アフリカの子どもと日本の若者をつなぐ「OSOROIプロジェクト」を提言。TICAD公式サイドイベントで「Grand Award」に輝く!
2016年8月27日から28日までケニアで開かれた、第6回アフリカ開発会議(TICAD6)の公式サイドイベント「日本・アフリカ学生イノベーターズ・エクスポ」に参加・出場した佐藤さん。「日本の伝統文化を生かした特別授業をアフリカの教育へ」と題した発表が、最優秀の発表者に贈られる「Grand Award」に輝きました。
南アフリカのウィットウォータースランド大学へ交換留学も経験した佐藤さんは、「アフリカとの出会いが、私を大きく成長させてくれました」と力強く語りました。今回のTICADサイドイベントに参加しての感想、大学3年次に交換留学で南アフリカのウィットウォータースランド大学で学んだ経験、そして、これからの将来について話を聞きました。
TICAD:TICADとは,Tokyo International Conference on African Development(アフリカ開発会議)の略であり、アフリカの開発をテーマとする国際会議です。1993年以降、日本政府が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、アフリカ連合委員会(AUC)および世界銀行と共同で開催しています。第6回目となる今回は、初のアフリカ開催としてケニアで、8月27日~28日に行なわれました。
TICAD公式サイドイベントでの「Grand Award」受賞おめでとうございます!イベントについて教えていただけますか?
ありがとうございます!これまでの大学での様々な学びや経験が全て繋がりました。大学の先生方や友人、家族など、支えてくださった方への感謝の思いでいっぱいです。
私が参加したのは、日本政府がケニア共和国で開催した第6回アフリカ開発会議(TICAD6)の公式サイドイベントです。一般社団法人アフリカ開発協会(AFRECO)とジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)が主催し、「日本・アフリカ学生イノベーターズ・エクスポ」と題して、日本とアフリカの若者の交流促進のプログラムとして開かれました。
このプログラムは、8月26日にジョモ・ケニヤッタ農工大学で開かれたイベントには、日本からは宇都宮大学、大阪大学、京都大学、上智大学、創価大学、筑波大学、東京外国語大学、鳥取大学、立命館大学アジア太平洋大学の9大学から10名が参加。アフリカからは、ウガンダ、エジプト、エチオピア、ケニア、ガーナから16名の学生が参加しました。参加学生は、2015年に国連が採択した「持続可能な開発目標」(SDGs)の目標の達成に向け、「質の高い教育」や「食糧安全保障」、「女性のエンパワーメント」など、アフリカの発展に貢献できるビジネスアイデアを英語で提言することが求められ、日本・アフリカの各1名の学生にGrand Awardが与えられました。
公式サイドイベントの参加以外に現地で経験したことを教えてください!

8月23日に東京を出発し、24日にナイロビに到着しました。25日には日本企業である日清食品とジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)の合弁会社「JKUAT日清」(2013年6月設立)を視察し、現地で働く方からお話を伺いました。日本で販売しているインスタントラーメンをケニアの人々の嗜好に合わせて改良していることや、手にとってもらえるようなパッケージに変更すること、市場に受け入れてもらえる価格に設定することなど、ケニアに進出する上で行っている様々な工夫を教えてくださいました。
続いて、日本企業がアフリカ政府や企業、NGO団体に対して、アフリカでの都市開発における新技術等を提案するTICAD公式サイドイベントに参加しました。私が考えていた以上に多くの日本企業がアフリカでの事業展開に関心をもっており、すでに具体的なプロジェクトも始まっていることに驚きました。
その他、ジョモ・ケニヤッタ農工大学の学生との交流会では、日本からの参加学生で「そば」を作り、食べていただきました。ダンスや歌の披露もあり、楽しい有意義な一時となりました。滞在中はアフリカの学生と様々な意見交換や交流ができ、帰国後も連絡をとりあえるような人間関係を築くことができました。

今回、佐藤さんが提言したビジネスアイデアの背景を教えてください!

