「はちおうじ子ども食堂」―そこは、運営に携わる学生にとっても大事な居場所。”誰かのために”、その一歩で自分が一番救われた。

山口光司さん 経済学部3年/三宅正太さん 経営学部3年/川上青春さん 文学部3年/多田清美さん 文学部4年
2015年2月に八王子市内に「はちおうじ子ども食堂」がオープンしました。中心となって運営するのは、神奈川県でホームレスの見守りをライフワークとしている本学経済学部の碓井健寛准教授のゼミやサークルの学生たちです。野宿をして生活をしている人たちのための夜回りや東北支援のボランティアなどをしていた学生たちが、自分のいる場所で何かできないかと、立ち上げたのが「はちおうじ子ども食堂」です。
「子ども食堂」とは、子どもたちの貧困や生活の多様化から、家庭や地域の中で孤立する子どもたちを、「食」の面から地域で支えようと始まった取組みで、NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークが「子ども食堂サミット」を開催するなど、全国に広がり始めた活動です。
中心者として取り組む学生たちのきっかけや思いは様々ですが、共通する思いは、この「はちおうじ子ども食堂」を、救う人と救われる人という垣根のない、関わるみんなの良き“居場所”とすること。「その取組みの中で、子どもたちの貧困問題解決に少しでも貢献できるなら」と話します。大学コンソーシアム八王子の学生企画事業補助金にも採択されるなど、地域や行政からも注目される彼らの取組みについて中心者の山口さんらに話を聞きました。
はちおうじ子ども食堂オープン1周年、おめでとうございます!

山口さん:ありがとうございます。多くの市民ボランティアの方々にも支えられ、1年間やってくることができました。
三宅さん:昨年の2月14日にオープンし、無事に一年を終えることができました。当初は、もう少し後で、様々な課題をクリアした上でと思いましたが、様々な市民活動に取り組まれている大人の方々から、「やりたいなら、まずやりなさい!」とアドバイスを受け、背中を押される形でまずスタートすることになりました(笑)。今思うと、いくら考えても、やってみなくては本当の課題は見えず、やりながら、改善しながら、考えながらやってみると、どうあれ進むのだということを教わりました。
川上さん:本当にそうです。実際、2014年12月までは何一つ具体的なことは決まっていませんでしたから。“八王子の貧困の現状ってどうなんだろう”とか、“ニーズは何なのか”等とあれこれ考えるばかりでした。「そういうことよりも、場所や食材確保など具体的なところで動きなさい」とアドバイスされ、あれよあれよと2月にはオープンにこぎつけました。会場、備品、食材、調理技術など、活動に賛同した多くの方々、団体の支援を受ける中で、時には「やる気がないなら手伝わない」「そんな態度なら、誰も助けてくれないよ」と厳しくご指導いただくこともありました。そうした意見を下さった方々が、その後協力者となって運営を一緒に手伝って下さることも増えてきました。地域で子どもを支えようという思いのある大人の方々とつながることが出来たこともあり、ここまでやってこれたのだと思います。


三宅さん:オープンから1ヶ月前の2015年1月に「第1回子ども食堂サミット」が開催され、メディアの方々も来られていたのですが、朝日新聞に「八王子にも学生有志による子ども食堂ができる」と書かれてしまったことも、もう後には引けないと腹を決めるきっかけにもなりました(笑)。様々な縁に感謝です。
皆さんが「はちおうじ子ども食堂」をはじめようと思ったきっかけは何でしたか?

山口さん:自分は小さい頃から人とのコミュニケーションが上手く取れず、どこに行ってもなじめませんでした。こういう人でもちゃんとやっていける社会を作りたい、という思いから、いつしか、社会をより良くしたいと考えるようになりました。それで創大入学当初から、そうした活動ができる場所を求めていました。そんな中で、碓井准教授が担当されていた「市民社会学生会議」(現:「はちおうじ子ども食堂」)というサークルに出合い、ホームレスの夜回りをするようになりました。話をすることは苦手ですが、話を聞くことは自分にもできると、夜な夜な、野宿をしているおじさんの話を聞いていました。そうした活動を通して、自分をありのままに受入れてくれる友人たちや、様々なボランティア活動に従事される方々と出会いました。そして、2014年のある日、先輩から「はちおうじ子ども食堂をやりたい」と声を掛けられ、自分がいる場所で何かしたいとも思っていましたので、参加することにしました。
三宅さん:私も同じく「市民社会学生会議」のサ-クル活動がきっかけです。私も東北でのボランティア活動や、ホームレスの方々が集る寄せ場で活動をしている中で、先輩から「はちおうじ子ども食堂」の話を聞き、是非やってみたいと思いました。
川上さん:私は病気で大学に来ることもできませんでした。そんな中、もともと別のクラブで知り合いだった三宅さんから、「はちおうじ子ども食堂」の話をたびたび聞かされて、やってみたいという思いと、なかなか思うようにならない自分の体調との狭間にありましたが、思い切って飛び込みました。


