人口減少に直面する東秩父村で法学部学生が「まちおこしプラン」を発表!~社会課題の解決を通して公共政策を担う人材を育成~
埼玉県で唯一の村である東秩父村。同村の少子高齢化は、日本全体の流れと同じく進行の一途をたどっており、1980年には4,704人いた人口が2018年現在は2,712人と38年で約6割も減少しています。こうした課題に着目したのが、法学部公共政策・行政コースの土井美徳ゼミの学生たちです。公共政策研究を専門とする土井ゼミでは、社会課題を自ら見つけ、その解決法を理論と実践の両面から学ぶことを目的に、「課題解決型授業(PBL)」の学習方法を採り入れています。
同村の「まちおこしプラン」を提示するため、学生は約1年間にわたって村人へのインタビュー等のフィールド調査や、解決策の検討等を行ってきました。そのような学生の思いに触れ、東秩父村・東秩父村商工会主催「大学生による東秩父村調査報告・発表会」が8月4日(土)に東秩父村で開かれました。学生による発表と、それを受けての村人とのワークショップが実施され、会場は村の魅力と今後を共に考える熱気に包まれました。
今回の創大Daysでは、A班の野沢英一さん(法学部3年)、B班の立花侑香さん(法学部3年)に、今回の報告会までの経緯、まちおこしプランに込めた思い、ゼミを通しての学び等を語っていただきました。
東秩父村での報告会、お疲れさまでした!東秩父村に着目した理由を教えてください。
野沢さん:2年次の後期(昨年9月)にゼミが始まり、首都圏にある自治体から一つを選び、そこの課題を見つけて解決案を考えることになりました。5名ずつのグループに分かれ、全6グループが3年次前期の最終報告会(本年5月)にむけて活動を開始しました。人口推移や将来予測などマクロな視点から課題が比較検討できる「地域経済分析システムRESAS」を用いて、取り上げる自治体を検討しました。いくつかの候補の中、高齢者の割合35%(県内で2番目に多い)、年少人口の割合7.5%(県内最低)等の少子高齢化が深刻な点と、転入数よりも転出数が上回っている点から東秩父村に着目しました。
立花さん:私たちも同じく東秩父村を選びました。将来予測では村の人口が2018年の2,712人から、2060年には約800人まで減少するとともに、2025年には老年人口(65歳以上)が生産年齢人口を超えると言われています。直面する人口減少に対し、東秩父村の資源を生かした取り組みができないかと考えました。
なぜ、東秩父村・東秩父村商工会主催の報告会が開かれることになったのでしょうか?
野沢さん・立花さん:グループでの活動が始まり、話し合いを重ねるなかで、自分たちが課題と感じていることを実際に確かめようと東秩父村に行きました。昨年11月頃、フィールドワークで現地の観光地や場所などに足を運び、村の魅力や課題など村の人たちにインタビューしました。和菓子の名店で有名な小松屋本店に立ち寄った際、インタビューする私たちに店主が興味を持ってくれ、『東秩父のことを調べてくれて嬉しいね。私は商工会会長(当時)をしているので、ぜひ皆さんの提案を聞きたいと思う。まずは村長に村の課題を聞くのが一番だね』と声をかけてくれました。その後、村長や商工会の方など幅広い人脈を紹介くださり、様々な立場で村を支える人たちの声を聞くことができました。


インタビューで足立利助村長は、「村民の幸せを大事にしている。そのためにも観光客を増やし、村に新しい風を吹かせたい」と話してくださいました。また、ある方は「新しい意見、新しい人がほしい」と述べられました。移住や定住の提案は理想的ではあるが一筋縄にはいかない部分もあるので、村の人たちの声を大事にし、交流人口を増やすための施策を中心に検討を進めました。その後も村長や役場、商工会の方々が私たちの活動に関心を寄せてくださり、せっかく提案してくれるのであれば産官学が一体となって課題を共有し、村の未来を考える場をつくろうとのことで、東秩父村・東秩父村商工会主催「大学生による東秩父村調査報告・発表会」が開かれることになりました。当日は、東秩父村で働く方や暮らす方など、約30名の皆さんが私たちの提案を聞いてくださいました。
