Vol.60

国際機関で働く土台を作った創大GCPでの学び

岩城 貴子 
International Monetary Fund Strategy, Policy and Review Department(国際通貨基金戦略政策審査局)/リサーチ・アナリスト

経済学部経済学科 2016年3月卒業/学部41期

 国際協力の現場で働きたいという夢に向かい、在学中にグローバルシティズンシッププログラム(GCP)で英語力と課題解決力を高めた岩城貴子さん。留学や海外研修を通して途上国の現状を肌で感じ、知識と実践を積み重ねて自分の進むべき道を切り拓いていきました。現在、国際通貨基金(IMF)で働く岩城さんに、努力を重ねた学生時代の経験や国際協力で成し遂げたいことを語っていただきました。

現在のお仕事、大学卒業後のキャリアについて教えてください

 アメリカ・ワシントンDCにある国際通貨基金(IMF)本部で、リサーチ・アナリストとして働いています。経済危機に直面する加盟国のニーズに応える融資プログラムの提案や、危機に備える予防的融資プログラムを提供する部署に所属し、プログラム立案に必要なデータ収集と分析、実行中のプログラムに対する審査で得られた情報の評価、データベース管理などを担当しています。
 2016年に創大を卒業した後は、将来国際機関で働くことを視野に、外資系金融機関に就職しました。世界中の地域オフィスの同僚と協働して業務を進めた経験は、今の職場でも大いに役立っています。2020年、目標だった国際協力の分野に挑戦するため、アメリカのジョンズ・ホップキンス大学の高等国際関係大学院に入学。2年間国際開発学と国際経済学を専門に研究し、2022年7月からIMFで働いています。

国際協力に興味を持ったきっかけは?

GCPフィリピン研修の様子
GCPフィリピン研修の様子

 広い意味での「国際協力」に関心を持ったのは、小学生のころだと思います。当時から読書が大好きで、中でも海外の偉人の伝記を読むのが好きでした。ナイチンゲール、キング牧師、マザーテレサの伝記は何度も読み、社会のため、人のために貢献する生き方に感銘を受けたことを覚えています。高校時代には、授業でフィリピンのごみ山で生活する少女のドキュメンタリーを見て、子どもが学校にも行けずにごみを拾って生計を立てなければならない貧困の実態に衝撃を受けました。将来世界の貧困問題の解決に携わりたいと考えるようになったのは、そのころでしたね。
 国際協力や貧困問題に対する漠然とした思いが「国際機関で働く」という具体的な目標に変わったのは、大学に入学した後のことです。特に、ハイレベルな英語力や課題解決力を養うグローバルシティズンシッププログラム(GCP)で参加した海外研修が大きな転機になりました。1年次終了時にフィリピンで米農家の経済状況に関するフィールド調査を行ったのですが、それまで文字や映像を通してしか知らなかった途上国の状況を自分の目で見て、肌で感じ、自分の人生をかけて貧困や途上国経済の課題に取り組んでいきたいと強く思うようになりました。

GCPでの学びはどのようなものだったのでしょうか

 GCPは学部横断型の特別プログラムで、所属する学部の講義と並行してGCPプログラムの科目を履修します。私がGCPを通して身についたと感じるのは、アカデミックな英語力と思考力です。GCPでは世界の諸問題について英語でリサーチペーパーを書く機会が多く、徹底的にアカデミックライティングの力が鍛えられます。そのおかげで、大学院ではほぼすべての授業で最高評価の成績をいただきましたし、特にエッセイは高い評価を受けることができました。ある授業で書いたリサーチペーパーが上位5%の評価を受け、学内の論文サイトに掲載された時はうれしかったですね。また、GCPのプログラムゼミでは、現代社会の諸問題に対してグループで課題設定、リサーチ、原因追究、解決策提案の流れを実践し、思考力や課題解決力が養われました。こうした力は国際機関で働く上で必須のものです。大学時代に経済学部で学んだ経済学の基礎知識とGCPで高めた力は、まさに私のキャリアの土台になっていると感じています。

3年次には交換留学も経験されていますね。留学中の経験はその後の学びやキャリアにどのようにつながっているのでしょうか

 アメリカのデラウェア大学に1年間留学しました。留学先では、途上国の経済やジェンダー格差に関する知識を深めるため、開発経済学、労働経済学、女性学、女性と経済などを授業で学び、1カ月間のインド研修にも参加しました。インド研修では、現地の女子大学生と交流しながら、「女性である」というだけで不利益を被ったり差別的発言を受けたりしているという彼女たちの経験を直接聞き、性別による差別に対する課題意識をより強くしました。
 帰国後は、そうした課題への考えをさらに深めるため、開発経済学を専門とする西浦昭雄先生のゼミに所属しました。ゼミ活動の一環で、「女性の経済参加促進」をテーマに学生の研究発表コンテストに出場したのですが、その調査過程では、慣習や文化によって男性が育休制度を活用しにくく、それが女性の経済参加を阻害している日本の現状を目の当たりにしました。この経験をきっかけに、経済参加における男女格差、女性の経済的自立を研究したいと考えるようになり、大学院ではアジアにおける女性の金融包摂(金融サービスを誰もが利用できるようにすること)について、アメリカの国務省との共同研究に取り組みました。大学時代からの学びや経験が点と点を結ぶようにつながり、自分が進むべき道を見つけることができたのだと思っています。

