Vol.47

悲しむ人を一人でも少なくしたい―生きる力を引き出す看護の実践でコロナに挑む

椿 青空 島根大学医学部附属病院勤務/看護学部2017年3月卒業

 国内での新型コロナウイルス感染症の拡大から、早1年半。ワクチン接種も推進されていますが、いまだその拡大の波は収まらず、報道等では対応に追われる医療現場の様子が伝えられています。
 本学の卒業生にも、イレギュラーな対応が求められた医療現場で奮闘するメンバーが多くいます。2017年に看護学部1期生として卒業した椿青空さんもその一人。重症化したコロナ患者を受け入れる島根県内のICU病棟で働く椿さんは、病棟内の感染症対策リーダーを務め、医療体制が逼迫した大阪コロナ重症センターへの派遣も経験されました。大変な状況下でも目の前の患者さんに寄り添う彼女の心には、大学時代に学んだ創大看護学部の指針が刻まれていました。今回の創大Daysでは、そんな椿さんに、現在の仕事の様子やコロナ禍での変化、大学時代の学びなどを語っていただきました。

現在のお仕事の様子を教えてください。

島根県内のICU病棟で働く椿さん
島根県内のICU病棟で働く椿さん

 創価大学を卒業後、地元の島根大学医学部附属病院に就職し、社会人1年目からICU病棟に勤務しています。ICUには、術後や重症の患者さんが入院されていて、中には人工呼吸器がついていたり、多くの点滴が必要であったりと、集中治療の必要な方々がいます。全身管理のために、採血や血圧など、1時間ごとに体調の変化を確認し、逐一アセスメントをして、懸念されることがあれば医師に報告しています。少しの変化が生死に関わるため緊張感がありますが、患者さん第一で寄り添うことを心がけ日々業務にあたっています。
 患者さんの命と向き合うからこそ、毎日が悩みや葛藤の連続です。先日、重篤な患者さんのご家族からお話しを伺う機会があり、「こんなに素晴らしい方なのに、なぜこのような重篤な状態に」と思い悩むことがありました。看護学部の恩師の先生に相談し、アドバイスをいただくなかで、「今いる使命の舞台で、患者さんとご家族の生きる力を引き出し、励ましを送る慈悲の看護に徹しよう」と決意しました。最期の時を、ご家族と一緒に患者さんのケアを行うことで、かけがえのない時間を過ごすことができ、ご家族には大変感謝していただきました。卒業して4年が経ちますが、今も創大看護学部での学びは続いています。
 私が看護師を志したきっかけは、幼いころに妹を病気で亡くしたことでした。当時の記憶はあまりありませんが、妹の写真を見て亡くなったことを思い出すたびに涙が溢れ、「悲しむ人を一人でも少なくしたい」と看護師になることを決めました。今の職場は、死と直面する場面もあります。どこまで患者さんやご家族に寄り添えているかわかりませんが、少しでも力になれるようにと、目の前の一人を大切にしようと日々業務に努めています。

コロナ禍での変化も大きかったのではないでしょうか。

 ちょうど昨年、病棟内での業務分担で私が感染係のリーダーを任されました。これはコロナの流行とは関係なく、毎年ある役職なのですが、島根でも感染者が発生するなど、例年とは異なる対応が必要でした。
 コロナ患者にどう対応すべきか、ガウンなどの着方や脱ぎ方、一つ一つのケアや業務がコロナならではの対応となるため、通常業務と並行してICU病棟としてのマニュアルを作成しました。また、ICUだからこそ必要な対策もあり、院内の感染対策の先生方と連携をとり、試行錯誤しながら対応に当たりました。実際にコロナ患者の方を対応させていただく中、遅くまで残って事務作業に追われることもありましたが、病棟内でのリーダーとして先輩方からも頼りにしていただき、貴重な経験が積めました。
 こういった経験から、本年4月には、感染拡大により医療体制が逼迫していた大阪への派遣スタッフのお話をいただき、現地で感染重症患者への医療に従事しました。

昨年は感染係のリーダーとして病棟内のコロナ対策に当たった
昨年は感染係のリーダーとして病棟内のコロナ対策に当たった

派遣された大阪での様子を教えてください。

逼迫した医療現場を経験したからこそ、感染症対策の重要性を語る椿さん
逼迫した医療現場を経験したからこそ、感染症対策の重要性を語る椿さん

 新設された大阪コロナ重症センターに派遣され、4月27日から約2週間、対応に当たりました。全国各地から集ったスタッフ約120名で、24時間入院患者さんに対応できるシフトが組まれ、1日中ガウンを着用した状態で患者さんの対応をしました。緊張感のある現場でしたが、少しでも患者さんのためになるよう、手足をお湯につけて石鹸できれいにしたり、丁寧にお声掛けしたりと、普段通りのケアに努めました。すると、患者さんは家族に対する心配を涙ながらに話してくださる場面や、「ありがとう」と感謝されることがたくさんありました。
 私自身、もともと災害派遣などの現場で力になれる看護師になりたいとの思いがあり、ニュースでの報道などを見て、機会があれば経験したいと思っていました。今回、島根大学からは私の他にも4人が派遣されたのですが、全国各地から集った方も経験豊富な年上の方がほとんどで、私にとっては学びの多い貴重な経験となりました。
 また、島根県でもコロナ患者さんを対応していましたが、派遣先では毎日のように重症者が転院搬送されてきました。高齢の方だけでなく、若い方もいました。誰が重症化してもおかしくない状況で、残念ながら多くの方が亡くなられる。そんな厳しい現実にとても衝撃を受けました。私は2週間だけの派遣でしたが、一緒に働いたスタッフの中には、センター立ち上げの初期から3ヶ月以上この現場にいる方もいました。看護師も人間です。精神的にも本当に大変です。それでも、使命感を持ってケアにあたられていることを感じました。
 今なお、国内の新規感染者が増加しています。他人事ではなく一人ひとりが、手洗い、消毒、マスク着用といった基本的な感染症対策をしてほしいと念願しています。