大学3年次の南アフリカ留学中に参加していたボランティアでの経験が、今回のアイデアを考える上での出発点になりました。南アフリカには今も、貧困や家庭環境が原因で十分な教育を受けることのできない子どもたちが多くいます。そのような子どもたちが、進学をし、十分な収入を得られる職に就くことができるよう、週に3回、彼らが暮らす街に行き、数学を教えました。
勉強場所になっている地域の学校は、椅子や机の数は足りておらず、壁は汚れて窓も割れている状態で、一瞬で子どもたちの学習環境のひどさを思い知らされました。また、基礎的な四則計算さえもままならない生徒たちを受け持つことも多く、現地の理数科教育がまだまだ整っていない現状を痛感しました。
実際に、多くのアフリカ諸国の教育において、産業発展に必要な科学的知識、技術を持った人材の育成が必要とされている一方で、児童・生徒たちの理数科目における到達度の低さは大きな課題となっています(国際協力機構 2016年)。こうした経験から、これからのアフリカの発展において不可欠である理数科教育に対して、日本の学生として何かしたいと思うようになりました。
ボランティアとして生徒たちと関わる中で最も印象的だったのが、決して恵まれない環境にあっても、いつも底抜けに明るく、笑顔と希望に溢れた生徒たちの姿です。彼らは私に、アフリカという大陸の持つ限りない生命力と可能性を教えてくれました。生徒たちの笑顔を見ながら思った、この子たちの可能性を広げてあげたい、そして彼らが自分たちの手で新しい未来を切り拓くお手伝いがしたい、との思いが、今回のプロジェクトを完成させる上での大きな原動力となりました。

その特別授業が「OSOROI」プロジェクトなんですね。具体的にはどのような内容でしょうか?

アフリカと日本の学生が協力して、日本の伝統文化である折り紙やそろばん教育をアフリカの児童・生徒のもとへと届け、理数系科目の到達度向上を目指すプロジェクトです。「“O”rigami」「“SORO” ban」 「I”nitiative」の頭文を取って「OSOROI」プロジェクトと名付けました。また、このプロジェクトを通じて、日本とアフリカの学生の間に新しいつながり、新しい「おそろい」を生み出したいとの思いも込められています。アフリカの理数科教育では電卓や自動計算ソフトなどの導入が進みつつありますが、子どもたちに数学や理科に親しみを持ってもらうには、そういったテクノロジーの活用に加えて、子どもたち自身の数理的素養自体を伸ばすことが重要であると考え、近年理数科教育への効果が注目されている、日本の伝統文化である「そろばん」と「折り紙」に着目しました。
「そろばん」教育は、その効果がすでに多くの国で注目されており、例えばトンガでは1978年から、国際協力機構の協力のもと、公立小学校でのそろばん教育が続けられています。アフリカでも、まだ数は少ないですが、学習塾などでそろばんを算数の勉強に導入する動きが近年始まりました。また、「折り紙」については、アフリカでも多くのNGOや協会等が各地で普及活動を行っており、今では地元の折り紙アーティストが誕生する程に普及しています。こうした流れを、アフリカと日本の学生の手によって、より多くの子どもたちのもとまで届けることができないかと思ったのです。
実際に発表したプロジェクト案では、日本の大学生が一般家庭や企業から、今ではもう使っていないそろばんを集めます。その後、折り紙の遊び方、そろばんを使っての勉強方法についてのビデオを作成し、集めたそろばんと折り紙とともにアフリカの大学生に送り、そこから現地の子どもたちへと届けてもらおうと考えました。折り紙とそろばんの導入によって、アフリカの子どもたちの学習意欲を引き出し、数理的素養を身につける手助けをするとともに、この特別授業が新しい文化に触れるきっかけとなればと考えました。また、日本の学生にとっては、アフリカの現地の学生との交流を通してアフリカの教育問題を身近に感じるとともに、日本の伝統文化の価値を再認識する機会にもなることを期待しています。
今回の提言は留学中の経験が生きているんですね。南アフリカへの交換留学を振り返ってどうでしたか?

