論文が米科学誌に掲載!

福崎 由美 博士後期課程2年生
福崎さんが脳の研究に関わろうと決めた原点は、福崎さんが高校生の時に親族の方が交通事故に遭い、医者から「脳は一度傷ついたら回復しない」と言われた言葉に、“皮膚や骨も再生する。脳だけは再生しないなんてことはないんじゃないか”と思った事だそうです。創価大学入学後は、救急救命サークル(ER)に参加し、3年次には部長も務め、富士鼓笛隊として全国大会にも出場し、脳の研究が専門の木暮信一教授のもとで研究を進めていきました。本学大学院進学後は、将来研究者として生きていく決意も込め、苦手な英語克服のため、シンガポールに短期留学、以降、英語でも論文を書き上げるように。昨年(2012年)9月から本年(2013年)7月までは、脳科学界の若手研究者を育成するために設立された利根川進氏(1987年、ノーベル生理学・医学賞受賞)が塾長を務める理化学研究所の「脳科学塾」の一員にも選ばれ、週1回の英語での講義や論文紹介などをやりきり、修了試験も終え、修了証を授与されました。
そして、このたび、福崎さんを筆頭筆者とする論文が米科学誌PLOS ONE電子版に掲載されました。夢に向かって、さらなる目標に向かって挑戦し続ける福崎さんに話を聞きました。
論文掲載、おめでとうございました!
・・・ありがとうございます。得た結果をもとにさらに研究を進め、次の論文発表に向け、すでに新たな挑戦を開始しているところです。自身初の国際誌に投稿できたのは、指導教員の木暮信一教授をはじめ、共同研究室の川井Derek秀樹准教授、山之端万里准教授、そして研究室の先輩、後輩と、多くの方々のおかげだと感謝しています。今回の研究は、アルツハイマー治療薬として開発されたGSI(γ-secretase inhibitor)の正常な細胞の成長も抑制してしまうという重大な副作用に対処する研究結果として、評価をしていただきました。この発見は、脳のがん細胞に対する研究の中で、緑のレーザー(532nmの低出力レーザー)を照射すると細胞増殖が促進されるという結果から見出されたものでした。がん細胞が増殖促進されるのは、明らかに悪い結果ではありますが、その結果を意味あるものにしたいと思いました。そう思い、研究を進める中で、アルツハイマー治療薬の副作用である、細胞の抑制に働きかけることができるのではと、実験を進めたところ、GSIの主作用はそのままに、副作用を抑えることを証明することができました。現在も脳の細胞に対する実験を続けており、今秋にイタリアで行われるLaser Florence(レーザー治療国際学会)でも発表の予定です。

脳の再生医療にずっと関心を持たれてきたそうですね。
・・・はい。私が高校生の時に、親族が交通事故に遭い、植物状態になってしまいました。“絶対に助かる!助かってほしい!”と念願する私たちに、担当医が言った言葉は、“脳は一度傷ついたら再生しない”でした。助かって欲しいとの気持ちもあってですが、“皮膚や骨は再生するのに、どうして脳は再生できないのか、そんなことはないんじゃないか”と思いました。それから数ヶ月後、大人の脳にも神経幹細胞が存在していることが証明されていて、脳にも再生する能力があることを知りました。その時に、こうした基礎研究の発見がどれほど人に勇気を与えるかを知りました。この出来事により、将来、脳の再生医療に関わりたいと強く思うようになりました。
医療というと目指すは医学部のように思いますが。。。

