世界の一流に学ぶ!自身の可能性を開く創価教育
ご本人の名前「学」のごとく、大学院時代から一流の研究者に学ぼうと努めて来たという。研究者として「刺激的な環境」といえば、学生時代のゼミの先生の存在。さらに、アメリカ等で世界トップクラスの学者の姿に触れて向学心を燃やし続けてきたと語る。こうした経験が浅井ゼミでも生かされているのか、ゼミ生の表情は伸び伸びとして明るい。「途方もない?」学問を学んでいるとは思えないほど盛り上がる発表大会の様子も伺うことができた。
最初に、この道に入った経緯をお聞かせください。
学生時代は、先生たちが呆れるくらい勉強しない学生でした。そんな私が大学4年の時、ゼミの先生(現・馬場善久学長)に「大学院に進もうと思います」と相談したところ、分厚い英語の教科書を3冊渡されました。当時、アメリカの大学で使われていた『ミクロ経済学』『マクロ経済学』『統計学』の教科書です。
「これ、勉強したらきっと受かるよ」「原書で勉強しておいたほうが、後々楽だよ」とあっさりとおっしゃるんです。一瞬、止めた方がいいという意味かなと思いましたが、「言われたとおりに真剣にやりきってみよう」と決意し、家庭の経済状況もあったので筑波大学大学院をめざしました。
創価高校のときの友人が筑波大学に在籍していて、彼から紹介された先輩がとても親切な方で、出題予想や面接時の心構えなどを丁寧に教えてくれたのです。そのおかげで、なんとか大学院に合格できました。
大学院に合格してからは、どうでしたか?
正直、受かってからが大変でした。深夜3時ごろまで宿題をやっても終わらない生活に直面して「こんな大変な世界か」みたいな感じでした。経済学部のIP(インターナショナル・プログラム)生の皆さんが1年生で体験するようなことを、ようやく大学院で経験したわけです。何しろ、学部1年生で習う「均衡」という概念を理解したのは、私が4年生のときです。ギャップの大きさに圧倒される思いでした。学部生のときに真面目に勉強しておけばよかったと、今でも反省しています。
大学院では、教科書も英語の原書で、高度な数学を使います。日本語で読んでも難解な内容ですので戸惑うことばかりでした。でも、やり続けているうちに、段々とわかるようになってくるのですから不思議です。
また、最先端の論文は、英語で書かれています。ゼミの馬場先生が言われたように、英語で勉強しておいてよかったと実感できるようになりました。
そんな時に読んだのが、カリフォルニア大学サンディエゴ校のロバート・エングル教授(2003年にノーベル賞を受賞・現在ニューヨーク大学教授)の論文でした。エングル教授が開発したモデルの1つにBEKKモデルと呼ばれる有名なモデルがあります。実はEはエングル(Engle)のEですが、Bは学生時代にお世話になった馬場先生のことでした。大きな衝撃でした。
大学院2年の春、がんばって書いた論文を指導教授の先生に見せたところ「これ面白いね」と評価をいただき、「こうするともっと良くなるよ」と共著論文に仕上げてくださいました。この論文が学術誌に掲載され、この成果もあって、日本学術振興会の特別研究員に採用されました。 その後、博士号取得(1998年、社会経済)までにもいろいろな課題がありましたが、学園・創大で創立者から受けた激励を思い起こしては「負けじ魂ここにあり」の気概で多くの研究論文をひたすら書き続けました。論文が徐々に評価されていき、博士論文の審査基準を全部通ったときは、創立者への感謝の思いでいっぱいでした。
研究・教育歴を拝見しますと、大学教員に「准教授(当時は助教授)」として迎えられています。

