アフリカを知り学ぶほど、世界の経済問題や課題が立体的に見えてくる。そのメカニズム解明に貢献

西浦 昭雄 経済学部経済学科 教授

高校生の時、「人のために生きる人生を」との創立者の言葉に触れ、アフリカに学ぶ道を志したという。ケニアの名門ナイロビ大学への交換留学生として勉学に励む一方、アフリカの持つ知恵を肌身で体感。「世界の諸問題を解く鍵を秘めた希望の大地」と、多角的交流の意義を力説する。学生に接しての感想は「皆、すごい可能性を持っていながら、それに気がつかないことがもったいない!」と。

この5月は、ナイロビ大学と創価大学との学術交流30周年にあたります。

ナイロビ大学との学術交流を結んだのは1988年5月です。以来、本学の学生がナイロビ大学に長期留学を重ね、1年間の交換留学をしている学生数も延べ30名以上になります。
過去の留学生経験者には、例えば大学院で博士号を取得したり、ケニアの大学で日本語を教えたり、企業のアフリカ担当になった方もいるなど、いろんな分野での人材育成の場になっています。 
さらにこうした学生達が生のアフリカの姿を周りの友人にも伝え、アフリカが創価大学の中で身近な存在になっていったという意義も大きいですね。
ケニアからの留学生も2012年から創価大学で学ぶことによって日本人学生と直接触れる機会を持てました。短期の夏休み期間の研修では、初めはパン・アフリカン友好会主催の研修でしたが、2005年から正式に本学主催の研修となり、多くの学生がアフリカに触れるチャンスができました。創価大学のグローバル化を進める上でアフリカという存在を身近に感じる学生が重層的に増えていったというのは、本学にとっても大きな意義があったと思います。
本学は文部科学省選定によるスーパーグローバル大学創成支援の一校に選ばれています。選出されたことも、さらに、今年度の中間評価で最高評価にあたる「S」評価を受けたことも、アフリカ等との交流が高く評価されていると確信します。その先駆けとなったのがナイロビ大学との学術交流だったと言えます。

ケニアを離れる前にお世話になった方々と
ケニアを離れる前にお世話になった方々と

逆に、ナイロビ大学から見てこの学術交流はどういう意義があると思われますか?

何よりも大事なのは、双方の学生が同じ寮に住み、互いの文化に触れることですです。ナイロビ大学にとって日本の大学では、初めて学術交流協定を結んだのが創価大学でした。私自身、そのナイロビ大学への2人目の交換留学生として1990年9月から1年間、ケニアに滞在。当時学生としてナイロビ大学で学んでいた日本人は私一人でした。そうした意味からすると、本学がケニアと日本との懸け橋を担ってきたと実感しています。

そもそも、アフリカに関心を抱いたきっかけは?

関西創価高校2年生の時、創立者池田先生が細菌学者の野口英世のエピソードを通し「人のために生きる人生を」とスピーチされて心から共感したからです。当時アフリカは大規模な飢餓が発生していて、日本でも飢餓キャンペーンが行われていた時期でした。人のために生きるという事と、野口英世が最後はアフリカで亡くなった事、当時の飢餓キャンペーンという部分でタイミングが重なってアフリカに行こう、アフリカの貧困問題解決に役立っていきたいと決意したのです。

アフリカ経済を学び知ることで、世界の経済問題や課題が立体的に見えてくることはあるのでしょうか?

ナイロビ大学留学中に現地の学生たちとの旅行
ナイロビ大学留学中に現地の学生たちとの旅行

アフリカから学ぶ意義ということについて、創立者自身が「21世紀はアフリカの世紀」と1960年以来、一貫して言われています。私はこれには二つの意味があると思っています。
一つはアフリカが、いろんな世界の課題の一つの集積地で、アフリカの問題解決なくして世界の平和はない、と考えています。
世界全体で貧困者を減らしていこうという取り組みが2000年以降、世界全体で取り組まれていますが、貧困者の割合が最も高く、最も多い地域はアフリカです。そうしたことからアフリカの問題を知ることで世界のいろんな課題、貧困問題、教育の問題、紛争の問題、人権の問題、これらを知っていく糸口になっていくという意義があると言えます。
もう一つは、アフリカが諸問題を抱えた地域というのではなくて、アフリカから学ぶことによって世界各地で行き詰まっているいろんな課題をアフリカにある知恵が解決するという、一種の希望の存在であると考えます。
故ネルソン・マンデラ氏、故ワンガリ・マータイ氏というような、苦難な状況から立ち上がった人権の闘士や環境活動家がアフリカから輩出しました。大変な状況でもそれを乗り越え、世界に勇気を与えたアフリカから学ぶ意義は大きく、世界の課題が立体的に見えてくることはあるんじゃないでしょうか。

アフリカの農業発展について、日本人の勤勉性や責任感、地域の人々との信頼関係等に着目する視点についてどう思われますか?