もともと入学前から途上国の教育に関心があったのですが、入学後、GCP(グローバル・シティズンシップ・プログラム)で学ぶ中でより視野が広がり、また、同じように途上国の教育や開発に関わりたいという志を持った同期の友人や先輩方の存在もあり、途上国、特にアフリカへの留学を考えるようになりました。
留学先となるウィットウォータースランド大学では、国を代表する総合大学で約30,000名の学生が在籍しており、南アフリカ初の黒人大統領となった故ネルソン・マンデラ氏をはじめ、平和・科学・文学・薬学で4人のノーベル平和賞受賞者を輩出してきた大学です。
南アフリカは「虹の国(レインボーネーション)」とよばれるように、様々な人種の人々が共に暮らす多様性の国です。大学の授業でも、1つの教室に異なるバックグラウンドを持った学生が集っていました。南アフリカの公用語は11カ国語もあり、現地の学生の中でも言葉や文化が異なります。そういった環境で暮らすなかで、違いは「豊かさ」であることを学びました。
留学中に参加した大学の卒業式では、それぞれの学生が自分たちの民族衣装や伝統的な服装をまとって参加していましたが、全ての学生が彼らにしかない美しさを持って輝いており、それらの個性が混ざり合って一つの式典を作り上げていました。まさに「虹の国」を表すような瞬間であったと思います。
アフリカは、植民地支配などの歴史的背景や貧困や紛争などのネガティブなイメージが先行しやすいですが、私自身は南アフリカで生活する中で、多様性をはじめとして、その文化や哲学の持つ、他の国にはない「美しさ」に魅了されました。「アフリカの人々のために何かがしたい」と留学しましたが、アフリカの文化の素晴らしさ、歴史の偉大さ、家族のように他者を受け入れる哲学などに触れ、「アフリカにはたくさんの学ぶべきことがある」という新しいアフリカ観を持てたことが大きな財産です。

学生が学費値上げを訴える授業ストライキの場面にも遭遇したそうですね。

はい。帰国の2ヶ月前、大学が前々から発表していた来年度の学費値上げに対して、学業の継続が困難になる学生が出ることから、学生による反対のデモ活動や授業のストライキが起こり、約1ヶ月の授業が休講になりました。初めは突然の出来事に驚くばかりでしたが、徐々にこの出来事の裏にある、南アフリカという国の抱える問題の深刻さ・根深さに気付くようになりました。
南アフリカの社会は非常に格差が大きく、経済的に厳しい状況の中で学んでいる学生も多くいます。学費を払うお金しかなく、家賃を払えないために橋の下で暮らしている学生や、1日1食しか食べられない学生もいました。学内にはフードバンク(まだ食べられるのに、様々な理由で処分される食品を、食べ物に困っている人に届ける活動)が置かれるほどです。毎年多くの学生が、成績は到達基準をクリアしているにも拘らず、学費が払えないためにやむなく学業を諦めなければいけないことを、この学生運動を通して知りました。
しかし同時に、これまで一緒に学んできた友人たちがデモに参加して反対を訴える姿に、彼らの強さや逞しさも感じました。南アフリカには、アパルトヘイト反対運動から続く、足を高くあげる「トイトイ」と言われるダンスがあります。皆、この「トイトイ」ダンスを踊り、声高らかに歌を歌いながらデモ行進を行うのです。彼らの踏みしめる足音や歌声の力強さは、いつまでも私の耳に残り続けました。このデモは大学内に留まらず南アフリカ全土に広がり、最終的に学費値上げは取り下げになりました。この発表がなされた際に、目に涙を浮かべながら抱き合う友人たちの姿は、本当に印象的でした。

今回TICADサイドイベントに参加しての感想、これからの抱負をお願いいたします。

アフリカのために何かしたいとの強い思いをもちました。また、アフリカと日本の学生に出会い、繋がりをつくることができたことを本当に嬉しく思っています。実際にケニアのスラムを訪れそこでの人々の暮らしを見る中で、意識をしていたつもりでも、いつの間にかアフリカの問題を数字や概念だけで考えてしまっていた自分に気付かされました。「生徒たち」「子どもたち」のように一括りで考えるのではなく、そこにある一人一人の異なった生活・人生にどこまで思いを馳せることができるかが重要であることを再確認し、またそうした姿勢を忘れないためにも、現地に入り、自分の目で見て肌で感じることの大切さを学びました。
今回提案した「そろばん」や「折り紙」を用いた教育に多くのNGOや企業の方が関心を寄せてくださり、いかにこれからのアフリカの発展において若者の力が期待されているかを実感できたことも、大きな学びの一つです。今回できた繋がりを大切にしながら、これからも、アフリカのために自分ができることを常に考え、学び続けていきたいと思います。そしていつか必ず、アフリカで受けた優しさ、温かさの恩を返すことのできる人材に成長していきます。


[好きな言葉]
“Education is the most powerful weapon which you can use to change the world.” (Nelson Mandela)、「10回倒れても、10回起き上がるのだ。さらに100回、500回と立ち上がるのだ」アルマフエルテ(アルゼンチン)
[性格]
温厚 マイペース 楽観主義
[趣味]
散歩
[最近読んだ本]
クギ・ワ・ジオンゴ著『一粒の麦』