研究室紹介
渥美 雅保 教授
人工知能(AI):深層学習に基づく知能情報処理研究が創り出す未来の情報処理基盤
渥美 雅保 教授
人工知能(AI):深層学習に基づく知能情報処理研究が創り出す未来の情報処理基盤
日進月歩の人工知能(AI)革命
今年は、画像生成、文章・対話生成、プログラムコード生成など、生成系の人工知能(Artificial Intelligence(AI))が大きく進歩し、これから、まさに、人の働き方、さらには生活にまで大きな変革をもたらそうとしています。最近の人工知能の進歩はこれらにとどまらず、様々な手法が立て続けに登場しています。私の研究室では、本学に工学部情報システム工学科が誕生した1991年から「人工知能」の研究をしています。ここ数年、「AI」、「人工知能」という言葉をよく耳にしますよね。そう、現在は2010年代に始まった人工知能の飛躍的進歩が巷で第3次ブームと呼ばれて続いているのです。第3次ブームというからには第1次ブーム、第2次ブームの時期があったわけですが、第1次ブームは人工知能という用語が誕生した1956年頃から、第2次ブームは1980年代に起こりました。私が人工知能の研究を始めたのは、第2次ブームにあたる1980年代です。今では人工知能という言葉は誰でも知っていますが、私が高校生の頃はほとんど耳にすることはなく、人工知能という分野について知ったのは大学に入ってからでした。
第2次ブームの人工知能の主要な研究課題は、専門知識を持った「エキスパートシステム」と呼ばれるコンピュータプログラムを作成する方法を探求することでした。私たちが最初に作ったエキスパートシステムは、都市計画の助言をするルールベース型のエキスパートシステムです。ルールベースというのは「もし~ならば~である」といったルール形式の知識を、問題解決のための推論ができるように集めたものです。つまり、あくまで人が書いたルールを元に推論を行うわけです。エキスパートシステムを構築する際には、「知識獲得ボトルネック」と呼ばれる問題に直面します。専門的な知識をコンピュータによる問題解決で扱えるルール体系として記述していくのが難しいのです。機械学習の研究は当時も行われていましたが、実用できる範囲は限られていました。私たちも都市計画の知識をルールベース化することに苦労しました。そのため、知識情報処理に関する研究がひと段落した後で、視覚知能、言語知能を実現する機械学習の研究を始めました。
人工知能の研究を加速させた「深層学習(ディープラーニング)」とは
現在、私たちの研究室では人工知能の研究として「深層学習に基づく知能情報処理」の研究をしています。まず、「深層学習(ディープラーニング)」について、簡単に説明しましょう。
深層学習とは、人間の脳の仕組みを模した人工ニューラルネットワークによる機械学習手法です。コンピュータに大量のデータを与えることで、自動的かつ高精度な学習を行います。2012年、ILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)という画像認識の競技会で、AlexNetという深層学習に基づく畳み込みニューラルネットワークがそれまでの機械学習手法を大きく上回る精度で優勝しました。これが一つの契機になって深層学習の研究が非常に活発になり、いろいろな種類の深層学習手法が日進月歩で研究されています。そして、画像認識、音声認識・合成、自然言語処理をはじめ、さまざまな情報処理の分野で用いられるようになってきています。
映像、言語、医療……幅広い分野への応用を研究
続いて、私の研究室で学生と行っている研究をいくつか紹介します。まず、画像認識における深層学習の研究を紹介します。異なる時に異なる場所でカメラに映った人が、同じ人かどうか見分けることを「人物再同定」といいます。私たちは移動ロボットに搭載したカメラに映る人の顔や姿から人物再同定を行う研究をしています。さらに、誰であるかを認識するだけでなく、その人が何をしているのかを認識する研究も行っています。また、ロボットがカメラに映る周りの景色から自分がどこにいるのかを認識する研究も行っています。このような研究により、移動ロボットが巡回しながらいつどこで何をしている誰と出会ったかといったことがわかるようになるのです。
深層学習による画像認識の研究をもう1つ紹介します。画像認識の技術が重要な役割を果たしている分野に、自動車の先進運転支援や自動運転があります。自動車が周りの道路・交通状況の認識から自ら運転を支援したり代わりに運転をしたりする技術です。私たちは車載カメラの映像から交通状況の危険性を推定する研究をしています。まず映像から車・バイク・歩行者といった動くものを検出し、次にそれらの動きの特徴から危険度を推定するのですが、これら物体検出・動き特徴解析・危険推定に深層学習手法を用いています。
次に、自然言語処理における深層学習の研究を紹介します。自然言語処理といってもピンとこないかもしれませんが、機械翻訳、文書要約、対話、質問応答、感情分析などが自然言語処理の応用分野になります。例えば文書要約においては、元の文書に含まれる文をそのまま用いるだけでは要約として機能しません。複数の文を1つにまとめたり、わかりやすく言い換えたり、指定された長さで要約することが重要です。私たちの研究室ではニュース記事などを対象に、このような要求を満たす要約を生成するための深層学習手法を研究しています。
ここでお話しした研究の他にも、深層学習に基づくマルチモーダルコミュニケーション、感情認識、スポーツ映像解析の研究、医療への応用として、糖鎖タンパクと薬剤の相互関連を予測する深層学習モデルの研究、画像処理や言語処理の基盤となる深層学習モデルの学習手法の研究、ニューラルネットワークを自動的に設計する手法の研究など、様々な研究を行っています。興味を持っていただいた方とは何らかの機会にお話しできればと思います。
人と共生する情報システムの構築に向けた人工知能(AI)研究のこれから
深層学習に基づく人工知能技術により、コンピュータによる情報処理は人間のレベルに近づきました。もはや人間の能力を凌ぐレベルに達しているものもあります。しかし、それらは基本的に与えられた1つの問題を解くことしかできません。このような人工知能を「特化型人工知能」といいます。
我々人間は、いろいろな問題を自発的に解くことができます。今後の人工知能研究の1つの方向は、このような多様な問題をより自律的に解くことができる「汎用型人工知能」の研究に進んでいくと考えられます。また、人工知能が適切に問題を解決しているように見えても、実際には、まだ課題が残されています。例えば、対話や要約等の自然言語処理タスクにおいて、文の意味を理解して処理をしているかというと必ずしもそうではありません。今後の人工知能研究のもう1つの方向として、より深い意味の理解の研究にも進んでいくと考えられます。
まだまだ発展途上で研究課題はたくさんありますが、人工知能の技術は、これからの情報システムにとって不可欠の技術です。また、今後はあらゆる分野の仕事をしていくうえで必要な情報リテラシーになっていくでしょう。皆さんも、ぜひ人工知能の勉強をしてみてはいかがでしょうか。
未来を予測するのではなく、創り出す発想を学ぼう
パーソナル・コンピュータの父と呼ばれる科学者のアラン・ケイは「未来を予測する最良の方法は、それを自分で発明することだ」という言葉を残しました。エンジニアリングとは、現在実現されていないことを新しく創り出そうという試みです。新しい技術を創り出す実験の場に身を置く楽しさ。それこそが理工学系の学部・学科で学ぶ楽しさだと思います。
その点で言えば、本学部は幅広いカリキュラムを取り揃えており、ゼミや研究室では多種多様な分野を研究対象にしています。つまり、あらゆる分野の「最先端」に身を置くことができる環境だと言えるのではないでしょうか。例えば情報システム工学科では数学系の授業も充実しており、数学の教員を目指すことだって可能です。人工知能からネットワーク技術、センサー技術、ロボットまで、あなたが学んでみたいと思う分野がきっと見つかるはずですよ。
研究を漢字一文字で表すと?
「究」
研究者としてありきたりかと思いますが、研究の「究」、「きわめる」でしょうか。人工知能の研究者として、知能を実現する仕組みを構成論的、計算論的、システム論的に「究める」ことが目標です。
経歴
1981年 東京工業大学工学部社会工学科 卒業
1983年 東京工業大学大学院総合理工学研究科システム科学専攻 修了
1987年 東京工業大学大学院総合理工学研究科システム科学専攻 単位取得満期退学
1996年 東京工業大学博士(工学)
石井 良夫 准教授
応用数学、数理科学を駆使して 「非線形な現象」の謎の解明に挑む!
石井 良夫 准教授
応用数学、数理科学を駆使して 「非線形な現象」の謎の解明に挑む!
世の中の現象はほとんど「非線形システム」 でも非線形って!?
私たちの研究室では、主に非線形システムの数値計算、数値解析を行っています。非線形とは「線形ではない」ということです。みなさんになじみのある式で例を挙げると、y=axで表される一次関数は直線になり、axとbxを足すとax+bxになります。これは「線形システム」です。
一方、aを二乗するとa2、bを二乗するとb2で、これらを足し合わせるとa2+b2になりますが、(a+b)を二乗すると、a2+b2+2abになります。2abという余計なものが出てきて、単純にa2とb2を足し合わせたものにはなりません。このように、重ね合わせの原理が成り立たないシステムを「非線形システム」といいます。さまざまな現象を数式で表すと、ほとんどが非線形の数式になります。世の中の現象のほとんどが非線形システムだといえるのです。
このような非線形システムを数理モデル化し、計算及び解析するのですが、実はコンピューターは微分や積分などの高度な計算ができません。そこで、コンピューターが計算できるように、足し算や引き算など四則演算の形に式を修正する必要があります。これを差分化、離散化といい、このような形式に変えた数理モデル上で計算するのが数値シミュレーションです。
解かなければならない大きな問題 「層流・乱流遷移」
私たちの研究室では、こうした手法を用いて、非線形システムの一例である流体の「層流・乱流遷移」という現象を解明しようとしています。流体とは簡単にいえば液体や気体のことです。流体が流れの方向に、きれいに層状に流れている状態を層流、この流れが乱れた状態を乱流といいます。
たとえば水道から水を少しだけ出すと、蛇口から出ている水の流れには乱れはありませんが、だんだん出す水の量を多く、すなわち流速が早くなると、水の流れが乱れるのがわかりますね。きれいな流れが層流、乱れた流れが乱流で、層流から乱流にかわることを層流・乱流遷移といいます。
層流・乱流遷移は非常に重要な現象の一つです。例えば飛行機が飛んでいるときに、急上昇すると飛行機の表面に沿って流れていた空気が剥がれて乱流になります、この場合は失速して墜落する恐れがあります。また、水道管やパイプラインで液体を送るとき、層流で流れていたものが乱流になると急に効率が悪くなり輸送に支障をきたします。流体の流れというのはあらゆるところで見られる現象ですから、層流・乱流遷移のメカニズムを解明し、そして乱流を防ぎ利用するにはどうすれば良いのか、ということは、解かなければならない問題の一つなのです。
乱れの中の秩序構造を、数学的に記述して解明
一般に層流で流れている流体の速度をあげていくと乱流に遷移しますが、その際に重要なのが、渦構造の作用です。層流の中で速度差または速度の微小な乱れができたところに渦の構造ができ、それが相互作用して乱れていくのですが、不思議なことに乱れの中にも秩序構造ができ、最終的に乱流になるということがわかっています。その渦の構造をどう数学的に記述し、数理モデルを設計し、解いていくかというところに、先に説明した差分化、離散化そして超離散化といった方法を用いて数値シミュレーションをすることが有効だと考えています。
研究室ではこのように数学を応用し、非線形システムの数理モデルを設計構築し、数値シミュレーションを用いてその結果から現象の理論的な解明に取り組んでいますが、身近な流体を扱うので、簡単な実験装置を作って実際の実験にも取り組んでいます。
レーザーピンセットで粒子をつかまえる!?