A班の発表内容「Feeling JAPAN in 東秩父村~観光事業による東秩父村の地方創生~」について詳しく教えてください。
野沢さん:私たちのグループでは、東秩父村の人口が著しく減少している理由、とりわけ転出者が多く、永住・移住ができない原因の考察に時間をかけました。課題の本質を納得いくまで皆で話し合いました。原因として、「雇用が少ない」「日常生活の利便性」「交通の不便性」の3点に集約し、人口維持・転入人口の増加を長期的な目標としたうえで、まずは観光を通した交流人口の増加によって、村の財源を確保しようと考えました。
具体的な取り組みとして、外国人観光客にターゲットを絞った1泊2日のツアー「Feeling JAPAN in 東秩父村」を提案しました。手漉き和紙体験や農業体験、牧場でのアイスづくり、みかん狩り、そばうちなど、村の観光資源を生かしたアクティビティ体験を重視したプランです。
ただ、海外に住む外国人へのアプローチは簡単ではないので、まずは東武東上線のアクセスの便利さから新宿区・豊島区に住む外国人を招待し、東秩父村の観光各所をツアーし、各自のSNS等で紹介してもらってはどうかと思いました。また、埼玉県内の留学生に協力を呼びかけ、サポートしてもらうことで村の人たちと外国人観光客のコミュニケーションが円滑になると考えました。その他、既存の施設である「和紙の里研修館」を宿泊場所として利用することで、外国人観光客と村の人たちの交流を推進できればと思います。
報告会でも村の人たちからツアーのおすすめスポットなど意見をいただきました。10月中旬には東秩父村主催のツアーにボランティアとして携わる予定です。
B班の発表内容「和紙体験プログラムと、観光客の移動の円滑化による交流拡大」について詳しく教えてください。
立花さん:私たちのグループでは、東秩父村の魅力の一つである和紙を通じた交流が少なく、特に若者の和紙に対する関心が低いこと、村内の移動が不便であることを課題に設定しました。また、インタビュー等を通して村の人たちが「村外の人との交流」をのぞんでいることを知り、新しい人の流れをつくり、新しい交流の輪を広げようと思いました。
具体的な取り組みとして、1つ目が和紙を使ったカップル向け恋愛絵馬づくり体験です。和紙の里で手漉き体験を行い、ハート型の絵馬を作成、その絵馬に願いを書き、牧場に移動してウサギ小屋付近で絵馬をかけるといった内容です。和紙を通じて村人と観光客の交流を広げたいと思い考えました。

2つ目がスマートフォンの専用アプリを使った配車サービス「Uber(ウーバー)」を使った観光客の移動の円滑化です。東秩父村には村人全員にタブレットが支給されているとともに、多くの家庭が自家用車を所有しています。効率的に村の観光地を訪問したい観光客のニーズと、空いた時間を活用して観光客と交流したい村民のニーズがマッチするのではと考えました。
発表後には、村の人たちとのワークショップも開かれたそうですね。
野沢さん・立花さん・「ムラミライミーティング(ムラトーーク!)」と題して、学生と村の人たちがグループごとにわかれてワークショップが開かれました。村の人がおすすめる東秩父村の魅力、学生が感じる東秩父村の魅力を互いに語り合いました。共通して出た意見が「村の人たちの人柄のよさ」「自然の素晴らしさ」でした。参加したある村の方は、「村民の視点だけでは思い浮かばなかった、新しい提案が聞くことができ参加して良かった。村の活性化のために何度も足を運び、観光客を呼び込むためのプランに具体性・実現性があり、素晴らしかったです。あとは私たち次第ですね」との声を寄せてくださいました。
ワークショップの最後には、「みんなが東秩父村アンバサダー宣言」として、自分の立場で何ができるか、何がしたいのかを考え、お互いの考えや思いをシェアしました。
報告会を振り返って感じたことを教えてくだい。