おかげさまで研究業績も少なからずあったせいでしょうか。大学教員の採用に応募していく中で、立命館大学経済学部に准教授(当時は助教授)で採用していただきました(1999年)。まだ27歳でした。
その後、都立大学赴任を経て創価大学に赴任(2005年)しました。現在の専門分野は「ファイナンスのリスク管理」で、ゼミのテーマは「国際金融論」です。
学術論文としては、オランダのエラスムス大学のマイケル・マカリア教授や香港科学技術大学のマイク・ソウ准教授らと共同研究をして論文を書くなど、少しずつ世界的に評価していただいている感じです。学術誌Econometric Reviewsでは、引用回数が最も多かった論文の一つに選ばれています。
あっ、そうそう。先に言っておいた方がいいと思いますが、私の研究分野の学問は、英語の次に重要と言ってもいいくらい、非常に役に立つ学問です。計量経済学は、経済理論から導かれた仮説が正しいかどうかをデータを用いて検証する学問で、経済予測に結び付いていきます。経済政策や企業戦略を考える上で、データによる検証は非常に重要です。学生の皆さんも、この重要性に気付いて学ぶ人が多くなってきています。
しかし、正直、いわゆる学ぶ喜びというものが乏しいかもしれません(笑い)。役に立つ学問であることは間違いないのですが、学生にどう面白さを伝えていこうかと思案しています。
リスク管理について、やさしく解説をお願いします。
最近、私の論文が計量経済学誌「Journal of Econometrics」に掲載されました(掲載論文としては3本目)。この学術誌掲載は私が学者になった時の目標でした。最初に掲載されたのは2009年です。
現在、研究しているのは、金融資産のリスク管理のためのモデルを作り、それを予測に役立てるということをやっています。この話をすると、何か人工衛星の話と変わらないような途方もない雰囲気になってくるので、これをどう説明しようかなと…。
でも、金融資産のリスク管理は非常に大事で、投資家にとってリスクをどこまで取れるかという見極めが大事になってきます。失敗するとリーマンショックのような形でリスク過多の代償は大きくなります。
その見極めをどううまくマネージしていったらいいのかと考えたり、実際に起きた市場変動をモデル化しその将来動向を予測したりと、そんなことを研究しています。
リスク管理自体は企業経営の分野でも大事になってきます。どんな企業でも、財務諸表とか有価証券報告書とかにも注意書きがあるように、さまざまなリスクにさらされています。私が研究している金融資産のリスクのモデルは専門的過ぎるので、実用化されるとしても10年か20年先の話だろうぐらいに考えています(笑い)。
米国ペンシルバニア大学ウォートン校などに滞在した印象や思い出を聞かせてください。

アメリカは研究環境としてすごく刺激的で、積極的に世界の知性を集めているという感じがします。研究会という形で毎週、世界のトップクラスの学者が来て講演をします。その講演を聴いて最先端の研究に触れることができました。また、分野の近い同僚が何人もいるので、その同僚にアイデアを聞いてもらって議論します。研究に没頭すると、どうしても考え方が独りよがりになりがちですが、このような議論を戦わせることで、現実と遊離しないような研究が進んでいきます。日本では、公的な教育費の予算が限られているせいもあって、このような大学は非常に限られています。
アメリカは優秀な学者を育てる、優秀な研究成果を残すということに長けているという感じがします。人材が集まって来るところに学生も集まって来るので、学生たちが次の知的産業を盛り立てていくためのエネルギー源になっていると実感します。知的産業が盛り上がっていると、そこから新たな収益が生まれてくるので、いい好循環につながっていますね。いずれにしても、学者として研究成果として刺激的な環境で学べるところも大きいと思います。
タイやフィリピンにも滞在し講義も担当されていますね。

