News Zeroでも取り上げられた「幸せ☆おすそわけプロジェクト」(ドギーバッグの取り組み)。プロジェクトリーダーが込めた想いは・・・

鬼木 生子 経済学部 4年  GCP3期生

 社会的関心が高まっている食品ロスの問題。食品ロスを減らしながら、途上国の食料事情を改善するという一石二鳥の取り組みが今、テレビや新聞でも報道されている鬼木さんがプロジェクトリーダーを努める「幸せ☆おすそわけプロジェクト」。鬼木さんたちの「おすそわけBOX」は、現在、ホテル、レストラン、カフェなどで使用されています。
 鬼木さんが所属する経済学部・西浦昭雄ゼミでは、毎年9割の学生が海外に留学しています。日本の飲食店と私費留学したイギリスの飲食店でのアルバイトで、気付いたのは、捨てられる食品の量の違い。イギリスでは、多くの人が食べ残したものをドギーバッグにつめて持ち帰るため、お店で捨てる食品の量は日本と比べると格段に少ない。プロジェクトメンバーのほとんどがそのことを留学先の各国で実感。何度も語り合い、思索を重ね、「幸せ☆おすそわけプロジェクト」が完成。プロジェクトについて、留学、大学時代の経験について鬼木さんに話を聞きました。

皆さんのプロジェクトが、新聞やテレビなどで反響を呼んでいます!

最優秀賞を受賞!

 本当に嬉しいことだと思っています。西浦ゼミでは、毎年11月に開催される関東最大の学生発表会である「日本学生経済ゼミナール関東部会」(主催:日本学生経済ゼミナール関東部会、協力:日経ビジネス)でのプレゼン発表を目指して、ゼミで2つの企画を立ち上げます。9割のゼミ生が留学をすることもあり、留学中は、スカイプを使って定期的に会議を設け、帰国後にゼミ内でプレゼン大会を行い、2つの企画にしぼり、一気に形にしていきます。
 帰国までは、私は、介護やLGBTの問題に取り組もうと、留学先のイギリスでも調査を行っていました。帰国後のゼミ内プレゼン大会で、後輩が提案したドギーバッグのプロジェクト、また介護のプロジェクトが今年度の大会に臨むにあたっての企画と決まりました。ドギーバッグについては、日本でもイギリスでも、自分が実感していたことでもありましたので、私たちの帰国と交代で留学していく後輩達から企画を受け継ぎ、各国から戻ってきた同期のゼミ生たちと取り組み始めました。
 昨年11月に行われた同大会では、嬉しいことに、私たちの「幸せ☆おすそわけプロジェクト」が最優秀賞を獲得とし、西浦ゼミとして4年連続の1位となりました。また、介護のプロジェクトも「みんなで介護を支える社会へ~介護交流プロジェクト~」で3位となる審査員賞を受賞することができました。

『幸せ☆おすそわけプロジェクト』の詳細を教えてもらえますか?

おすそわけBOXを手に、ノーベル受賞者のムハマド・ユヌス博士と

 これは、ホテルなどの飲食店で、途上国の子供たちが描いた絵を使用したドギーバッグである「おすそわけBOX」を使用し、家族には料理を、途上国の子供たちには食料支援に繋がるデザイン料を、「おすそわけ」するというプロジェクトです。特徴は、日本の食品ロス(廃棄される可食分のこと)を減らしながら、途上国の食料事情を改善するという一石二鳥の取り組みである点にあります。
 途上国の子供たちが描いた絵を用いて製作した「おすそわけBOX」をホテル等の飲食店に買い取ってもらい、消費者には残った料理を無料で持ち帰ってもらいます。そこで得られた収益から、「おすそわけBOX」一個当たり12円を、途上国のNGO等の協力団体を通じ送金します。12円は、途上国の子供一人の1日分の給食費用にあたります。

 世界では十分に食事にありつけない子ども達がいる一方で、必要以上の食べ物に溢れ、捨てている国々もあります。2013年に日本では約642万トンの食品ロスが発生したとされています。これはWFP(国連世界食糧計画)が行った年間食糧援助量を大きく上回る結果となっています。
 例えば、立川グランドホテルでは現在1,000個の『おすそわけBOX』導入してもらっています。これにより朝食1,000食分と昼食1,000食分の資金が途上国に送られることになります。

ボランティア先の孤児院から見えるスラム街

プロジェクトは、順調だったんですか?