このような非線形現象の層流・乱流遷移の研究以外にも、非平衡系(平衡でないこと、すなわち釣合っていないこと)の現象についても取り組んでいます。その代表的なものが、ブラウン運動というランダムな熱運動をしている粒子から、一方向の運動を取り出すという研究です。この研究の道具となるものが「レーザーピンセット」で、レーザーを集光すると、非接触でピンセットのようにものをつかむことができる装置です。
ランダムな熱運動は使えないエネルギーですが、レーザーピンセットで粒子をつかまえて放すことを繰り返し、一方向の運動を取り出せれば、使えるエネルギーを得ることができ、いろいろな応用が可能です。数理モデルを使って数値シミュレーションすると、実際に一方向の運動を取り出すことができ、理論上は可能です。すぐには実現できることではありませんが、どうすれば実現できるかということを、レーザーピンセットを自作して模索しています。
130人中、108番だったことも……。 勉強が苦手だった中学時代
現在はこうして応用数学や数理科学の研究をしているわけですが、中学生の頃はものすごく成績が悪くて、全校約130人中、108番とか、そのあたりの成績をとっていて、高校に行けるのか?というくらいでした。英語も国語も社会も理科も苦手で、ただ唯一、数学だけは先生の教え方が面白くて、できるようになっていきました。高校は両親の勧めもあって、近所にあった東海大学付属相模高校に何とか入ったという感じでした。
高校のときは帰宅部でしたが、宇宙などに興味があって、天体望遠鏡を買って友達と天体観測したりしていました。相変わらず語学や社会は苦手でしたが、物理や化学が好きになってきて、航空宇宙工学を勉強したいと考えるようになりました。当時、この分野を学べる大学は、いわゆる旧帝大と一部の私立大学だけでしたから、東海大学工学部の航空宇宙学科に進学することにしました。
受験勉強から解放され学年で2番になった高校時代
付属高校だったので一般的な受験勉強からは解放され、図書館に行ったりして自分の興味のあることを集中して勉強できたのは、とてもよかったと思っています。高校のときに、大学で勉強するような数学や物理学の専門書を先取りで読んだり、勉強したりしていました。そのおかげか、高校を卒業するときには2番の成績でした、1番じゃなかったんですけどね(笑)。
身近なのにわからないことだらけ、流体力学との出会い
大学では漠然と航空宇宙工学(ロケットや飛行機など)のテクノロジーに関連する勉強をしたいと思っていました。ところが学科にカリフォルニア工科大学から戻られた先生がおり、その先生の流体力学の講義が難しかったけどとても面白かった。流体って身近なものですが、わかっていないことがとても多いんですね。それで流体力学に興味をもち、また関連する他の分野にも興味が湧き勉強するようになり、大学では1番で卒業することができました。
大学院は東京大学に進み、宇宙科学研究所(当時)で研究をしました。そのときの恩師は大島耕一先生と谷田好通先生で、特に大島先生は数値流体力学、谷田先生はジェットエンジン(内燃機関)に関する流体力学についてのそれぞれ第一人者でした。両先生は研究だけでなく、非常に多くの優秀な人材を育てた方で、私はその最後のほうの弟子で、公私共に大変お世話になり、今でも感謝しております。大学院で出会ったのが、非線形現象の一つである流体力学の未解決問題、すなわち層流・乱流遷移の研究です。
大学院を修了したあとは、会社の中央研究所で機器の廃熱などに関する熱流体の研究をしていましたが、創価大学に工学部情報システム学科(当時)ができるにあたり、助手を探している、と声をかけてくださった方がいて、転職しました。一つの学部学科を立ち上げるのですから、みんな手さぐりで、装置を揃えたり実験のセットをつくったり、何でもやりました。
数学も便利な道具の一つ
数値解析、応用数学と聞くと、それだけで難しそう、と敬遠したくなる人もいるかもしれません。でも、数学ってとても便利な道具なのです。例えば、シェークスピアを勉強したければ英語を、ゲーテを勉強したければドイツ語を勉強するように、サイエンスやテクノロジーを勉強したければ、その言語である数学を勉強して使う、ということです。その先に、コンピューターというとてもよい道具があるので、シミュレーションして計算するのも、難しいことではありません。
これだけ科学技術が発達しても、世の中にはわかっていないことがたくさんあります。こうした便利な道具を使い、それをわかるようにひもといていくことには、とてもロマンがあると思いませんか。
成功の反対は? 知的好奇心を大事にして未知に挑戦を!
成功の反対は失敗ではありません。成功の反対は何もしないことです。何かをすれば何か、たとえ失敗に至っても、失敗という結果は出ます。でも何もしなければ何も起こらないのです。ですから、学生の皆さんには、知的好奇心を大事にして未知の謎解きに挑戦してほしい、と思っています。
もう一つ、学生の皆さんに言いたいことは、誠実であれ、ということです。これは勉強ができるとか、優秀であるとかいう以前の、約束を守るとか、親孝行をするとか、ごく基本的なことです。
誠実な言動の積み重ねは人生の宝になります。一昔前では考えられなかったことですが、最近の学生の中には、平気で約束の時間に来なかったりするような人もいます。これはとても残念なことですね。是非、基本的なことがきちんとできる、誠実な学生であってほしいと思います。
先生にとって研究とは?漢字一文字で表すと?
「幸」
学問、研究はすべての人の幸福のためであり、人々を幸福にする研究、学問でなければなりません。 人々が幸福になるために、役立つものであるべきだという考えのもと、 自分自身の研究にも、学生への教育にも、日々向き合っています。
プロフィール
情報システム工学科 石井 良夫 准教授
1962年 東京都生まれ
1991年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了 工学博士
1989年 東京工科大学工学部講師(非常勤)
1991年 (株)リコー中央研究所研究員
1993年 創価大学工学部助手
1995年 同講師
今村 弘樹 教授
「人間並みに賢い、AIロボットを作りたい!」 強い気持ちが切りひらく未来
今村 弘樹 教授
「人間並みに賢い、AIロボットを作りたい!」 強い気持ちが切りひらく未来
AI(人工知能)を使って 現実をさまざまに「加工」する!
ぼくが研究しているのはAI(人工知能)です。画像や動画に「何が映っているのか」をコンピュータに識別させる「コンピュータビジョン」という技術を使い、VR(仮想現実:virtual reality)やAR(拡張現実:Augmented Reality)のシステムを作っています。
VR(仮想現実)とは、コンピュータの中で作られた架空の世界を、あたかも現実であるかのように人間に体験させる技術のことです。もうひとつのAR(拡張現実)は、実際の風景にバーチャルな情報を付け加える技術で、よく知られた例に「ポケモンGO」などがあります。
どちらも、コンピュータの技術によって現実世界に情報を付加することができます。
ロボットやプログラミングが好き。 でも「研究者」は夢にすぎなかった
高校では新聞委員長を務めるかたわら、音楽も好きだったのでコーラス部に所属していました。得意だった科目は数学やと物理。親に安価なコンピュータを買ってもらって、自分でプログラミングも楽しんでいました。
そんな当時のぼくの夢は、AIを使って友人のように対話ができるロボットを作ることでした。友人ロボットたちと共同で新しいものを作り出すことができたら素敵だなと思っていました。その一方で、「将来は大学に行って、普通のサラリーマンになるんだろうな」とも、漠然と考えていたのです。
特に志望の学部もないままに過ごしていた高校時代でしたが、高校2年生のときに創価大学に理工学部が新設されることを知りました。そこで、遅まきながら志望校を決定。でも理系の受験勉強の仕方がよくわからず、現役では不合格に。予備校の授業で初めて勉強の仕方を知り、2度目の挑戦ですべりこみました。
卒業研究で研究の面白さに目覚め 大学院で新たな出会いに恵まれる
念願叶ってAIやロボット制御につながる情報システム学科に進学しますが、情報工学の基礎を幅広く学ぶ3年目まではそれほど授業に面白みを感じることができませんでした。ようやく学問の楽しさに気づいたのは、テーマを絞って自分で考えなければならない卒業研究のときです。それまで授業で学んだことと自分の研究テーマがつながって「研究って楽しい!」と実感しました。
大学院に進みたいと思いましたが、当時の創価大学の大学院入学は3年次までの成績が重視され、ぼくには厳しい条件であることがわかりました。そんなとき、たまたま目にしたのが「北陸先端科学技術大学院大学」の募集ポスターです。大学院だけの大学で、「入りやすいけれど卒業するのが難しい」と評判でした。目的が決まってからのがんばりには自信があったので、そちらに進学することにしました。
大学院の授業は午前中だけでしたが、アパートに帰ってからも10時間くらい勉強しました。研究室を選ぶ段階でロボット研究を希望しましたが、なんと第6希望まですべてハズレという事態に。そこで当時よく質問に通っていた研究室に希望を出しました。
そこには信号処理や画像処理を専門にしている先生がいらっしゃいました。コンピュータで画像を情報として取り扱い、分析したり加工しりする画像処理の研究内容に触れるうちに「これは自分に合っている、好きな分野だ」と気がつきました。
画像処理の中でも、画像の中で物体がどう動いているかを分析する「動画像処理」という分野があります。今思えば、この研究に魅了された時点で、研究者としての自分の基礎が固まっていきました。
「この人に学びたい!」 画像処理の権威に直談判して、アメリカに留学!
博士課程に進むと、ますます研究が楽しくなり、論文もたくさん読みました。論文が抜群に面白かったのがアメリカのロボット工学の権威の先生です。「この先生のもとで勉強したい!」と、ダメもとで先生の研究室にメールを送りました。意外にもトントン拍子で先生にお会いする機会が得られ、AIを含むロボット工学を多面的に研究するロボティクス研究所の客員研究員として、1年間アメリカに留学することになったのです。
アメリカの大学はとても平等で、開かれた研究環境でした。画像処理とコンピュータビジョン研究で世界のトップを走る先生が、留学生の自分ともディスカッションしてくださるという、本当に贅沢な経験をすることができました。
「目で見て認識する」ことさえ コンピュータは完璧にできない!
ぼくが最終的にめざしているのは、人間と同じレベルの知的処理ができるAIを作ることです。
その基礎固めとして、研究室では主にAIの画像認識を研究しています。AIの画像認識のレベルをあげるには、まず人間が目で見て「これは◯◯である」と認識しているのと同じようなことをコンピュータにも認識させる必要があります。
カメラなどのセンサーが捉えた対象を「これは△△だ」とAIに覚えさせ、さまざまな処理をすることが、少しずつできるようになってきました。しかし物体の一部が何かに隠れていたり、最初に学習させたときと向きや角度、部屋の明るさなどの条件が違ったりすると、AIはその対象が前に覚えたものと同じものだ、と判断することができません。まずはここを認識させるようにしたい、というのが大きなテーマの一つです。
遠くの人が同じ部屋にいる!? ARが提供する新しい「空間」
ぼくたちの研究室では、各自が自分の部屋に居ながらにして誰もがそこにいるように感じられるAR「3次元ビデオ通信システム」を作っています。将来的には、同じ空間でお互いが隣に座り、CGなどで一緒に作業ができるようなシステムをめざしています。
まず光の三原色(Red Green Blue)に距離(Distance)センサーを加えたRGBDカメラを使ってデータを取り、「同期AR空間」と呼ばれる架空の空間をサーバ上に作ります。それをゴーグルで各ユーザーが共有すれば、同じ空間にいるように感じられます。
このシステムがうまくいくと、遠く離れた人とも同じ部屋にいるかのようにコミュニケーションできます。
ARをリアルに感じるためには、現実世界と付け加えられた部分がなめらかに接続している必要があります。このシステムでも、自分の部屋の状況と遠隔地の人の動きをどれだけ精度よく解析して再現できるかが問われます。さらに各空間の状況を全部同期させなければなりません。たいへんですが、その分やりがいもあります。
さらに、付け加えられた3次元画像を触れるようにする試みもしています。触覚を再現するグローブをはめたり、ちょうど物体があるあたりにドローンが来るように操作したりして、触覚も感じてもらうのです。五感とリンクさせることで、応用の幅も広がります。
プログラミング技術は後からでも身につく まずは「やりたい」という気持ちが大事
私の研究室ではプログラミングは避けて通れません。ですが、苦手意識があっても、優しくて優秀な先輩たちが教えてくれるので一年くらいでなんとかなります。
ここでプログラミングの楽しさにハマった学生は大学院に行くことが多いです。就職を希望する学生には、今ある技術をスマホのアプリにするなど、社会で役立てるシステムを作ってもらいます。
研究室の動画には男子ばかり映っていますが、ちゃんと女子もいます。今年も新たに女子が2人加わりました。文系の学部からAIに興味を持って入ってくる学生もいます。他の研究分野から新しい発想を持って入ってきてくれるのは大歓迎です。
研究で一番楽しいのは、今まで実現できなかったこと、夢でしかなかったことがだんだん形になっていくときです。できることが点でしかなかったのが、線になり面になっていく。うちの研究室のテーマはそういうつながりが生まれやすくて面白いです。
ぼく自身、勉強が得意な方ではありませんでした。でも、やりたいことをあきらめなかった結果、夢見ていたAIの研究者になれたのです。その経験からも、高校生の段階で知識があるよりも、「やりたい!」という気持ちの方が大事だと思います。
勉強にはあまり自信がないけれど、とにかくやってみたいという人がこの学科や研究室にきてくれると嬉しいです。一緒に新しくて楽しい研究をやっていきましょう。
研究を漢字一文字で表すと?
