NYで9・11を、そしてパリでシャリー・エブド事件を体験。世界に潜む憎悪に触れてGlobal Citizenを考えた。
オオノさんが生まれ育ったのはニューヨーク。お父さんは、トランペッターで、お母さんは元ダンサー。幼い頃からオオノさんの周囲は、芸術と感性と多様性に包まれていました。高校時代に見たオンラインのプレゼンテーション番組“TED Talk”で“JR”というアーティストを知り、衝撃を受け、大学生でJRのもとでインターンシップを経験。一人のアーティストが世界各地で、また様々なフィールドで社会に地域に変化を起していく様を間近で体験したといいます。本学に留学直前で単位習得のためにオオノさんが向かったのがパリ。パリに降り立った日は、まさに事件の直後。大規模なデモ行進を前に、脳裏には9・11のNYの姿が思い浮かび、恐れと共に、ここパリでは、人々はどのように反応するのだろうか、そうした目でも見続けたといいます。偏見が渦巻き、憎しみは子供にまで牙を向き、政治的、経済的、歴史的、思想的な様々な鬱憤が爆発する中で、Global Citizen(=地球市民)とは、真のグローバル社会とは、と考えさせられたと言います。そんなオオノさんに話を聞きました。
ずばり、オオノさんにとってのGlobal Citizen(=地球市民)とは?
あくまでも、自分の体験を通してのことですが、Global Citizenとは、“他の人の人間性を自分のと同様に認識し、尊重できる人”なのではと思っています。異なる文化・人種・価値観・宗教を持つ人々を自分とは違うとか、彼らは変わっているとかで切り離すのではなく、まさに創立者の言われるように“生命の相関性”、私たちは互いに影響し合っているのだと認識し、他の人の価値観や人格を尊敬できる人をGlobal Citizenだと感じますし、自分もそうでありたいと思っています。自分とは違う何かを大切に思っている人がいることを知り、そして共存するために理解をしていく努力が必要だと思うんです。
NYもパリも、多くの国々からたくさんの人々が集う国際都市です。しかし、“一緒に”共存していると、言えるかはとても疑問です。特にパリで言えば、住む場所も、仕事も、出身国や宗教によって、自然のうちに仕切られています。“ライシテ”とのフランス革命期に作られたフランス独特の“公の場では宗教色を出さない“との原則も、彼らの”自由“と”平等“の精神から来るわけですが、ちょっと見方を変えれば”自由“ではないですよね。シャーリー・エブドの”タブーを作らない“との主張で、自国では少数派の宗教を笑いものにするのも、ちょっと見方を変えれば、フェアじゃないですし、”風刺“ですらないですよね。
ジブリの宮崎駿監督も”異質の文明に対して、崇拝しているものをカリカチュア(風刺)の対象にするのは間違いだ“”(風刺は、)まずもって自国の政治家にやるべきであって、他国の政治家にやるのはうさんくさくなるだけ。他の文明が崇拝しているものを(風刺の)対象にすることはやめたほうがいい“と、シャーリー・エブド事件直後に言われていました。”You can’t shake hands with clenched fist.(握ったこぶしで握手はできない)”とのインディラ・ガンジーの言葉の通り、握手をするには、握ったこぶしを開かなくてはできないですし、偏見や敵意を持ってはまともに話などできないと思います。
9・11直後、NYでは、ムスリムやイスラム圏の人々への偏見や攻撃が相次ぎましたし、子供たちも学校でいじめに遭いました。私の親友はムスリムです。家族ぐるみで付き合う彼らは、どう考えてもテロリストではありません。また、人権団体らが、ムスリムの女性のスカーフを、女性蔑視等とあたかも自分たちは正義を訴えているように声を上げたりしますが、そもそもムスリムの女性がスカーフを巻くのは、女性を外見ではなく知性で見るとのイスラムの考え方に由来するもので、女性蔑視とは遠くかけ離れたものです。話しをすれば、一言尋ねてみればわかることを、実は私たちはしていないなと思うんです。
アーティストJRを知り、彼のもとでインターンシップをしたことは、大きな経験になったようですね。
JRを知ったのは、私が高校生の時でした。TED Talkで彼がアートを通して、世界の各地にはびこる偏見や民族・宗教間の確執というものに凝り固まった見方を変えようとし、実際に彼が作成した巨大な写真ポスターが町の外観を変えていく様を見て、感動しました。大学生になり、インターンシップをしようということになった時に、まっさきに浮かんだのがJRでしたので、彼にメールを送りました。毎日世界中からたくさんのインターンシップの依頼が来る中で、私の情熱と私が彼のNYのアトリエに通える近さに住んでいたという現実的な理由からか、ありがたいことに採用され、昨年の夏に彼のもとでインターンシップをさせてもらいました。
