メンバーのチーム力で創大へのシェアサイクル導入を実現
経済学部経済学科 掛川三千代ゼミ
婦木航平さん(2024年3月卒 学部50期)、越村清志さん(2024年3月卒 学部50期)、山内志穂さん(経済学部経済学科4年)2024年4月、創価大学に学生や地域住民が利用できるシェアサイクルが導入されました。経済学部の掛川三千代ゼミの学生による八王子市への施策提言が実を結んだもので、CO₂の排出削減や気候変動対策に対するゼミでの学びが、社会での実践につながりました。学生たちがどのような思いでこのプロジェクトに取り組んだのか、研究メンバーを代表してチームリーダーを務めた婦木航平さんにお話を聞きました。
所属していた掛川ゼミの研究分野について教えてください。
掛川ゼミは、経済学の中でも「環境経済学」を学ぶゼミです。環境経済学は、経済学の視点から環境問題をとらえ、解決しようとする学問分野です。利益の追求や市場原理といった経済学の考え方は、どちらかといえば環境問題の解決と相反するイメージを持たれていますが、私たちのゼミでは、経済活動を通して脱炭素やSDGsの実現を図ることを目指し、学びや研究に取り組んでいました。
研究テーマとしてシェアサイクルに着目したのは、どのような理由からですか。
実はこの研究は、最初から八王子市への施策提言を目的としていたわけではなく、元々は経済学部で毎年行われるゼミ対抗論文大会のためにスタートさせた研究でした。気候変動対策という大きな枠組でテーマを検討する中で、私たちは、日本では自動車など運輸部門のCO₂排出量が多いこと、さらに東京都内の自治体でも八王子市は自家用車からのCO₂排出量が多く、市が発表した将来的なCO₂排出削減量の見込み数値も低いことから、「八王子市における自家用車からの排出量削減」に着目しました。そして、脱炭素を進める上で、自動車に代わる移動手段として目を付けたのが、当時、八王子市でも実証実験を行っていたシェアサイクルでした。
研究テーマが決まった後、どのような過程を経てシェアサイクルの導入に至ったのでしょうか。
八王子市のCO₂排出量削減に向けた研究は、私たちが3年生だった2022年のゼミ合宿で本格的にスタートしました。先行事例の分析、シェアサイクルに関する市民アンケートなどを通じた研究成果をまとめ、11月のゼミ対抗論文大会で発表を行いました。しかし、私たちはそこで研究を終えるつもりはありませんでした。なぜなら、研究を進める中で、チーム全員が「大学にシェアサイクルを導入する」というさらに大きな目標を共有していたからです。その後も、掛川先生に勧められて、大学のSDGs推進センターが主催するSDGs対話・ネットワーキング会合への参加などを通じて、学外の専門家からもアドバイスをもらい、研究をブラッシュアップしていきました。また、掛川先生から、「ここまで頑張ったのだから、八王子市の担当者に施策提案をしましょう」との提案があり、市役所の担当課の方々に対し、研究発表と意見交換をする場をアレンジしてもらい2023年2月、市の担当課にシェアサイクル利用促進に向けた研究成果を発表し、施策提言を行いました。担当課の方々も真剣に聞いてくださり、「皆さんの研究成果をシェアサイクルの実証実験をしている事業者とも共有し、今後のことを話しあってみたい」とのコメントも頂きました。これが契機となり、2023年4月には市とシェアサイクル事業者から大学に導入の提案があり、学内でのニーズ調査、全学協議会での決定を経て、2024年4月26日に、理工学部棟横の駐輪場に導入が実現しました 。
¹2024年6月7日に、創大門駐輪場、及びオレンジパーキング駐輪場にもシェアサイクルが設置されました。(合計3箇所に設置)
施策提言までの過程ではどのような苦労があったのでしょうか。
苦労したのは、「環境問題を解決すること」と「ビジネス」を実際にどう両立させるかという点です。SDGs対話・ネットワーキング会合では、私たちのプレゼンに対して学外の専門家の方から、シェアサイクル事業そのものの将来性や、学内にシェアサイクルを導入して本当に収益を上げることができるのか、といった厳しい指摘をいただきました。その指摘をもとにさらに研究を深めて、データによる裏付けを進めた結果、政策提言では、若者が多い創大周辺にシェアサイクルのポートが少ないこと、認知度を高めて利用しやすい価格帯にすることで高い利用率が見込めるという点をしっかりと示すことができました。 また、実際にシェアサイクルを導入するまでには、事業者、行政、学内の関係部署など、さまざまなステークホルダーとの連携が必要で掛川先生もサポートしてくれました。思うように進まないことに停滞感やストレスを感じたこともありましたが、そうした経験から、他者とポジティブに協働することの大切さを学ぶこともできたと思っています。
リーダーとして工夫したことや苦労したことはありましたか。