多田さん:私は創価女子短大からの編入で創大に来ましたが、“人のために”とがんばりすぎてしまって、体調を崩し、最初の一年間休学することになってしまいました。そこで、もう一度自分を見つめなおし、自分にとってキラキラしてみえることがしたいと思うようになりました。友人から声を掛けられたり、自分が興味を持ったものには、積極的に参加しながら、自分の好きなもの、やりたいことが何かを探していました。最初に「はちおうじ子ども食堂」のことを聞いて参加した時には、正直、“人のために”は素敵だけど、自分にとって楽しいこと、やりたいことなのかはわかりませんでした。それでも一度きりではわからないと継続していくと、純粋に楽しくてあったかい子ども食堂という場が自分の居場所になっていき、今や中心的に活動するようになりました。
皆さんにとっての「はちおうじ子ども食堂」とは?

山口さん:居場所です。ここがなかったら自分の居場所や存在意義が見出せずにいたと思います。
三宅さん:“救われる人と救う人”という構造ではない、関わる全ての人にとっての“居場所”作りをしたいというのが、当初からの皆の思いでした。利用者の方々から「子供だけでなく、自分にとっても何かできる場所であり、居場所です」との声がもらえることが本当に嬉しいです。
川上さん:悩みだらけですから、私はよくお父さん、お母さん方に相談にのっていただいています。ですので、自分が何かをしてあげているという感覚はありません。学び癒されるありがたい居場所です。ご飯を食べて、一緒に遊んで、子どもたちの笑顔やお父さん、お母さんの笑顔が見れると本当に嬉しいです。
多田さん:“誰かのために”の活動だと思っていましたが、実際は自分が救われていると感じます。市民ボランティアの方々との連携や、食材の確保、募金活動などなどタスクはかなり多いですが、続けていける理由はそこにあるのだと思います。

はちおうじ子ども食堂について、また皆さんの活動や課題について教えてもらえますか?

山口さん:「はちおうじ子ども食堂」は利用者の方にいただく利用料(食事代:子ども100円、大人300円)と寄付金で運営されています。献立や調理など、市民ボランティアの方々の支援をいただきながら、調理をし、子どもたちと遊ぶのが、月1回のオープン日にすることです。
川上さん:それまでに、市民ボランティアの方々との連携、会場の準備、食材確保、ボランティアの募集、募金活動、また東北支援も兼ねたグッズの販売も行っています。
三宅さん:2013年に子どもの貧困対策法が成立し、市民活動は増えていますが、2007年に7人に一人の子どもが貧困状態にあると報告されたものが、現在では6人に一人が貧困状態にあると報告されています。ということは、悪化のスピードに対応できていないということなると思います。私たちは学生ですので、制度作りなどに関わることはできませんが、「はちおうじ子ども食堂」のような居場所作りをすることはできます。貧困問題の根っこにある“孤立”し、誰にも言えないという状況をなくしていくには、「子ども食堂」のような存在が実は大事と言えます。

最後に一言お願いします。

三宅さん:私は、都内の様々な場所でボランティア活動の一環として募金活動をしてきました。八王子は都内で一番多くの人が募金をしてくれる場所です。理由はわかりませんが、多くの人々の中に、他者のために何かしたいと思う気持ちがあるのだと思います。温かい言葉をかけられることも多いですし、また中学生や高校生といった若い人たちの募金率もとても高いです。子ども食堂のような地域で子どもの育ちを見守る取り組みが広がっていく土壌があるといってもいいと思います。
山口さん:私たちみんなが、社会が抱える問題に対して、何かを実際にできる力を持っています。各コミュニティで、子ども食堂のような、地域で子どもの育ちを見守る居場所や困っている人を支える取り組みが存在するようになれば、利用者のみならず関わる人を含め多くの人が救われるのだと思います。そういう一歩を学生の私たちが踏み出せることが大事だと思います。是非、みなさんも、みなさんのいる場所で、実際に子ども食堂を始めていただければうれしいです!