2年間の中国留学の感想は、一言で、「面白い!」

熱田 幸雄 文学部 中国語デュアルディグリーコース4年生

 本学文学部の中国語デュアルディグリーコースで北京語言大学に2年間の留学を経験した熱田さん。中国語デュアルディグリーコースでは、4年間で創価大学と北京語言大学の2つの学位取得と2つの大学を卒業することができます。
 2年間の中国留学では、日記に毎日書ききれないほどの出来事が起き、泣くほどつらいことも、泣くほどうれしいことも山のようにあったという熱田さん。何より苦しかったことは“違い”を受け入れられなかった自分、何よりうれしかったことは“違い”を面白いと笑い飛ばせた自分、“多様性”を認められる自分になれたことが何よりの留学の財産だといいます。中国一人旅、ボランティア活動も経験した熱田さんに話を聞きました。

ずいぶんと内容の濃い中国での2年間の留学を経験されたようですね。

一人旅で訪れた世界遺産の宏村にて撮影
一人旅で訪れた世界遺産の宏村にて

 2年間は、様々なことがありすぎてあっという間に終わってしまったという感じです。特別関心のなかった中国ではありましたが、創価高校2年生の時に中日友好協会より、創立者池田先生の「日中国交正常化提言」40周年の佳節を記念し、中国へ招待いただきました。その時の“君たちが(日中友好に尽力される池田先生の)後を継いでいくんだよ”との協会の方々の呼びかけに、素直に日中友好に貢献していこうと決意をし、創価大学に進学し文学部のデュアルディグリーコースで2年間の中国留学を経験しました。先日、中国と関係を持つIT会社から就職の内定をもらいました。不思議な縁を感じます。中国と日本では多くのことが違います。中国人と日本人は性格も大きく異なります。それは良いとか悪いとかではないのです。しかし、その“違い”を受け入れることは想像以上に大変なことでした。最初の半年間は、中国の大気汚染、衛生問題、食事の不安、道に溢れるゴミ、並ばない列、ふっかけられる料金、激しい自己主張、日本敵視で共産党批判をかわそうとする人たち、道端に痰を吐くかわいい女の子、大きなお腹を丸出しにして歩くおじさん等々、もういろいろな耐え難いことがありまして、本当に毎日日本に帰りたいと思っていました。

 ところが、夏休みに決行した一人旅で、180度見方が変わりました。バスを止め、料金まで支払って道案内をしてくれたおばさん、行く先々でお勧めのお店や食べ物などを紹介してくれた人たち、電車のボックス席で合席になった人達との「尖閣諸島」をめぐっての議論など、反日感情をあからさまに表す人たちも厳然といましたが、それを上回る温かい人達との出会いがありました。世界遺産の「九寨溝」を訪れた際には、長距離バスの運転手が客と口論を始め、もう運転したくないとバスを30分以上も止めました。野宿を覚悟したほどの状況に、隣の席の人の「中国だからね」との発言に、何でもありの中国に恐ろしさを感じたこともありましたが、それもいい経験でした(笑)。中国語で十分にコミュニケーションがとれるようになると、ウソも冗談も言いながら値引き交渉もできるようになり、向こうも笑いながら“面白いからまけてやる”と言ってくれたりして。本当に中国は面白い国です(笑)。日本に帰ってきて大変なことは、列に並ぶように自分を律すること、そしてついついやってしまうのは、信号待ちができないこと、レストランで魚の骨などのゴミをテーブルの上に置こうとしてしまうこと。ルールが大雑把な中国で生活をしていたことで、日本を窮屈に感じてしまうこともあります。ともかく、日本と違う国で2年間だけではありましたが生活ができたことは最高の経験でした。

世界遺産の九寨溝にて撮影
世界遺産の九寨溝にて

面白かったんでしょうね(笑)

留学先の北京語言大学創立50周年記念祭にて撮影
留学先の北京語言大学創立50周年記念祭にて

 面白かったですよ(笑)。ただ今では笑えることも、最初は“なぜこの人達はこうなの?”“なぜこの国はこんななの?”ともうしんどい思いばかりでした。タンクトップを捲り上げて大きなお腹を出して歩いているおじさんなんて、自分の感覚では、はしたないわけです。いっそ、上半身裸で歩いてくれたほうがよっぽどいいんです。でも、生活をしているとなぜそうなのかと聞かなくても、なぜタンクトップを捲り上げて歩くのか、気持ちが分かるようになるんです(笑)。眉間にしわがよってしまうような光景も、笑顔にさせてくれるような光景になるんですよね。つまるところ、自分はそれまでの自分と“違う何か”に拒否反応を起こしていたんだと思います。“違い”を受け入れられない自分が本当に苦しかったです。でも、一人旅を通して、たくさんの人達に会いました。みんな自分とはたくさんの違いを持っていました。一人の違う感覚を持つ人と出会うと、強い拒否反応が起こりますが、違う感覚も持つ多くの人に会うと、“あー、自分が違うんだ”と思うようになるんですよね(笑)。そして違うと思った人と、別の違うと思った人も、それぞれ違うわけで、彼らもお互いを受け入れられなかったりするんです。