タイのチェンマイ大学とかフィリピンのデ・ラ・サール大学で講義をしていて、国柄が違うので、その国に合わせてやらないといけないと感じました。
例えば、タイの学生はプライドが高くて、分からないというのを顔に見せない傾向があります。授業を担当していて、彼らはいかにも分かったような顔で一生懸命に聴いています。
また、フィリピンの学生は、授業でとりあえず質問してみようというような文化があるようです。おしゃべりもいっぱいしますが、逆にコミュニケーション能力が高いです。
フィリピンは、女性の活かし方がすごい国だとの印象も受けました。家庭内でマネージメントもできているから、大きな立場についても大丈夫だ、という発想が根付いているようで、女性リーダーを輩出し活躍できる風土が醸成されている気がします。
企業等では女性管理職が日本と比べものにならないくらい多いし、大学教員の多くは女性です。フィリピンは、女性の活躍度も高く女性リーダーが多いのが特徴ですね。
研究では、どんな姿勢で学んできましたか?
大学院時代から、とにかく一流の研究者に学ぼうと心掛けてきました。創価中学のときに先生方から「一流のものに触れておきなさい。そうすれば、二流・三流は自然とわかるようになるよ」と教えていただきました。まだまだ未熟ですが、世界の最先端の学術論文を積極的に読むようにしています。
その中で、これはと思う方の論文は徹底して読み込んで、そこから刺激を受けて自分なりに展開していこう、自分の分野で活かしていこうと努めてきたつもりです。
ゼミで、具体的にどんなことを学んでいるのですか?
為替レートはどうやって決まるのか、海外で国債を買ったらどうなるか、先物の為替レートは何に使うのかなど、国際的な金融の流れ等を勉強しています。また、国際協調の形でIMF(国際通貨基金)や世界銀行が、世界各国で通貨危機が起きないように監視体制を強めながら進めていることなども学んでいます。
1997年のタイの通貨バーツの暴落をきっかけに始まったアジアにおける一連の通貨・経済危機のことなども知っておかなければなりません。アジア通貨危機が起きる要因はいろいろ考えられますが、自国が蓄えておくべき通貨の量が少なかったというのも一因でしょう。
香港中文大学元学長の劉遵義(りゅう・じゅんぎ)博士は、最も早く中国の計量経済モデルを構築した方で、アジア通貨危機を早くから予測し警鐘を鳴らしていた世界的な経済学者です。
この点に関しては、同博士と創価大学創立者池田大作先生との対談集『新たなグローバル社会の指標』(第三文明社刊)に博士の所感が収録されています。
私のゼミでは、こうした国際金融をめぐるさまざまな問題を理論はもちろん、歴史や現状の側面から理解を深め、知識を立体的にすることで視野を広げられるようにしています。
ほかにも金融全般にしっかり分析できるようになるように、財務諸表を読める力を身につけたり、株式のオプションなど金融派生商品の価格はどのように決まるかとか数学的背景も学んで、結構な時間を使って皆で勉強しています。
なお、「ゼミ生対抗研究発表大会」や外部大会の出場を機軸にグループワークの練習も行っていて、いつも大変盛り上がっています。

人の長所を見つけることが“趣味”と伺っています。
“趣味”と呼べるかどうかわかりませんが、人の長所を見つけるのが大好きで、学生の皆さんと一緒に成長できることが嬉しいです。日ごろから、学生の長所が伸びるように心がけています。
人間は誰しも長所と短所がありますが、短所をいくら厳しく注意してもなかなか直らないようです。それよりも、長所を大きく伸ばしていく中で短所が目立たなくなるように、また短所もプラスに活かしていけるぐらいに長所を伸ばしていこうと努めています。
そのせいでしょうか。手前味噌になりますが、ゼミ生は皆、伸び伸びと学んでいます。伸び伸びしすぎて少し困るくらい(笑い)ですが、それがまた嬉しいですね。もちろん、学生時代は悩みの連続です。一緒に泥んこになって悩む思いで、学生の成長を第一に考えています。
創価大学には、学生の成長を真剣に考えてくださる先生がたくさんいます。また自身の可能性が大きく開いていく大学です。こういう雰囲気を、来春入ってくる新入生にもぜひ、味わってほしいと思います。

もう一つの専門である国際金融論から、海外に留学希望の学生へのアドバイスをお願いします。

まず、為替レートって大事だよねという話からしたいと思います。
例えば、海外留学する時に為替レートが気になりますよね。円高だったら留学しやすいです。でも、円高だったら日本経済がまずいことになっているかも知れません。日本はどちらかと言えば輸出国なので、円安状況の方がうれしい時があります。こうした円高円安について学んでおいた方が、すごく役立ちます。
海外留学に行く時も、過去数年間の円の動きを見て、もし円安になった時に、お父さんお母さんがちゃんとお金を出せるのかどうか。予算を立てる時は円安の状況も考えた上で、現地でいくらかかるかという計算もやって、ご両親に心配かけないようにした方がいいでしょう。
為替レートが変わっただけで、例えば今まで100円で買えたものが120円出さないと買わなくてはいけなくなる訳です。100円、120円単位ならいいけど、授業料は何十万円と費用がかかって、お父さんお母さんにしてみたら高額だから、その辺も考えて留学準備をしていった方がいいですよ、とアドバイスしたいですね。
「投資」と言えば、近年、教育投資による人材育成を初めとする社会経済的効果が見直されています。

