環境破壊の原因を究明し、修復を目指す修復生態学

(広報誌「SUN」2015年4月号:「学問探訪」に掲載記事より)
海藻が繁る豊かな海を取り戻す! 町が期待を寄せるプロジェクトが始動
2014年10月、長崎県五島列島の新上五島町で町の未来を賭けたプロジェクトが始まりました。その名は「陸と海を繋ぐ“栄養塩循環システムによる藻場再生実証実験”」。藻場とは沿岸部に形成された海藻類の群落のことで、魚の産卵や稚魚の生育など海産物の棲息に欠かせない存在ですが、近年この藻場が各地で消失しているのです。新上五島町でも消失が進み、その影響で現在の漁獲量は最盛期のわずか3分の1。プロジェクトが成功すれば、海藻が繁る豊かな海が甦ると町全体が期待しています。このプロジェクトの代表者として中心になって活動しているのが工学部、戸田龍樹教授です。
生活排水を利用して藻場を再生!? 産学官民のプロジェクトチームの挑戦
戸田教授の専門は修復生態学。環境破壊の原因を生態学の観点から究明し、破壊された環境を修復するという環境学の先端を行く研究です。
「我々の研究は一つの研究室だけではできません。このプロジェクトもノウハウを持つ企業、地元の長崎大学水産学部、地元自治体、地元漁協など産学官民の力を結集して取り組んでいます」と戸田教授は語る。
しかし、こうした大規模なプロジェクトチームを作れるのも、戸田教授が培ってきた幅広い人脈と信頼関係があるからこそ。特に今回は、町内の汚水処理場の排水からリンを集めて海藻の栄養として活用するという全く新しい実験です。事前の調査で、この海域には海藻の生育に必要なリンが不足していることが判明し、リンの調達が成功への鍵となったのです。また、供給方法も重要で、急激なリンの供給は赤潮などを引き起こしかねません。そこで戸田教授が協力を依頼したのが、排水からリンを取り出し、ゆっくりとリンを供給できる資材を開発したセメント会社。戸田教授がこの会社の技術に目をつけたことで陸から海への循環システム構築が可能になったのです。
専門知識と高い技術を身につけ、世界に羽ばたく卒業生たち
戸田教授の研究室では、ほかに相模湾の生態系調査、マレーシアのサンゴ礁生態系調査など、世界各地で数多くの研究を行っています。ラボ(実験室)での基礎研究に加え、こうしたフィールドワークによって鍛えられた学生たちは、卒業後は国内外の錚々たる大学や研究機関、国際NGOなどで研究者として活躍しています。「大学で学んだ知識や技術を社会貢献に繋げることは簡単ではありませんが、常に情報交換をすることで道が見えてきます。卒業生が世界に出て新しいネットワークを築いていく姿に希望を感じます」(戸田教授)。
世界に通用する研究者を目指しています!
土屋 健司さん(助教)
「戸田先生からは常に『一流の研究をしなさい』と言われ、4年生であってもそのレベル以上のものを求められてきました。必死に戸田先生についていき、本年、博士号を取得できました。この経験が確実に力を付けていると実感しています」
古江 凌介さん(4年生)
「戸田先生の授業に魅せられて、この研究室に入りました。藻場再生プロジェクトの一員として、装置の点検や海藻の観察のため現地に3ヶ月間常駐。海にもぐって海中撮影をするなど、体を張っています!」

北海道大学水産学部水産増殖学科卒業、東京大学大学院農学系研究科博士課程修了(農学博士取得)後、東京大学海洋研究所特別研究員(日本学術振興会)、1991年創価大学工学部講師、2002年同大環境技術開発共同研究センター長、2003年同大教授、環境共生工学科長。横浜国立大学非常勤講師。専門は修復生態学、環境科学、生態工学。