“初の箱根路、襷を繋ぐ!” 第1回

久保田満 ヘッドコーチ

2014年1月に監督、コーチ陣が一新、3年生の山口修平を主将にするというこれまでにない体制となった創大駅伝チーム。その新体制からわずか10ヶ月で初の予選会突破を成し遂げ、チームとして初の箱根駅伝出場を勝ち取った。スタッフ、選手、マネジャー、関係者の取材を通し、この10ヶ月間のキセキの物語に迫る。
 

「出るからにはシード権を狙いますが、チームにとっては初の箱根ですから、選手たちには、思う存分、楽しんでもらいたいです。一人ひとりが全力を出し切っていけば、結果は必ず付いてきますから」、そう語るのはヘッドコーチの久保田満。
東洋大学が箱根駅伝優勝チームへと成長する礎を築き、実業団旭化成、日本代表としても活躍した実績を持つ久保田だ。旭化成を辞め、創大駅伝部のヘッドコーチに就任し、瀬上雄然監督、君塚正道コーチと共に、新出発を切ったのは2014年1月で、同時に、3年生の山口修平を主将に任命した。部員たちの意見を覆し、“箱根に行くチームを作る”との一点で、競技者として誰よりも優れている山口を3年生ながら主将に置く決断をした。それは奇しくも、自身が東洋大学時代、当時の東洋大学・川嶋伸次監督(現・旭化成コーチ)に3年生で主将に任命され、3年振りとなる箱根駅伝出場を勝ち取った体制でもあった。「創大チームが箱根を走れるようになるには、まずは選手の5000m・10000mの自己記録を更新させる必要が」と、練習をスタミナ重視からスピード重視に変えた。選手たちからは、“長距離の練習になっていない”と不安といらだちの声が起きた。「箱根を目指すには、生活から見直し、アスリートとしての自覚に目覚めなくては」と、就寝、起床、休日にはじまり、ケアやストレッチ、あいさつの徹底にも言及し、寮生活に対する学生たちの自主性も促した。久保田をはじめとするスタッフ陣にはやりたいことがありすぎ、選手たちは変化にとまどい反発した。久保田は柔軟に微調整を加えながらも、練習における、実践に即した“スピード重視”にこだわり、アスリートとしての“生活態度”にこだわり、そして最大に“チームワーク”にこだわった。久保田の確信に、一人また一人と選手が付き、下級生から少しずつ大会での結果が表れ、夏合宿で何かが動き始めた。明けて行われた9/27の日体大記録会で、主力が好記録を続出し、9人が自己ベストを更新した。誰もが、久保田の采配でチームが底上げされていることを認めずにはいられなくなり、予選会では、選手たちがスタッフの指示通りに、“集団走”を見事に走り、予選会突破を成し遂げた。10ヶ月間で築き上げられたチームワーク、“信頼”という“和”が予選会当日に開花したと言える。

情熱の“赤”と冷静の“青”の斬新なユニフォームを久保田が選手たちに発表したのは予選会直前だったが、実はそのもっと前から、久保田が旭化成から出向で来ていた時から、創大チームを箱根に連れて行くための作戦の一つとして、ユニフォームのデザインを考えていた。“強いチームに!”、その熱い思いが込められたユニフォーム。選手たちは、あまりの斬新さに驚きを隠せなかったようだが、着てみると意外にもフィットした。思いのこもったユニフォームは、勝利を呼び起こし、箱根駅伝出場チームとしての新たな創価大学の歴史の象徴となった。襷には、情熱の赤と冷静の青に加え、金文字で「創価大学」と刺繍した。「“金”には勝利の思いを込めました」と久保田。ユニフォームに続き、勝利の金文字を加えた襷は何を呼び起こすのか、楽しみだ。
久保田は言う。「自分が創大駅伝部でやってみようと思ったのは、初めて選手たちの走りを見たときでした。一度も予選会を突破できていないチームでしたから、じゃがいものような学生たちがゴロゴロ走っているのかと思っていたら、体型も走りのフォームもいい学生が何人もいたのに驚いて、すごく可能性を感じました。3年間、旭化成からの出向という形でコーチとして見てきて、このチームは、“チームワーク”で底上げをする必要があることと、まずは5000m・10000mの走力アップを目指して“スピード重視”にする必要があると感じていました」と、そして「反発は予想しましたが、今では、みんな認めてくれていると思います」、そう言って笑った。予選会後、選手たちの取材の中で最も多く聞かれた言葉がある。それは、”久保田さんはすごい”だった。選手たちは、久保田の言った通りにやって勝てるのか、ずっと黙って見ていた。勝ったことで、久保田は見事に証明した。指導者としての彼の能力だけでなく、どれほどチームや選手たちを知り、どれほど箱根に向けて本気であるかを。
「いろんなことを乗り越えた10ヶ月間でした。このスタッフとそしてこの選手たちと箱根に行ける。それがただただ嬉しいです。初めての箱根ですから、選手たちに多くは要求しません。力を出し切って欲しい、それだけです。あの舞台で持てる力を出すこと自体が大変なことですから」と優しく微笑む久保田に、選手たちへの限りない愛情を感じた。

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