一文字なら「楽」ですね。「最先端の技術を使って、ユーザーにとって楽しいものを自分たちも楽しみながら創造していきたい」といつも考えています。
経歴
1973年 長野県生まれ
1997年 創価大学 工学部 情報システム学科 卒業
1999年 北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士前期課程 修了
2002年 米国カーネギーメロン大学 ロボティクス研究所 訪問研究員
2003年 北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士後期課程 修了(博士(情報科学))
2003年 長崎大学工学部情報システム工学科 助手
2007年 長崎大学工学部情報システム工学科 助教
2009年 創価大学工学部情報システム工学科 准教授
2015年 創価大学理工学部情報システム工学科 准教授
2020年 創価大学理工学部情報システム工学科 教授
Close
畝見 達夫 教授
コンピュータシミュレーションを通して、 人間や社会を理解する!
畝見 達夫 教授
コンピュータシミュレーションを通して、 人間や社会を理解する!
生命の“まね”をするメカニズムをつくり出す 人工生命を研究
私は、もともと人工知能(AI)の研究をしていましたが、生命や生物の本質により迫りたいと、人工生命の研究に移りました。人工生命の研究とは、人工的に生命のまねをするようなメカニズムをつくることで、生命とは何か、その本質を理解するための試みです。この研究には、たくさんの人たちが取り組んでいます。
生命のまねをするといっても、生命には、成長、学習、生態系、進化など、特徴的なメカニズムがいくつも存在します。そこで、細胞内で起こっている化学反応の再現や、細胞同士がどのように結合して体をつくっているかのメカニズム解明に迫るなど、個体の中で起こっているメカニズムにフォーカスしている人もいれば、生物の進化そのものや社会の中での人の振る舞いなど、集団としての生物の特徴に注目して研究をしている人もいます。
私はといえば、複雑なしくみをもつものが単純なプログラムからできている過程に興味をもっています。例えば進化については、「さまざまなグループがあった中で、より多くの子孫を残せたグループが現在まで繁栄を続けられている」というシンプルなルールで表すことができます。このルールだけを適用して、時間を進めると、過去から現在、そして未来という時間の経過の中でどのような現象が起こるのかを、コンピュータ上で計算します。
鉄道模型にはまり、工業大学へ進学
私は石川県の新興住宅地に育ちました。父親がエンジニア、祖父が大工だったこともあり、小さい頃からプラモデルなどをつくるのが好きでした。小学校4年生になると、16番ゲージの鉄道模型づくりに夢中になりました。日本では、鉄道模型というとNゲージの方が有名ですね。Nゲージは、本物の車両の150分の1や160分の1の大きさの模型で、1つの車両が11〜15cmほどと、手のひらに載ります。一方16番ゲージは縮尺が80分の1の模型で、1つの車両の大きさは24〜30cmほどになり、車両のより細かい部分まで再現できます。大学生になると、より性能のいいものをつくろうと、車体を載せる台車まで手づくりしてしまいました。
鉄道模型づくりは趣味の1つではありますが、進路の選択にも大きな影響を与えました。必然的に鉄道の知識が増えていたのです。特に大きな契機となったのが、高校3年生の時に開通した営団地下鉄(現在の東京メトロ)千代田線の車両開発です。開通時の千代田線の車両には、「電機子チョッパ制御」という方式が採用されていて、省エネと乗り心地のよさの両立を実現していました。これをきっかけに「制御」に興味がわき、大学でも制御に関連した学問を学びたいと決めたのです。大学は東京工業大学に入学し、最終的に工学部制御工学科に進みました。
教授と仏教の話で盛り上がり、システム系の研究室へ
大学で制御の勉強をしていくうちに、ロボットの研究にも惹かれるようになりました。そこで大学3年の時に、ロボットの研究室の教授に相談をしに行きました。話が膨らみ、いつしか話題は仏教に。そんな中で私が「一念三千」について語っていると、先生が急に、「君はシステム系の研究室の方が合いそうだ」とおっしゃったのです。一念三千とは、私たちの日常で一瞬一瞬の想いには、この宇宙のあらゆる現象の要素が含まれている、というものです。工学的な視点に立つと、個々の要素がシステムを司る、ということに関係するといえます。教授は、一念三千のような考えに興味があるのであれば、システム系の研究に向いていそうだ、と考えたのでしょう。
動物の行動を参考に、強化学習の枠組みをつくる
私はその助言に従い、システム系の研究室に所属しました。私が研究室に所属した1977年は、第二次人工知能ブームが巻き起こる少し前で、AIでシステムを制御する研究が始まったばかりでした。私の研究室でも、AI技術の1つである機械学習の研究をしていたので、博士課程の学生と一緒に研究をしていました。しかし、より基礎的なアイデアについて突き詰めたいという想いが湧いてきて、AIからは少し離れた研究を始めました。
例えば動物は、特定の行動をしたときにだけエサを与えるように訓練すると、だんだんその行動をパターンが強化されて、ついにはエサを与えなくても同じ行動をするようになります。これは動物心理学や動物行動学の分野で「強化学習」とよばれるものです。
当時の私は強化学習という言葉を知りませんでしたが、動物の学習に見られるようなこうした性質を機械学習に取り入れ、強化学習アルゴリズムの枠組みをつくりあげました。今から思えば、コンピュータのアルゴリズムとして強化学習をする人工生命を再現したことになるでしょう。
実績を積み上げ、研究者としての基盤をつくる
その頃は機械学習はまだ注目されていませんでしたし、「人工生命」という研究分野もありませんでした。研究者は、世の中には存在しない新しいものをつくる存在です。しかし、いくら新しいものでも、あまりにも社会と離れすぎてしまうと、変わり者として扱われてしまい、研究者として評価されなくなってしまいます。そこで私は、本来の自分の興味と並行して、自然言語処理、パターン認識など、世の中の課題解決につながりやすい研究に積極的に取り組んで、研究者としての実績を積み上げていきました。
業績を積み上げるための研究は、演習問題を解いているようなもので、その課題に取り組むことによって、数理の知識やテクニックなどを身につけることができます。さらに、良い論文を発表するなどして研究者としての実績を上げると、研究者仲間とのつながりが強固になります。そのようなつながりができることで、さらに新しい知識を得たり、刺激を受けたりすることもあります。
自分が本当にやりたいと考えていた「強化学習」の研究は、半ば趣味のような状態でしたが、諦めないで続けていました。おかげで、AI研究の中でも強化学習法が注目される頃には、世界の中でもトップレベル、という状態になっていました。
数理モデルで人や社会をより深く理解したい
1990年代半ばになると、日本でも強化学習法をはじめ、機械学習の研究が盛んになってきました。同時期に、アメリカで人工生命の研究会が立ち上がったことを知り、私は本格的に研究の軸を人工生命の分野に移しました。強化学習は、人間を理解するための1つの要素ではありますが、人間のすべてではありません。人間や社会を広く理解するためには、人工生命の分野が最適だと考えたのです。
現在は、生物学的な進化だけでなく、社会や文化の進化にも興味をもっています。人間は動物の1種ですが、社会を形成することで文化をつくってきました。そのなかで、物語やアイデア、建築物といった人工的な産物が、まるで遺伝のように世代を超えて広がっています。これを一つの「進化」と捉えることもできというわけです。
人間や社会のあり方について、コンピュータ上に数理モデルをつくり、計算することで、あらゆる可能性を考慮した結果をシミュレーションすることができます。社会や文化の伝播も含めて人間の進化を考えていくことで、人間についてより深く理解することできるでしょう。
アート活動を通して、科学の成果をより多くの人へ
人工生命の取り組みは、アーティストにも注目されていますし、研究結果をアートとして発表する科学者もたくさんいます。そのような姿に触発され、私もアートに取り組んでいます。代表作としては、スイス在住のメディアアーティストであるダニエル・ビシグさんとタッグを組んで取り組んだ「進化する恋人たちの社会における高速伝記」があります。
アートを鑑賞する人は、アート作品を自分と対比させ、共感したいという欲求をもっています。しかし、アルゴリズムでつくった作品には、そういう物語のような要素がなく、鑑賞者が途方に暮れてしまうことがよくありました。それであれば、シミュレーションでたくさんの人生を生みだして、大量の物語を提供しようと、この作品をつくりました。
科学は、ものごとを正確にとらえるように努力していますが、それを理解できる人は限られてしまい、正確な知識を多くの人に伝えるのはとても難しいものです。それに対して、アートはたくさんの人たちを惹きつける力をもっています。私が創作する作品では、魅力あるものであることはもちろん、その作品のメカニズムや背景を知ることによって、さらに科学的な背景もわかるというような、多層性を大切にしたいですね。科学もアートも、触れた人の人生や社会を大きく変える力をもっています。
創価大学は文系の学部が多く、工業大学などに比べると多様な学生と出会えます。また、お互いに助け合う文化が根づいているので、同級生や先輩からたくさんのことを学ぶことができると思います。最近は、情報化が進んでいるので、大きな夢を語りにくい風潮があるかと思いますが、私としては、創造力を発揮したい、新しいものをつくりたいという人に来て欲しいですし、そのような学生をサポートしたいと思っています。
先生にとって研究とは?漢字一文字で表すと?
「造」
研究の現場では、世の中にはない新しいものを造り出すクリエイティビティが求められます。単に新しいものを考えつくだけでなく、そのアイデアを実現することが大切です。
経歴
1978年 東京工業大学工学部制御工学科卒業
1980年 同大学院総合理工学研究科システム科学専攻修士課程修了
1981年 同専攻博士後期課程中退。同専攻助手
1987年 長岡技術科学大学工学部計画・経営系講師
1992年 創価大学工学部情報システム学科講師
1995年 同助教授
1992年~1995年 国際ファジィ工学研究所客員研究員
笠松 大佑 准教授
データ工学で現実とデジタルをつなぎ、新しい価値を生み出す!
笠松 大佑 准教授
データ工学で現実とデジタルをつなぎ、新しい価値を生み出す!
