『こんなところに日本人』に登場!東ティモールのコーヒーを世界一にとNPOで奮闘する卒業生

永井 亮宇 2012年9月 経済学部卒業

幼い頃から世界を見たいと思っていたという永井さん。大学3年生の時に今しかないと発展途上国をバックパック*で旅して出会ったのが東ティモール。発展途上と言っても、大なり小なり建物が並び、たいていの国には売り買いするようなマーケットが存在していたが、東ティモールには何もなかったといいます。「この国の人々のために働きたい」と思い、見つけたのが現在働くNPO団体。東ティモール*を実際に訪れたことがあること、卒業論文でも東ティモールについて書くなど知識があったことなどが評価され、卒業を待たず、現地の責任者として赴任することに。永井さんのミッションは、現在NPOが行っている仕事を現地会社として立ち上げ、現地のスタッフだけで運営できるようにすることでした。世界中に市場を拡大しながら、将来の社長候補の育成、農家へのコーヒー栽培の指導に奮闘する永井さん。昨年(2014年)8月には、永井さんの活躍が『こんなところに日本人』(テレビ朝日)で取り上げられました。現地に赴任して3年、今では“Mr. ティモールコーヒー”との愛称で、多くの方々に親しまれるまでに。「カフェ・レテフォホ」として出荷しているコーヒー豆は、海外でも人気になっており、米国の業界団体によるグレード区分では、最高ランクの「スペシャルティコーヒー」に入りました。“東ティモールのコーヒーを世界一の品質を誇るブランドに”とのビジョンと夢を胸に、日々格闘する永井さんに話を聞きました。

バックパック:リュックサック。バックパッカー(低予算で国外を個人旅行する旅行者)は、バックパックを背負って移動する者が多いことから、その名がある。 東ティモール:2002年に東ティモール民主共和国としてインドネシアより独立。小スンダ列島にあるティモール島の東半分とアタウロ島、ジャコ島、飛地オエクシで構成され、南方にオーストラリア。日本の首都4都県(東京、千葉、埼玉、神奈川)の合計面積とほぼ同じ大きさで、人口は約117.8万人(2013年、出典:世界銀行)。

東ティモールに赴任して約3年、久しぶりの日本への帰国ですが、現地では様々な仕事をされているようですね。

農家の皆さんと
農家の皆さんと

はい、2012年4月に赴任しまして、9月の卒業でしたが、ちょうど輸出作業の時期と重なってしまい、帰国することができませんでした。現地での私の最大のミッションは、現在NPOとして行っているコーヒーのフェアトレードの事業を、現地で作った会社の現地スタッフだけで運営できるようにすることです。社長候補の発掘・育成、市場の拡大、高品質コーヒーの生産と生産性向上のための農家への指導、この他にも東ティモールコーヒーのブランディング、カフェ関連ビジネスの展開など様々です。インフラも不十分で、設備投資もままならない現地でのオペレーションは困難ばかりですが、創価大学で学ぶ中で夢見た発展途上国でのソーシャル・ビジネスやマイクロクレジットなど、こうして関われていることにうれしい気持ちでいっぱいですし、やりがいを感じています。

本当にやりがいのありそうな多岐にわたる業務ですね。

ラモズ・ホルタ元大統領と
ラモズ・ホルタ元大統領と

東ティモールでは、人口の約20%がコーヒー栽培で生計を立てています。しかし、その多くが低品質のコーヒーしか作らない零細農家で、各世帯が自分の畑で収穫できるコーヒー豆はわずかです。少ない収穫量にも関わらず安かろう悪かろうのコーヒーを生産していては、家族を養うために必要な収入は得られません。十分な収入を得るためにも付加価値の付いた高品質のコーヒーを生産することは非常に重要です。現在、私たちは520世帯のコーヒー農家と仕事をしています。520世帯ということは、約5000人の人々の生活を支えていることになります。私たちのようなソーシャル・ビジネスの使命は、利益を上げること以上に、受益者と受益効果の最大化にあります。

高品質のコーヒー作り、いかに市場を広げ、受益者を増やしていけるか、その全てが自分にかかっているというのは、もちろん大変ですが、大きなモチベーションです。うれしいことに、私たちのコーヒーは、世界中の専門家の方々からアジア有数の高品質コーヒーと評価していただくまでになりました。また、最近は欧州、北米、オーストラリア、シンガポールなど、新しい市場の拡大をどんどん進めており、今日では私たちのコーヒーはチェコや南アフリカのコーヒー専門店でも売られています。成果が見え始めたことへの喜びと共に、支える生産者のためにも、またさらなる受益者の増加のためにも、自分を鼓舞して世界を飛びまわろうと気合を入れているところです(笑)。

第一回目の輸出船
第一回目の輸出船

現地で苦労されているのはどのような点ですか?

