企業の動きから社会を読み解く経営学で ウィズコロナの働き方を考えてみよう

2020年08月21日 18時44分

教員インタビュー!第4弾・里上 先生に聞いてみました!

    「当たり前」ってほんとうかな?
    経営学は多様な現実から学んでいく


     私は経営学の中でも人々が人生の多くの時間を費やす「労働」、つまり働き方に関心を持って研究しています。 
    働き方や労働についての考え方は国や地域、世代の違いに加え、その人の置かれた状況によっても変わってきます。企業がどのように人を採用し、能力を活用するかも国や時代によってさまざまで、私たちの働き方はその両方のバランスの上に成り立っています。
     ですから、今私たちが何となく「当たり前」と考えていることも、何か条件が変わればまったく違うものになるかもしれないのです。

     「大学には経済学部と経営学部があるけど、どう違うの?」とよく聞かれます。たまたま私の出身大学には経済学部しかなく、経済学部で経済学と経営学の両方を学びました。このような学部構成になっている大学が少なくないほど、この2つは密接な関係にあります。
     経済学では、個人も企業もみな「経済的合理性」(自分の利益を最大にすること)に基づいて行動するはずだとして、経済の動きを説明するさまざまな理論が作られています。そういった理論を学びたいなら経済学部がよいでしょう。
     一方、経営学はもっと私たちの日常に近い学問です。たとえば起業して会社を経営するのは、経済的合理性(お金を儲けたい)からだけとは限りません。社会を変えたいからとか、自分のやりたいことをするためとか、いろいろな動機があると思います。経営学は「この現実からは何が言えるのだろうか」と実際に世の中で起こっていることを分析し、これからの経済活動や社会がどうなっていくのかを考えるという方法をとります。

     置かれている環境が違えば、価値観も考え方も違うはず。そこから社会を考えていく経営学の方法は、多様性(ダイバーシティ)やSDGs(持続可能な開発目標)の大切さがいわれ、世界がコロナ禍を経験した今、これまで以上に重要になってくると思います。



    小学生で芽生えた社会への関心を
    一生の仕事にする研究者になりたい


     小さいころから新聞を読みニュースを見るのが好きだった私は、科目では社会科が大好きでした。小学5、6年生になると中学受験に時事問題が出題されることもあり、さらに世の中の動きに関心を持つようになりました。
     ちょうどそのころ、社会主義国家だった旧東ドイツと旧西ドイツを隔てていた「ベルリンの壁」が崩壊します。人々がハンマーをふるって壁を壊し、抱き合い喜び合う映像がTVでも放映されました。たまたま塾の友達がベルリンから「壁のかけら」をお土産に持ち帰ったこともあり深く記憶に残りました。これがのちに私の研究テーマにつながることになります。

     
     私が通っていたのは、都内にある中高一貫の女子校です。体育祭や文化祭などの学校行事やクラブ活動が盛んで、みんながそれぞれに何かに熱中する学校でした。私はオーケストラ部でビオラを弾き、部長も務めました。授業も「調べ学習」に力を入れていて、自分でテーマを決めて新聞記事を集めてまとめたりするのが楽しかったですね。
     
     進路指導も「大学はそこでやりたいことがある人だけ行けばいい」というのが基本で、同級生には専門学校や留学はもちろん、大阪の割烹料理店で修行する道を選んだ人もいたくらい進路は多彩でした。
     私は社会科学を勉強してそれを仕事にしたいと思うようになり、大学に残って研究することに魅力を感じていましたから、まずは大学に進学する必要がありました。
     都内の大学なら自宅から通うことになりますが、親元を離れて下宿したかったのです。幸い両親が関西の出身で「京都大学に受かったら下宿してもよい」と言うので、将来研究職に就くのにも有利そうな京都大学を志望しました。
    社会科学系の学部は法学部と経済学部の2学部だけで、法律家を目指すつもりはなかったので経済学部に進学しました。



    「ベルリンの壁崩壊」に導かれ
    大学で研究テーマを模索する


     学部2年生のときに「計画経済論」という授業がありました。1989年から1991年にかけて旧社会主義国は一気に民主化し、市場経済化していきます。この授業では、ソ連を中心とした社会主義国家がどのように成立して経済が動いていたのか、またなぜこの時期に多くの国が市場経済化したのか、市場経済化はどのように行われたのか、といったことについて学びました。
     そこで思い出したのが、子どもだった私に強い印象を残した「ベルリンの壁」の崩壊です。「あれはいったい何だったんだろう?」と改めて思いました。そして「ベルリンの壁崩壊とその後」を自分なりに掘り下げてみたいと、その先生のゼミに入りました。
     世界には自分の親しんだものとは全く違う常識で動いている社会がある。さらに、社会や国家の前提さえも大きく変わることがある。その変化のしかたに私は興味があるのだと感じました。

     ベルリンの壁崩壊は新しい未来を予感させるような報道のされ方をしていました。しかしゼミで学んでみると、90年代には混乱が続き、必ずしもみんなが幸せになったわけではありませんでした。「あんなに希望に満ちて始まった民主化なのに、その希望はどこに行っちゃったの?」というのが、私の研究の発端でした。