情報科学技術の可能性を感じ、創価大学へ進学
中高生の頃は、本当に普通の生徒でした。野球少年で、好きな教科は英語と数学。中学生の時は「自分は勉強が得意だ」と思っていたのですが、高校生の時にはその自信が打ち砕かれていました(笑)。大学進学を意識し始めたのは高校2年生の時です。⾼校が理系コースだったので、自然と理系学部への進学を志望しました。そして受験に関する情報を調べるうちに、創価大学に情報システム工学科があることを知りました。
とはいえ当時は2000年代前半で、情報工学自体がまだまだ一般的ではない時代でした。個人用パソコンの先駆けになったWindows95がリリースされたのが1995年、携帯電話でインターネットが使える「iモード」のサービス開始が1999年ですから、無理もありませんね。当然、今のようにスマートフォンで手軽に映像を見ることなんて不可能ですし、そもそもスマートフォンが存在しません(笑)。そのような時代でしたが、私はむしろ「これから情報分野では何ができるようになるのだろうか?」と興味を持ちました。そのような経緯で創価大学の情報システム工学科に入学したのですが、今思えばとても良い選択をしたと考えています。
大学受験を振り返ると、勉強の時間管理や計画性が足りなかったと感じています。問題集を購⼊したのですが、どれも十分にやり切ることができなかったんです。一方で大学生になってから資格の勉強を受け始めると、どれも問題集が非常に重要だとわかりました。問題集を本番までに何周するのか、そのためのスケジュールをどうするのか。それらを計画立ててやり切れば必ず点数が上がり、合格に近づきます。そのようなノウハウを大学に入ってから知ったので、当時の自分に伝えたいですね(笑)。この記事を読んでいる高校生の方で勉強方法に悩んでいる方がいれば、時間管理の計画を見直してみてはいかがでしょうか。
データ工学とは? 生活の隅々まで浸透している、注目のテクノロジー
私の研究分野はデータ工学です。これは「いかにデータを上手く利用できるようにするか」について考える学問分野です。データを⼯学的に扱うという観点から、計算機のメモリ上に載り切らないような⼤量のデータを効率よく整理して管理するデータベース技術や、データマイニングや機械学習などのデータ分析技術を含めて研究しています。
この分野の魅⼒は、現実の世界で観測されたデータが研究対象であることです。2010年代ごろから現実世界で計測されたデータのオープン化が進展し「ビッグデータ」という⾔葉をたくさん聞くようになりました。ビッグデータのような⼤量のデータから知識やパターンを抽出することができれば、未来を予測できる可能性があります。
例えば、地図アプリのガイド機能がそのひとつです。地図アプリで目的地を入力すると、到着までのルートや予測時間が表示されますよね。でも、なぜこのような予測ができるのでしょうか?その理由こそが、大量のデータを保持し、分析しているからなのです。人が移動するためにかかった時間などのデータを大量に集めて分析することで、精度の高い予測を行っています。高校生のみなさんが日常的に使っているアプリにも、データ工学が活用されているということですね。
現実とデジタル空間をつなぐ新たなデータプラットフォームづくりが夢
一つの目標がモビリティ、つまりヒトやモノの移動にデータ工学を組み合わせる研究です。移動する、ということは位置や速度などのデータが常に変化することを意味します。データ工学としての言い方に換えれば「時間と空間の広がりの中で観測される時空間データ」と表現できるでしょう。そこに着目することで、様々な分野に応用可能なデータを取得できると考えています。近年は自動運転や運転補助機能が搭載された自動車が商品化されており、産業面からも注目が集まっています。私自身もこれまで様々な研究プロジェクトに取り組んできましたが、一貫してモビリティが関わる分野に携わってきました。だからこそ、難しい技術が要求されることも身に染みて理解しています(笑)。
上記を発展させて、私が夢見ている研究があります。それはモビリティ分野に関する実データを扱うことができる、デジタルツインまたはCPSの研究基盤の構築です。デジタルツインやCPSは、現実空間のデータを使って、全く同じ空間をそのままデジタル上に再現する試みのことです。メタバースのような架空の空間ではなく、現実の空間のデータを使ってそのまま再現するイメージです。現実のデータを使うことで、現実世界とサイバー空間の融合による新しい価値の創出が期待されています。例えば現実のヒトやモノからデータを収集して、クラウド上のサイバー空間に蓄積・解析し、現実に存在する機械を制御したり、ヒトへのサービスを提供したりするといった活用方法が期待されています。現実とデジタルをつなぐ重要なファクターとして、データ工学が重要な役割を果たすのではないかと考えています。
どんな進路を選んでも、理工学部の学びがきっとあなたの力になる
理工学部では、特に実験科⽬において様々な実験⼿法を学べます。実際に手を動かすことが好きな学生にとっては、とても面白い環境なのではないでしょうか。またそれに関連して、学生を大きく成長させてくれるのが卒業研究です。卒業研究では、ロジックとエビデンス(実験結果)の組⽴て⽅を経験できます。卒業研究では何かを主張するためのロジックを立てて、実験によりエビデンスを作り出します。このような仮説立案力、検証力、データ分析力は、将来どのような仕事に就いても非常に役立つ能力です。卒業研究では長い時間をかけて実験や検証を繰り返すので、学生にとって大きな成長の機会になっていると強く感じています。
国内外の様々な業界において、「データ駆動型社会」、「Society5.0」、などデータを活⽤する社会が到来しています。 IT技術は⽇進⽉歩で変化しているため、新しいモノやコトが好きな⼈には楽しい学問分野になると思います。興味の分野はなんでも構いません。例えばゲームを考えてみましょう。ただゲームを遊ぶだけではなく「このゲームを作るために、どのような技術が使われているんだろう?」と疑問を持つことが大切です。そこからあなたの学びが始まります。ぜひ、創価大学で私たちと共に、情報通信技術のイノベーションを創造しましょう。
研究を漢字一文字で表すと?
「尖」
辞書で意味を調べると「先端が細く鋭くなっていること、とがっていること」とあります。ある分野において⾃分の研究にしかない、先端となる、尖っている知識・技術を創り出したい、という想いの元、この字を選びました。
経歴
2009年 創価大学大学院 工学研究科 情報システム学専攻 博士(工学)
2009年 創価大学工学部 助教
2012年 米国 西ミシガン大学 コンピュータサイエンス学科 訪問研究員(Visiting Scholar)
2012年 米国 パデュー大学 コンピュータサイエンス学科 博士研究員(Postdoctoral Research Associate)
2014年 米国 ロチェスター工科大学 コンピュータサイエンス学科 博士研究員(Postdoctoral Research Scientist)
2017年 (株)富士通研究所 IoTシステム研究所 研究員
2020年 創価大学 理工学部 情報システム工学科 准教授
金子 朋子 教授
情報セキュリティとセーフティの研究で、安心・安全なIT社会を実現したい!
金子 朋子 教授
情報セキュリティとセーフティの研究で、安心・安全なIT社会を実現したい!
これからのIT社会に欠かせない知識、情報セキュリティとセーフティとは
私の専門領域はIT技術における情報セキュリティとセーフティです。具体的には、IT技術が社会に悪影響を与える可能性を防いだり、対策する方法について研究しています。
高校生のみなさんも当たり前のようにインターネットやデジタル機器を使っていると思いますが、それらの安全性についてどこまで考えたことがあるでしょうか?今後、AI(人工知能)やロボット、自動運転車などの先端テクノロジーが生活に大きな影響を与えるようになるでしょう。情報セキュリティとセーフティの知識は、これからのIT社会を生きる上で欠かせない知識と言えます。
大きな刺激を受けた、合唱団での活動
小さいころから歌が大好きで、高校生の時には合唱団に所属しており、創立者とお会いする機会に恵まれたこともあります。合唱団では自分の生き方や人生の目標について触発される機会が多く、大切な思い出になっています。
当時の夢は学校の先生になることでしたが、同時に興味を持っていたのがコンピュータです。「いつか教育者になれたとしても、自分の専門分野を持った方が良いだろう」と考えてコンピュータを仕事で学ぶことに決め、大学卒業後は株式会社NTTデータにエンジニアとして入社しました。入社後20年目ごろに情報セキュリティの専門的な勉強を始め、仕事と夜間大学院での勉強、そして育児を同時に行う生活が始まりました。
高校時代は将来の夢を描く原点!大きな目標を立てて努力してほしい
IT業界に携わる中で、2006年に日本テレワーク協会のテレワーク推進賞 優秀賞の受賞、情報セキュリティ大学院大学で女性初の博士号取得、国立情報学研究所で特任准教授の就任など、貴重な経験を積むことができました。このようなキャリアを評価いただき、2023年に創価大学の教授に就任しました。「教育者になりたい」という高校生の時の夢を、約40年越しに実現したかたちになります。
今振り返ると、高校時代は自分の夢を描く原点になった時期だと実感します。この記事を読んでいる高校生のみなさんも、進路選びの第一歩として、自分がなりたいと思う将来の姿を描いてみてほしいですね。
AIやIoTの発展で、情報セキュリティとセーフティがますます重要に
私の研究における重要なキーワードが「セキュリティ&セーフティ」です。
セキュリティとは「情報」に関するものです。例えば個人情報データベースへの不正アクセスを防ぐ技術などが該当します。それに対し、セーフティは人の命や健康に関連するものを指します。自動運転車や飛行機の制御システムがこれに当たるでしょう。私はこれら2つの観点を主軸に、IT技術が人々の命や安全にどのような影響を及ぼすかを分析し、安全性を確保するための手法を研究しています。
具体的には、IoT(Internet of Things=家電などの「モノ」がネットに接続してサービスを提供すること)とAIを組み合わせたシステムの安全性に関する研究に取り組んでいます。今後はAIが普及することで、ますます情報の活用手法が複雑化すると予想されます。そのような状況において、情報セキュリティとセーフティの確保がとても重要になっているのです。私はシステムの安全性を向上させるために、セキュリティガイドラインの策定や、日本国内の技術者が集うAI / IoTシステム安全性シンポジウムの主催などを行ってきました。
より良い社会を目指すために、IT技術をコントロールするスキルを学ぼう
IT技術は私たちの生活を豊かにしてくれる一方で、たくさんの問題を抱えています。企業が利益を追求するあまり、情報漏洩などのリスクをおろそかにしてしまうこともあるでしょう。特に若い世代のみなさんは、AIの発展と共に成長する世代です。情報セキュリティとセーフティに関する正しい知識を学ぶことで、IT社会をより良い方向に導く存在になってもらえれば嬉しいですね。
創価の精神を体現するゼミを目指し、学生同士の交流を促進
ゼミではオンライン、オフラインを問わず積極的に交流する機会を設けています。学生の研究テーマに関する研究者を招いて講義をしていただいたり、夏季休暇中にリアルとオンラインの勉強会を行ったりしています。
先日はゼミ合宿を開催し、バーベキューや花火を楽しみました。というのも、現在(取材は2023年に実施)の大学生はコロナ禍で高校〜大学生活を送ったことから、学生同士のリアルな交流を経験していない方が多いんです。先日もゼミで懇親会を開催したのですが、初めて学生同士で飲食をしたという学生が少なくありませんでした。
学生同士が積極的に交流することでお互いの刺激になり、ひいては創価の精神である「価値の創造」の実現につながります。そのような想いでゼミを運営しており、学生からも「所属してよかった」「コロナ禍でのオンライン授業にはない楽しさがある」と好評です。今後も和気あいあいとした雰囲気のゼミ運営を続けていきたいです。
教授として、1人の親として、温かく学生を支えていきたい
創価大学は比較的小規模な大学なので、学生と教員との距離感の近さが魅力です。私の研究室にもよく学生が遊びに来て、お菓子を食べながらおしゃべりしていますよ(笑)。また、教員が研究室配属前の1、2年生を担当する「コンタクトグループ制度」があるため、相談事がある際はすぐに教員まで質問できます。そのような取り組みの影響なのか、素直で勉強熱心な学生が多いですね。キャンパスも緑豊かで居心地がよく、勉強に集中できる環境だと感じます。
私は学生と同世代の子どもたちがいるので、教授であると同時に、親の目線を持って学生と接するように心がけています。勉強面はもちろん、学生生活の悩み事など、なんでも相談してほしいですね。学生のいきいきとした姿を見ることが、何よりのやりがいになっています。
研究を漢字一文字で表すと?
「力」です。
情報セキュリティ大学院大学の修士課程に入学したとき、恩師から「研究は大きな力がつくんだよ」と言われたことが深く心に残っています。
研究とは、受験勉強のように教科内容を暗記して勉強するのとは全く異なり、概念、事象を追求し、新たな知見を創り出すことです。研究のためには、過去の研究状況を調査・理解することは必須で、そのうえで新たな知見を世に出していきます。採択された研究論文は、仮説検証によってその知見の新規性と有用性を示した範囲においては、世界初で世界一の知見です。そのため、単に勉強しているより、大きな「力」を研究でつけることができます。そして、その研究で培った発想自体も人生において大きな「力」になります。「研究の創価」を世界に示せる「力」をつけていきたいですね。
略歴
1988年 慶應義塾大学 文学部人間関係学科教育学専攻 卒業
1988年(株)NTT入社 同年7月(株)NTTデータに分社
1992年 創価大学 通信教育部法学部法律学科卒業
2010年 情報セキュリティ大学院大学 情報セキュリティ専攻 博士前期課程 修了
2014年 情報セキュリティ大学院大学 情報セキュリティ専攻 博士後期課程 修了
博士(情報学)
2016年(独)情報処理推進機構 研究員
2020年 国立情報学研究所 特任准教授
2021年(株)NTTデータ エグゼクティブR&Dスペシャリスト
2023年(株)NTTデータ 退職
2023年 創価大学 理工学部 教授
北野 晃朗 教授
「やわらかい幾何学」で空間の謎の解明に挑む!
