 修了
Ph.D. (土壌学)
2003年 アメリカ コーネル大学 作物・土壌科学学部 ポストドクター研究員
2005年 アメリカ フロリダ大学 南西フロリダ研究・教育所 ポストドクター研究員
2010年 創価大学 工学部 環境共生工学科 准教授
2015年 創価大学 理工学部 共生創造理工学科 准教授
2016年 創価大学 副国際部長(~2021年)
2020年 創価大学 理工学部 共生創造理工学科 教授
戸田 龍樹 教授
[ 専門分野 ]プランクトン工学
水生植物バイオマス由来の液分を用いた高速メタン発酵処理と微細藻類培養
戸田 龍樹 教授
[ 専門分野 ]プランクトン工学
水生植物バイオマス由来の液分を用いた高速メタン発酵処理と微細藻類培養


顕微鏡で覗いた「未知の世界」が、深海調査につながった
「まるで、別の世界を覗いているみたいだ」高校生の時、生物の授業で池の水を顕微鏡で観察した際、大きな衝撃を受けました。見た目は透明な水なのに、プランクトンなどの小さな生き物がたくさん動いていたからです。生物関連の分野に興味を持った初めての瞬間かもしれません。後に北海道大学の水産学部に進学するのですが、そこでも「浮遊生物学」つまりプランクトンに関する研究室に入りました。
水産学部に進学したもう一つの理由が「探検」です。小さいころから探検家という存在に魅力を感じており、どこか未知の世界を訪れることに憧れがありました。とはいえ、探検そのものを仕事にすることは非常に困難です。そのため船舶や海洋学に関する学部に進学しました。大学院では東京大学の海洋研究所に所属し、潜水調査船「しんかい2000」に乗船してプランクトンを採取するために深海に潜ったり、エルニーニョ現象を調べるために2ヶ月間の海洋調査に出たりしました。いわゆる探検家とは異なりますが、貴重な時間を過ごすことができたと感じています。
海外の事例から環境技術の可能性を学ぶ
創価大学ではプランクトンなどの生物を工学的なアイデアと組み合わせ、循環型社会の構築につながる研究に取り組んでいます。そのひとつが、自然の力を活かして環境の改善を目指す「修復生態学」です。例えば排水を処理する際、微生物を活用することで生態系に負荷を与えない、ないしは生態系を修復するような技術です。授業では海外で実際に導入されている事例を紹介して環境技術について教えています。
私は1年のうち2ヶ月ほどを海外で過ごしますが、帰国するたびに日本独特の社会常識に驚かされます。例えば山手線の到着が3分遅れると「電車が遅延しておりご迷惑をお掛けしております」とアナウンスが流れると思います。でも、日本以外の先進国では3分の遅延なんてまず問題になりません。こういった日本独自の考え方が、環境技術の面にも存在しています。その代表例がトイレの排水です。日本のトイレでは飲めるくらいキレイな水を排水に使用していますが、このような国は少数派です。なぜなら飲むための水ではないので、そこまでキレイにする必要がないからです。……改めて言葉にすると、当たり前のことしか言っていないですね(笑)
他にも下水の処理なども独特です。他の国ではもっと効率的な方法を採用していたり、処理の過程で別のエネルギーを生成していたりします。山手線のアナウンスと同様に、日本独自のルールに囲まれているとそれが少数派だと気づかないわけです。なので授業では外国で採用されている技術を積極的に紹介しています。「本当はこんなに使える技術があるんだよ」と、学生の固定概念に無いアイデアを与えることも、授業を行う意義の一つだと考えています。
「研究を実験室で完結させたくない」研究のやりがい、面白さとは
研究している技術が、社会でどのように使われるのか。それを考えている時は非常にワクワクします。実験室の中で試行錯誤し、それを一般の社会に応用して良い結果が得られた時にはやりがいを感じます。実験室の中だけで完結する類の研究も存在しますが、少なくとも私にはあまり興味がありません。心を動かされるのはいつも、社会の問題解決のために技術を活用しているときです。
もちろん失敗だってたくさんあります。私は技術と技術を組み合わせる方法を考えている時が特に好きなのですが、実際に試してみると非常に難しい。そのまま成功することは滅多にないので「技術を組み合わせる技術」にいつも頭を悩ませています。ですが、上手くいかないからこそ面白いと思います。何の問題もなく成功してしまえば、それは研究ではなく業務です。人間は結果が先に見えるとやる気がなくなると言われていますが、本当にその通りだと思いますね。
「やわらかい理工学」を学んで、社会に求められる人材へ成長してほしい
普通は工学や理工学というと、電気工学や建築学をイメージすると思います。ですが創価大学の理工学部は「情報・生命・環境」に強いという点が特長です。私はハード(物理)ではなくソフト(無形)の理工学であることから「やわらかい理工学」と呼んでいるのですが、これらの分野は今まさに、そしてこれからの社会に求められる分野です。情報はAIやビッグデータ、生命だったら生命操作工学やタンパク質工学、そして環境は環境技術の知識。デジタル人材不足、医療や健康の問題、気候変動など、現代社会の課題に応える知識を身に付けられる学部・学科と言えるのではないでしょうか。
以前は「生態学や環境系の分野は就職に不利」と言われることもありました。しかし、現在は地球環境に配慮した経営が求められており、環境技術を学んだ学生に注目が集まっています。ぜひ、本学部・学科で今の時代に求められる技術や考え方を学び、社会で活躍していただきたいと考えています。
研究を漢字一文字で表すと?
「遊」
せっかく人生をかけて研究に取り組むなら楽しい方が良いですよね。何事も遊ぶように楽しく行いたいですし、本当に好きなことなら時間を忘れて熱中してしまうものです。自分の仕事が楽しいと思えれば、人生も豊かになるはず。学生のみなさんも、自分が心から楽しいと思える何かを創価大学で探してみてください。
経歴
【学歴】
昭和59年 北海道大学水産学部水産増殖学科卒業(水産学士)
昭和61年 北海道大学大学院水産学研究科修士課程修了(水産学修士)
平成2年 東京大学大学院農学系研究科博士課程修了(農学博士)
【主な職歴】
平成2年 東京大学海洋研究所 日本学術振興会特別研究員
平成3年 創価大学工学部生物工学科 講師
平成15年 同大 工学部環境共生工学科 教授
平成17年 工学部環境共生工学科長
平成25年 同大 工学研究科環境共生工学専攻長
平成27年 同大 工学研究科長
令和3年 同大 理工学部長
その他、横浜国立大学教育人間科学部、東京農工大学農学部・工学部、滋賀県立大学大学院などで非常勤講師、マレーシア国民大学客員教授など歴任
Close中﨑 清彦 教授
[ 専門分野 ]環境微生物学
微生物を利用した環境技術におけるDNA工学