     私は統一後のドイツを対象に「国営企業が民営化されたときに、誰が得をしたのか」をテーマに卒論を書き、修士課程では旧東ドイツ内の地域格差の問題を扱いました。でもテーマが広すぎて修士論文がうまくまとまらず、自分でも満足できませんでした。博士課程に進んで悩みながらたくさん本を読むうちに「そうだ、労働を軸にして分析してみよう」とひらめいたのです。

     労働の形=働き方は、国によって違います。そして働く動機やどこで働くかは、人々の生活に密接に関わっています。また誰をどれだけ雇うか判断するのは企業ですから、企業の側から労働を見ていくこともできます。
     それが、企業と働く側の双方が得をする関係を築くには何が必要かという、今の私の大きな研究テーマにつながっているのです。



    自分が、そして他の誰かが働く場として
    身近な企業のことを考えてみる


     私が担当する企業論の授業の初回には「自分とかかわりのある企業を5つあげてください」というアンケートをします。あなたならどんな企業をあげるでしょうか。
     ほとんどの学生は、自分が商品やサービスを購入している企業名を書きます。でもそれでは企業の一面しか捉えていません。家族の勤め先や、将来の自分が「働く場」としての企業のことももっと考えてほしいと思います。
     おそらくみなさんの世代は70歳まで働くことになるでしょう。22歳で大学を卒業すればほぼ50年です。企業というのは世間の人々がそれだけの膨大な時間を費やしている場ですから、企業が従業員をどう雇って働かせるかは私たちの社会や日常生活にも大きな影響を及ぼします。

     自分が消費者として関わる企業にも、必ずそこで働く人々がいます。その人たちの働き方を考えてみましょう。
     たとえば美味しいチョコレートが驚くほど安い値段で売られています。子どもたちが学校に行かず低賃金で働かされているからその値段で販売できるとしたら、あなたはそれを買って食べるでしょうか。
     フェアトレード商品のように生産する人たちに正当な対価を払っている商品は安くはありません。でも、そのような商品やサービスの方を選ぶようにすれば、消費者のニーズに敏感な企業の活動に影響を与え、社会を少しずつ変えることもできるのです。

     
     現実から企業活動が学べる例を一つ上げましょう。あなたが着ている衣類のタグを見てください。もしTシャツのタグに「ベトナム製」とあったら、いつからそこで作られるようになったのか調べてみましょう。その背景として何が考えられるでしょうか? たとえばそれまで主要生産国だった中国国内の賃金が高くなり、仕事がベトナムに移って行ったのではないかという仮説を立てることができます。
     お店に行ってタグを見ると、同じブランドでも服によって生産国が違うことに気づくでしょう。ベビー用品は中国で作られていることが多いです。なぜそうなっているのだと思いますか?
     これについても、どのような商品がどこで作られたのか分類してみると、要求される技術レベルによって生産国が違うのではないだろうか、といった仮説を立てることができます。このように、「衣類のタグ」と行った毎日目にしているものからでも、いろいろなことが読み取れる可能性があるのです。

    新型コロナウイルスによってあぶり出された現実が
    個人も企業も働き方も変えてゆく


     いま世界中の人たちがコロナ禍に直面しています。それは国の体制が変わる以上に、私たちの生活のルールを大きく変えていくはずです。
     その中で私たちを含む人々はどう動き、企業はどう変化するのでしょうか。こういう時代にこそ現実に沿って「違い」や「多様さ」を重視する経営学の強みが発揮されるのではないかと思います。

     授業も、友達との会話さえオンラインになった学生もいれば、自宅にインターネット環境がなくて授業に参加できない人もいます。世の中にはステイ・ホームが可能な人だけではありません。外出自粛でも働きに出なければいけない人も、自宅の居心地が悪くて公園にいる人もいるでしょう。
     そこにはさまざまな事情、価値観や生活状況の違いがあります。この機会になぜその違いが生まれたのか考えてみてください。それが私にとっての「ベルリンの壁」のように、学びを深める入り口になってくれるはずです。

     私の専門分野でいえば、リモートワークをきっかけに働き方が変わり、雇用も変わっていくでしょう。これまで企業にとって最も使いやすいのは、長時間労働を提供でき単身赴任もOKな男性であると言われてきました。しかし今後リモートワークが当たり前になれば、企業が従業員に求める条件も変わってきます。
     また、緊急事態宣言で子どもたちが学校にいけなくなったとたん、共働きであっても妻に家事や育児の負担が大きく偏っているケースが珍しくないということが、いろいろな形で露呈しました。しかし同時に、そうした問題点が明らかになることで、解決に向けた動きが活発化してきたことも事実です。
     本学の経営学部には女子学生も多いので、女性の働き方、雇用のされ方、企業の女性活用策が今後どのように変化するかも注目したいところです。



    (里上三保子講師:プロフィール)
    京都大学大学院経済学研究科 現代経済・経営分析専攻 博士後期課程 修了
    京都大学経済研究所 リサーチアシスタント
    立命館大学、龍谷大学、関西福祉科学大学 非常勤講師
    ページ公開日:2020年08月21日 18時44分
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