同僚たちと
同僚たちと

一番難しいと感じるのは、“何のため”という価値観を共有することです。なぜ品質に関して一切の妥協をしないのか、なぜ直近の利益よりもコーヒー生産者への還元を選ぶのかなど、自分たちの日々の仕事の根本的な価値観としてもらうことにとても苦労しています。言葉では理解したと言ってくれても、日々現地スタッフが何かを決断する際に、その価値観が忘れられていると感じることは今でもあります。しかし、繰り返し伝え、自分が行動で示すことで、現地スタッフの中にも浸透していくのではないかと思います。
人材育成においても、いろいろなことがおきます。海外で勉強してきたような優秀な人材を採用し、社長候補にと楽しみにしていましたが、結果的に裏切られてしまったり、そうかと思うと、コーヒー生産の最盛期でとにかく人員が必要で集めた中に、素晴らしい人材がいたりします。

他の発展途上国と比べても国の成熟度や教育水準の低い東ティモールで、地元の人々と共に働いていると、正直「なんでこんなこともできないのだろう」と辛くなってしまうこともあります。その時は、私もとことん“何のため”と向き合います。“英知を磨くは何のため 君よ それを忘るるな”、創立者の池田先生からいただいた大事な創価大学の指針です。悩んで悩んで悩みぬく中で、“なんで”と責める気持ちから“どうしたら”と彼らのために何ができるのかと考え行動していくことができます。そこに自分の成長も、現地スタッフの成長もあると感じています。創大キャンパスの中で、創立者や恩師から“全ての人には無限の可能性がある”とういことをありとあらゆる機会を通し教えていただいたことも大きいです。“どんな境遇で育った人であろうと、彼らにしかできないことがあり、限りない可能性がある!”そう何度も心で叫びながら、現地スタッフと接しています。
苦労はありますが、その苦労も吹き飛ぶような温かい支援もいただいています。私たちの高品質コーヒーは、実は日本のコーヒー専門家の方々による指導のたまものなんです。世界中の多くの方々に、“Mr.ティモールコーヒー”と呼んでいただきながら(笑)、応援していただいています。本当にありがたいです。

コーヒーの木
コーヒーの木

大学時代もいろいろなことにチャレンジされていたようですね。

コーヒー豆の選別作業
コーヒー豆の選別作業

創価大学に進学を決めたのは、自分のニ-ズにぴったりだった経済学部の英語で経済学部を学ぶIP(インターナショナル・プログラム)を見つけたからです。英語で経済学を学べる、やってみたいと思いました。経済学自体にものめり込みました。またアフリカ研究の加納直幸准教授のゼミで、マイクロクレジットなど、今も自分が目指しているビジネスの形など、様々な刺激をもらいました。“SHARE”という創大学内のフリーペーパーをスタートさせたりもしました。高校の時から雑誌が大好きで、出版社を立ち上げたいと思っていました。日本には、本を流通させる会社が20社ほどあるのですが、そのうち2社が90%のシェアを持っています。

ということは、その2社と取引ができなければ、市場に出るのはほぼ不可能ですので、大学時代、何度か交渉しましたが、一蹴されてしまいました。それでも、雑誌を作りたいという思いを周囲に話していたら、自分も一緒にやりたいと15人くらいが集ってくれました。ビジョンを共有しながら、一つのものを作り上げるという貴重な経験でした。途上国を見てこようとバックパックの旅に出たのも、創価大学の中にあるたくさんの刺激のおかげでした。私が東ティモールに赴任して以来、インターンシップをさせて欲しいと創価大学から学生さんが来てくれています。ソーシャル・ビジネスへの関心、何より発展途上国で貢献したいという思いを強く感じます。何のために大学で学ぶのか、何のために自分の人生を使っていくのか。「英知を磨くは何のため」との創立者の指針を胸に学ぶ、創大生らしい探究心にうれしくなります。

コーヒー豆の選別作業
コーヒー豆の選別作業

最後に、これからについて聞かせてください。

組合の人々と
組合の人々と

まずは、会社を現地のスタッフだけで運営できるよう、人材育成、市場拡大含め、全力で取り組んでいきます。その後については、やりたいことはとてつもなくたくさんあるのですが、今こちらで現地の人たちと関わる中で、ちょっと支援してあげられればビジネスとして展開できそうな事業プランを持った若い起業家の卵がいます。彼らのような若者の起業の手助けができる金融システムの構築と、より起業しやすい環境を整備するために政府と協同することにも興味があります。あとは、現在やっているような事業を、違う国の違う産品でやってみたいという思いもありますね。授業で聞いていた世界が、今自分がいるところで現実になっていることに、わくわくします。現地の人たちとテトゥン語を使いながら、英語で世界の人々と取引を展開する。苦労と同じ分だけ、良き人々と出会うことができ、貴重な経験をさせてもらっています。そして、何より大切な“心”を育てていただいた創価大学に、たくさんの励ましをくださった創立者に、出会った教授、友人たちに、本当に感謝しています。30名の現地スタッフにも日々、“心こそ大切”“どんな人にも無限の可能性がある”と、創大の中で学んだことを伝えています。まだまだ挑戦は始まったばかりです。うれしい報告ができるよう、さらに頑張っていきます!

ながい りょう Ryo Nagai

[好きな言葉]
「~(理想や将来像)できたらすごくない?」
[性格]
短気、真面目、社交的
[趣味]
読書、ビーチで遊ぶ
[最近読んだ本]
リチャード・ブランソン『ヴァージンー僕は世界を変えていく』
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