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Vol.592022年09月20日

外交の最前線で43年 元大使が今学生に伝えたいこと【後編】

創大Days編集部

堀江 良一 元外交官・大使/創価大学客員教授
法学部法律学科1979年卒業/5期生

>前編はこちらから:https://www.soka.ac.jp/headlines/sodai_days/2022/09/7569/

堀江先生は2022年4月から客員教授に就任されました。現在力を入れているのはどのようなことでしょうか。

ミクロネシアでクリスチャン大統領(当時)に信任状を捧呈
ミクロネシアでクリスチャン大統領(当時)に信任状を捧呈
 国際関係論入門とアフリカ地域研究の2科目の授業を行っています。単に教科書を読んだだけでは分からない、私が外交の最前線で得た知見を踏まえた授業を心がけています。教科書には載っていない最新の時事問題も取り扱います。
 国際関係を考える時、私の原点にあるのは、高校時代の宿題で母の戦争体験を取材した経験です。母は八王子の出身だったので、1945年8月2日の八王子空襲の生々しい話をしてくれました。八王子空襲では、約450人が死亡、約2000人が負傷し、市街地の8割が焼失しました。母は、単なる数字では理解できない戦争の実態を臨場感をもって話してくれました。創価大学建学の精神に「人類の平和を守るフォートレスたれ」があり、私は現在、国際関係論入門の授業で、ロシアのウクライナ侵略等の時事問題や日本の安全保障、核兵器問題についても講義しています。日本が今後再び戦争をする国にならないことは当然として、日本が外国から戦争をされない、侵略されないようにするにはどうしたらいいのか、世界各地の紛争をなくすにはどうすればいいのかを、学生たちと一緒に議論していきたいと考えています。
 私が好きな小説に吉村昭の『ポーツマスの旗』があります。日露戦争とポーツマス講和会議のことを小村寿太郎外相を中心に描いた小説ですが、戦争をいかに終わらせるか、そのためにいかに外交を行ったかを描いた名著です。外交、国際問題に関心のある高校生や大学生にはぜひ読んでほしい本です。

文化や政治が異なる国々と関わる上で、大切にされてきたことを教えてください。

エリトリアでイサイアス大統領に信任状を捧呈
エリトリアでイサイアス大統領に信任状を捧呈
 「外交において何が一番重要か」という質問をよく受けますが、それは信用・信頼だと思います。国際社会における日本という国に対する信用、外交官として派遣された国における自分に対する信頼。それがなければまともな外交はできません。そして、日本とは歴史、文化、習慣の異なる国と仕事をする上で大事なのは、その国のことを理解し尊重する姿勢です。日本と違うから、自分と違うからといって、相手を拒否したり軽蔑したりせずに、その国と関わっていくことが重要だと思います。私は10カ所での在外勤務を経験しましたが、先進国でも開発途上国でもたくさんのことを学びました。どの国、どの社会にも、日本とは違う歴史、文化、習慣があり、魅力があります。日本との違いを学ぶことは、日本のことを考え直すきっかけとなり、日本をより深く理解することができるようになったと思います。

アフリカでのご経験が豊富ですが、アフリカとの関係や支援ついてどのような考えをお持ちでしょうか。

ケニアのケニヤッタ大統領(当時)への離任表敬
ケニアのケニヤッタ大統領(当時)への離任表敬
 世界には、アフリカをはじめ、所得の低い開発途上国がたくさんあります。日本はそれらの国に経済協力を行っていますが、決して上から目線の協力ではありません。主役である開発途上国がオーナーシップを持ち、日本はそのパートナーとして、相手国の自主性を尊重しながら協力しています。
 開発途上国を支援するのは、豊かな国の責任です。日本も、第二次世界大戦後に米国や世界銀行から多くの支援を受けました。世界銀行からの融資があったから、東名高速や東海道新幹線を建設することができたのです。今度は日本が国際社会のために貢献する番です。また、開発途上国を含む国際社会全体の平和と安定がなければ、日本の平和と安定もありません。国際社会も「お互い様」であり「情けは人のためならず」です。
 途上国の支援にも、さまざまな形があります。たとえばケニアでは、古い迷信から障害がある子どもを隠そうとする親が多く、必要な医療が届かない障害児がたくさんいます。日本の小児科医・公文和子さんが代表を務める「シロアムの園」は、そうした子どもたちに医療や教育を届けるための活動を長年行っていますが、大使としてこうした非政府組織を支える活動にも積極的に取り組んでいました。政府による援助であるODAは、日本政府と相手国の政府の間で交換公文を結び、発電や交通網といった大規模インフラ整備が進められます。それはもちろん価値のある支援なのですが、そこからこぼれおちてしまう分野、人たち、地域があります。そうしたところに手を差し伸べ、光を当てていこうとする姿勢も、外交や国際関係において欠かせないものだと考えています。日本外交の柱の一つである人間の安全保障です。

