アンワルル・K・チョウドリ 元国連事務次長

アンワルル・K・チョウドリ 元国連事務次長

元国連事務次長のアンワルル・チョウドリ博士が、本年(2016年)3月18日に来学し、創価大学(第42回)・創価女子短期大学(第30回)の卒業式の席上、「平和の文化―新たなるグローバル文明創出に向けて」と題して講演しました。その講演要旨を紹介します。

創価大学ならびに創価女子短期大学の卒業式にお招きいただいたことを光栄に思います。
 創価大学は真の「人類の平和を守るフォートレス(要塞)」であり、「人間教育の最高学府」であります。
 初めに、貴大学の創立者であられる池田SGI(創価学会インタナショナル)会長に心からの敬意と賛辞を送らせていただきたいと思います。
 池田会長は洞察力に富んだリーダーシップを発揮し、価値創造の人間教育を推進することを通じて、国際社会に重要な貢献をされています。
 創価大学は2年前、文部科学省が日本の大学の国際的能力と競争力を高めるために選定した、37の「スーパーグローバル大学」の一つに選ばれたと伺いました。
 卒業生の皆さん、どうか母校を誇りとしてください。皆さんの母校は今、日本の大学、ひいては日本社会全体の国際化を牽引する模範の教育機関として、重要な社会的責任を担っているのです。
 この素晴らしい貴大学の率先垂範の取組みを、私は友として、また貴大学の発展を念願する者として、常に応援させていただく心づもりでいます。
 そして、世界市民教育を何倍もの力で推進している貴大学は、2021年に開学50周年を迎えますが、それを5年先取りしてお祝いできることを喜びとさせていただく次第です。
 ちょうど13年前の2003年3月19日、妻と私は貴大学を初めて訪問させていただきました。この折、名誉博士号を授与賜り、卒業の祝辞を述べさせていただいたことは、私たちにとりまして、大変に懐かしい思い出です。
 このたびの私の訪日は2006年に続くもので、コフィ・アナン国連事務総長(当時)にご手交申し上げるべく、池田会長より国連提言「世界が期待する国連たれ」を私が直接お預かりした時から、10周年の佳節を刻む年にもなりました。
 さて、本日は、約2600人の卒業生の見事な成果をお祝いする日です。皆さんはこれまで自らの活力を善のために注ぐとともに、その才能を磨いてこられました。そして今、その懸命な取り組みの成果を手にされたのです。
 相互依存性、関連性が高まる今日の世界において、地球的視野を備えた思慮深く、慈愛溢れる市民となるべく学びを授けられたことは、皆さんの何よりの特権です。皆さん一人一人に、心からお祝いを申し上げます。おめでとうございます!  そして、愛情と犠牲をもって、きょうこの日を迎えさせてくださったご父母・保護者の皆様に、卒業生の皆さんと共に感謝を申し上げたい。
 卒業生の皆さん、共に心からの感謝の気持ちを表したいと思うのですが、いかがでしょうか。

 貴大学の創立者の精神によってその力を開花させることができたことは、皆さんの栄誉であり、特権であります。
 池田会長の生涯は、人類の幸福と繁栄のために真摯に全身全霊で献身する人生そのものであります。
 「世界中に平和の種を蒔く」生き方への普遍的な呼び掛け、また「平和の文化」推進における貢献は、深い敬意と感謝の対象となっています。
 課題多き世界の現状への認識から、「平和の文化」の推進、対話を通じた平和建設、非暴力による平和実現に焦点を当ててこられました。
 “武力というハードパワーの行使が真の安定をもたらすことは絶対にない”との深く、強い主張は、世界の列強国とその指導者たちが不変の指針とすべきものです。
 私は、池田会長の国連に対する揺るがぬ信頼を思い起こします。長年にわたる語らいや書簡の往復の中で会長は、国連を守ることが国家や民衆、子どもたち、また人類の未来を守ることであると強調してこられました。
 これほど長期にわたって、一貫して、また本質的な内容を伴って国連の役割とその責務に光を当ててこられた方は、池田会長をおいて他にはいません。
 より重要なことは、池田会長が国連制度を核とするマルチラテラリズム(多国間協調主義)に対する支援と奨励の一貫した理念を展開されていることです。
 1983年以来、池田会長は国連とその原理・原則、目的に対する継続的な支援を反映する平和提言を発表してこられました。その業績に、世界各地から称賛と感謝の言葉が寄せられています。私たちは、そのことを心から誇りに思っております。
 2014年、私は光栄にも、国連本部で開催された書籍『平和のためのフォーラム―池田大作 国連提言選集』(日本語版は『新しき人類社会と国連の使命』潮出版社刊)の出版記念シンポジウムで議長を務めさせていただきました。  30年にわたる提言の結晶である同書の卓越性が浮き彫りになるのは、その内容が人類全体だけでなく、私たち個人の幸福と安寧にも関連を持っていることを知った時です。
 池田会長は、人々のエンパワーメント(内発的な力の開花)こそ「平和の文化」構築のための重要な要素であると明言されております。そしてその先頭を切る女性が台頭してくる必要性を、雄弁に強調されています。
 2010年の平和提言の中では、平和と安全保障の維持と促進に向けた取り組みにおける、女性の平等参画の必要性を強調されています。これは、私が実現に尽力し、2000年10月に採択された、女性・平和・安全保障に関する国連安全保障理事会決議第1325号の10周年の機会を踏まえるものでした。
 ご列席の男女の皆様、世界の半分を構成する女性の平等とエンパワーメントを実現するために力を合わせ、決意と真剣さをもって取り組むことを誓い合おうではありませんか。

