【特別対談】吉本興業株式会社 生沼教行プロデューサー × 馬場善久学長

(広報誌「SUN」2018年10月号:「特集2 SDGsスペシャル対談」より転載)
司会進行:ASPIRE SOKA代表 古賀 優奈さん(法学部4年)
今、様々な団体が協力しながら、SDGsに向かって取り組んでいます。SDGsの目標達成に向けて私たちには何ができるのか。
SDGsに積極的に取り組む吉本興業と創価大学、それぞれの取り組みについて語っていただきました。対談は、東京都新宿区にある旧四谷第五小学校をそのまま活用した吉本興業東京本部で行われました。
多くの部分で重なる創価大学の取り組みとSDGsの目標

古賀優奈(以下、古賀):本日は、SDGsをどう捉えるか、SDGsにどう取り組んでいくかを、創価大学学長の馬場善久教授と、(株)よしもとクリエイティブ・エージェンシー執行役員であり、SDGsの取り組み推進担当でもある生沼教行さんから、お話を伺います。まず、国連でこの採択がされたことに対する思いや、SDGsに取り組むきっかけなどを教えてください。
馬場学長(以下、馬場):国連が、2015年にSDGsを提言したことは素晴らしいことだと思います。 創価大学では、開学以来「創造的人間の育成」を掲げています。これは、ごく簡単に言いますと「社会貢献を目指す学生の育成」ということです。
創立者池田大作先生は1996年にコロンビア大学ティーチャーズ・カレッジで「『地球市民』教育への一考察」という講演をされました。この講演で、私たちが取り組んでいくべき4つの問題として「平和」「環境」「開発」「人権」を挙げられました。創価大学では、これまでこの提言に対して学生をはじめ様々な取り組みを実施してきました。
これらの取り組みとSDGsとは、かなりの部分で重なるところが多いですね。
古賀:私自身も、授業を通じて「創造的人間とは何か」ということを学び、未来のことを前向きに、自分のこととして考えるきっかけになりました。学長は、創造的人間とは、どういう人間のことだとお考えですか。
馬場:学生一人ひとりには個性があり、それぞれ目標も異なることでしょう。しかし、各人の現状の中で将来を見据えて、自分が社会でどのような貢献ができるかと考えながら、一つ一つの課題に取り組んでいる学生の姿こそ、創造的な人間につながっていくと思います。
問題のある現場にこそ必要な笑顔を提供する
生沼プロデューサー(以下、生沼):国連でSDGsが採択された2015年に、私たちは、SDGsのことも、その前身にあったMDGsの存在も、知りませんでした。吉本興業が、SDGsに取り組むことになったのは、国連広報センター所長の根本かおるさんからお声かけをいただいたのがきっかけです。
根本さんは、弊社が法務省と取り組ませていただいた「社会を明るくする運動」のPRを、所属芸人である鉄拳がパラパラ漫画で制作していたのをご存じで、普段、そういった活動に目を向けてくださらなかった方々にも、興味を持っていただく方法として「笑い」は非常に親和性が高いと考えていらっしゃいました。
根本さんは、2016年の年末に吉本興業へお越しになられ、SDGsを、吉本の「笑い」の力で、世の中に広めることを一緒にやっていただけませんかとの相談があり、翌年の1月に、全社員を対象にしたキックオフ講演会を、新宿のルミネtheよしもとと大阪の漫才劇場への同時中継の形で行いました。地方事務所向けには限定動画の配信も行い、まずは社員全員でSDGsについて学ぶことから始めました。

