「カント生誕300周年記念講演会」でマティアス・ルッツ=バッハマン教授が講演しました---ベートーヴェンとカントをめぐって

ルッツ=バッハマン教授

カント研究の世界的権威であるドイツのマティアス・ルッツ=バッハマン教授(ゲーテ大学フランクフルト・アム・マイン)が、11月18日(月)、カント生誕300周年記念の講演を本学で行いました(オンライン)。ルッツ=バッハマン教授は今年10月から11月にかけて上智大学の客員研究教授を務めていました。

開催に当たり、主催者の伊藤貴雄文学部教授が、「本学の理念的源流は第二次世界大戦下で抵抗して獄死した思想家・牧口常三郎にあり、彼が獄中で読んだのがカントの哲学であった」ことを紹介し、牧口の80年目の命日に世界的なカント学者の講演が行われることは非常に意義深いことであると述べました。

ルッツ=バッハマン教授は、「カントとベートーヴェン」と題して講演。啓蒙主義が自由・平等・友愛という政治的次元から始まった歴史を説明した上で、啓蒙主義のもつ合理主義的側面がテクノロジーの暴走を止めることができず、ナチズムや原爆の悲劇にもつながったという逆説(アドルノのいう「啓蒙の弁証法」)を指摘しました。他方、カントが考えた啓蒙主義は、すべての人間が「人格の尊厳」を持つという理念のもと、人間性尊重への弛みなき努力を求めるものであったこと。ベートーヴェンの交響曲第九番は、このカント的な啓蒙主義をよく理解して、シラーの「歓喜に寄せる頌歌」を芸術にまで高めたものであることを強調しました。

講演には約40名の学生・市民が参加し、「SNS時代に必要な思考力とは」「AI時代における哲学の意義とは」「国連改革に向けて学生ができることは」等の質問をめぐって、ルッツ=バッハマン教授との間で活発な議論がなされました。講演会に参加した学生は、「教授が語った『多様性の中に共通の価値を見いだすことの重要性』は、現代社会における対話の必要性を再認識させてくれました。特に、社会の分断を乗り越えるためには、単に他者を受け入れるだけでなく、積極的に共に生きる道を模索する努力が必要だという指摘が印象的でした」との感想を述べました。

なお、講演会に先立ち、ルッツ=バッハマン教授は、中央教育棟で開催中の「ベートーヴェンと『歓喜の歌』展」を見学しました(オンライン)。同展を監修した伊藤教授が展示品の解説を行い、渡辺哲子ワールドランゲージセンター講師が通訳を務めました。

伊藤貴雄教授
渡辺哲子講師
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