地方発の先進教育の場で学生と協働し、地域課題の解決に挑む
濱上隆道(はまがみたかみち)
文学部社会学科 1991年3月卒業
富士通株式会社 CEO室 DX Division
富士通に勤める濱上隆道さんは、徳島県神山町にある「神山まるごと高専」で学生たちとともに地域課題解決のためのプロジェクトに取り組んでいます。山あいの小さな町ながら地方創生の先進地として知られる神山町で、社会を変えられる起業家を育てる試みは、濱上さん自身にとってもチャレンジングな経験だといいます。一企業人として、また、一人の人間として、才気ある若者たちと向き合う思いを伺いました。
現在のお仕事について教えてください。
「神山まるごと高専」の協働推進を担当しています。神山まるごと高専は、徳島県神山町に2023年4月に開校した5年制の私立高等専門学校です。「テクノロジー×デザイン×起業家精神」を教育の土台としながら、神山という地に根ざし、社会を動かす人材「モノをつくる力で、コトを起こす人」の育成を目指しています。1学年40~44人の私立高等専門学校ですが、富士通をはじめとした11社(スカラーシップパートナー企業)の拠出・寄付により、学生は無償で学ぶことができます。学生はスカラーシップパートナー企業の1つに必ず所属をして活動をすることになっており、例えば、2025年度は1年生は所属企業の理解、2年生は所属企業のリソースを活用した新規ビジネス開発というミッションが与えられていました。私は、富士通がスポンサーとなっている1年生から3年生(1期生)まで各3~4名の富士通奨学生をサポートするとともに、学生や社員、地域の方をつないで、地域の課題解決を目指した協働プロジェクトを実践しています。
「神山まるごと高専」にかかわるきっかけは何だったのでしょうか。
2020年に、富士通徳島支店長・支社長として徳島に赴任しました。入社以来、東京本社の営業部門に長く所属し、「異動するなら本社内で」と希望していたのですが、地域拠点長になってほしいと声がかかったのです。徳島での仕事はそれまでとは規模も、求められているビジネスもまったく違って戸惑いました。赴任当初は1、2年で帰るつもりだったのですが、「ここで何か新しいことをやろう」と気持ちを切り替え、今の自分だからできることに挑戦したいと、地域課題解決と地域活性化に取り組むプロジェクトを立ち上げました。その後何度か本社に戻れるタイミングはあったのですが、取り組んでいたプロジェクトを完遂したいという思いで3年が経ちました。ところが、その3年目の夏、当社に社内ポスティング制度ができ、「4年目の異動先は自分で探すように」と告げられたのです。これは、社内で公募しているポストに自ら手を挙げて選考を受けるというもので、社内外で動きはじめていたとき、役員から「2023年に開校する神山まるごと高専との協働プロジェクトをリードしてみないか」という話がありました。東京や大阪に来てほしいという話もあるなか、徳島に残るという選択が正しいのか悩みました。でも、今この話を受けなければできない経験ができるのは神山の方だと思い、決断しました。
高専の学生とはどのようなプロジェクトに取り組んだのですか。
代表的なプロジェクトが2つあります。その一つが地域交通課題プロジェクトです。神山町も国内の多くの地方と同様に高齢化が進んでおり、移動手段に困っている住民は少なくありません。2023年には、利用者が減少していた町営バスが廃止され、町民の足を確保するため、タクシー利用の助成サービスが始まったのですが、運営コストが町営バス時代の5倍にも上ることが分かりました。高専の学生もこのサービスの恩恵を受けており、魅力を感じつつも、これが町の財政を圧迫していることから持続可能ではないと危機感を持っていました。そんなとき富士通のMobility事業本部が、地域の移動課題を技術でどう解決できるかに関心を持っていると聞き、相談してみました。すると、神山町のタクシー助成サービスの仕組みをサポートしたいというのです。それから両者がチームとなって、ヒアリングやデータ分析、仮説検証の取り組みが始まりました。
地域の移動課題の解決策として、具体的にはどのような方法を考えたのですか。
神山町には、タクシーに誰がどこまで乗ったのかがわかるトリップデータがあります。それを使って、AIで分析しました。たとえば、Aさんと、少し遅れてBさんがそれぞれタクシーで同じ病院に行くと、町の負担は2回分になります。もしこの2人が同じエリアにいて、1回の輸送で済めば、町の負担は2分の1で済む。このように乗り合わせや待ち時間の工夫でコストを抑えられないかシミュレーションして、町に提言しました。学生はこのデータ分析のほか、住民やタクシー会社にヒアリングを行っています。その後、この取り組みは国土交通省の地域交通DX推進プロジェクトに採択され、「ヘルスケアMaas実装プロジェクト」として、徳島県立中央病院における通院支援の実証実験を行ったところです。
もう一つのプロジェクトとは、どのようなものですか。