本年2016年は、もう一つ重要な意義があります。
 1996年6月13日に、アメリカ・ニューヨークのコロンビア大学ティーチャーズ・カレッジにおいて、池田会長が「『地球市民』教育への一考察」と題した講演を行われてから、20周年の佳節を迎えるからです。
 このスピーチの価値と意義は、国際社会の中で広く認知されています。国連の潘基文事務総長も、2012年に教育を国際社会の最優先課題にする「グローバル・エデュケーション・ファースト」のイニシアチブを立ち上げました。その柱の一つに地球市民の育成が掲げられています。
 また、昨年9月には17分野にわたる「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国連において採択されました。  私は、池田会長が大いに喜んでいらっしゃると確信いたします。
 アジェンダの目標4は「全ての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」とうたっております。
 うれしいことに目標4の第7には「全ての学習者が」「平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ」の理解の教育を通し、「必要な知識及び技能を習得できるようにする」とうたわれています。これはまさに、池田会長が繰り返し強調されてきたことであります。
 池田会長は、国連は地球民族の魂であり、生命の源だと訴えてくださいました。
 私は、会長の不朽の貢献によって優秀な青年が真の世界市民へと育ちゆく土壌が培われたことを、心からうれしく思っております。
 本年、コロンビア大学ティ-チャーズ・カレッジの講演20周年を記念する「世界教育者サミット」が開かれると伺いました。アメリカ創価大学(SUA)の教員と学生の皆様のイニシアチブを、心から称賛申し上げたいと思います。
 またSUAでは、過去数年にわたり毎年1月に「平和の文化」のコ-スを担当させていただき、大変な栄誉に感じておりますことを付け加えさせていただきます。

 私は池田SGI会長の珠玉の言葉を思い起こしております。
 「何の悩みも、苦労もない。困難もない。それが幸福なのではない」「厳しい試練が襲い来るたびに、『自分が強くなるチャンスだ!』と喜び勇んで立ち向かっていくことだ」
 こうした言葉は、私をはじめ多くの人々に勇気と忍耐を与えてくれました。池田会長を間近に深く知ることができ、平和への献身的でひるむことなき貢献を知ることができたことは、私の栄誉であります。
 長年にわたる池田会長との語らいや書簡の往復を通して、確信を深めてきた信念があります。それは、人類に益する「平和の文化」と人材育成のメッセージを広げるために、世界は会長のような人格者の英知と献身と慈愛と指導を求めているということです。
 翻って過去半世紀の間、私の人生を形作ってきたのは、さまざまな厳しい現実、特に個人的な挑戦と苦闘、困難でありました。
 その間、最大の支えになったのは家族でした。当時、パキスタンの若き外交官として、私は立ちはだかるあらゆる障害に敢然と立ち向かいました。バングラデシュの独立運動に参加しようと決意し、国家として主権を獲得するべく、国際社会の支援を求めて自由の戦士として闘争を続けました。
 その後、光栄にもバングラデシュの代表として国連に従事することになりました。また後年、バングラデシュ初の国連事務次長の任を配することとなったのです。 

