「4方よし」で、掛川市を未来に向けてチャレンジできるまちに
石川 紀子 静岡県掛川市副市長
工学研究科情報システム学専攻(現:理工学研究科情報システム工学専攻)博士前期課程2001年修了/学部25期
近年、地方自治体の間で広がる外部人材の登用。2022年4月、静岡県内初の民間から公募した副市長として掛川市副市長に就任したのが、本学卒業生の石川さんです。大学院修了後に入社したNECでダイバーシティ推進や人材育成に携わり、昨年行われた公募で応募者約1500人から副市長に選ばれました。今回の創大Daysでは、民間企業でのさまざまな経験を活かして行政に転身し、未来に向けてITやデジタルを活用した人づくり、街づくりをスタートさせた石川さんに、現在の取り組み、今後の展望、学生時代に学んだことなどについて語っていただきました。
副市長に就任されて約5カ月が経ちましたが、今の率直なお気持ちをお聞かせください。
本当にあっという間で、毎日が発見の連続でしたね。掛川市の歴史や地域特性、住民のみなさんの魅力など、小さなことも含めて毎日一つは驚くような発見があって面白いですし、とてもワクワクしながら日々職務に当たっています。これまで民間で働いてきましたから、行政での仕事は初めてで、まだ不慣れなところもあるのですが、掛川市の久保田崇市長や行政経験豊富な高柳泉副市長、職員のみなさんにサポートしていただきながら、自分らしく新しいキャリアを歩み出せていると思います。
副市長として、現在どのような業務に取り組まれていますか。
私が掛川市でリードしていくのは、主に「DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進」「広報・シティプロモーション」「働き方改革」「ダイバーシティ経営」の領域です。前職のNECでは、幸せなことに、新事業共創、企業変革、広報、ダイバーシティ推進、人事など幅広い業務に携わりました。その経験とスキルを活かし、掛川の未来と発展に貢献していくことが私の役割だと考えています。そのために、現在はできるだけ市民の方々と直接対話する時間を作り、地域の課題や本音をお聞きすることに力を注いでいます。
みなさんに安心して課題を共有していただくために大切なのは、顔を合わせて心の距離を近付けること。幅広い方々とお話しするよう心掛けていて、意見交換会に参加してくれた高校生とLINEでやり取りしてたりもするんですよ。“NEC出身でDXを推進する副市長”という情報だけだと、「冷たそう」「デジタル機器が使えないと置いてけぼりになるんじゃないか」というイメージになってしまいかねないと思い、私のこれまでのキャリアや、どんな経験が掛川市に活かせるかをできるだけオープンにお話ししながら、「デジタルはあくまでも地域課題を解決する手段です。直接みなさんとコミュニケーションを取ることを大切にしています」という思いをしっかり伝えています。
副市長の募集に応募したのはどのような思いからでしょうか。
私と掛川の関わりは、2018年にプロボノ(ビジネススキルを活かしたボランティア活動)で「掛川葛布利活用推進プロジェクト」に参画したことに始まります。地域の伝統工芸品を盛り上げるために掛川の方々と一緒に活動する中で、地域に貢献したいというみなさんの思いの強さに感動し、プロボノが終わってもぜひまた別の形で掛川のまちづくりに携わりたいと感じていました。
それとは別に、キャリアチェンジを考えるきっかけになったのは、人事担当時代に行った自分のキャリアの棚卸しです。過去の経歴を振り返るだけでなく、大切にしたいこと、やりがいを感じること、将来どんな形で世の中に貢献していきたいかなど、自分の強みや思いを見える化し、自分のぶれない軸を見つけられたのは大きな収穫だったと思います。その時に見つけた私のぶれない軸は「世界の平和、民衆の幸福という使命を忘れることなく、真摯にチャレンジを続ける(学び続ける)」ということ。そしてこの軸は、働く場所や住む場所にかかわらず、さまざまな立場で取り組めることだという気付きもありました。
掛川との関わり、キャリアの棚卸し、さらに入社20年目の節目が重なったのが、ちょうど2021年で、その年の秋に掛川市の副市長の公募が始まったんです。新しい副市長に求められる役割は、DX推進や働き方改革など、私がNECで経験してきた経験を活かせる内容ばかりで、これは応募するしかないと思って迷わず決断しました。
大学ではどのような学生生活を過ごされましたか。