プラディープ・カトリ 准教授
[ 専門分野 ]大気科学
リモートセンシング手法の開発・高度化及び応用解析

松山 達 教授
[ 専門分野 ]化学工学
摩擦帯電のメカニズムに関する研究
松山 達 教授
[ 専門分野 ]化学工学
摩擦帯電のメカニズムに関する研究


身近な存在なのに知られていない 「粉」と「静電気」を科学する
ぼくは粉体と静電気の両方の専門家です。粉体とは要するに「粉」のことです。なぜこのような研究をするようになったのかというと、大学で化学工場の設計をする「化学工学」という分野に進んだのがきっかけです。
化学工場では原料を文字通り「煮たり」「焼いたり」して加工し、最終的な製品を作ります。原料は液体・気体・固体のどれかです。固体の場合には、原料はもちろん、製品になる前に工場の中でできる「工業中間体」と呼ばれるものも、ほとんどが粉状です。
たとえばプラスチックは工場の中では粉状です。それを溶かして成形したものが製品となって出荷されます。金属も山から掘り出された砂利(これも大きめの粉です)状の鉱石を製錬して作ります。薬の錠剤も粉状の薬剤を固めています。メイク用のパウダーや小麦粉などは、製品そのものが粉状をしていますね。
途中が粉状のもの、あるいは最終的に粉として流通しているものは世の中の工業製品の8割くらいを占めているといわれています。
ですから、工場内で粉をどのように扱えばスムーズに製品を作れるのか、あるいは消費者に喜ばれる製品になるのかを考えるためには、粉体の性質をよく知らなければなりません。