北野 晃朗 教授
「やわらかい幾何学」で空間の謎の解明に挑む!
角度も長さも関係がない図形の性質とは?
私の専門分野は、数学の一分野である幾何学、中でも位相幾何学という分野で、トポロジーともいいます。数学は2000年以上の歴史を持つ古い学問ですが、トポロジーは100年ほど前に始まった、数学の中では比較的新しい分野です。最近では物理の理論的な部分と互いに刺激しあって、関係が深まってきている分野でもあります。
幾何学では、図形や空間の性質を扱います。小中学校の算数や数学では、図形といえば角度や長さが重要ですよね。でも、トポロジーでは、角度とか長さは関係ありません。また、直線か曲がっている線か、といったことも関係ないのです。
例えば、一筆がきができる形があるとします。「一筆がきできる」という性質は、線がまっすぐか曲がっているかということとは関係がないですね。一見、見た目が違う形でも、「一筆がきできる」という性質は共通にもっているということもできます。
トポロジーを説明するためによく挙げられるのが、ドーナツとマグカップの例です。一見、全く違う形に見えますが、ドーナツを縦にして両側から押し、穴をつくるとマグカップのような形になりますよね(図参照)。もちろん、ちぎれたりしないという前提ですけど(笑)。つまり、ドーナツとマグカップの形には共通する性質があると言え、トポロジーではそのように考えるのです。角度や長さが関係ないと考えるとこのような変形ができます。そこで、トポロジーは「やわらかい幾何学」と言われたりもします。
空間の性質を知るために重要な 「基本群」を研究
現在の私の研究ですが、例えば、球と浮き輪のような形を思い浮かべてみてください。地球のような球の上にいて、スタート地点にひもの端を固定し、ひもを持ったままふらふらと歩いて一周して、スタート地点に戻ってひもを手繰り寄せると、必ず手元に必ず戻ってきますね。でも、浮き輪のような形の立体上で同じようにすると、歩き方によってはひもを手繰り寄せても穴に絡まって戻ってきません。この絡まり具合をあらわしたものは「基本群」とよばれていて、その名の通り空間の性質を調べるときの一番基本的な情報になります。現在は、基本群に関する研究を中心にしています。
「受験数学」とはまるで違う数学の世界に感銘を受ける
算数や数学は昔から好きでしたが、飛びぬけてよくできたというわけでもなかったと思います。高校のときでも、私より数学の出来る同級生は何人かいましたから。ただ、数学が好きだったので、数学をずっとできればいいな、と思っていました。
そのころ、高校の社会の先生に、数学者の広中平祐先生が書かれた『学問の発見』という本を勧められて読みました。その本には広中先生が、自分のやりたいテーマと何年もかけて格闘していく様子、あと一歩で解決できるのにその一歩が出ない、その中で苦しまれる様子や人とのかかわりが描かれていました。パッと見て正解を出さないといけないような、学校の受験数学とはまるで違う世界で、数学の世界や広中先生の美学のようなものが格好いいな、と非常に感銘を受けました。
第三志望の大学に進学 失意の中で進路を見いだす
大学受験ではある国立大学の数学科を受験したのですが不合格。合格したのは第三志望の私立大学だったので、浪人しようと思いましたが、親から「お前が浪人する精神的負担の方が私立に行く経済的負担よりも大きい」と言われ、進学しました(笑)。しかし第三志望だったので、もやもやした気分がずっと付きまとっていました。好きな数学の勉強には励みましたが、年末になると、自分は同じところをぐるぐる回っていて、らせん階段を一段ものぼっていない、というような気分にとらわれて落ち込みましたね。そんな日々を過ごすうちに、勉強して大学院へ行こう、研究者を目指そうと思うようになりました。
研究者になろうと決めたものの、大学院へ行くと、本当にものごとをよく知っていて頭の切れる先輩たちが何人もいました。こんな人たちに混じって、この世界でやっていけるのだろうか、と不安になるばかりで、数学の世界でやっていけるかもしれない、とようやく思えたのは、博士号をとったときでした。
大事なのは目に見えないものを見ること。 美しさが数学の魅力
数学で大事なのは、目に見えないものを見ることです。例えば、さきほどの多面体の頂点と辺と面の数の話でいうと、「100回、計算して同じだったから同じです」、ではだめ。何度計算しても同じになるということは、そこに目に見えない何かがある、それを説明する数学の言葉を見いだすのです。だから、頭の中でいろいろイメージして考えるのが好きな人には向いていると思います。
数学の魅力は、美しいことです。その美しい世界を見たい、もっとわかりたい。よくたとえにされますが、風船がどんどん膨らむ感じですね。別の言い方をすると、山の向こうにまた違う山が見える。わからないことがわかるとその先にもっと世界が広がっていて、もっとわからないことが出てくる。それが研究の魅力です。また、研究の過程でいろいろな人とディスカッションすることで、世界はさらに広がります。そのような人とのかかわりも、私にとっては研究の大きな魅力です。
「役に立つこと」は予測できる?
「数学の勉強って何の役に立つんですか」よくそう言われます。でも、将来役に立つことって本当に予測できるのでしょうか。
例えば、私が初めて自分でノートパソコンを買ったのは、1995年です。当時25万円ぐらいで、メモリはわずか8メガでした。またOSはマルチリンガルではなかったので、海外で端末を借りると日本語のサイトは見られない。今では考えられませんが、わずか二十数年前は、そんな時代だったのです。今広く使われているマイクロソフトのofficeも、まだ流行りだしたばかりで、次の20年後にはどうでしょうか。
一方、高校で習う微積分は、350年前、最先端の理論でした。あまりに難解だったので、みんながわかるような形になるまでに約150年、かかりました。でも今ではあらゆるものに使われ、一番の基礎として役に立っています。これってすごいことだと思いませんか。ですから、役に立つことは何か、と問い詰めすぎることは、いいことではないと思います。
やってみたいこと、感動したことに挑戦してほしい
中学生、高校生の皆さんに数学に関してアドバイスするとしたら、わからない問題があったときに、すぐに人に教えてもらったり、答えを見たりする前に、徹底的に考えることですね。いい問題を徹底的に考えるのです。「これがわかれば、ここが突破できれば解決できるのに」というところまで自分で考えれば、解けなかったとしても、単に答えを教えてもらうのとは違い、確実に自分の中に残ります。数学の勉強では特に、そういうところが大事だと思います。
また、別に数学ではなくてもいいので、自分がとことんやってみたいと思うこと、感動したことがあったらぜひ、それに挑戦してがんばってほしいと思っています。「感動するのはこれだけど、役に立つって考えるとこっちだよね」なんてこと言わずに。また、人とのつながりは大事にした方が、人生は開けると思います。人間が嫌いなのに人の役に立つのは無理だし、人間は好きであってほしいですね。
人生はトライ&エラーです。何でもやってみないとわかりません。若いうちは、やってみてだめだと思って道を変えても、可能性は無限に広がっています。今は留学する機会なども豊富ですし、チャンスがあればどんどん外に出て、いろいろな人と出会い、経験を積んでほしいと思います。
先生にとって研究とは?漢字一文字で表すと?
「旅」
研究ではいろいろなテーマを追い求めているので、まるで旅をしているような感覚があります。また、実際にいろんな人と会ったり、学会や会議に出席するために旅をすることもよくあります。呼ばれるうちが華、ではないですが、いろいろな場に出て行けるように努力しながら、旅を続けたいですね。
プロフィール
情報システム工学科 北野 晃朗 教授
1965年 山口県に生まれる
1988年 中央大学理工学部数学科卒業
1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程数学専攻修了
学位 博士(理学)修得
1994年 日本学術振興会特別研究員
1995年 東京工業大学理学部 助手
1996-1998年 日本学術振興会海外特別研究員としてフランスで在外研究
2002年 東京工業大学大学院情報理工学研究科 助教授
2006年 創価大学工学部 助教授
2009年 同 教授
木下 聖子 教授
大きな可能性を秘めた「糖鎖」の研究を 情報工学を駆使して強力にバックアップ!
木下 聖子 教授
大きな可能性を秘めた「糖鎖」の研究を 情報工学を駆使して強力にバックアップ!
そもそも糖鎖とは? どんな働きをしているの?
私は「糖鎖インフォマティクス(グライコインフォマティクス)」の研究をしています。耳慣れない言葉かと思いますが、生命科学や医学、特に新しい薬を生み出す「創薬」の世界に大きく貢献すると期待されている分野です。
まず「糖鎖」とは何でしょう。文字通り、糖が鎖のようにたくさんつながってできている物質です。つながっていない糖は「単糖」と呼ばれます。みなさんも単糖の代表格であるグルコース(ブドウ糖)は聞いたことがあるでしょう。私たちの身体の大切なエネルギー源ですね。
糖というと「甘い」イメージですが、甘くない糖もたくさんあります。糖は私たちの体の中で栄養源として消費されるだけでなく、糖鎖になってタンパク質や脂質にくっつく形で、細胞の表面に存在しています。
糖鎖はヒトや動物だけでなく、植物や昆虫、微生物も持っている物質(生体分子)です。タンパク質とくっついている状態を「糖タンパク」と呼び、脂質とくっつくと「糖脂質」と呼ばれます。
糖鎖は細胞の特徴を決める 大切な「顔」!
糖鎖は「細胞の顔」だと言われます。表面に現れている糖鎖の種類によって、細胞を識別することができるからです。一番わかりやすい例が血液型です。血液型は、赤血球の表面にある糖鎖の違いによって生じます。この違いのために輸血ができたりできなかったりするのです。
糖鎖をもっと知るためには 専用の解析ツールが必要!