野沢さん:村長をはじめ、村の人たちが私たち学生の提案を真剣に聞いてくださったことに感謝の気持ちでいっぱいです。現地に足を運ぶ度、村の人たちの人柄や温かさに触れ、自分たちも村のために少しでも力になりたいと強く思うようになりました。「おもしろいアイデアだね」と言っていただき、10月には日帰りツアーも実施されることになったので、引き続き村の人たちと連携をとりながら、成功にむけて準備したいと思います。
立花さん:どのような気持ちで村の人たちが参加しているのか不安もありましたが、私たちが調べきれなかった隠れた村の魅力などを教えてくださいました。村の人ならではのアイデアがあり、意見が共有できて良かったと感じました。やはり外から見ているだけでなく、実際に足を運び、そこに住む人たちの意見に耳を傾けることが課題解決の第一歩だと感じました。
最後にゼミでの学びと、これからの将来について教えてください。
野沢さん:ゼミでは一緒に学ぶ学生のモチベーションが高いので、限られた時間の中で集中して勉強ができています。ゼミではエビデンスをもとにストーリを組み立てて説明する力が身につくと感じています。また、グループで学ぶ機会が多いので、自分だけの意見を押し付けるのではなく、まわりの意見をどう引き出すのか、皆が納得する方向性に意見をまとめることなどファシリテーションについても学べます。将来は企業に就職し、都市開発の分野で力を発揮したいと考えています。そのためにも幅広い力をつけるため、海外留学したいと思っています。
立花さん:向上心の高い学生が多く、学ぶ姿勢など触発されます。今回のグループワークもそうですが、ゼミでは徹底して問題解決の思考のプロセスを学ぶことができます。地方創生やビジネスなど、実際の社会課題をテーマに取り上げるため、過去のデータに頼るのではなく、自分の頭で考えてプランを考える力がつくと感じています。今後も学び続け、将来は子どもの教育支援に携わり、学びたくても学べない子どものために働ける仕事に就きたいと考えています。
今回を振り返って土井教授のコメント
いま日本は、人口減少期に突入し、さまざまな課題を抱えています。そのなかで、人びとの暮らしの空間である「まち」の未来をどう創生するのかが問われています。とりわけ、過疎化が進む地方のまちにおいては喫緊の課題となっています。こうした難題に対して、地域の未来のために、自分たちに何ができるかを真剣に考え、行動する学生たちの思いと、村長をはじめ、村の未来を真剣に描こうとされている地域の皆さんとの域学連携の試みは大変に意義あるイベントであると考えております。村の産学官の人たちの前で自分たちの分析と提案を堂々と発表する学生たちの姿を嬉しく思います。また、学生の取り組みを温かく受け入れてくださった東秩父村の皆様に心から感謝申し上げます。
土井ゼミの概要
転換期にある現代では、既存の枠組みが制度疲労に直面し、多くの問題が従来の方式に則って解決することができなくなってきています。とりわけ、社会の諸課題の解決を目的とする公共政策は、まさにそうした難題に直面しています。社会保障制度や官民関係、地方分権化など多くの政策領域で新たな制度設計が求められ、政策のデザインや、実施過程の組み換え(NPOとの連携・民間の資金や技術を活用するPFI方式等々)をめぐる議論が盛んになっています。
演習では、毎年、多様な課題/テーマを考察しています。
(例)行政改革、国会審議活性化、地方分権化、環境問題、社会保険制度(含む年金制度)、官民協働(第3セクター、PFI等)、税制、派遣労働、男女平等社会参画、地域振興(地方活性化対策)、外交、ODA(政府開発援助)、WTO(世界貿易機関)、FTA/EPA交渉、等々。
ゼミの方式は、学生が自ら課題を見つけ、その解決法を考える「課題解決型授業(PBL)」を採用している。政策研究を通して専門的知識を修得するとともに、問題発見能力、問題解決型の思考、リサーチ力、グループ・ディスカッション力、プレゼン力、チームワーク力など、いわゆるコミュニケーション・スキルを養成していくことにも重点を置いています。
教員情報

- 専門分野
政治学
- 担当科目
公共政策論、公共政策ワークショップ、西洋政治史
- 研究テーマ
イギリス立憲思想の形成、現代デモクラシー論の展開