もう一つの静電気ですが、実は静電気については未だにほとんど科学的な解明がされていません。
みなさんも小学生のときに、下敷きで髪の毛をこする実験をしたのではないでしょうか。髪の毛が下敷きにくっつくのは、静電気が起きたためです。ところが静電気が生じるときに、実際にこすった表面でどういう現象が起きているのかは、まだわかっていないのです。
粉を扱うときにも静電気が起きます。粉体自体についてもまだまだわかっていないことは多いのですが、静電気によって粉の「ふるまい」は変わってきます。そして、どのくらいの量の静電気が起きるのかは、粉の材質や粒の大きさ、部屋の温度や湿度などの条件によって違います。
ぼくの研究室では、このように謎の多い現象について、一つひとつ実験を積み上げて解き明かしていこうとしています。


親が手を焼く「ちびっこ分解魔」が 成長して研究者になった
子どものころから一貫して機械が好きでした。大学の研究室でもいろいろな機械や計器を扱っていますし、実験のために自作もしています。
機械好きにはありがちですが、家じゅうのものを手当たり次第に分解してしまい、しかも元どおりには直せない子どもでした。ですから未だに、実家の家電の調子が悪くなったときにぼくが修理しようと申し出ても、母は絶対手を出させてくれません(笑)。
高校時代は「数学が好き、英語が苦手」という、もろに理系タイプの生徒でした。好きな数学ばかり勉強していましたね。部活は電気全般を扱う「ラジオ部」に所属。パソコンが登場するちょっと前でコンピュータには金銭的に手が届きませんでしたから、アマチュア無線やオーディオを主にやっていました。でも物理は苦手で、なるべく避けていたのですが、3年生の時に「もうすぐ大学受験なのに、このままではいけない!」と思い、そこから真面目に勉強して克服しました。
進学するのは家から通える東京の大学がいいなと思いましたが、特に学びたい分野があったわけではありません。そのため、最初から専門に分かれるのではなく、2年間は教養学部で学ぶことができる、東京大学の理科I類(主に理学部や工学部に進学予定)に進みました。
大学3年で学科を決め、工学部の化学工学科で学ぶことになりました。ここでようやく「粉体」に出会います。液体・気体・固体のどれを専門にしようかと考えたときに、まだまだわかっていないことも多くて面白そうに見えたので、粉体工学というジャンルを選んだのです。
この分野でたまたま出会った先生が、粉体の静電気を研究していたのです。先生から「君もやらないか?」と誘われて、恩師となったその先生の研究室に入りました。
卒業研究は通常、指導教官に与えられたテーマを研究します。一つのテーマを追究していく過程はとても楽しいものでした。さらにそこから派生して自分の興味が周辺へと広がると、さらに研究が楽しくなりました。ぼくの場合はそのまま大学院に進学して、研究を続け、現在のように研究者の道を歩むこととなりました。
こんなところにも使われている! 粉と静電気の制御技術
ぼくは粉体工学の中でも、静電気の研究と、粉の粒子の大きさを測る研究を主にしています。
粉と静電気の技術の中で、みなさんの身近にあっていちばんわかりやすいのはコピー機でしょう。コピー機はあの中に入っている黒い粉(トナー)を静電気で紙の必要なところにだけくっつくようにコントロールしているのです。トナーの静電気制御についてはたくさん論文も出ているし、技術も進んでいます。
また、産業界でよく使われているものに、静電気で粉体の塗料をくっつけて固める「静電塗装」いう技術があります。従来は、塗料を有機溶剤に溶かしたものを塗って、溶剤が蒸発して固まる性質を利用したものが多かったのです。一方の静電塗装は人体や環境に影響のある溶剤が蒸発しないので「環境にやさしい塗装法」と言われ、オフィス家具などに使われています。
また日本の火力発電所では、静電気で煤塵(微細な粉)を除去する「電気集塵」という技術が使われています。このおかげでPM2.5のような大気汚染物質が撒き散らされずに済んでいます。
このように工業利用が進んでいるにもかかわらず、静電気がどのように発生しているのか、科学的な基礎については世界的にも全くわかっていません。何しろ誰も答えを知らないわけですから、ぼくもどこからその謎解きに挑んでいけばいいのか、難しくて困っています。でも、そういうふうに困っていることを楽しんでもいます。
ときには装置も自作して さまざまな実験に取り組む
研究室の学生たちは、「粉の粒子をコロコロ転がして発生する静電気を測る」「容器の中で粉をシャカシャカ振って静電気の発生を調べる」など、いろいろな条件下で粉の静電気を測る実験に取り組んでいます。
しかし、粉の静電気は「このように測ればOK!」と言えるような測定方法がまだありません。そこで、新しい測定技術の開発も研究室の大きな研究テーマの一つとなっています。たとえば粒のごく小さい粉の静電気を測ろうとすると感度のよい計測装置が必要になるので、ときには既成の装置を改良したり、手作りしたりして、悪戦苦闘しながらも楽しく実験しています。
発生した静電気がバチっと放電する瞬間を捉える実験もしています。冬にドアノブに触るとバチっと放電して痛いですよね。あれは自分が帯電していて、触ったときにその電気が一気にノブ側に流れるからです。
一方、下敷きで髪の毛をこすってから引き離すと、片側にプラス、もう一方にマイナスの電荷がたまります。引き離さないとプラスとマイナスに分かれません。引き離している途中に放電が起きているとすれば、接触時に発生していた帯電量に比べて離したあとで測定した帯電量の方が減っているはずです。
接触したときには電荷がどのように移動して静電気になるのでしょうか。そして引き離したときにどれくらいの電荷が残って固定されるのでしょうか。この実験は、そんな静電気発生の仕組みの基礎を研究するためのものです。