(2008年)
・・・医学部を目指していました。そこで、思わぬネックが英語だったんです。私はずっと英語が苦手で、英語の対策が間に合わず医学部は不合格となってしまいました。そこで、工学部へと入学しました。最初は悩みました。創大に入学後、同じように医学部を目指していたクラスメイトの鈴木春香さんと仲良くなり、二人で医学部への編入を真剣に考えていました。でも、すぐに二人して、創大で出会った人々の素晴らしさに感動し、創大に来てよかったと語りあうようになりました(笑)。また同じ頃、創大工学部に、脳の研究をしている研究室があることもわかり、人としても研究者としても成長していけるこの創価の学び舎で研究をしていこうと決意し、今にいたります。春香さんとは今も何でも話せる大親友です。他にも多くの信頼できる友人ができ、本当にここで学ばせていただいて良かったと心から感謝しています。
英語が苦手とのことですが、論文は英語で書かれていますし、学会発表も英語ですよね。。。
・・・異例中の異例ですが、大学院に入ってから、いよいよ英語を克服しなくてはいけないことになり、シンガポールでの5週間の短期留学に、指導教員の木暮教授に無理を言って、行かせていただきました。出発までに、日本レーザー医学会誌に投稿するための論文を書きあげ、現地で英語の勉強をしながら、木暮教授と論文のやりとりをするという日々でした。大変ではありましたが、この5週間のおかげで、驚くほどに英語嫌いを克服し、“英語を話すのは楽しい!”という自分になって帰ってくることができました(笑)。今でも、英語には四苦八苦してはいますが、研究の世界は非常にグローバルですので、避けては通れません。論文や研究発表など、様々な機会をいただき、訓練していただきました。将来はシンガポールのBiopolisのような海外の研究機関で働きたいと考えています。

脳科学塾の修了も本当にすごいことですね。

・・・脳科学塾は、院生や若手研究者を対象とするトレーニングプログラムです。毎週月曜日、脳科学に関する分野のトップの研究者の方々が英語でそれぞれの研究について講義をして下さいました。他の受講生たちの一生懸命に学ぶ姿にも大変に触発を受けました。また、同じ分野で研究する者として、大切なネットワークを築かせていただいたことは何よりの財産です。ただ、自分の中では、後悔がありまして、修了後、木暮教授に泣きながら報告しました。脳の研究といっても、その切り口は様々です。自分の研究に近い研究については、英語でもついていくことができましたが、自分の研究とはまったく異なる話題となると、専門用語についていけず、いくつかの講義は、そのせっかくの機会を台無しにしてしまったと感じたほど、理解できず、十分に知識を得ることができませんでした。その時に木暮教授からいただいた言葉は、これからも研究を続けていく自分にとって、とても大切なものでした。教授は「発展途上人でいいんだよ。研究を続けていけば、うまくいかないことも、力が足りないと思うこともしょっちゅうあるんだ。そのたびに落ち込んでいては、一向に前に進めない。発展途上なんだから、いいんだよ」と。またこれから勉強していけばいいのだと、前向きに思う事ができました。また、アメリカからいらっしゃった川井准教授は、世界のレベルを知っている研究者です。世界で通用する研究者になりたいとの自分に、本当に様々なことを教えてくださっています。興味深い論文があるとすぐに共有してくださったり、研究者であること、研究者であり続けることなど、あらゆる機会に伝えてくださいます。よく、博士になるなら教員を超えなくてはいけないと言われますが、先生たち自身がどんどん研究者として進化し続ける中で、いつになったら乗り越えられるのか、検討もつきません(笑)。
これからについて聞かせてください。
・・・脳研究者として、さらにさらに研究に励んでいきます。創大での院生生活も終盤に入ってきました。将来は海外の研究機関で研究を続けることを考えています。これまでの研究生活を通して多くのことを学びました。驚くようなデータが出てきたときには、びっくりするような感動を与えてもらえます。うまくいっている時の研究は本当に楽しいです(笑)。現実的な研究費の問題等で研究を続けることの難しさを感じたこともありましたが、日本財団から笹川科学助成金を獲得し、そのおかげで、大きな研究成果を得られたこともありました。“現状にあきらめるのではなく、解決策を探ろう”という自分になりました。また、創大だったからこそ、“自分のため”だけではないところで、挑戦を続けられたことは大きなことです。創立者の池田先生からも、たくさんの激励をいただきました。行き詰まり、あきらめそうになった時に、“絶対に負けない”と奮い立たせていただきました。まだまだこれから。木暮教授の言葉でいれば、“発展途上人”です。脳の研究を志した原点を忘れず、またここ創大で教えて頂いた、人として、研究者としてのあり方を大切にしながら、母校である創価大学に、そして家族、友人、恩師に恩返しができるような研究成果を目指し、これからも挑戦し続けていきます!ありがとうございました!


[好きな言葉]
友が憂いに我は泣き、我が喜びに友は舞う
[性格]
努力家、忍耐強い
[趣味]
旅行、映画鑑賞
[最近読んだ本]
私の世界交友録、「生命の世紀」への探求