創価大学が参画しているASPIRE SOKAの活動
古賀:ここで、次の話題に移る前に、私が所属しているASPIRE SOKA(アスパイア・創価)の活動を紹介させてください。UNAI(国連アカデミックインパクト)という、世界の高等教育機関の連携を推進する国際的なプロジェクトの一環として、ASPIREという学生組織が世界各地にあります。創価大学が、2014年2月にUNAIに参画したことで、ASPIRE SOKA発足に至りました。
ここでは「私たち一人ひとりの意識が世界を変える」という思いをもって、学生主催の『Global Citizenship Week 2018』というSDGsに関する展示や講演会を行ったり、『難民映画祭』を開催したりしています。また、海外のASPIRE組織との交流も行っておりSDGsの意識向上に努めていきたいと思っています。
では、次にSDGsに関する思いや実際の取り組みについて教えてください。
早くから平和に関する教育世界市民教育の共通科目も設置
馬場:古賀さんは、GCPに入っていますよね。GCPとは、Global Citizenship Program(グローバル・シチズンシップ・プログラ
ム)の略で、学部を横断する形で1学年につき30人ほどの学生を選抜し、英語や統計学などの数量的な学問を鍛え、さらに実際の社会問題を考察するプログラムです。1年の終わりにはフィールドワークとして2週間ほどフィリピンに留学します。
2010年から始まったプログラムですが、これはまさに、世界市民教育の具体的な取り組みといえるでしょう。そして、これもSDGsとしての教育に重なっているのです。
本学の平和問題研究所は広島大学等に続いて、本学開学間もない1976年に開設し、平和に関する調査・研究や、授業を行ってきました。さらに、本年度より、カリキュラムを改正し、「平和」「環境」「開発」「人権」などSDGsともつながりが深い分野からなる世界市民教育科目群を設置しました。
学生たちの取り組みでは、長年にわたって発展途上国との交流も深めています。例えば、ケニアのナイロビ大学での研修は約30年前にパン・アフリカン友好会が中心となって開始しました。今年よりザンビアでも研修が実施され、学生は正課外でも多くのことを学んでいます。
また、古賀さんのASPIRE SOKAの説明にありましたが、創価大学が参画したUNAIで掲げている10原則のうち、原則6の「人々の国際市民としての意識を高める」から原則10の「異文化間の対話や相互理解を促進し、不寛容を取り除く」までの5原則を中心に、創価大学として取り組んでいます。
SDGsの目標達成に向けて国際的な研究も推進