研究のスタートから全員が一丸となって取り組んでいたわけではなく、当初はなかなか前向きになれないメンバーもいましたし、就職活動やアルバイトで多忙な人もいました。そうした状況に、リーダーとして不安を感じることもありましたが、転機になったのは、私の発案で「研究発表にとどまらず、大学にシェアサイクルを導入する」という明確な目標を掲げたことです。この目標によって、研究が単なるゼミ活動ではなく「創大に貢献する活動」になり、その実現にメンバーがロマンを感じてくれたことが、チーム全体のモチベーションアップに繋がったにように思います。また、チームビルディングの面で意外に役立ったのが、全員で富士急ハイランドに遊びに行ったことですね。絶叫マシンやお化け屋敷で一緒に怖い思いをして感情を共有したことが、メンバー間の繋がりをより強固なものにしてくれました。
ゼミの研究活動がシェアサイクル導入という具体的な成果に繋がったことを、どう感じていますか。
チームの仲間と一緒に真剣に研究に取り組み、形に残る結果を示すことができて、心の底から嬉しかったです。ただ、それはどちらかと言えば個人としての感想で、チームリーダーとしては「ほっとした」という気持ちの方が強かったかもしれません。ゼミのメンバーは全力で研究に集中してくれましたし、メンバーを支える家族もこの研究を応援してくれていました。私たちが大学生活を送ることができるのは当たり前ではなく、学びをサポートしてくれる家族の力あってこそだと思っています。研究が社会実装され、メディアを通じて発信されたことで、支えてくれたメンバーの家族の期待にも応えることができました。研究の“言い出しっぺ”としての責任を果たすことができ、安心しました。
今回の研究を通して、婦木さんご自身はどんなものを得られたと思いますか。
まずは、仮説を立てて検証を繰り返すことで論理的思考力を高めることができたと思います。シェアサイクルが実際に導入されるまでには、さまざまなハードルがありましたが、できない理由を考えるのではなく、実現するための手段を考える力も付いたと思っています。専門家の方からの指摘を受けた後、諦めることなくさらに分析を深め、そこから見出せたものも多くありました。そして何より、チームで目標を達成するためには「敵を作る戦い」ではなく「味方を作る戦い」が大切であることを学ぶことができたのは、大きな収穫だったと感じています。また、掛川先生には、常に相談にのってもらいアドバイスを頂きましたし、実務家や市役所に繋げてもらったりと、研究を社会実装に繋げていける道筋を作って頂きました。心から感謝しています。新しいことにチャレンジし、ゼロから1を生み出した経験は、学生生活のかけがえのない財産になりました。
大学生活や学びを振り返って、創価大学を目指す後輩のみなさんにメッセージをお願いします。
私は「感じるのは自由、でも行動は試されている。そして結果が問われている」という言葉が好きです。創大は、学問的な学びを得られるのはもちろん、学内組織での活動、さまざまな文化を持つ学生との交流などの機会も豊富にあり、いろいろなことを「感じる」チャンスに恵まれた大学です。ただ、感じただけで終わらせてしまうのは、とてももったいないと思います。創大での大学生活を通じて、感じたことを行動で体現し、成果を残せる人に成長してほしいです。 実際にシェアサイクルが設置されたのは、私たちの卒業後になりましたが、同期で在籍しているメンバーが、シェアサイクルの広報ポスターを作成してくれました。また、私たちが始めたシェアサイクルの取り組みは、掛川ゼミの後輩たちが引き継ぎ、今年度は、気候変動対策への効果の測定や検証を続けていくと聞いています。このように、ゼミの期や学年を超えて、皆で協力していく流れを続けていけば、より大きな成果に繋がると期待しています。「学んで終わり」ではなく、学んだことを実践し、さらに大きな目標に向かう環境が創大にはあります。ぜひ創大でしっかり学び、その機会をつかみ取ってほしいですね。みなさんのご活躍を心から応援しています!
[好きな言葉] 感じるのは自由、でも行動は試されている。そして結果が問われている
[性格]
明るい ENTJ
[趣味]
朝ドラを見ること、法華経を学ぶこと
[最近読んだ本]
数値化の鬼/安藤広大、新・人間革命第8巻/池田大作
[好きな言葉]
prove them wrong(見返してやろう)
[性格]
何事もストイックで負けず嫌い、ポジティブ、他人の気持ちに鈍感
[趣味]
旅行、ドライブ、バドミントン
[最近読んだ本]
勘違いが人を動かす/エヴァ・ファン・デン・ブルック, ティム・デン・ハイヤー
[好きな言葉]
挑戦すべきは、人に対してではない。自分の弱さに対してだ。そして、自分に勝っていくんだ。焦らずに、自分を磨き、君自身の使命に生き抜いていくんだ。
[性格]
粘り強い、責任感が強い
[趣味]
映画鑑賞・音楽鑑賞
[最近読んだ本]
ビジネスデザインのための行動経済学ノート:バイアスとナッジでユーザーの心理と行動をデザインする/中澤亮太郎