イギリス難民NGOインターンにて

 実は、結構苦戦しました。西浦ゼミのプロジェクトというのは、いつも助ける人の顔の見える企画でした。それが、今回は、なかなか見えませんでした。食品ロスの問題、ドギーバッグの使用が、誰のためになり、誰を助けることができるのかが曖昧でした。なかなか出口が見えず、企画を持ち合っては、話し合う毎日。これでは、大会に間に合わないとくじけそうになることもありました。
 すでに活動を始めている団体とのコラボレーションをしたらどうかとか、目的を同じくするNGO等の団体に提案しようとか、様々な案も、実際に行動に移したこともありましたが、なかなかこれというものに出会うことができませんでした。

 しかし話し合いを続ける中で、アフリカ・ケニアに交換留学していた学生から、「日本の食品ロスと対照的に、ケニアでは食に不足している人がいる」との発言があり、皆で初めて、“困っている人の顔”を思い浮かべることができました。そこから、日本の食品ロスを減らしながら、途上国の食糧事情を改善するという一石二鳥の取り組みへと発展し、急速に現在への形と進展していきました。ところが、恒例のゼミの夏合宿で、先輩たちからは、厳しい指摘をいただきました。おすそわけバッグ(ドギーバッグ)の単価が470円と高すぎて、現実的ではないとの指摘でした。実際に、現在導入していただいている立川グランドホテルからも、「一桁単価が安くなれば導入できるのに」とのお話もいただいており、そこから、皆で必死に単価を下げるための調査を開始しました。
 そこで、単価の安い紙容器で、なおかつさとうきび繊維を有効利用して作られた環境に優しい紙容器で、単価42円で作成できることがわかりました。そこで、再度、立川グランドホテルに伺い、導入が決定しました。現在は合計で4店舗で導入されています。今後も、営業活動を続けながら、少しでも多くの飲食店で使用してもらえるよう取り組んでいきます。

各国を代表するサミット参加者と、イタリア・ローマにて

鬼木さんは、ずっと貧困解決と途上国支援について興味を持ち学んでいるんですよね。

インド コルカタの街並み

はい。大学受験の時に、英語のテキストの中に、途上国の女性の識字率の話がありました。そこで、教育が女性の自立に関わることを知り、大学では、貧困解決、途上国支援ということをテーマに学びたいと思うようになりました。イギリスに留学したのも、「開発学」を学びたかったからです。
 今でも忘れられないのは、ボランティアをするために大学1年次にインドのコルカタを訪れた時のことです。マザーテレサの教会が支援する施設で、孤児で障害を持った女の子たちがそこにはいました。多くが知的障害を持っており、働くこともできません。

 私は、彼女たちに会うまで、英語力を磨いてきたし、自分にも何かできるんじゃないかと思っていました。しかし実際は、自分にできることなんて何も見つかりませんでした。厳しい現実は施設の中だけではありませんでした。街中いたるところで、必死にお金を得ようとする子供たちや障害者を装ってお金を求めてくる人々に出会いました。カルチャーショックなどの次元ではなく、想像でき得る限りのこの世の悲惨がそこにはありました。そこでは、無力感に襲われることもしばしばでしたが、生涯をかけて“途上国の女性と子供の自立支援”に携わろうと決意しました。
 その後カンボジアを訪れたり、イギリス留学中には、難民を支援するNGOでインターンシップも行いました。具体的に自分に何ができるのか、何で貢献できる自分になるのかは今も模索中ですが、「幸せ☆おすそわけプロジェクト」含め様々な経験を積みながら、具体的に支援していける自分になりたいと思っています。

イギリス難民NGOのインターンでお世話になったスタッフ

様々な経験といえば、留学中も様々なことに遭遇したようですね。

授業後に先生やクラスメイトと団らん

 大学の授業を受ける中でも、考えさせられることはありました。「インターナショナル・セキュリティ」という授業で、パレスチナとイスラエルの問題がテーマとなった時でした。その授業は15名ほどでディスカッションをベースに展開されるものだったのですが、ユダヤの学生が意見を述べたことに対して、その授業で多くを占めていたムスリムの学生たちが反発したのです。それまで、“話せば理解しあえる!”と思っていましたが、現実はそんなに簡単でないことを目の当たりにしました。その授業の後も、ユダヤの学生とムスリムの学生の険悪なムードは続き、もやもやしながら授業を受けていました。