馬場:研究面でも、SDGsの目標達成に資するプロジェクトを進めています。 2015年にJST(科学技術振興機構)・JICA(国際協力機構)によるSATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)の採択を受け、マレーシアで研究機関と共同研究事業を開始しました。このプロジェクトは、熱帯域の水産養殖場で大量に排出されている汚泥から抽出した栄養分を用いて、抗酸化物質などの高価値物質を多く含む微細藻類を生産し、環境保全と貧困の軽減を両立しようというものです。
さらに昨年度には、文部科学省の支援を受け、研究ブランディング事業を立ち上げました。この事業では、エチオピアの湖で過剰繁茂する水草を分解処理し、取り出した栄養分を用いて健康食品となる微細藻類を生産・販売します。このようなビジネスモデルを地域に広めることで、周辺住民の健康改善・貧困の軽減に貢献したいと考えています。
このように、創価大学では、教育面、研究面ともに、SDGsの目標に密接に結びついた取り組みを以前から実施しています。
古賀:そうですね。普通の授業だけでなく、海外研修などを通し、さらに活動を広げるきっかけとなっています。私も日本だけでは分からないことを、たくさん学んできました。吉本興業ではどのような取り組みがありますか。
お笑いのコンテンツとSDGsのコラボで認知度を高める
生沼:私が在学中の頃に比べて、創価大学では、新しい取り組みが増えていますね。少し羨ましいです。
電通さんが2018年の4月に発表された「SDGsに関する生活者調査」では、日本国内のSDGsの認知率は14.8%という結果に対して、共感度は73.1%と高い数字が出ており、知った方には関心を持っていただけるというのが現状です。
そのような中で、吉本興業では、SDGsを多くの人に知ってもらうために、私たちが持っている様々な「笑い」のコンテンツをSDGsと組み合わせ、発信していくことを考えました。
最初の取り組みは、昨年の4月に行った『島ぜんぶでおーきな祭』というイベント内での企画です。ここでは、SDGsの各目標のパネルを掲げて、西川きよしや、アジアの現地で実際に活動している「アジア住みます芸人」の方たちが、沿道に駆け付けた約9万人の観客の前でレッドカーペットを歩行し、多くの方にSDGsをPRするとともに、この様子は、海外のメディアにも多数取り上げていただけました。
また、会場を変え、波の上うみそら公園では、『そうだ!どんどん がんばろう!スタンプラリー』(略してSDGsです)という企画を実施いたしました。SDGsの17の目標を、よしもと芸人たちの持ちギャグと絡め17のスタンプにした企画で、会場内で、これらのスタンプを集めると抽選会に参加できるという企画です。この企画には、たくさんのお子さんに参加いただき、SDGsに触れるファーストタッチになったかと思います。
その他にも、SDGsを数え歌のように覚えることができるライトアニメーションムービー『未来人からのメッセージ~世界を変えるための17の目標』を制作し、イベントステージや映画上映前に流しました。また、展示コンテンツとして、国連さんが学生を対象に行っている『わたしが見た、持続可能な開発目標(SDGs)写真展』の受賞作品と、弊社の各地方や海外に住む芸人達も新たにSDGsをテーマに撮影した作品を追加した写真展を那覇市役所とイオンモール沖縄ライカムにて開催いたしました。
「島ぜんぶでおーきな祭」の取り組み後も、吉本が運営する大きなイベントでは様々なSDGsのコンテンツを制作し、お客様に楽しんでいただきながらSDGsのことに触れていただけるような機会の創出を行ってまいりました。弊社所属芸人が総勢29名出演し、コンビの枠を越えてSDGsについて真剣に語りあうCM『SDGsを考えはじめた人々』を制作し、吉本の全国の劇場でも上映しております。
他にも、今年の8月に北海道にて行った、「みんわらウィーク」というイベントでは、ウォーキングイベント『SDGsウォーク2018』を実施しました。このイベントは、歩きながらSDGsのチェックポイントをまわり、各ポイントにて自分の関心のあるSDGsの17の目標のバッジを選び、配布されたトートバッグに集めてゴールするというイベントで、弊社所属のアスリートや芸人も含めて、たくさんの方が参加をしてくださいました。
国連の会議でも笑いを国内の自治体とも提携
生沼:また、同じく8月に、ニューヨークの国連本部にて開催された、「国連広報局/NGO 会議(UN DPI-NGO Conference)」にも参加し、SDGsに関する吉本興業の取り組みを発表させていただきました。会議の場で、『SDGsを考えはじめた人々』を上映した時は、会場内で大きな笑いが起こりました。こうした会議で笑いが起こるのは珍しいそうで、国際会議の場で日本の「笑い」が伝わるという嬉しい経験でした。
古賀:海外と国内の両方に目を向けているのですね。
生沼:国内では、ローカルな活動も積極的に取り組んでいます。北海道に下川町という、人口約3,400人、森林面積約9割、高齢化率約39%の高齢過疎化の町があります。
第1回「ジャパンSDGsアワード」にてSDGs推進本部長賞(内閣総理大臣賞)を受賞した町なんです。吉本興業は下川町と、SDGsの取り組みにおける包括連携協定を結び、持続可能な町づくりを目指し、今後は様々な連携を行ってまいります。
先程も申し上げましたが、SDGsの認知率はまだまだ高いとはいえません。さらにSDGsを広く知ってもらうためのアイデアを、これからも吉本興業は、様々な方々と一緒に考えていきたいと思っております。
古賀:これからの課題という点では、馬場学長、いかがでしょうか。
SDGsの目標を先導するような人材を輩出していきたい
馬場:生沼さんから、SDGsの認知率がまだ高くないというお話しがありましたが、学生の間でも、よく知っている人もいれば、そうでない人もいます。大学の正課、課外活動を通じて、さらに多くの学生にSDGsを知ってもらうことが必要です。そしてこれは、学生時代だけに必要なことではありません。生涯を通じて、自分もよりよく生きると同時に、他の人もよりよく生きていける社会の構築につながると考えます。同時に、研究の面でもさらに取り組みを進めていきます。
以前、創価大学を訪れた、ケニア出身のノーベル平和賞受賞者ワンガリ・マータイさんが「MOTTAINAI」を提唱しましたが、日本に古くからある、日常生活の中での節約の気持ちも大切にしていきたいと思います。
今、創価大学には52カ国・地域から留学生が集まり、学生の9%を占めます。グローバルな環境の中で、さらにSDGsの目標を先導するような人材を輩出していきたいと考えます。
古賀:私も、SDGsを自分の生活の中で実践していけるよう、これからも考えて、行動していきたいと思います。本日はありがとうございました。

創価大学学長 馬場善久
1953年生まれ 富山県出身。 創価大学経済学部卒
カリフォルニア大学サンディエゴ校経済学研究科博士課程修了。Ph.D.取得。
専門は計量経済学。創価大学経済学部講師、助教授を経て、教授となる。
教務部長、副学長を経て、2013年学長に就任。

1975年生まれ 東京都出身。
創価中学・高等学校を経て創価大学経営学部を1998年に卒業。同年に吉本興業に入社、マネジメントや番組制作を経て、現在はコーポレートコミュニケーション本部にてSDGsの取り組みの推進と、(株)よしもとクリエイティブ・エージェンシーの執行役員として、デジタルプロモーションを担当する。