まず、私が驚いたことは、彼には“限界がない”ことでした。世界中で写真のプロジェクトを進めながら、バレエの演出をしたり、映画を制作したり、そうしたプロジェクトが走っている最中に、彼のもとにまた異なるフィールドから仕事が入り込んでくるわけです。アーティストという大きな枠組の中で、自分に制限をかけずに、新たな挑戦を悠々と楽しむ姿に、自分もそうでありたいと思いました。彼が手掛けたプロジェクトの一つにFACE2FACEPROJECT(フェイスtoフェイスプロジェクト)というのがあります。中東で銃声が鳴り続け、イスラエルとパレスチナの対立が激化する中、JRと6人の友人がイスラエルとパレスチナの境界地域に向かいました。
出発する前、何人もの人々に「そんなことしたら殺されるぞ、ハマスに誘拐されるぞ」と忠告されたそうですが、「いいさ、同じ人間がそこにはいるんだ」と言って、メディアが見せるイスラエルとパレスチナではなく、自分の目で見るんだ、彼らの素顔を見るんだと現地に向かいました。彼らは、イスラエルとパレスチナの人々の顔写真を撮影し、それぞれに同じ職業同士で顔を並べてもいいとの同意を得て、イスラエル地域、パレスチナ地域、それぞれに巨大な顔写真のポスターを貼り出しました。
あるイスラエル地域で、ポスターを貼り出していたところ、好奇心から多くの人々がJRたちを取り囲み、“何してるんだ”と言ってきたそうです。“イスラエルとパレスチナの人で同じ職業同士の人を並べた写真のポスターを貼ってるんだよ”と言うと、“お前、このイスラエル地域にパレスチナのやつの顔を貼ろうっていうのか!?”との想定内の困惑ぶりに、“じゃあ、どっちがイスラエルの人で、どっちがパレスチナの人だか僕に教えてくれる?”と聞くと、誰も答えられなかったそうです。そうして静まり返った中で、彼らはポスターを貼り終え、立ち去ったと。どっちがどっちとも答えられないほど同じである民族同士が争い続けているわけですよね。
彼のプロジェクトは、写真を通して、本人たちに気づかせていくものなんです。そして、写真を通して世界に、メディアの偏った報道で見えるものではない、そこに暮らす人々のありのままの姿を伝えるものです。イスラエルとパレスチナ双方で、何人もの人々が自分たちの写真を使って欲しいとプロジェクトに参加しました。双方の人々の笑顔が隣同士で並び、今も街中に張り出されています。そのプロジェクトの中で作成されたものの中で1枚の非常に象徴的な写真があります。私が大好きな写真で、自分のパソコンにも張っています。それは、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教それぞれの聖職者のユーモア溢れる表情の顔写真を横に並べた巨大なポスターです。その前でシスター達が楽しそうに写真を撮っている写真も発表されています。
女性への蔑視、犯罪で溢れる地域には、女性たちの印象的な目や顔写真をその地域の屋根や階段に張り出したり、衝突する国の象徴的な写真を相手方の国に貼り出したり、犯罪者のようなレッテルを貼られている移住者たちのありのままの表情を巨大なポスターにして張り出したり、TEDTalkを通して共感が広がった彼の取り組みは、今、それぞれの国・地域で、何かを変えようとする人々の手によって、象徴する写真の巨大ポスターが貼り出されています。
様々な刺激を通して、今後何に挑戦したいと思っていますか?
やりたいことはたくさんあって、全部やりたいので、インターンシップでもらった刺激、フランスのシャーリー・エブドを通して感じたもの、今創価大学で学んでいること、そしてアメリカに戻って自分の中で大きくなるものから始めていけたらと思っています。世界に様々な問題が溢れる中で、ともすると無力感を感じてしまいがちですが、常に自分にもできることがある、というのが、今感じていることです。自分にしかできない、世界とのコミュニケーションの仕方を考えていきたいと思います。
最後に一言、どうぞ。
9.11やシャーリー・エブドを通して見えたことは、もともと内在していたものが、テロによって、表面化されたものだと思います。創大創立者の池田先生がコロンビア大学ティーチャーズカレッジで「Global Citizen(=地球市民)」について言及されていることが、問題の本質、そして問題解決の道を示してくれていると思うんです。つまり、創立者が言われる「Global Citizen(=地球市民)」像です。“生命の相関性を深く認識しゆく「智慧の人」”“人種や民族や文化の“差異”を恐れたり、拒否するのではなく、尊重し、理解し、成長の糧としゆく「勇気の人」”“身近に限らず、遠いところで苦しんでいる人々にも同苦し、連帯しゆく「慈悲の人」”です。
私たちが選択するそれぞれの場所で、Global Citizenとして、生きていければ、言語の違いとか、肌の色の違いとか、慣習・文化の違いとか、無関心に見過ごしてしまうこととか、自分中心性とか、きっと乗り越えていけるのだと思います。Global Citizenとして多くの多様な人々と心通わせていける自分にしかできない方法を見つけ出し、世界に社会に貢献していける自分になっていきたいと思います!
[性格]
- creative, silly, happy
- Dancing, Drawing, laughing, and anything that I do with my family