農家の労働力不足を解決するビジネスモデル構築プロジェクトです。これは、スカラーシップ・パートナー企業の1社であるコンサルティングファームとともに取り組みました。徳島県はスダチの生産が全国の98%を占めているのですが、生産農家が減っているという課題を抱えています。そこで、収穫体験をしながら持続可能な農業について考えようと、東京や大阪の社員約20人が神山町に宿泊して学生と一緒に収穫を手伝い、その後、農家や町の職員とディスカッションしました。この取り組みは、都市部のビジネスパーソンが学生と交流しながら農業を体験し、継続的に農業にかかわる仕組みをつくることで、農業課題の解決にも結びつく点が評価され、県の委託事業として実証実験がスタートしています。
まさに、起業家を育てるという高専の理念に基づいた学びを実践しているのですね。
はい。こうした経験や学びをもとに、1期生である3年生4人がTapaz(タパズ)というチームを作り、法人化もしました。学生たちと徳島の企業や団体とのワークショップを通じて、企業の課題解決に挑み、社会の形をアップデートすることをミッションに、若者の力を価値に変えるべく活動しています。すでに「空き家の有効活用」や「新しい葬儀の形を一緒に考える」などの依頼が来ています。
学生たちと接するうえで、どんなことを意識していますか。
企業の価値観を学生に押し付けることはしたくないと考え、協働プロジェクトを始めるにあたり「①学生の興味ややりたいことを起点にする」「②富士通社員とのコミュニケーションを通して富士通を理解してもらう」「③学生の学びだけでなく社員の学びにもなるCo-Learningの場にしたい」「④その年代にしかできない学生同士の時間やボーっとする時間を確保するなど、学生の余白を大事にする」の4つの方針を決めました。
特に意識して心掛けたのは、学生とのちょうど良い関係づくりです。2024年には徳島市から神山町に移住しました。同じ住民として、学生たちと対等な目線でプロジェクトに取り組みたいと思ったのです。こうした姿勢で取り組んだ結果、プロジェクトが形となり、さらにはTapazの起業にもつながったと自負しています。
プロジェクトを通して、濱上さんご自身にはどのような学びがありましたか。
プロジェクトをスタートして約3年。学生や神山町から学んだことはたくさんありますが、学生と企業、学生と社会、企業と社会という一方通行の関係ではなく、互恵関係を築くことの大切さを学んだことは大きな収穫です。そしてそのためには、「つなぐ人」の存在が不可欠だということも。「つなぐ」ためには、誘導しないこと、そして互いの意見を理解して納得しながらものごとを進めることが大事で、私自身それらを意識して実践しています。
「地方創生の聖地」と呼ばれる神山で働き、暮らすことの魅力は何でしょうか。
何より町の人が親切で、雰囲気がいい。偶然の出会いを大切にしていて、それが新しい関係につながる。神山町には、さまざまな人を受け入れる文化があるのだと思います。神山町は決して便利な土地ではありません。それだけにこの地で腰を据えてプロジェクトに取り組む覚悟が決まった気がします。今は月に2回ほど横浜の自宅に帰っていますが、この2拠点生活もいいなと感じています。これからも神山町との縁を大切にしたい。リタイア後も2拠点生活を続ける可能性もありますね。
また、産学連携は、学生はもちろん企業や社員にとっても学びの場となると体感しました。今後は、その学びのプロセスを理解し、エビデンスとして記録していきたいと考えています。学生に焦点を当てた先行研究はあるのですが、企業側の視点で、社員のパフォーマンスに与える効果について考察し、提言できればいいと思っています。
大学時代はどんな学生生活を送りましたか。今につながっている経験はありますか。
創価大では4年間、アメリカン・フットボール部に所属していました。チームづくりに大切なのは、フィロソフィーを掲げ、チームメイト同士の関係を構築すること。それが良い結果につながるということを学びました。その経験がこれまでの仕事や、なかでも今行っている若い人たちとの活動に役立っているように思います。
大学のチームメイトと過ごした時間は濃厚で、同期のつながりは特別です。苦しいこともありましたが、仲間とともに活動できたことは私の財産ですし、私という人格もここで形成されたように思います。大学2年生のとき父が亡くなったのですが、そばで支えてくれたチームメイトや励ましてくださった創立者には、今も感謝しています。現在、私が接している学生は、当時の自分と同じくらいの年齢です。創立者のような接し方をしたいと思っていますし、学生たちにも互いを信頼し、支え合える関係をつくってほしいと思います。
最後に、後輩たちにメッセージをお願いします。
人生、山もあれば谷もあります。たとえ谷のときでも、希望を持って歩んでほしい。苦しいときこそ、真価が問われます。だからこそ、そこでがんばってほしいと思います。皆さんにとっても、創価大学での学びは生涯にわたる宝になると信じています。ともに新しい時代を切り開いていきましょう!
<文学部社会学科 1991年3月卒業>
濱上隆道
Takamichi Hamagami
- [好きな言葉]
- Better you, Better world.
- [性格]
- 誠実・温厚
- [趣味]
- 読書、音楽
- [最近読んだ本]
- 教育再生の条件/神野直彦