 結論としては、みんな違うんです。そもそも、電車やバスが時刻通りに来て、信号は車が来なくても青になるのを待って、荷物を席に置きっぱなしにしてもとられることもなく、延々列に並んで順番を待つなんて日本くらいのもんです。そう思うと、日本人の自分の当たり前が、世界では当たり前でないのは当然だなと。その意味でも、日本人はもっと世界に飛び出した方がいいと思います。中国の人は、自己主張をします。自分の意見をはっきり言いますし、“尖閣諸島”や“戦争”問題などの政治的、歴史的問題もどんどんぶつけてきます。中には一言物申したいというだけで議論しようとも思っていない方もいますが、日本人の“私”がどう考えているのか、思っているのかを聞きたいわけです。そして、そうしたコミュニケーションの仕方はアジアの他の国々でも、アメリカ、ヨーロッパなど多くの地域でもあるわけで、“日本人が”苦手なだけなんだと思うんです。と言う様に、自分や自分の国・文化、自分の当たり前を一度否定してみると、多様性を認めることも夢ではないなと思います(笑)。自分としては、その過程の葛藤がとても重要なものだったと思っています。

中国人の友達とお花見
中国人の友達とお花見

ボランティアもしていたんですね。

河北省の農村でのボランティア活動の様子
河北省の農村でのボランティア活動

 日中友好を掲げて活動をしていたボランティア団体に留学1年目から参加をしました。日本人学生と中国人学生がメインで、そこに数名の韓国人学生、カザフスタンの学生が参加していました。内容は、2泊3日で農村地域の小学校で日本の文化を伝えたり、一緒に遊んだりするというものでした。留学2年目の時にそのボランティア団体の代表となったのですが、それが大変な時でした。尖閣問題で緊迫したムードの中の1年間となり、これまでボランティアしていた学校も来てほしいと言ってくれても政府の許可がおりませんでした。中国人学生のスタッフも一生懸命に交渉にあたってくれましたが、結局その1年間はそれまでのようなボランティア活動はできませんでした。

中国人のスタッフと、「本当の日中友好って何なんだろうね」と何度語り合ったか知れません。それでも今できることをやろうと、中国人で日本語・中国語・韓国語の通訳者として活躍されてきた方を講師に招いて、経験を通して、“これまでの日中友好、そしてこれから”というテーマで講演をしてもらい、参加者のメンバーとディスカッションを行いました。講演は有料で開催しましたが、学生中心に40名弱の方々が来てくれました。中には、日本が好きでないから一言言ってやりたいと参加した学生さんもいましたが、若い学生たちが本音をぶつけ合いながら語り合えたこと、そのことを通して知り合うことができたことはとても有意義なものでした。

ボランティアで訪れた農村の小学生と撮影
ボランティアで訪れた農村の小学生と

その中で見えた“日中友好”とは?

北京大学池田思想研究所の賈蕙萱先生と撮影
北京大学池田思想研究所の賈蕙萱先生と

 2年間中国にいながらずっと考え続けましたし、たくさんの人に会いましたし、語り合いましたが、いわゆる“答え”は見つかりませんでした。中国では“抗日戦争”のドラマがずっと流れています。日本軍の残虐さをないことをたくさん交えて流し続けています。メディアも学校教育も角度があります。反日感情を利用して、国をまとめています。日本では、学校教育の中で自国の戦争の歴史をきちんと学ぶ時間が少なすぎます。認識が足りなさすぎます。政治・社会・国際問題に対しての問題意識が低すぎます。そして“自分”の意見を持ち発信する力が不足しています。

中国では、人々に今日を明日を生きるための必死さがありますが、成熟した日本にはそのエネルギーがかけているように思えます。そのエネルギーのなさが無関心や生きていく活力のようなものを削いでしまっているのかもしれません。いづれにしても、お互いをもっと知らなくてはいけないと思います。お互いの“当たり前”の押し付け合いでは、いつまでも平行線です。留学のお陰で、中国の良いところをたくさん知りましたし、きらいなところも見えました。日本の良さも再発見しましたし、良くないところも浮き彫りになりました。その上で、日本と中国は、自分にとってはかけがえのない大好きな2つの国です。生涯をかけて模索し続け、一つひとつ自分にできる何かを見つけながら、友情を築き続けていこうと思います。

万里の長城
万里の長城にて

卒業後は、その大好きな2つの国をまたにかけて働いていくということですね。

高校生時代の訪中団の集合写真
高校生時代の訪中団のみんなと

 はい。高校時代に中日友好協会の方々から言われた“君たちが(日中友好に尽力される池田先生の)後を継いでいくんだよ”との言葉を抱きしめ、ともかく流れを絶やさないとの思いで、その流れの一滴となっていきたいと思います。最後に、2年間の留学は本当に濃いです(笑)!是非、機会のある皆さんは、創価大学文学部のデュアルディグリーコースで思う存分、異文化にもまれ、自分の世界観を大きく広げていただきたいと思います!後悔なしです!

あつた ゆきお Yukio Atsuta

[好きな言葉]
「逆境が人に与える教訓ほどうるわしいものはない」(シェイクスピア)
[性格]
褒められて伸びるタイプ、有言実行
[趣味]
カラオケ、映画鑑賞、お笑い
[最近読んだ本]
「中国語通訳 日中通訳者への道」「青年抄」
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