理工系に進みたいなら 高校数学と理科の基礎は固めておこう
理工系に進みたいのであれば、高校までの理科と数学は基礎から真面目に勉強しておいてください。特に数学と物理は一回勉強を止めてしまうと、必要になったときに学びなおしても間に合いません。もし将来、粉体と静電気をやりたいのなら、数学と物理と化学の勉強をしておきましょう。
ちなみに、ぼくは本当に英語が嫌いで、今も嫌いです。ですが、英語は必要に迫られてからやっても間に合いますし、その方が効率もよいと思います。コンピュータのプログラミングも言語の一種で英語と同じですから、必要になってから勉強すればOKです。
もちろんコンピュータも英語も好きな人はどんどんやりましょう。とにかく高校から大学は、興味のあることにためらわずに取り組んでみてください。好きなことのためならエネルギーが湧いてくるし、その経験は決して無駄にはなりません。
どんなことでも一つのことを突き詰めていけば裾野は勝手に広がります。そうするとさらに自分に向いていること、好きなこと、楽しいことに出会うチャンスが増えます。ですから興味があることを見つけ、伸ばしていってください。
大学では、 自分の好きな学問を精一杯楽しんでほしい
最近の学生は決められた枠内のステップをそつなくこなしますが、そこから外れると不安になるようです。でも、せっかくの大学生活。そつなくこなすだけではもったいないです。勉強に限らず、枠にはまらずに楽しみましょう。
大学にはいろいろな専門家が集まっているので、「これは面白そう」「これを知りたい」と思うことを見つけたら、その先生のところに行って相当にたくさんのことを学べるし、刺激を受けることができます。何かそういうことに出会って、思いっきり興味を満たす楽しさを味わってほしいです。
粉体も静電気も身近なものでありながら謎に満ちていて、まさに“サイエンスが現在進行中!”の分野です。わかっていないことがあるとワクワクする人、自分でじわじわ謎に迫っていくのが好きな人にとっては、きっと楽しい分野です。
先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「茫」
この漢字は「果てしないこと」を意味します。研究の世界は行けども行けども果てがない(だから面白いとも言えます)ので、この文字を選びました。
プロフィール
共生創造理工学科 松山 達 (マツヤマ タツシ)教授
1987 年 東京大学 工学部卒業
1989 年 東京大学 修士 (工学系研究科) 修了
1992 年 東京大学 博士 (工学系研究科) 単位取得満期退学
1995 年 博士(工学) 東京大学