AKBも生徒、独創的な解釈で歴史をひもとく

季武 嘉也 文学部教授

NHK高校講座「日本史」で館長役の高橋英樹さんと一緒に生徒役のAKB48のメンバーに日本史を教え、放送大学では「日本の近現代」を担当。論文はもちろん、教科書、辞典をはじめ数々の執筆をしている季武嘉也教授。1月28日には、季武教授らが調査をすすめていて新発見された“児玉源太郎”の一級資料400点についての記事が毎日新聞で紹介されました。
歴史が好きで、東京大学の文学部に進学。教師になろうと思ったら、あまりの高倍率に断念。就職をしようと思ったら、オイルショック後の就職難で断念。悩んだ結果、好きなことを仕事にしようと、歴史学者を志し、東京大学大学院に。古文書を解読し、見えなかった歴史の一端をひもとくことが楽しく、無我夢中で研究を進めたそうです。専門は日本近現代政治史。修士論文が高い評価を得たことで、学者の道が大きく開け、築き上げてきた人脈と実績で、多くの史料が集るように。“私にしか思いつかない解釈を”、“独創的な解釈を”することが研究者としての生涯の目標と語る季武教授に話をききました。
<div style="text-align: right;"><span style="color:#808080;"><span style="font-size:14px;">※掲載内容は取材当時のものです。</span></span></div>

日本を代表する日本近現代政治史の研究者である季武教授、テレビに、ラジオに、新聞にと引っ張りだこですね。

NHK高校講座「日本史」館長役の高橋英樹さんと

「日本史B」の教科書編纂をしている関係もあり、執筆メンバーでNHK高校講座「日本史」の担当をしています。再放送も含めて4年間続ける予定です。生徒役のAKBの方々も、かなりの日本史通になるかもしれませんね(笑)。放送大学は今年(2015年)4月から主任講師を務めます。「日本の近現代」とのタイトルのもと、“明治維新後の日本の人々の移住と定住”というテーマで講義を進めていくことになっています。歴史的な史料というものは、多くの方にとっては、取っておいてもしかたのないものですから、多くの場合には、公にされることなく、なくなってしまうわけですが、私たち学者は、それを発見し、解読し、解釈し、世に発表していくわけです。発見できるようになるのも、多くの積み重ねと、人脈でして、ここ10年位ですね、様々な史料が集ってくるようになったのは。その一つが先日毎日新聞(2015年1月28日付)で紹介された“児玉源太郎の一級資料400点”です。児玉源太郎の長男である児玉秀雄の調査をする中で発見されました。歴史を紐解く中で、新たな歴史が発見される。繋がっていく感じが、たまらないです。

教授はもともと学者を志されていたんですか?

学生たちと

いえいえ、将来のことなどほとんど考えていませんでした。歴史が好きなので、東京大学の文学部国史学科(現・日本史研究室)に進学しました。正直、そんなに将来の夢とかはなくて、なんとなく中・高の社会科教員になろうかと思った程度です。そうしたら、その求人倍率がすさまじくて。当時は、一人の募集枠に400人が応募するような状況でした。それで、教員はやめようと思いました。今度は、就職しようと思いましたが、オイルショック後で大変な就職難でした。それで、就職もダメだなと思ったんです。そこまでは、あっちがダメならこっちという程度の進路に対する考えでしたが、いよいよ将来に不安を感じて、“自分はどうなるのだろう”と大分悩みました。悩んだ結果、好きなことを仕事にできればありがたいと思い、大学4年生の時に“大好きな歴史で飯を食っていこう!”と決めました。大学院に2度落ちましたが、浪人をして東京大学大学院人文科学研究科に進学しました。それまでは、自分で言うのもなんですが、いいかげんに生きていたんですよね。私が大学院生になった頃が、丁度大正時代のいい史料がずいぶん公開になった時期でして、これはおもしろいと思いました。それを勉強しようと、国立国会図書館の憲政資料室に、修士課程の2年間は誰よりもそこに通いました。1日400字詰原稿用紙に40枚という分量の史料の解読を自身に課しまして、朝から夕方まで解読、そして家に帰ってから整理して、夜もベッドの脇に常にノートと鉛筆を置いて、アイデアがひらめいたら書き留めるというような作業をずっとしていましたね。大学まで水泳部でしたから、体力には自信がありましたので、その体力を頼りにめちゃくちゃに勉強しました。何より面白かったので、夢中で勉強していたという感じですが(笑)。史料にあるのは、墨で書かれたくずし字なんです。それを解読するのが本当に楽しくて。そうして完成させた修士論文が認められまして、高い評価をもらいました。やはりこの最初の発表論文というのはとても重要なものですので、研究者としてのスタートをいい形で切ることができました。修士を2年で終え、博士課程に進み、30歳までは、文字通り脇目もふらず研究に没頭しましたね。楽しい時代でした(笑)。 

教授が歴史に魅了されるようになったきっかけは何でしたでしょうか?

