情報技術の進化とAI社会は、人間の適応力を進化させる新しいチャンス
「自律分散ネットワーク」などの専門用語に壁を感じながらの取材だった。しかし、篠宮教授の日常生活に置き換えたたとえ話が分かりやすくイメージできた。人間の身体も自律分散で運用されている、光ネットワークにおける乗り換え技術と新幹線の関係など…。情報に関するモラル教育の大切さやプログラミング授業の話には熱がこもる。「数学は社会の役に立つ」が持論で、実験場(研究室)で学生との「良いネットワーク」も築いている。
現在、どういう研究をしているのですか?
高校生が分かるような言葉で言うと、インターネット技術の研究です。もう一歩踏み込むと情報通信ネットワークと言いますが、そのネットワークの制御と設計の理論の勉強をしています。大学ではネットワークの装置を作っているわけではありませんが、それらを組み合わせ、どう良いネットワークが作れるかを研究しています。
「良い」という中身は障害が起きてもすぐには切れないネットワーク、地震や災害でもすぐ切れないネットワークを作ることです。あとは多数の人が同時に使ったとしても混雑などで繋がりにくい状況にならないネットワークを作るための研究をしています。

現在、自動運転車の開発が進んでいます。人間のミスをカバーし自動車事故の軽減に繋がる動作の検証は全ての面で出来るでしょうか?
全ての条件を検証するのは難しいでしょう。無限通りの数があるからです。しかし、人間が経験値に基づいて判断出来ることに比べるとはるかに膨大なパターンの検証が出来ると思うんです。
人間は自分が経験して運転テクニック等を学んでいきますが、もし百万人とか一千万人の人と情報共有できればかなりのパターンに対応できるでしょう。
現実問題、人間がそれをやっていたら無理です。一千万人の人と情報共有はとても出来ない。しかし自動運転になってビックデータとかを使えば、世界中からいろんなパターンの情報が集約できる。それを解析し、各車にその蓄積・検証したデータを還元して運用することは出来る。まだ課題は多いですが、人間が運転するよりも統一して管理が出来れば安全でしょうね。
昨年、17歳の少年がある県の教育情報システムに不正アクセスして個人情報が流出し逮捕されるという事件がありました。
人間が作ったソフトウェアには必ずそのバグとかセキュリティホールと呼ばれるような脆弱性というものが存在します。これをゼロにするのは出来ないと思うので、我々は情報システムに関わる機器を使う際には常に危険にさらされていると、高い意識をもっていなければいけないです。
まだ未成年でもいろんなことに興味を持ち、不正アクセスが出来てしまう。そうした危険性があることを使用者が全員わかっていて、ソフトウェアを作った時に入り込ませないような努力をしなければならないと思います。
情報に特化したモラル教育が欠けていると感じます。自分が被害者にも加害者にもならないという教育を小学生からやらないといけないですね。
自律分散ネットワークについて解説をお願いします。
ネットワークの機器とかその運用というのは実はかなり人間が手を入れなければ作ったり動かしたり出来ないものでした。今はまだそういうことが続いています。自分が自宅に新しいネットワークのサービスを引こうと思った時にどうするか。業者さんを呼びますよね。人間の手が介在する。
ネットワークは大きな規模になっていますが、制御・管理するためには集中制御といって、人間でいうと組織があって部門があって、その部門の人たちが一括管理をしているわけです。一般的に自律分散ネットワークとは、人間が集中管理用のコンピュータを介して命令しなくても、ネットワークを構成する機器が、自動でお互いに情報交換し、各自で適切に判断して、障害発生時の復旧作業などを行うシステムのことを言います。
自律分散ネットワークとスマートフォンの普及とどう関連付けて考えたらよいでしょうか?
スマートフォンの出現で、最もネットワークにインパクトを与えるのは情報量です。スマートフォンに変わることによって皆が見る画面が変わった。今まで音声だけでやってきたものが音声プラス画面というのもあるし、動画も見たりするので、圧倒的に流れる情報量が変わった。そういう意味ではより一層ネットワークに負荷がかかって、道路でいうと交通渋滞が起きてくるわけです。
当然、道路の幅を広くしなければならない問題がありますが、ある時一斉に日本中の道路の幅が広くなることはあり得ません。計画を立てて一番混みそうな所から順番に道路の幅を広げるという工事をやっていくわけです。
ネットワークも同じで、ある日突然一斉には変えられないので、混んでる所から順番に変えていかなければならない。そういう仕組みで発展させなければならないでしょう。
大規模災害時でも利用可能な通信ネットワーク作りが急務ですね?