このように私たちの体内で幅広い役割を担っている糖鎖は、タンパク質(アミノ酸がつながった鎖)、核酸(DNAとRNAのこと:ヌクレオチドがつながった鎖)とならぶ第3の生命鎖と言われています。
糖鎖の研究には、生物学の情報を情報科学の手法で解析する「バイオインフォマティクス(生物情報科学)」という学問領域で培われた技術を使います。
しかし、糖鎖はタンパク質やDNAと違って枝分かれした樹木のような複雑な構造をしており、今までDNAの配列を調べるのに使われてきた手法やタンパク質の構造を調べるための手法を簡単に応用するわけにはいきません。
そこで私たちは糖鎖用のツールを新たに作って解析を進めています。それが「糖鎖インフォマティクス」の要になります。さらにそのツールを世界中の研究者が活用できるよう創価大学においてWeb上で共有する「RINGS(Resource for Informatics Glycomes at Soka)」を作りました。
じつはこの研究に至るまでに私がたどった道筋も、かなり長く複雑なものでした。
音楽好きの少女がなりゆきで コンピュータ科学を専攻することに
私は生まれてから大学院生までの27年間をアメリカで過ごしました。子どものころから音楽が好きで9歳からバイオリンを始め、高校時代もオーケストラでバイオリンを弾いていました。アメリカの高校は4年制なので、3年生からマーチングバンドにも参加。他にも数学クラブ、外国語クラブで活動し、学生会では書記をつとめました。
アメリカの高校は文系・理系を分けません。選択肢が広いのはよかったのですが、高校の時点では進路についてまだ何もイメージできていませんでした。
アメリカの高校には大学の授業を受講できる制度(AP授業)があります。そこでAP授業を全部取ってみた結果、理系に興味を持ちました。
一方、音楽も続けたかった私は、自宅の近くで音楽と理系の両方が学べる大学を探し、音楽と工学のジョイントプログラムがあったノースウエスタン大学に願書を出しました。しかし工学部にだけ合格し、音楽と工学の両方に合格すること、というジョイントプログラム入学資格を満たすことができませんでした。
工学部の中では唯一、コンピュータ科学に興味を持つことができましたが、それまでプログラミングに触れたこともありませんでした。同級生は皆小さい頃からプログラミングをやっていた男子ばかりだったので、とても苦しかったです。
そんな折、家庭の事情で学費が足りなくなりました。幸い大学には、4学期のうち2学期は企業で仕事をして給料をもらいながら経験を積めるというプログラムがありました。私はその制度を利用して務めた会社でパソコンの組み立て方などを基礎から習い、大学の授業にも追いつくことができました。その後、日本語の科目も追加で受講し3年次には卒業要件を満たす単位を取り終えました。
台湾での不思議な「縁」に導かれ 研究の方向転換を決意
大学には4年生で修士を取れるプログラムがありました。私はその条件を満たしていたので、幾何学を研究する指導教官のもとで修士課程を修了し、さらに博士課程に進みました。2年目が終わったときにその先生が台湾中央研究院の情報科学研究所長として就任することになりました。そこで、先生と共に台湾に移って、研究を続け、博士号を取得しました。
ちょうどそのころ、植物遺伝子の研究をしていたルームメイトの紹介で東京大学の教授にお会いする機会がありました。この先生に「君みたいな人がバイオインフォマティクスの分野には必要です」と言われ、心を動かされました。情報だけにとどまらず、もっと人や社会に貢献することができないかと模索していたところでしたから「これだ!」と思ったのです。その後バイオインフォマティクスの基礎知識を学び、遺伝子を解析するソフトウエアを作っている会社に入りました。
日本の大学に移ったことで 糖鎖とその大きな可能性を知る
その後、京都大学のバイオインフォマティクスセンターのポスドクに応募し採用されました。まさにそのとき、京大では糖鎖のデーターベースを作るプロジェクトが始まったのです。2003年のことでした。
2012年には糖鎖のロードマップもできました。私も日本人で1人だけインフォマティックスの専門家としてロードマップの執筆に参加しました。
DNAの塩基配列を自動で読み取る「シークエンサー」のような装置は糖鎖にはまだありませんから、解析には時間がかかります。それでも糖鎖の研究はここ10年で目覚ましく発展し、これからにも期待が寄せられています。
ちなみに「インフォマティクス」とは解析のためのソフトウエア、データベース、WebページやWebツールもすべて含め、データを解析し共有する仕組み全体のことをさします。またいろいろなソフトが作られても互換性がないと困るので、国際的に標準を決めることも大事です。
そのなかでも、研究室の学生にいちばん人気があるのはWeb ツールを作ることです。生物学に興味がある学生もいますが、私の研究室はツールを作るのがメインです。プログラミングを経験し技術者として働く能力が身につくので、SEをめざす学生が希望してくることが多いです。
糖鎖に関わる幅広い研究者が Webから利用できる仕組みを作る
いま糖鎖インフォマティックスではデータベースが注目されています。私も、糖質に関係する遺伝子、タンパク質、脂質、がんなどさまざまな基礎データを統合し、「糖鎖に関することを知りたかったらここにアクセスすればよい」という仕組みを作っています。
アメリカでも同様のプロジェクトが始まり、スイスにも糖鎖のデータベースがあるので、三者が連携してデータを共有し、定められた標準にしたがって公開するようにしました。
また、「糖鎖が細胞の中でどのように変化していくのか」という動的な解析をする研究(システムバイオロジー)も行っています。こちらも海外の研究者と共同でシステムバイオロジー・コンソーシアムという枠組みを作りました。研究者がネット上で糖鎖の変化をシミュレーションできるようにするのが当面の目標です。
思いがけないところにつながるから 糖鎖の研究は面白い
将来の夢は、糖鎖のすべてを解き明かして細胞の中でどのようにふるまっているのかを、コンピュータ上で再現することです。さらにいえば、糖鎖によってヒトの体の中で起こっていることも再現したいですね。
最近は、以前哺乳類では存在することが知られていない糖が筋肉の糖タンパク質に含まれていることがわかり、糖タンパク質が様々な疾患の発見や治療に重要ですので、医療への応用を目指す共同研究をしています。また、ヒトが摂取した食べ物から(通常は消化できない)重要な糖を腸内細菌が分解し体内に取り入れられるようにすることも知られています。腸内細菌もいろいろな糖鎖を利用していますから、腸内細菌の研究者とも共同研究したいと思います。また、脳の細胞にも糖脂質が多く含まれて様々な重要な働きをしているので、糖鎖を通じて脳の研究に貢献できたらいいなと思います。
このようにやりたいことはどんどん広がるのですが、人手が足りません。まずは高校生のみなさんに糖鎖の面白さについて知っていただき、興味のある方にはぜひ私たちの研究に加わってほしいです。
先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?
「協」
現在進行中のプロジェクトも一人ではできません。さまざまな分野の専門家と力を合わせてはじめて、うまく進めることができます。また、私の研究は糖鎖を通じていろいろなところと協力関係が生まれるので、協力の「協」の字がぴったりです。
プロフィール
共生創造理工学科 木下 フローラ聖子 教授
1973.2 米国ミズーリ州カンザス・シティ生まれ
1996.6 米国ノースウエスタン大学にてコンピュータ科学の学士号と修士号を同時取得
1999.12 米国ノースウエスタン大学にてコンピュータ工学の博士号を取得
2000.1 台湾中央研究院 ポストドクトラルフェロー
2000.5 米国バイオディスカバリー 上級ソフトウェア開発技術者
2003.4 京都大学化学研究所 ポストドクトラルフェロー
2004.4 京都大学化学研究所 助手
2006.4 創価大学工学部生命情報工学科 講師
2008.4 創価大学工学部生命情報工学科 准教授
2014.4 創価大学工学部生命情報工学科 教授
小林 幸夫 教授
公式はいったん忘れ 自分の感覚と言葉で「意味」を理解しよう
小林 幸夫 教授
公式はいったん忘れ 自分の感覚と言葉で「意味」を理解しよう
理論物理学の考え方で 自分が不思議に思ったことを研究
ぼくは子どものころからずっと、何かの専門家になりたかったのではなく、日々心にわいてくる自分の疑問を解決しようとしてきました。
勤務していた理化学研究所の任期満了が迫った時期に、このように大学で研究し、学生たちを教えることになりました。
現在は「理論物理学」の一環として、数理現象のしくみを解明する理論(数理モデル)を中心に研究しています。たとえば、タンパク質は分子の形(構造)によって働きが決まります。そこで、統計物理学に加えて、数学を用いた情報処理の方法を取り入れてタンパク質の形を解明しようとしています。
このほかに、固体の中で電子がどのようにふるまっているかを量子力学という物理学の方法を使って研究したり、自然界にたくさん見つかる「フラクタル(カリフラワー・ロマネスコのように一部分を拡大してみると、それが全体の縮小形になっている)」という形がどのようにしてできるのかを調べたりする研究もしています。
ぼくの演習には、数学の教員をめざす学生が多くいます。ところが、教えられた通りに計算はできても、それがどのような意味を持つのかイメージを描けない学生が多いことから、直観的に「わかる」ことを大切にした数学・物理学教授法の開発もしています。
素朴で根本的な子どもの疑問に 本気で答えた研究者との出会い
ぼくは元来「なぜ」「どうして」を考えたり調べたりすることが好きな子どもでした。「なぜ磁石にはN極とS極があるのか」「電気にはなぜプラスとマイナスがあるのか」など、根本的なところに疑問を持つのです。興味のおもむくままにいろいろな本を読んでいました。
数学でもプラスとマイナスをかけるとマイナスになると習いますが、先生はその理由を教えてくれませんよね。ですから、ずっと図書館で本を探して調べました。
そういうふうに、なんでも疑問を持って一つずつ解決しないと、わかった気がしないのです。
中学一年の時に、ある本の奥付に「質問があったらお寄せください」とあったのを本気にして、かねてから疑問だった磁石のことについて質問の手紙を書きました。その本は磁石とは関係なかったのですが、著者の先生は、便箋10枚に細かい字でびっしりとお返事をくださいました。当時東北大学の教授をされていた先生でしたが、そのお返事は、ぼくを対等の相手として書かれていました。感動して何度も読み返しました。
その手紙には「NとSがなぜあるのかではなく、物理ではそれを前提として、ではNとSがあることでどういうことが言えるのかを考えるものです」とありました。おかげで、科学には「なぜ」を問うものと、問わずに仮説を立てて始めるものがあるのだと、自分なりに区別することができました。
ぼくが大学院生の時に、物理学会の会場の東北大学で先生と直接お話しすることができました。
授業はつまらない、わからない だから気がついたら 物理学に集中していた
高校では数学や生化学にも興味を持ち、その日にどんな疑問を持ったかで進みたい学問分野が毎日のように変わりました。中でも物理学は、その考え方そのものが好きでした。論理に筋が通っており、自分の性格に一番合っていたのです。
しかし高校の物理は、習った先生や教科書との相性が悪く、つまらないし、まったくわかりませんでした。授業中に先生に質問したら、質問の意図を理解されずに怒鳴られたこともあります。そこで学校の授業は諦め、自分の発想で物理を納得できるように学んでいこうと考えました。
同じクラスに、試験の点数は中くらいでしたが、物理マニアの生徒がいました。彼が『ファインマン物理学』を読んでいたのです。アメリカの著名な物理学者リチャード・P・ファインマンが大学生向けに行った講義録を基にした本です。図書館で読んでみたところ、そこにはまさに自分の求めていた物理がありました。
大学や大学院とは別に 在野の先生にも理論物理学を学ぶ
大学受験では、数学・物理・化学・生物・地球物理が全部できる学科をめざしました。
ぼくは子どものころから、とにかく理科を全部やりたかった。当時そういう学科を持って
いる二つの大学のうちの一つでした。
ぼくの理系の勉強のしかたは受験向きではなく、第一志望の大学には進学できませんでした。
「第一志望の大学ではなかった」「希望の分野に進めなかった」と言って意欲を失う学生がいます。でも、そんなに大事なことでしょうか?ぼくは学部も大学院も第一志望の大学ではありませんでしたが、そこでの学びは無駄ではなかったと思います。偶然であっても足を踏み入れた環境で、新たに探究するテーマを見つければよいのです。
大学や大学院での教育は少々窮屈な感じがしましたが、それとは別に、戦時中に国家の英才教育を受けたあと独学で理論物理学を研究している先生に出会いました。先輩たちと何人かのグループで先生にお声がけをして、ゼミ形式で議論もしました。旅先での雑談の中で、物理のあれこれや、ぼくの疑問にぴったりの答えなどを教えてもらいました。現在の研究テーマの一つは、この先生が遺してくれたメッセージといえるかもしれません。
必要な情報だけを抜き出す それが数理モデルの第一歩
ぼくが研究に使っている数理モデルの初歩は、じつは高校の物理にも出てきます。たとえばペットボトルが転がる動きを考えるとしましょう。高校の物理学レベルでは、ボトルのくびれや蓋を考慮に入れず「円筒形が転がっている」と単純化して考えます。
この場合、必要なのは転がるということ、あとはボトルの質量と断面の半径です。ボトルが何でできているかは考えません。それでボトルが動くしくみを説明します。このように、必要な情報だけを取り出す作業が、数理モデルを作るためには欠かせません。
あるいは野球のボールが、放物線を描いて飛んでいくとしましょう。高校物理ではボールの材質や大きさは関係なく、一個の“点”が飛んでいくものとして考えます。このように高校の教科書も、モデルという言葉は使っていませんが、モデルを扱っているのです。
ある問題を解決しようとするとき、雑多な情報がたくさん混ざっているのが現実です。その中でほんとうに必要な情報を見分けるトレーニングが重要です。特に物理学は、押したらどうなるか、引っ張ったらどうなるかなど、数式や用語に潜む現象を感覚としてイメージできなければいけません。その感覚を養うには、小・中学校で実際に「もの」に触って動かす経験をたくさんすることです。
しかし、残念ながらこうしたことは学校では教えませんし、教科書にも書いてありません。物理学の考え方の根本を教えず、出てきた結果の方程式だけ書いてあります。ぼくは、美術や技術・家庭が好きなせいか、具体的なイメージが描けないと納得できません。だから、高校物理とは相性が悪かったのでしょう。
逆に言えば、その後の学びによって、高校の先生や教科書が教えてくれないところにこそ物理学の真髄があることを知ったのです。
それまでの常識を取り払い ほんとうの「わかる」をめざす
学生を見ていると、点が取れる子がわかっているとは限らないことに気がつきます。単に要領がいいだけだったりします。みんな勘違いしていますが、試験の問題が解けて答えが出せるのと、物理の概念が自分のものになっているのとでは、まるで違うのです。
そこでまず、学生には「公式を使わないで根本から考えなさい」と言います。公式を思い出さずに、目の前の現象に向き合わせます。
たとえば2つのかたまりを手のひらに乗せて比較させ、「どっちが重いか」と、わかったことを自分の言葉で表現させます。「それはどうしてだと思うか?」というところから入っていって、数式を使わず感覚を動員してじわじわと進めて行きます。最後に「どのくらい違うか知ろう」というところで、初めて数や式を出して計算させます。
そうすると、受験勉強が得意だった学生はたいてい嫌な顔をします(笑)。無駄なものを詰め込んできているから、まずそれを取り除いてやり直さなければいけない。先入観のない学生のほうが、物理についての感覚も鋭かったりします。
今流行りのテーマよりも 自分の興味を中心に置こう
ぼくは「覚えた知識で問題が解けて答えが出せればよい」という現代の風潮に抵抗しています。だから何かの専門家になろうとはしません。ある分野の権威になるのではなく、自分が疑問に思うことに対峙していきたいからです。
ですからぼくにとっての論文は、「疑問を解決して新しくなった自分が、疑問を持った過去の自分に宛てて書く手紙」なのです。
理系の研究分野にもいろいろと流行がありますね。本当にそれに興味があるのならともかく、中身がよくわかっていないのに、流行っているから、と飛びつくのはどうかと思います。いま役に立つものは、すぐに役に立たなくなります。それに対して基礎はいつまでも古くなりません。
ぼくは自分の興味や関心を中心に据えているので、研究を学生に手伝わせてはいません。ですから、特にこういう学生に来てほしいという要望はありません。ただ、せっかく演習でぼくのところに来るのなら、数学や物理の奥深さや心を知って、その人なりの面白い変化を起こしてくれるといいと思います。
先生にとって研究とは?漢字一文字で表すと?