文学部の哲学メジャー、歴史メジャーの教員の方々と

私が高校生の時に、新聞に連載されていた司馬遼太郎の『坂の上の雲』です。歴史が好きになりましたね。漠然と歴史が好きだというところから、大学院で夢中になったのが史料の解読ですね。昔の人が書いた文字から、その人物や時代の息吹を感じ、推論していくわけです。最初のうちは、人が発見した古文書を解読するばかりでしたが、今では、ありがたいことに、多くのつながりの中で、史料が集ってくるようになりました。発見された史料を解読する中で、別の史料から発見された歴史的事実と繋がったりすると、大喜びですね。最近は、分厚い研究書を読むのは体力的に辛くなってきましたが、古文書は別です(笑)。自分を最高に活かしていける道に進めたことは、本当にラッキ-なことです。歴史学は、史料に基づかなくてはいけません。史料を読んで、合理的推論をするわけですが、いろいろな解釈ができるんです。私のモットーは「もし、この世に私がいなければ、誰もこんなことを思いつかないだろう」ということを書き残すことです。誰も思いつかないことを後世に残したいです。何を思いつくかって、歴史的解釈ですよね。同じ史料を見ても、私にしか思いつけない解釈をしたい。独創的であれることを目指して史料と向き合い続けているという感じでしょうか。

様々なプロジェクトを抱えながらの研究生活であると思いますが、今後取り組みたい研究はありますか?

学生たちと

さまざまな学会での研究活動や出版物への寄稿など、発見された史料の解読作業やその出版作業、テレビやラジオに、大学教授としての教育活動といろいろありますが、特に戦後70年間で急速に変化した日本社会の変遷、その歴史をどうにかしていかなくてはいけないと思っています。55年体制と言って、1955年に自民党政権がスタートするわけですが、今も政治的な体制、つまり自民党が政権を握っているという表面的な形は変わっていませんよね。その日本の政治的な状況が、日本に起きてきた変化を鈍く見せてしまっているのですが、実際には、高度成長があり、オイルショックがあり、バブルがあり、少子高齢化がありと日本は大変動を経験してきています。特にその70年間にしっかりと歴史的な段階付けをしておかないと、何が歴史で、何が現代かわからなくなってしまうんです。そうした歴史をクリアにしていくためにも、「戦争責任問題」、ここをはっきりさせなくてはいけませんね。この70年間の変遷、遡って100年としてもいいかもしれませんが、そこに取り組みたいと思っています。社会の中での新しい歴史像を作りたいですね。史料を読み込むしかないですね。意欲はありますが、時間との戦いです。頑張ります!(笑)

最後に学生たちにメッセージをお願いします。

学生たちと

若い人たちには、頭の中の引き出しをいっぱい持ってもらいたいと思います。夏目漱石著『三四郎』の中で「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より・・・日本より頭の中のほうが広いでしょう」と、汽車の中で広田先生が三四郎に言う場面がありますよね。私にしかできない解釈があるように、みなさんにしかできない解釈があります。一つの物事をある視点から見ただけでそれが全体だと決めつけてしまうのではなく、一つの物事をこれでもかという新しい視点で見つける努力をしながら、自分を訓練しなくてはいけません。留学でもクラブ活動でも、大学時代により多くの経験・体験をすることですね。私は、日本史が専門で、読むのは古文書だからと、英語を避けてしまいましたが、語学は自分の世界を広げるいいツールですから、どうか皆さんは語学にもしっかりと取り組んでください。創価大学の学生たちは意欲に溢れていますから、私も喜んでサポートします。研究者を目指す学生さんたちがよく研究室に来てくれますが、研究の仕方、史料の読み方、人脈もありますので、色々とアドバイスもできます。皆さんの可能性は無限ですから、そのために何でもやらせてもらおうと思っております。私もまだまだこれからです。私にしかできない、歴史的解釈を目指して、これからも精進していきます!

すえたけ よしや Yoshiya Suetake

[好きな言葉]
真理は我等を自由にする
[性格]
昔は人見知り、いま平凡
[趣味]
Jリーグ観戦(浦和レッズ)、クラシック音楽鑑賞
[最近読んだ本]
E.H.カー著『歴史とは何か』(岩波新書)
[研究テーマ]
日本近現代史の基礎研究
[所属学会]
日本歴史学会評議員、元史学会編集委員、元日本選挙学会紀要編集委員
[現職]
放送大学客員教授、(続)藤沢市史編纂委員、国立国会図書館客員調査員、広島大学文書館客員研究員、早稲田大学台湾研究所招聘研究員、日本歴史学会編集委員会代表
[主な著書]
  • 『大正期の政治構造』(吉川弘文館、1988)
  • 『日本の時代史』(編著 吉川弘文館、2004)
  • 『選挙違反の歴史』(吉川弘文館、2007)
  • 『原敬』(山川出版社、2010)
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