そうした要素をアフリカの中で応用していくことは沢山あると思います。一方でアフリカでどんな農業をやってきたのか。それをどうしたら活かしていけるかを、しっかり知っていくというのは非常に大事だと思います。
私は2010年からウガンダやタンザニアの農村を訪れ、大麦農家がどういう形で生産し、ビールの原料として、外資系のビールメーカーとどのように契約栽培をしているかについて理解するため、農家に話を聞きました。また、農業組合の方々やメーカー、買い付けの仲買人など、ビールができるまでの一連の原料段階からどう加工されていくかという一連のサプライチェーンに携わる人に接し、研究をしていました。

農家を訪れると、自給自足だけではなくて、どう売るかというのが非常に大事になってきて、農家に行っても今や携帯電話が普及していて、それで農家同士、農民同士が情報をやり取りしている。どこで肥料を買い、どうやれば多く買ってくれるか。そうすると現金が必要になってくる。自給自足だと現金が発生しないし、物々交換も現金がないし携帯電話も使えない。そうするとどこかに売らないといけないので、いろいろ工夫しながらやっていることがわかります。
農家は、単に大麦だけ作っているとそれが天候不順によって大麦ができないと生活が苦しくなりますから、食料安全保障というか複数の物を同時に作ってるんですね。そうすることによって天候や害虫による被害に遭っても他の物で何とかやっていける。日本人の持っている知恵とアフリカの現場の知恵というのをいかに協力しあっていけるかということは本当に大事ですね。

ITの分野等でビジネスチャンスが期待できるのはアフリカという見方もあります。

アフリカという地域が以前は日本においても、例えば経済協力の相手先や支援先という見方、さらにアフリカの資源に注目した資源の供給源という見方がありました。
その中で、今度はアフリカというのが最後のフロンティア市場になりうるという見方が浮上してきました。具体的には、BOPビジネスという貧困層を対象としたビジネスに注目が集まり、アジアの次はアフリカ市場の拡大に興味を持つ企業が増えてきています。その意味でアフリカと日本との交流を考えた時に、一時的なものでなくて、いかにそれを長く続けていけるかが重要になってきますので、文化や人の交流が長期的には大事になってくると感じます。

人類の祖先はおよそ20万年位前に東アフリカから現れて、そこから全世界に広まっていったという説があります。

ウガンダ・マケレレ大学でのワークショップで報告
ウガンダ・マケレレ大学でのワークショップで報告

いろんな研究から人類がアフリカから誕生して世界に広がったという単一起源説と、世界のいろんな所から誕生していったという多元説とに分かれていますが、最近の研究だと多くの研究がアフリカから、人類の直接的な現代のホモサピエンスの祖先がアフリカにあって、そこから広がったという節が強くなっています。
そうした研究は、自分達のルーツを知って知的好奇心を満たすという点でも意味があるでしょうし、私はそれ以上に現代の世界の課題を解く鍵もあると思ってるんです。これまでの人類史を見ていくと、人類といっても20種類くらいいたとか言われています。その中で、現代のホモサピエンス以外は全滅していったという事実を見ると、人類といっても生き延びる存在とは限らない。そうなると一種類だけ残った現世人類が、肌の色の違いとか、宗教や文化の違いが紛争の種になっていくというのは非常に愚かだと気付いてほしいですね。

西浦ゼミは「日本学生経済ゼミナール関東部会(インナー大会)」で最優秀賞を5回受賞しています。

ほぼ学生の努力によるしかないと思うんです。私が少し役立っているかも知れないというのが、学生の可能性を信じていくという姿勢でしょうか。
学生自身がそうした大会を目指して、また学生達からすると単に自分達が発表できたらいいというより、最後には学生同士、先輩の姿や励ましを通して、学生が創価大学のためにとか、後輩のためにもとか、また送り出してくれた家族の為にも頑張ろうと思った時に、それが恐らく一人ひとりの可能性をぐっと開いているなという実感があります。

卒業生も参加してのゼミ合宿(2016年)
卒業生も参加してのゼミ合宿(2016年)

ワンガリ・マータイ氏が使われていた「もったいない」という言葉ですが、日ごろ、学生と接していて一番「もったいない」と感じる時はどんな時でしょうか?

本年3月卒業式でゼミ生と
本年3月卒業式でゼミ生と

すごい可能性を持っていながら、それに気がつかにことがもったいないですね。創価大学に学んでいるということはいろんな潜在力に満ちています。後はそれをどう開いていくかだと思うんです。せっかく可能性が沢山あるのに、そのチャンスを「自分には何もできないから」とか、と否定してしまうっていうのが、何よりも「もったいない」ですね。自分の可能性をどこまでも信じてほしいと思います。

西浦 昭雄
[好きな言葉]
自分のいる環境の中でベストを尽くす
[性格]
人に合わせているようでマイペース
[趣味]
旅行(特に初めての場所)
[最近読んだ本]
『オックスフォード&ケンブリッジ大学 世界一「考えさせられる」入試問題』
[経歴]
創価大学経済学部卒業。創価大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得。博士(経済学)。1997年、創価大学通信教育部専任講師。現在、教務部長、GCPディレクター、アフリカ研究センター長を兼ねる。パン・アフリカン友好会顧問。主著に『南アフリカ経済論-企業研究からの視座』(日本評論社)など。
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