「疑」
一つは、文字通り疑うということ。さらには疑問を解決すること。わかるのは楽しいですが、その瞬間に終わってしまうので、ずっと未解決の疑問を持っているのもよいものです。特に理工系の学生や研究者は、長時間わからない状態でいることを楽しみながら疑問と付き合える資質が必要です。
プロフィール
小林 幸夫 教授
早稲田大学 (理工学部) 1983 年 卒業
東京大学大学院 博士課程 (理学系研究科) 1988 年 修了 理学博士
﨑山 朋子 准教授
人とは違った研究を追い求め、 「アリ」を使って、柔軟で強いシステムを研究!
﨑山 朋子 准教授
人とは違った研究を追い求め、 「アリ」を使って、柔軟で強いシステムを研究!
集団になると賢く行動する!? 生物ネットワークの不思議
私はアリの行動を観察して、生命現象を模倣した「柔らかいコンピュータ・システム」の研究をしています。
鳥や昆虫(特に社会的昆虫と呼ばれるアリやミツバチ)の群れは、特定のリーダーがいるわけではないのに、個々の個体どうしの簡単なコミュニケーションによって、集団として高度なふるまいをします。
たとえば、アリが最短距離でエサを巣にもち帰ったり、小魚が寄り集まって大きな魚のふりをして外敵から身を守ったりするなど、群れで周囲の状況を把握して、生き残るのに有利な行動をとることが知られています。
特定のリーダーが指令を出しているわけではありませんから、もし群れの一部が敵にやられてしまっても、群れの機能はすぐに修復します。群れ全体としては壊れにくく強い、しかも柔軟に変化に適応できる優れたしくみをもっているのです。どうしてそのようなことができるのでしょうか。
アリの集団行動を研究すれば かつてない情報処理の仕組みがつくれるかも!?
私の専門分野は「群知能」と言われる分野です。「群知能」とは、前述のような生物の群れの行動をまねた、コンピュータの計算方法(数値モデル)のことです。生物の群れの仕組みに学ぶことで、環境の変化に柔軟に対応でき、扱いやすく丈夫なシステムが作れるのではないか、と考えられています。
私の研究室では数百匹単位のアリの群れを飼っています。「アリがお好きなんですか?」とよく聞かれるのですが、特に好きではありません(笑)。実験に使うのはアリの「行動」だけですから、生物というよりはやはり情報工学で、内容はぐっと物理学寄りの研究になります。
中学のころから好きだった 天文学を学ぼうと、大学に進学
私は、実は中学生のころから天文が大好きで、将来は天文学の研究をしたいと思っていました。高校には天文部がありませんでしたが、望遠鏡を持って出かけては天体観測をしていました。また、中高生の頃に好きな科目は物理でした。なかでも力学や波動が好きでしたね。
地元の近くで天文学や宇宙物理学が学べる大学は神戸大学しかありませんでしたから、大学受験では神戸大の理学部惑星学科をめざして勉強し、無事入学が叶いました。
ところが大学進学後、天文とは全く違う方向に進むことになります。
天体の運動よりあいまいで、 複雑怪奇な「生命現象」へと関心が移る
大学の学部生のときは、惑星に関する物理学や、情報工学を学びました。惑星科学では、天体がどのように動くのかを、コンピュータを使った数値シミュレーションで導き出します。ですから、コンピュータで計算する手続き(アルゴリズム)や、それを実際にコンピュータにやらせる「プログラミング」の知識は必須なのです。
しかし、物理学という学問全体にも言えますが、天体のふるまいにはきっちりとした法則があり、そこからはみ出すことは、まずありません。惑星科学を知れば知るほど、「答えが決まってしまっているなら、面白くないなあ」と思い始めたのです。私の興味は、天文や物理から、より複雑であいまいなシステムである生命現象の方に移っていきました。
“変わり者”の先生が主宰する研究室で アリを使った研究を始めた
大学3年生になって、所属する研究室を選ぶときに、たまたま生命現象や、「意識と心」など哲学的なシステムを研究している教授に出会いました。惑星学科の中にいて、ひとりだけ違うことをしている、ちょっと変わった先生でした(笑)。
私も人とは違う研究をしたかったので、「これは面白そうだ!」と、その研究室に進みました。
大学4年生のときにはアリを捕まえて研究室で実験を始めました。アリを選んだのは、群れを作る生き物の中で一番飼いやすく扱いやすかったからです。
予想もつかないアリたちの動きと、 無数のニューロンが相互に作用する「脳」を対比してみよう
脳の情報ネットワークは、ニューロンという神経細胞がたくさんつながることでできています。学生時代の研究を通して、私は一つのニューロンを一匹のアリに対応させてみることで、アリのふるまいを抽象的な意識のモデルとして用いることができるのではないかと考えるようになりました。
複雑で一見予測不可能な現象を研究する「カオス理論」や「非線形科学」と呼ばれる分野があります。アリの集団行動について「アリの集団が高度なふるまいをするのは、複雑系によるものだ」というのは広く知られていました。
でも、アリなどの生物集団におけるミクロ(個体)とマクロ(集団)の関係性についてはわかっていない部分も多いのです。
これまでの研究を通して、 「群れの中のアリは分子ではない!」と悟る
学生時代からの研究でわかったことを一言で言うと「個々のアリは、規則的なふるまいをする分子のような存在ではない」ということでした。つまり意思をもった個体であり、単一の規則には従わないのです。
当たり前のように思えるかもしれませんが、アリは小さく、脳も小さいですから、蓄積できる経験は限られています。それでも、仲間との相互作用や経験で、その次にとる行動自体がガラリと変わることもあるのです。そこがすごく魅力的です。現在もこの研究の延長の研究を続けています。
私は特に、個々のアリの行動やアリ同士のコミュニケーションといったミクロな現象に興味をもっています。日々、地道にアリの行動を分析し、その様子をコンピュータで再現していきます。でも、今のところアリの動きは予測ができないですし、予定調和にはなりません。本当に興味深いです。
情報やコミュニケーションを切り口に、 「生命」や「心」の謎に挑みたい!
私は、柔軟なネットワークや、あいまいさを許す情報の扱い方が好きです。機械的な情報処理は、狭い範囲では迅速に答えを導き出すことができるでしょう。それに対して私の研究は、根気はいるし、複雑だし、検証するのも大変ですが、より広い範囲に応用できる「解」を得られる可能性があります。
なぜこのような研究をしているのかというと、究極的には「生命とは何か」という普遍的な問いに挑むためです。その一つの手段として、私は情報やコミュニケーションに注目しています。
私たちが考えたり、会話をしたりするのも、実は全て脳や身体を構成する物質がもとになっています。そして脳のニューロンは生きた細胞です。経験によってネットワークが作られ、さらにそのネットワークは日々組み替えられていきます。
意識や心は物質から浮かび上がるものだと言えますが、いったいどのように生まれるのか、実はよくわかっていません。
群れとしてのアリの動きも、1匹1匹のアリの動きから成り立っています。それが集団となって、まるで統一された意思があるかのようにふるまっているわけです。ニューロンのネットワークから「心」が生まれるのに似ていると思いませんか?
最短距離よりも、根源的な問いを重視する。 そんな人を募集します!
私の研究室は発足してまだ1年目です。学部の学生はアリと一緒の研究室で、ナビゲーション実験や迷路学習実験などを手がけています。アリの動きを地味にカメラで撮影して記録するのですが、実験しながら「アリの社会は簡易版の人間社会モデルそのものだなあ」と、つくづく感じます。
この分野に向いているのは、物事をじっくり考えることができる人です。早く答えにたどり着こうとするのではなく、他方面から、さまざまな可能性を探るタイプの人がいいと思います。
ありふれているように見えることでも、見方を変えれば新しいアプローチがあります。そのような指向性をもつ人に、ぜひ一度研究室を訪ねて来てほしいです。
研究を漢字一文字で表すと?
漢字一文字で表現するのはなかなか難しいので、本の紹介にさせてください。
『意識する心―脳と精神の根本理論を求めて』(デイヴィッド・J. チャーマーズ著、白揚社)
タイトルの通り、「意識とは何か」という問いに挑んでいます。私の研究に少しでも興味を持たれたら、ぜひ一読してみてください。
経歴
2012年 神戸大学理学部地球惑星科学科卒業
2013年 神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻博士課程前期課程修了(理学修士)
2015年 神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻博士課程後期課程修了(理学博士)
2015年 日本学術振興会特別研究員(PD)
2016年 岡山大学工学部助教
2019年 創価大学理工学部准教授
宍戸 英彦 准教授
視覚認識の技術を活用し、人体の動きの謎に挑む!
宍戸 英彦 准教授
視覚認識の技術を活用し、人体の動きの謎に挑む!