 私の経験は、平和と平等は我々の存在の欠くべからざる要素なのだと教えてくれました。平和と平等は、人類の前進に不可欠な善なる力を引き出してくれるのです。
 私は国連総会において、1999年に平和の文化を、2000年には平和構築における女性の参画を主導しました。また、6年間にわたって国連における後発開発途上国問題の優先化を進めました。
 これらは、私たち人間が人類に資する大いなる目的を達成するために心と頭を一つにして協調するなら、いかなる障害も乗り越えられるという証しになったと確信しています。
 私が弱者、また貧困国の代表としてこのような実績を成し遂げられたことからすれば、皆さんはさらに素晴らしい成果を上げられるに違いありません。
 仕事を通して私は世界の隅々まで訪れてきました。シエラレオネ、スリランカ、モンゴル、モーリシャス、パラグアイ、フィリピン、オソボ、カザフスタン、ブータン、バハマ、そしてブルキナファソと―。
 そのたびに、幾度となく、平和の文化と女性の平等が人々の生活の中核にあることを感じてきました。
 軍国的精神のかつてない高まりと軍国主義化によって、人類と地球が脅かされている現在、私の気付きは、ますます妥当なものになってきていると考えています。
 平和は、男女の平等と密接に関連しています。女性を軽視する世界には、本当の意味での持続可能な平和など不可能です。そのことを、どうか忘れないでください。
 戦争の狂信的崇拝から脱却し、平和の文化へと移行する人類共通の取組みのために、女性は新しい息吹と調和のとれたビジョンを提供してくれます。男女平等は地球の安全を保障するのです。
 平和は、人類の存在に欠かすことはできません。私たちの行動、発する言葉、思い描く考え―その全てに平和の存在する場所があるといっていい。平和を何か隔絶された存在であると捉えてはいけません。
 他者に対してどうすれば不快にさせず、暴力的にならず、軽視せず、なおざりにせず、偏見のない関係を築けるか。私たちは、その方法を知らねばなりません。そうした人間関係を構築できれば、平和の文化構築への次のステップに踏み出すことができます。
 私たち一人一人が平和と非暴力の代理人となれるよう、個々人のエンパワーメント(内発的な力の開花)に焦点を当てる必要があります。皆さんには、そうした取組みを自分自身から始めていってほしいと思うのですが、いかがでしょうか。
 平和への取組みは、継続的なプロセスであることを忘れないでいただきたい。私たち一人一人がそのプロセスに違いをもたらすことができるのです。
 平和は外的な強制力によって実現するものではありません。内面からの覚醒によって、実現するものです。
 平和の種は、私たち全員の中に存在しています。その種が芽を出し、開花するには、心を配り、大切に育てなければなりません。

 最後に、皆さんにお願いしたいことがあります。それは、「自身の内面を見つめてもらいたい」ということです。
 物質的追求が人間の努力の全てであり、究極であるとまで考えられがちな世の中にあって、自らの人生の中に精神性の存在する余裕を見いだしていただきたい。
 今すぐ何かを手に入れようと焦るあまり、魂を売るようなことは絶対にしないでいただきたい。
 私は確信しております。皆さんは暴力の悪循環を強いる不寛容、偏見、差別、利己主義の悪を、自分のみならず友人たちも断ち切れるよう、全力を尽くされるということを。
 皆さんの建設的な目標は、決して他人の犠牲の上に追及されてはなりません。他者に良い部分を見いだし、尊重するよう努めていただきたい。自らの失敗は認めて、その責任を取りましょう。失敗を他人に転嫁しようとしてはいけません。
 自信を持つことは重要ですが、誤った自信ではいけません。独善に陥ることは停滞を意味します。前進するためには常に柔軟な姿勢を、と申し上げたい。
 私たちには、それぞれ固有の目的があり、使命があることを忘れないでください。それが何であれ、比類なき献身の姿勢でその目的と使命に努力を注ぎ、人類のために最善を尽くしてください。
 いかなる逆境をも乗り越えゆく人間の精神とレジリエンス(回復力)、また潜在的な可能性に、私はいつも啓発を受け、励まされています。私が最も感銘を受けるのは、人々が自らの状況を改善していこうとする決意の姿です。
 地球が抱える最も深刻な課題に対する解決策は、一つしかないわけではありません。また、一度の試みで解決できるものでもない。そのことを皆さんは認識されていると思います。
 世界が直面する最も困難な問題には、継続的な取り組みが必要です。勤勉と協力的と忍耐を要するのです。
 その取り組みの中で一時的に後退することがあっても、それは次の決意、新たな意欲的な取り組みのための飛躍台としなければなりません。
 この大学で得た知識をもとに皆さんが得た使命感と情熱は、皆さんを前進させ続けてくれるに違いありません。
 最後に皆さんに一言申し上げたい。「おめでとうございます!」。卒業生の皆さん「頑張ってください!」。