創価大学には、建学の精神、人間教育、学生第一の大学であること、交換留学先やグローバルカリキュラムの豊富さなどに魅力を感じて進学を決めました。工学部情報システム学科(当時)に入って通信工学を専門に研究し、大学院にも進みました。思うように研究が進まず、つらい時期もありましたが、研究室を超えてたくさんの先輩や先生方にご指導、励ましをいただいて、海外の国際学会で研究発表をすることもできました。また、研究をする中で、迷いが生まれた時に「そもそも何のために」と原点に立ち返って考える習慣が身についたことも、社会に出て役立っています。苦労の中にも、楽しさや喜びを感じながら成長できた6年間でした。
学生時代でもっとも印象深く、人生に大きな影響を与えているのが、4年次に交換留学制度で1年間スペインのバルセロナ大学で学んだ経験です。スペインでは、日常生活の中で自然に多様な文化や考え方に触れることができ、例えば当たり前にLGBTQの仲間がいて、周囲はそれを自然に受け入れているという環境の中で、自分の価値観の幅を広げ、柔軟な思考力を養うことができました。多様な考えを持つ仲間と互いに力を発揮し合うことで、大きな力やイノベーションが生まれる経験もしました。まさに、今私が取り組んでいるダイバーシティ&インクルージョンを自分事にできる留学だったと思っています。
今後の抱負をお聞かせください。
私のモットーは「共創で4方よし」。ビジネスの世界でよく言われる「3方よし」は売り手よし、買い手よし、世間よしですが、私はさらに「未来よし」も大事にしたいと思い、この言葉を作りました。立場や業界の違いを超えてそれぞれが強みを持ち寄り、後世の人たちにもプラスになるよう、共創で課題を解決していくことが、持続可能な社会をつくっていう上でとても重要だと思います。このモットーに力をもらいながら、掛川らしさ、掛川の良さを大切にし、地域のみなさんとの共創で「いつでも、誰でも、何度でもチャレンジできるまち、掛川」「だれからも安心して選んでいただけるまち、掛川」の実現をめざしていくことがこれからの私の役割です。
先ほどもお話ししましたが、掛川のみなさんは地域に対する思いが強く、一歩踏み出してチャレンジしやすい土壌があると感じています。チャレンジにはさまざまな形があり、起業して社会課題を解決するといった大きなこともそうですし、1日1日真面目に丁寧な仕事をすることもチャレンジです。ダイバーシティ&インクルージョンの定着には時間がかかりますが、少しずつ前に進め、どんな人でも「掛川なら自分らしく安心してチャレンジできる」と感じられる地域をつくっていきたいと考えています。その過程で大きな力を発揮するのが、ITやデジタル技術です。新しい技術やデータを活用することで、効率化はもちろんですが、これまでにない新しい価値を生み出したり、今まで解くことが難しかった課題の解決を図ったり、一人一人に寄り添った多様なニーズに応えることができるようになります。すべての方が安全に、安心して、公平にチャレンジできるまちの実現を可能にします。さまざまな取り組みをしながら、観光だけでなく、働いたり学んだりする場所として選ばれる掛川になるよう、魅力を広く発信する広報活動にも力を尽くしていきたいです。将来、「石川を副市長に招いて良かった」と言っていただけるよう、掛川の発展に貢献していきたいと思っています。今、掛川ではさまざまな改革が始まっています。私も住民のみなさんと一緒にチャレンジを続けていきますので、ぜひ全国のみなさんも掛川に注目していただきたいですね。
創価大学へ進学を考えている後輩たちにメッセージをお願いします。
創大には、学びたい、成長したい、チャレンジしたいという思いがあれば、それを全力でサポートしてくださる先生方、職員のみなさん、先輩や仲間がいます。本当に親身になって一人一人の学生に向き合ってくださる学生第一の環境は、ここにしかないものだと思っています。また、社会に出る準備に役立つ充実したカリキュラムがあることも創大の魅力です。企業のトップが経営を語る授業、実践的なビジネススキルが身につく授業、さらに、交換留学制度をはじめ、グローバルな課題に向き合えるプログラムもあります。ぜひ創大で学び、これからのグローバル社会で通用するスキルや知識、対話力を身につけていただきたいですね。
今回のインタビューのためにあらためて自分の学生時代を振り返って、創大には、まさに今私が実現をめざす「いつでも、誰でも、何度でも、安心してチャレンジできる」環境があると感じました。自分の可能性を信じ、自分らしい学び、成長、チャレンジをしたいと考えてるみなさんには、本当におすすめしたい大学です。
[好きな言葉]
英知を磨くは何のため 君よ それを忘るるな
[性格]
超ポジティブ
[趣味]ジャズ(演奏)
[最近読んだ本]
- 両手にトカレフ/フレイディ みかこ
- お探し物は図書室まで/青山 美智子
- 生き方/稲盛 和夫