学生時代のこと、学生時代の経験がその後生かされたと感じることを教えてください

 私は、1975年に5期生として創価大学に入学しました。1年生の時には、勉強だけではなく、滝山祭や創大祭などの活動にも積極的に参加しました。2年生からは勉強中心の生活で、3年生の夏に外務専門職試験を受験しました。一次試験に合格し、その時点で専門職にはいつでも合格できる自信がついたので、二次試験は受けず、翌年の上級試験合格に向けてさらに勉強をしました。そして4年生の夏に、目標としていた外務上級試験に最終合格することができました。すでに申し上げた通り、私は、経済的に厳しい家庭に育ち、父親も私が大学3年生の時に病死しました。もちろん在学中の4年間はアルバイトもしました。私が外務上級試験に現役合格できたのは、家族や友人の支えや激励があったからだと実感しています。
 創立者は、入学式、卒業式、滝山祭、創大祭を始め、さまざまな機会に創大生を指導・激励してくださいました。折々の創立者の指導・激励は、学生時代はもちろん、卒業後の人生においても、自分にとって大きな力になりました。
 創立者からの恩、家族や友人からの恩に対し、これからは、私が客員教授として恩返しをする番だと考えています。私だけではなく、母校愛にあふれた教職員がたくさんいるのが創大です。また、学生が「若き創立者」との自覚を持っているのが創大です。本当に素晴らしい大学だと思います。
 私が5期生で入学した時、創大から外務上級試験に合格した人は1名、外務専門職試験の合格者は3名。いずれも1期生で、2期生から4期生は合格者ゼロでした。1978年に5期生の私と1期生の計2名が外務上級試験に合格し、外務専門職試験にも5期生が1名合格しました。それを機に、6期生以降は毎年のように外交官試験合格者を輩出し、今やその数は70名以上になっています。在外公館専門調査員や在外公館派遣員という職種も含めれば、外交に関わっている卒業生の数はさらに多くなります。また、外交官以外でも、国連職員などの国際機関で活躍する卒業生も数多くいます。今や大勢の卒業生が外交や国際関係の現場に立ち、創大の「人類の平和を守るフォートレスたれ」との建学の精神を具体的に考え実践していますが、私はこの分野の黄金時代の先駆けになったと自負しています。創大の卒業生には、これからさらに続々と世界に羽ばたいていってほしい。そのような創大の新たな黄金時代が再び築かれることを願っています。

高校生や創大の後輩のみなさんへメッセージをお願いします

 私が学生だった時代は、創大で外交官経験者が授業を行うことはありませんでした。しかし今は、私を含め4人の創大出身の元外交官が客員教授として教鞭を執っています。また、行政教育センター(外交課程)が外交官を目指す学生に対して一年次から手厚いサポートを行っています。さらに、海外の多くの大学と交流し、留学の機会も豊富です。創大は、ほかのどの大学よりも世界とつながり、グローバルに開かれた大学であると言っていいでしょう。私の授業を受けている学生の中に、高校卒業後に一度就職し、外交官を目指すためにあらためて大学に入ったという学生がいます。いろいろな大学を比較して、創大が外交官を大勢輩出していることを知り、進学先に選んだのだそうです。外交官や国際機関の職員、国際問題、国際関係学に関心のある学生にとって、非常に刺激的で多くの学びを得られる環境ですから、そうした分野に関心のある高校生には、ぜひ創大に来てほしいですね。
 また、現役学生には、もっともっと国際問題に関心を持ち、世界に羽ばたいていってほしい。「人類の平和を守るフォートレスたれ」との建学の精神を自分なりに考え実践していってほしい。そして自分の夢をもち、その夢を実現するための目標を立て、その目標を達成するための具体的計画に沿って努力してほしい。創立者が示された指針にあります。「英知を磨くは何のため 君よ それを忘るるな」
「労苦と使命の中にのみ 人生の価値(たから)は生まれる」
 さらに卒業生には、今いるところを「良きところ」と自覚し覚悟し全力で努力し闘ってほしい、とメッセージを送りたいと思います。私の43年間の外交官生活の中で、自分が希望したところに配属されたことはほとんどありません。ナイジェリア勤務、スーダン大使、ケニア大使、どれも自分から希望を出したわけではありませんが、振り返ってみれば、21世紀の大陸アフリカでの仕事を通してその素晴らしさを身をもって理解することができました。さらに、その経験が活かされていつの間にかアフリカ専門家のようになり、いま母校でアフリカ地域研究を教えています。また、日米安保、PKO、国連などを担当した経験があったからこそ、学生に国際関係論を現場感覚をもって教えることができます。仕事をしていると、今いる場所が「良きところ」と感じられないことの方が多いかもしれません。それでも、「良きところ」であるとの自覚と、「良きところ」にしていくとの覚悟を持って全力を尽くせば、あれで良かったんだ、と思える時が必ず来ると信じています。卒業生には、それぞれの場所で大活躍してほしいと願っています。

PROFILE

  • 堀江 良一 Horie Ryoichi
    [好きな言葉]
    従藍而青
    [性格]

    率直、前向き、決断力がある

    [趣味]
    ゴルフ、テニス、水泳、音楽(歌とギター)
    [最近読んだ本]
    • ポーツマスの旗/吉村昭
    • 「核の忘却」の終わり/秋山信将、高橋杉雄
    • 現代ロシアの軍事戦略/小泉悠

ページ公開日:2022年09月20日


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