大変な医療現場では苦労も多いと思います。そんな中でも看護師として椿さんが大切にされていることは何でしょうか。

 看護師として働く上で、創大看護学部の指針は今でも心に刻み、その実践に挑戦しています。指針の一つに、「生きる力を引き出す 励ましの心光る看護」とあります。今、ICU病棟の看護師として、いつも人の命に関わっていますが、患者さん自身がいかに生命力を持って治療に臨めるかは、回復に向けて大切なことだと実感しています。そして、患者さんが生きる力を発揮し、より良い生活を送れるかは、毎日ケアに当たる看護師との関わり次第でもあります。そういった意味で、大学時代にこの指針に込められた思いを友人たちと深めあったこと、指針通りの看護を目指そうと学んだことは、自身の看護の姿勢の根本になっていると感じます。
 私は病院のロッカーに、この指針を掲げています。感染状況は予断を許さず、多忙な毎日ですが、白衣に着替えるたびに、私の創大生活が詰まった指針を確認し、原点に立ち返ります。遠くから支え続けてくれた両親への感謝の思い。一緒に笑い、頑張り、励ましあった友人たちとの思い出、悩み落ち込んだ日々と、そこから立ち上がらせてもらえたこと。「“創大看護学部1期生”として、今日も頑張ろう!」と決意しています。

職場のロッカーに掲げられた創大看護学部の指針
職場のロッカーに掲げられた創大看護学部の指針

大学生活で一番心に残っていることは何ですか?

病院実習最終日にお世話になった林先生、友人たちと
病院実習最終日にお世話になった林先生、友人たちと

 2年次後期の実習でグループリーダーを務めたことです。2年生になった頃、これからの自分の生き方について悩み、ひどく落ち込みました。勉強も手につかず、投げやりになり、将来の夢も大学卒業も諦めそうになっていました。しかし、5人兄弟の長女という経済的にも大変な状況な中、東京の大学に送り出してもらったからには、成長した姿で恩返ししたいとの思いもありました。
 そんな中で実習に向けた準備が始まり、“変わりたい”との思いからグループリーダーを志願しました。実習担当の林真理子先生は、普段からとてもパワフルで、それまでは正直苦手な先生でした。私は思い切って、林先生に自分の心境を打ち明けました。先生は悩みから抜け出せないでいた私を包み込むように励ましてくれ、「リーダーとしてメンバーのことを支えていく」責任感を教えてくださり、目標を見失っていた私に進むべき道を示してくれました。
 ここから徐々に、誰かのために頑張ることで、不思議と自分が元気になっていることに気付き、私の生き方が大きく変わっていました。実習においても、患者さんにどう触れたらいいのかなど、患者さんに寄り添うということがどういうことなのかを、林先生ご自身の姿を通して教えてくださいました。林先生は温かい人柄で、今でも何かあれば連絡をして話を聞いてもらっています。また、このとき一緒に実習に取り組んだ友人たちとは今でもお互いの近況を話します。模範となる先生、一生涯の友人に出会えたことは、私にとっての財産です。

最後に看護師を目指す後輩たちにエールをお願いします。

 私が今、看護師として働いて思うことは、学生時代に“看護実践力”はもちろんのこと、困難を乗り越えるための“人間力”を鍛えることが重要だということです。
 学生生活でも、実習や勉強で挫折しそうになることもあるかもしれません。大変なこともたくさんあり、悩みは尽きないと思います。しかし、看護師として現場に立つと、それ以上に大変なことの連続です。今、目の前にある壁をいかに乗り越えるか。学生時代にその一つひとつの壁に向き合い、挑戦していくことは、必ず自身の忍耐力となり、看護師として患者さんの命を支える力になると確信します。私自身、学生時代はたくさん悩みましたが、その分、成長できたことを実感しています。
 創大看護学部に進学していなかったとしても、私は看護師になり、今と同じ病院で勤務していたかもしれません。ですが、私自身の生き方、患者さんへの接し方、人の命と向き合う姿勢は全く異なっていたと思います。創価大学での学びが、私の人生を大きく変えてくれました。素晴らしい先生方と同じ志を持った仲間たち、そして思う存分学べる環境があります。学生らしく楽しみながら、“看護実践力”と“人間力”を身につけていってください!
 私も後輩の皆さんの道を拓いていけるよう、「創大看護学部1期生」の誇りを胸に、どんな場所でも真っ先に、まっすぐに伸び、他の植物を守り育む白樺の木のように、生きる力を引き出す看護を実践していきます。

つばき あおぞら Tsubaki Aozora
[好きな言葉]
賢者は喜び、愚者は退く
[性格]

興味を持つとのめり込む

[趣味]
ディズニーで遊ぶこと、BTSの音楽や映像を見ること、YouTubeでゲーム実況を見ること、高校生の妹が入部したことをきっかけに最近弓道を再開
 
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