いわゆる「教育の経済効果」です。最近、読んだ米国のノーベル賞学者のジェームズ・J・ヘックマン著『幼児教育の経済学』(東洋経済新報社)にも、特に幼児期における教育の大切さが実証分析を基に詳しく述べられています。
幼児教育について段々分かって来たのが、学生に教育訓練を施すこともすごく大事ですが、できたら小学校とか小学校に上がるぐらい前の時期から、もっと丁寧な教育をしておいた方が、長い目で見た場合、社会全体に良い影響をもたらすということです。
どうせお金をかけるのなら小学生とか幼稚園・保育園児の教育に将来への投資としてお金をかけた方がいい、という分析結果が出て来たのです。
就学前の人的資本への投資の社会収益率とも言われます。経済政策などにいきなり応用できないのですが、この考え方は大事だなと思います。
確かに、幼いころから教育を丁寧にやって人格の骨子を作っておいた方が後々、社会に安定をもたらすと言えるでしょう。
かつて創価小学校の校長をされていた萩本悦久先生は、もっとシンプルに「子育ては、最初にうんと苦労しておくと後が楽(らく)」と教えてくださいました。たしかに、お金をかけるよりも、また子どもに「勉強しなさい」というよりも、もう一歩、子どもの気持ちに寄り添って、子どもと一緒に成長することが大切なのかもしれません。
経験から言っても、教育効果の一つに「心の健康」があると思っています。心が健康であれば、ちょっとやそっとのことではびくつかないで、いろいろ悩んだりするけれども社会の荒波も乗り越えていけます。現実を生き抜く力、しなやかなたくましさを育む。教育は未来につながる力を育む事業であると実感します。

[好きな言葉]
善をなすという事実に、幸福な存在となる唯一の真実な手段がある。
[性格]
先々のことを考えて、できる限り準備をするようにしています。
[趣味]
趣味ではないのですが、人の長所をみつけることが大好きです。
[最近読んだ本]
ジェームズ・J・ヘックマン著『幼児教育の経済学』(東洋経済新報社)
ヘンリー・A・キッシンジャー著『回復された世界平和』(原書房))
[学歴]
- 1994年3月 創価大学経済学部卒業
- 1998年11月 筑波大学大学院博士課程(5年一貫)社会工学研究科修了
博士(社会経済)取得
- 1996年 4月-1999年3月 日本学術振興会 特別研究員
- 1999年 4月-2002年3月 立命館大学経済学部 助教授
- 2002年 4月-2005年3月 東京都立大学経済学部 助教授
- 2005年 4月-2008年3月 創価大学経済学部 准教授(助教授)
- 2008年 4月-現在 創価大学経済学部 教授
- 2004年2月-2004年8月 デューク大学経済学部 客員研究員
- 2005年8月-2005年9月 西オーストラリア大学経済・商学部 客員研究員
- 2007年1月-2007年3月 デ・ラ・サール大学経済学部 客員教授
- 2007年7月-2007年8月 エディス・コーワン大学会計・金融・経済学科 客員研究員
- 2008年2月-2008年3月 リオデジャネイロ・カトリック大学経済学部 客員研究員
- 2011年10月-2012年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科 非常勤講師
- 2012年4月-2013年3月 ペンシルベニア大学ウォートン校 客員研究員年
- アメリカ数学会, Mathematical Reviews, レビューワー 2012年4月―現在
- 日本統計学会, 代議員(評議員), 2010年9月―2012年9月
- Journal of the Japan Statistical Society, 編集委員, 2010年9月―現在
- Asia-Pacific Financial Markets, 編集委員, 2010年1月―現在
- [1] Asai, M., and M. McAleer (2015), “Leverage and Feedback Effects on Multifactor Wishart Stochastic Volatility for Option Pricing”, Journal of Econometrics, Vol.187, pp.436-446.
- [2] Asai, M., and M. McAleer (2015), “Forecasting Co-Volatilities via Factor Models with Asymmetry and Long Memory in Realized Covariance”, Journal of Econometrics, Vol.189, 251-262.
- [3] Asai, M. (2013), “Heterogeneous Asymmetric Dynamic Conditional Correlation Model with Stock Return and Range”, Journal of Forecasting, Vol.32, pp.469-480.
- [4] Asai, M., M. McAleer, and M.C. Medeiros (2012), “Asymmetry and Long Memory in Volatility Modeling”, Journal of Financial Econometrics, Vol.10, pp.495-512.
- [5] Asai, M., and M. McAleer (2011), “Alternative Asymmetric Stochastic Volatility Models”, Econometric Reviews, Vol.30, pp.548-564, 2011. [6] Asai, M. and M. McAleer (2009), “The Structure of Dynamic Correlations in Multivariate Stochastic Volatility Models”, Journal of Econometrics, Vol. 150, pp.182-192.