“初の箱根路、襷を繋ぐ!” 第9回

後沢広大 経営3年/長野県出身/飯田高校

2014年1月に監督、コーチ陣が一新、3年生の山口修平を主将にするというこれまでにない体制となった創大駅伝チーム。その新体制からわずか10ヶ月で初の予選会突破を成し遂げ、チームとして初の箱根駅伝出場を勝ち取った。スタッフ、選手、マネジャー、関係者の取材を通し、この10ヶ月間のキセキの物語に迫る。

後沢広大といえば、ストイックさ、チーム内No.1。ゴールデンタイムと呼ばれる食事時間の厳守をはじめ、補強、ケア、ストレッチ、栄養補給、お菓子など甘いものを一切食べない、夜更かしはしないなどなど、とにかく走ることを第一として生活を送る。そんなストイックな後沢にストイックである理由を聞くと、「ストイックって言われるのが、カッコイイなと思いまして(笑)」とのお茶目な答えが返ってきた。主将の山口修平とツートップの後沢は、走りに安定感があり、信頼は大きい。後輩たちも一人また一人と彼を真似し、ついていく。7人兄弟の長男。育った環境からか、本人から後輩たちを面倒みようと声を掛けるようなことはないが、その背中に自然と後輩たちがついてくる。後沢も「後輩たちがマネをするので、道をそれるようなことはできません」と言っている。
後沢は、山口修平が創価大学へ行くと聞き、創価大学で長距離を続けることを決めた。入学当初、練習がこなせず、ついていくこともできなかった。先輩の目が“こいつは、こんなものか”と言っていた。悔しかった。みんなに追いつくために、できることは何でもしようと、練習はもちろん、補強など生活面でも、強くなれると思えば何でも取り入れた。“箱根を走りたい”、その思いが後沢を支え、家族や親戚の期待に応えたい、“こんなところでくじけちゃいけない”と自分で自分を鼓舞し続けた。入学から半年経った頃、練習にもついていけるようになり、また時を同じくして、4年生の先輩たちから“お前ストイックだな”と言われるようになったという。
河原トレーナーは、後沢の走りへの姿勢を称えこう言う。「後沢は本当にストイック。走りに対して、まじめで、研究熱心。後輩たちが一人また一人と彼を真似し始めているが、もっと多くの部員が彼の姿勢を学ぶようになれば、チームはさらに強くなっていくだろう」と。先輩後輩わけ隔てなく愛されるキャラクターで、自分が苦労して得た情報だとしても、アドバイスを求めてくるチームメイトには喜んで情報を提供する。後輩が取り組んでいることで、自分にもいいと思えば、真似して一緒に取り組んだりもする。なかなか柔軟な性格だ。しかし、上辺だけのものには同意できない。当初、スタッフが叫び始めた“チームワーク”にも全く納得がいかなかった。“みんなで”やることがチームワークかのような、形から入ったまるでフレームだけの“チームワーク”に、ほとほと嫌気がさした。それでも、そこからでも作り上げなくてはいけないチーム状況であったこともわかってはいた。そうして作り上げられた“チームワーク”の中で、チームの雰囲気が変わっていったことも、後輩たちが、より後沢に話しかけられるようになったり、真似をするようになっていったこともわかる。スタッフの練習メニュー通りにこなすたびに、自分の記録も伸びている。ただ、自分でとことん考えてチームの中で這い上がってきた後沢にとって、どうしたら万全な状態で大事な練習や試合に臨めるのかがきちんとわかる分、いまさら、“みんなで”体操をすることや、“みんなで”行動することに、確たる意味が見出せなかった。

でもチームは、その作り上げた“チームワーク”で予選会を突破した。予選会当日の戦いを見れば、それはもう上辺だけの“チームワーク”でないことは、誰の目にも明らかだった。「自分も変わってきたと思う」、そう後沢は言った。久保田ヘッドコーチは練習のたびに選手たちに「自分でしっかり考えて走るように」と伝える。後沢のように、自分で考えて走れる選手が増えていけば、個が強くなり、さらにチームも強くなっていく。君塚コーチは、後沢を「一匹狼で、自分自身をよくわかっていて、しっかり考えて走れるとても魅力的な選手」と評する。箱根本戦に向けての最終調整の中、スタッフは後沢の意見を練習に取り入れもしている。チーム全体が、今も柔軟に、それぞれの個性を活かしながら、成長しているといえる。
後沢に、ストイックであり続ける理由を改めて聞いてみた。すると、「振り返った時に、自分の中に自信しかないようにしたいから」との返答。レース中、競り合う場面では、常日頃のささいなことが影響することが多々あるという。“負けてたまるか”とのもうひと踏ん張りは、“自分はこのレースのために万全な準備をしてきたんだ。負けるはずがない!”との自信からでてくるのだと言う。
「もっと強くなりたい」、取材の最後に、そう後沢は言った。「自分は他大学の選手と比べればまだまだ見劣りする」とも言った。本戦まで、あとわずか。それでも後沢らしく、最後の瞬間まで、自分に挑戦し、殻を破り、成長し、万全に整えて臨んでくるのだろう。次に待つ友にために、笑顔で襷をつなぐ彼の様子が目に浮かぶ。共に走り続けてきた友のために、チームのために、ストイックに自身を鍛え上げてきた後沢が、きっと何かを見せてくる。そうプレッシャーを掛けようが、彼はただ笑って受け流す。それがまた、彼の強さだ。“箱根を走りたい!”、どんなに苦しい時も、後沢はその一点で全てを乗り越えてきた。その彼が、いよいよ箱根路を走る。楽しみにせずにはいられない。

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