 難民NGOでは、シリアなど中東の人々と接することもあり、安全な環境にいれても、紛争で負った心の傷は癒えないということを知りました。創立者池田先生は、昨年1月に発表された平和提言の中で、戦後最大の規模に達した難民や国際移住者が直面する厳しい状況に触れ、「多くの難民を受け入れいてる地域で、難民のエンパワーメント(内発的な力の開花)に、近隣諸国が共同で取り組む仕組みを整備すること」を呼びかけ、今年イスタンブールで開催される「世界人道サミット」に期待を寄せられました。「『世界人道サミット』は、紛争や貧困をはじめ、災害や異常気象などが引き起こす、さまざまな人道的危機に対し、国際社会が一致して立ち向かうための方策を探るもので、昨年7月に東京で行われた準備会合では、災害への対応が焦点となりました。

 そこで終始強調されたのは、人道支援活動の中心に『被災した人々』を据え、人々へのエンパワーメントをより強めて『尊厳ある暮らし』ができるようにする取り組みです」と。私自身が、直接接した難民の方々を通し、創立者が言及されている通り、「人道支援活動の中心に被災した人々を据える」「尊厳ある暮らしができるようにする」ことの重要性を実感しました。
 また、クリスマス休暇中には、自分の目で紛争地域を見たいとボスニア・ヘルツェゴビナに行きました。20年前まで紛争が行われていた国です。今、どうなっているのか、5日間で都会から田舎まで見ていきましたが、どこに行っても銃創だらけでした。安宿であるユースホステルに泊まると、そこの宿主から、20年前、私と同じ歳位の時に、お父さんを紛争で亡くされている話を聞きました。紛争の傷跡は、長くその国に留まります。中でも、女性と子供への影響は大きいです。
 様々な感情も湧きましたし、難しい課題ばかりですが、インドで誓ったように、一人ひとりの可能性を外的要因によって発揮できない環境に対して、いつか真正面から挑んでいける自分になりたいと思います。

高校時代とはずいぶん変わったそうですが・・・

 全然違います。高校時代は、臆病で、何かにトライするなんてできませんでした。でも、大学に入って、GCP(グローバル・シチズンシップ・プログラム)でいつも励ましてくれる仲間や先輩、教授の方々と出会って、思い切って挑戦できる環境ができました。勘坂泉講師には時には厳しく指導もいただきましたが、どこまでも学生の成長を思ってくださる心を感じました。
 教授陣は、アメリカ大使館女性プログラム「TOMODACHI MetLife Women's Leadership Program」、ノーベル平和賞受賞者サミットやノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士を迎え創大で開催したソーシャル・ビジネス・デザイン・コンテスト「Yunus & Youth Social Business Design Contest 2014」への参加、内閣府の国際交流事業でカンボジアへの派遣など、私が学外でも挑戦できるよう背中を押してくれました。

 この創価大学という環境が自分の可能性を引き出してくれたと思っています。「世界で活躍したい!」「世界の問題を解決したい!」と本気で言っている人たちにそうそう会えませんから(笑)。あまりにも壮大な夢のようではありますが、皆、世界で見て実感した課題に、本気で人生をかけようと思っています。そういう人たちと切磋琢磨し合えたこと自体が大きな財産です。

最後に今後のプロジェクトについて聞かせてください。

 今後西浦ゼミは導入店舗の拡大を行いながら、ドギーバッグ普及委員会とともに、周知活動に力を入れていきます。また、各種イベントを通じた広報活動にも取り組みます。立川市で毎年11月に開催され8万人の来場者のある「たちかわ楽市」では立川市と西浦ゼミが協働で市民へのもったいない意識の啓発活動を行いました。
 2016年の創価大学大学祭で各店舗へのおすそわけバッグ導入も検討しています。さらに、長期的に「幸せ☆おすそわけプロジェクト」を継続させるために、全国の学生団体との協力体制を構築してまいります。様々なステークホルダーが関わる食品ロス問題を、学生の視点でとらえながら本プロジェクトを推進していきます。

 第42回入学式で、創立者の池田先生はメッセージの中で、「愛する皆さんが健康で無事故であるよう、そして、快活に世界と連帯を広げながら、楽しく充実した、偉大な黄金の学生時代を勝ち開くように、私は祈り、見守り続けてまいります。わが人生の総仕上げにあって、最大の喜びは、皆さんの成長であり、栄光の晴れ姿だからであります」と言われました。
 この4年間、創立者の言葉に何度励まされたか知れません。創立者をはじめ、多くの応援し続けてくださる皆さんに喜んでいただける成長をと決意し、さらに努力してまいります!

おにき しょうこ Shoko Oniki

[好きな言葉]
「その夢をなくして、生きてゆけるかどうかで考えなさい」ゲーテ 
[性格]
負けず嫌い
[趣味]
音楽を聴くこと、美術館巡り
[最近読んだ本]
リンダ・グラットン著『WORK SHIFT』
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