ネットワークは大きく分けると、無線と有線に分けられます。東日本大震災の時、壊滅的なダメージを受けたのが主に有線のネットワークです。今、有線と無線が混在しているネットワークで、携帯電話を使ったとしても無線になっているところはアンテナとスマートフォンの間だけです。
そのアンテナから受けた向こう側というのは、有線のネットワーク、線で繋がれたネットワークになっていて、その線で繋がれたネットワークが壊滅的なダメージを受けてしまうといくら無線のところ、無線は地震が起きても電波自体は飛びますが、でもネットワークに繋がらないということが起きてきてしまいます。
もう少し中身の方まで含めた、無線と有線の融合的なシステムを構築する。自律分散というよりダイバーシティという言い方しますが、種類の多いネットワークを構築して災害に強いシステム作りをしないといけないと思います。
大容量光伝送への需要拡大に伴う課題とは?
光ネットワークは、かなり昔から光ファイバーを使った情報伝送の研究や改善がされていて今も運用されています。研究も日進月歩で進み、今も相当な容量のデータを送ることが出来ています。全体的な目で見ると、光ネットワーク自体はもう完成度が高くてかなり良くできています。
その技術がもっと進化しないと良い光ネットワークを開発したとしても最大限、能力を使いこなすことが出来ないという問題が起きています。光ネットワークというのはものすごく大容量なだけにお金が高いので、最大限、設備を使いこなすことができなければ、更なる設備投資をしない。だから繋ぐところの技術をもっと進化させないと光ネットワーク自体の発展もなかなかないでしょう。
小学校のプログラミング授業についての見解をお聞かせください。
2020年度から必修になることは歓迎です。実際、僕は小学生向けの講座もやっています。ただプログラミングという言葉に対して社会全体があまりにも壁を感じている気がします。
皆さんが思うほど超専門的で小難しいものではなくて、今、小学校で導入される計画のプログラミングは、使いやすくなっていて簡単です。小学校の先生たちにも教えるスキルはじゅうぶん身につけられるので、あまり敷居をあげずに小学校の先生も児童と一緒に学ぶというぐらいの感覚で一緒に楽しみながら、慣れていくという感覚でどうでしょうか。レゴブロックで一緒に何か組み立てるくらいの感覚で使ってもらえればと考えます。
AI(人工知能)社会の到来と「消える職業」について、どう考えたらいいでしょうか?
社会でいらないと思われる職業が消えていくのは自然な流れだと言えます。ただ、その仕事に対する信頼性というものがあります。裁判官には裁判官に対する信頼性があるはずなので、そういうところにコンピュータを使っても結構ですが、信頼性が確保できるのであれば置き換わっていくのは当然だと考えます。昔に遡れば、150年前にあった職業で今はない職業、侍はいらないですよね、今の時代。でも昔は必要だったわけです(笑)。
AIとかに置き換わっていくことによって、新たにそれを更にサポートしなければいけないような今まで思いつかなかったような職業が現れてくるかもしれません。その進化の流れの中で適応力の高い人たちが新しいチャンスをつかみ取っていけばいいのかなと思います。
学生や受験生へのメッセージをお願いします。

私が教えている情報システム工学科に来てくれる学生というのは、大抵は数学やコンピュータが好きで得意な子が多いです。しかし、その数学を使って社会でどう役立てるのかという教育が、小中高の中で不足していると言えます。ネットワークなどの基礎となる学問は数学です。1960年代にそれらを開発してきた人たちは、ほとんど数学者です。つまり数学は非常に役に立つ。だから数学が好きで、それを活かして社会に役立ちたいと思う人は、ぜひ本学科に進学してもらって、そこで応用する技術をしっかり学んでほしい。今、IT技術者は不足していますので得意で役に立つ技術で活躍してほしいです。
[好きな言葉]
強き体、強き心、強き頭脳の人に
[性格]
臨機応変、負けず嫌い、楽観思考
[趣味]
陸上競技短距離走、スキー
[最近読んだ本]
- 振り返れば私が、そして父がいる(立松和平・横松心平)
- パリの国連で夢を食う。(川内有緒)
- 創価大学工学部情報システム学科卒業(1995年)
- 株式会社富士通研究所ネットワークシステム研究所入社(2000年)
- 創価大学大学院博士後期課程修了(2001年)
- 創価大学工学部 専任講師(2005年)
- 創価大学 准教授(2009年)
- 米国テキサス大学ダラス校 客員研究員(2014年)
- 創価大学 教授、情報ネットワークセンター長(2015年)