アメリカのデラウェア大学の1コマ
アメリカのデラウェア大学の1コマ

創大での学生生活でどんなことが思い出に残っていますか

キャリアサポートスタッフの仲間
キャリアサポートスタッフの仲間

 入学してから2年間は、経済学部の授業が終わった後にGCPの授業があり、とにかく勉強漬けの日々でしたね。授業がない時間はほとんど図書館にこもり、学部の課題とGCPの課題に取り組んでいました。「大変だな」という思いもありましたが、将来やりたいことのために必要な学びだと位置づけていましたし、世界の諸問題について少しずつ知識が身につき、視野が広がるのを感じられる毎日は刺激的でした。励まし合える友人たちもいましたから、割と楽しく頑張れていた気がします。そのころの友人たちとは、それぞれの分野で活躍するようになった今も頻繁に連絡を取り合い、励まし合う関係が続いています。
 また、2年次には課外講座のグローバルリーダーカレッジに参加して母校に貢献する卒業生の先輩方の姿に感銘を受け、卒業前の半年間はキャリアサポートスタッフとして後輩のサポートに奔走しました。さまざまな活動を通して生涯の仲間に出会うことができたことが、大学時代の一番の思い出です。

今後、ご自身のキャリアを通してどのようなことを成し遂げたいですか

 留学中に感じたジェンダー格差への課題意識を出発点に、経済参加の男女格差に目を向けたゼミ活動、金融業界での実務、さらに大学院での研究を経て、私は今「女性の金融包摂や途上国の金融セクターの開発に貢献したい」という長期的な目標に向かってキャリアを重ねています。
 現在の日本では、多くの夫婦が結婚後もそれぞれの銀行口座を持っています。しかし途上国では、一つの家庭に銀行口座は男性名義の一つだけ、という場合が珍しくありません。金融機関との接点を持たない女性は、家庭のお金をコントロールできず、雇用もされにくい状況に置かれています。さらに、貯蓄や融資についてのリテラシーにも男女差があり、銀行にお金を預けることに不信感を持っている女性もいます。そうした状況を改善し、女性の金融アクセス向上を図るには、社会に根付いた習慣や教育格差など、さまざまな分野にまたがる課題を解決していく必要があります。
 女性の金融アクセス向上は、女性のエンパワーメントに重要な役割を果たします。これからのキャリアを通して、女性の経済的エンパワーメント、経済的自立の促進に貢献していきたいと考えています。さらにその先にあるのは、性別や国籍に関係なく、すべての人が尊厳を輝かせながら生きることができる社会です。すべての人が平等に機会を与えられ、それぞれが生きたいように生きられる。そんな社会を実現する力になれるよう、力を尽くしていくつもりです。
 ここ数年だけを見ても、新型コロナウィルス感染症、米軍のアフガニスタン撤退とタリバンの復権、ロシアのウクライナ侵攻など、世界情勢は大きく揺れ動き、さまざまな危機が人々を襲っています。国際的な支援を必要とする人が日に日に増える今、あらためて国際機関の重要性、さらに私自身の仕事の重要性を痛感しています。混沌とした時代だからこそ、自分の進む道を見失わず、諦めず、貫いていきたいと思っています。

創大への進学や国際協力に興味を持つ後輩たちにメッセージをお願いします

 創大は「思いを形にできる場所」だと思います。入学したころの私は「国際協力の分野で働きたい」と強く決意していたたわけではなく、「そうなるといいな」くらいの軽い気持ちでいました。それが「本気でめざそう」という姿勢に変わったのは、大学生活の中で志を同じくする仲間、教職員の方々のサポート、そして素晴らしい大学の施設や環境があったからこそだと感じています。後輩の皆さんは、創大の環境を最大限に活かして、存分にやりたいことに挑戦してください。壁にぶつかっても、一歩一歩地道に取り組んでいけば、たとえ時間がかかってもきっと自分だけの道が開かれるはずです。私もまだスタートラインに立ったばかりですが、今いる場所を挑戦の場と定め、目標に向かって前進していきたいと思っています。

岩城 貴子 Iwaki Takako
[好きな言葉]
Where there is a will, there is a way
[性格]

楽観主義

[趣味]
音楽を聴くこと
[最近読んだ本]
Invisible Women: Data Bias in a World Designed for Men/ Caroline Criado Perez
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