「苦手なりに好きだった数学」挑戦することで見つけた自分の武器
私は情報工学とスポーツ科学の融合をテーマにした研究に取り組んでいます。特に視覚認識技術(カメラで撮影した映像をコンピュータが認識し、分析する技術)の活用に焦点を当てており、スポーツ中に行う動作や、人体の仕組みを分析しています。
小学校では少年野球に、中学・高校ではバドミントンに打ち込みました。勉強面では、実は数学が最も苦手な科目でした。なぜ自分は数学が苦手なのだろう?という疑問の答えが知りたくて、大学では数学科に進学しました。当たり前ですが、周囲は数学が得意な学生ばかりなので、数学が苦手な私は圧倒的な少数派です。優秀な友人の姿を見て落ち込むことも多かったですね。
それでも、数学に向き合うことでたくさんの発見があり、後の研究テーマにつながるプログラミングのスキルも身につけられました。苦手分野に挑戦することで成長できたと実感しているので、結果的にはとても良い選択をしたと思います。進路を考えている高校生の方も、得意なことだけではなく苦手なことにも目を向けてみれば、進路選択のヒントを見つけられるかもしれません。もちろん、それなりに大変なのでおすすめはできませんが(笑)。
ベンチャー企業で培った視覚認識の技術と、スティーブ・ジョブズのスピーチが人生の転機に
大学卒業後はIT系のベンチャー企業に就職し、3年ほどがむしゃらに働きました。視覚認識技術に出会ったのもこの頃です。
仕事は楽しかったのですが、次第に「自分はこのままITエンジニアとしてキャリアを終えて良いのか?」と考えるようになりました。そんな時にふと思い出したのが、Appleの創業者、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチです。その中で、ジョブズが学生時代に勉強したカリグラフ(文字のデザイン)の知識が、後にApple製品の洗練されたデザインに影響を与えたという一節があります。一見すると無関係な経験を組み合わせて新たな価値を生み出すことを、ジョブズは「ドット(点)をつなぐ」と表現しました。
当時の私が持っていた「ドット」が、中学・高校で熱中したバドミントン、大学で学んだ数学、そしてベンチャー企業で培った視覚認識技術です。これらを組み合わせれば、情報工学とスポーツ科学を融合した研究ができるはずだと思い立ちました。現在に至る研究のスタート地点に立った瞬間です。
思い切って会社を辞め、研究に取り組み始めました。その後は筑波大学大学院システム情報工学研究科の修士課程、博士課程を修了し、 国立スポーツ科学センターの契約研究員、英国サリー大学の客員研究員、筑波大学計算科学研究センターの助教を経て、2023年に創価大学理工学部の准教授に着任しました。
IT技術を駆使してスポーツ選手の動作を分析
続いては、具体的に私の研究内容を紹介していきましょう。研究では実際に運動している人をビデオカメラで撮影し、その映像をコンピュータで分析します。例えば上の画像は、複数のカメラを使って撮影したバドミントン選手の映像から、選手の骨格モデルをリアルタイムで生成する研究です。この研究の特色のひとつが、選手の体に計測用のマーカーが必要ないことです。つまり、いつも通りにプレーする選手を撮影するだけで、分析用のデータを生成できるのです。通常、複数のカメラを使用して3次元以上の情報を得るためには非常に難しい作業が必要ですが、簡単かつ高精度に行う手法を研究しました。
このような研究により、スポーツ選手の動きを詳細に分析することが可能になります。シンプルな動作であっても解明されていない部分が多く、バドミントンを長年続けてきた私にとっても驚くような発見がたくさんあります。これまでわからなかった情報が可視化される過程こそ、研究の醍醐味ですね。スポーツの動作解析の研究は、効率的な練習方法の開発やケガの予防など、幅広い分野での応用が期待されています。私の研究が、スポーツ界にとって何か有益な情報になれれば嬉しく思います。
「伝える力と聞く力」を伸ばすゼミ 研究にもビジネスにも役立つスキルを習得
私のゼミの特色が、プレゼン発表の機会をたくさん設けている点です。これは、学生たちに「発表力と質問力」を身につけてもらいたいという指導方針に基づいています。自分の考えを相手にわかりやすく伝えたり、効果的な質問をしたりすることは、研究者に欠かせない基本的なスキルです。さらに、就職後のビジネスシーンでも必ず役立ちますので、徹底して指導しています。スキル向上のためには、繰り返し練習することが欠かせません。これはスポーツでも学業でも共通ですね。
また、一般的にゼミの研究は4年生から始まることが多い中、創価大学のゼミは3年生から個人研究を開始します。このアプローチの最大の利点は、普通の学生が研究を始める4年生になる頃には、既に研究の基盤が築かれているという点です。質の高い研究につながることはもちろん、就職活動で研究内容をアピールできる点も大きなメリットです。
幅広い学問の知見とグローバルな姿勢が創価大学の魅力
創価大学理工学部はやや小規模な学部でありながら、情報セキュリティからロボット工学に至るまで、多岐にわたる分野の先生方が所属しています。様々な分野を横断して学ぶことができるので、自分の興味・関心に応じた研究テーマを見つけやすい環境です。
そして、もう一つの魅力はグローバルなマインドです。語学の授業や留学支援制度、留学生との交流など、様々な施策を実施しています。英語が得意でなくても問題ありません。海外に興味を持ち、世界で活躍する人材を目指したい、という気持ちがある学生を全力でサポートしています。語学や海外での学びに興味がある方は、ぜひオープンキャンパスにお越しください。
研究を漢字一文字で表すと?
「体」
私の研究は人体の仕組みを情報工学、スポーツ科学の観点からアプローチしています。
この漢字を選んだもうひとつの理由が、研究は体が資本だということです。徹夜作業で心身を酷使するよりも、きちんと睡眠時間を確保する方が遥かに効率的です。私はそれに気づくまでに何年も費やしてしまいました(笑)。学生のみなさんも、くれぐれも体を大切に、学生生活に打ち込んでもらえれば幸いです。
略歴
2016年 筑波大学 大学院システム情報工学研究科 修了
博士(工学)
2016年 国立スポーツ科学センター 契約研究員
2017年 筑波大学 計算科学研究センター 助教
2018年 英国 サリー大学 客員研究員(兼任)
2023年 創価大学 理工学部 情報システム工学科 准教授
篠宮 紀彦 教授
“バズるメカニズム”を数式で表現するには? 数学の力で社会課題の解決に挑む!
篠宮 紀彦 教授
“バズるメカニズム”を数式で表現するには? 数学の力で社会課題の解決に挑む!
大きな衝撃を受けた、1台のコンピューターとの出会い
私の研究テーマは情報通信ネットワークです。簡単に言えばインターネット技術であり、近年はSNSの研究に力を入れています。現在の研究テーマに至るまでは紆余曲折がありましたが、原体験として挙げられるのは、小学5年生の時に祖父が突然買ってくれた1台のコンピューターです。35年以上前ですから初歩的なコンピューターで、記録媒体は何とカセットテープです。当時のフロッピーディスクは高級なメディアで、子どもに手が出せるようなものではありませんでした。今の高校生の方からすれば、カセットテープもフロッピーディスクも使ったことはないと思いますが(笑)。
とはいえ、それでもコンピューターに違いはありません。カセットテープのデータを読み込んで動く様子には感動を覚えました。操作方法を勉強し、初歩的なプログラミングで図形を描いたり、授業で学んだ数式を入力したりして遊んでいました。数学とコンピューターという、私の研究領域に関連する分野が初めて重なった瞬間だと思います。当時、つまり1980年代後半は一般社会でもコンピューターが注目され始めていたので、将来の進路も「数学とコンピューター」が関わる分野に進みたいと考えるようになりました。
このような経験があったので、大学進学では迷わず理系を選択しました。私が大学に進学した1990年代初頭は、日本中の大学に情報工学系の学科が設立され始めたころです。コンピューターがアカデミックな分野だけでなく、産業や行政からも注目されるようになり、情報系の教育に力を入れていく機運が高まっていたんですね。特に産業界からの注目は大きく、今でいうシステムエンジニアの需要が急激に高まっていました。私もコンピューター関連の企業に就職しようと考えていましたが、最終的には研究の道を選ぶことになります。そのきっかけは、私の指導教員との出会いでした。
「とんでもない時代がやってくるんだ」 恩師の言葉で研究の道へ
指導教員の先生は、企業から大学に来られた経歴をお持ちの方でした。とある大手電気メーカーで40年以上も先進的な技術開発に携われていたため、技術だけでなく、ビジネスについても深く精通されていました。その先生は「これからのビジネスパーソンは与えられた仕事を処理するだけではなく、創造的な仕事をしなくてはいけない。その一翼を担うのが、研究経験を持つ大学院卒の人材だ」と話されていました。その話を聞いた時、私が考える研究者のイメージが「大学で論文を書く人」から「創造的な精神を持って仕事をする人」に変わりました。将来のキャリアに関する、大きな発想の転換点になったんですね。それで私も研究を通して創造的な力を養いたいと思い、研究の道を志しました。
しかし、大学院に進むということは何か研究テーマを決めなくてはいけません。実は、そこでも同じ先生に大きな影響を受けました(笑)。先生は大手電機メーカーで長年働かれた経験から、技術が社会に与える影響について、かなり正確に時代の傾向を掴んでいました。そんな先生が「これからは絶対にインターネットの時代になる。とんでもない時代がやってくるんだ」と、よくおっしゃっていたんです。
当時の私はインターネットと電話の違いもよくわかっていませんでした。一方で、インターネット関連の企業が有名になったり、Windows 95など一般消費者向けのパソコンが普及したりと、インターネットが世の中をざわつかせているような感覚を肌で感じていました。「信頼できる先生を信じて、まずはしっかりと情報通信技術について学んでみよう」と考え、情報通信、特にインターネットの技術を専門分野に決めました。
フェイクニュースはどのようにして拡散する? 社会問題に数学の力で挑む
私の主な研究テーマは、数学とネットワークの融合です。数学は物事を抽象化する代表的な学問ですが、これを現実の情報ネットワークに当てはめることで、現実の現象を数学的に分析する研究に取り組んでいます。とりわけ今、力を入れている研究テーマがSNSです。高校生のみなさんもSNSを楽しく利用されていると思いますが、一方で誤った情報や、悪意のある情報の拡散が社会問題化しています。このような問題に対し「SNSで情報が拡散する仕組みがわかれば、誤情報の拡散を防げるのではないか」という研究が海外の研究者の間で注目されています。
「“バズるメカニズム”の予測なんて可能なの?」と感じるかもしれませんが、SNSでのコミュニケーションは現実世界と異なり、ルールが決められている点がポイントです。Twitterの文字制限などが良い例ですね。これが何を意味するかというと、情報の流れにルールが決められている=情報の流れを数学的に捉えられるかもしれない、ということです。例えば物理学では気体の拡散、光や音が伝わる様子を数式で表現していますが、これらは気候や重力など、SNSの投稿ルールよりもはるかに複雑な条件をもとに計算を行っています。自然界を数学的に表現できるのなら、人が作ったSNSでも不可能ではないのです。
SNSで情報が広がる仕組みを数式で表現できれば、様々な分野に活用できると期待されています。例えばフェイクニュース問題を考えてみましょう。フェイクニュースが拡散する仕組みがわかれば、拡散される前に対策を講じられるかもしれません。現代社会ではインターネットに精通している人が意図的にフェイクニュースを拡散させているケースも多くみられ、一企業レベルではもはや対応できなくなっています。辛い思いをしている方がたくさんいると思うので、少しでも被害を防ぐことができれば、研究の意味が達成されるのではないでしょうか。
ITリテラシーが必須の時代だからこそ、自分の興味・関心を追求しよう
情報システム工学科という学科名に対し「専門性の高い知識を求められるのでは」と身構えてしまう高校生の方も多いようですが、周りの学生もほぼ全員が同じスタート地点に立っています。仮に授業を難しいと感じたとしても、一緒に学ぶ仲間たちも同じくらい頭をひねっているはずです(笑)。むしろこの学科に必要なものは「自分はとにかくこれが好きだ、やってみたい」という気持ちではないでしょうか。
昨今は社会全体でデジタルスキルが重要視されており、文系の学生でもプログラミングを勉強する時代です。そんな時代に情報系の学部・学科で勉強する意味のひとつが「自分の興味関心を、理工学の観点から深く追求する経験を得ること」だと思います。それがゆくゆくはあなたの専門性につながり、学んだことを社会に還元するきっかけになると思います。興味の対象は何でもかまいません。私の授業を受けている学生も、ロボット、ネットワーク、ゲームなど多種多様な分野を追求しています。今の学力は問題ではありません。自分の興味関心を通じて、社会に貢献してみたいと少しでも考えている方は、ぜひ入学をご検討ください。
研究を漢字一文字で表すと?
「匠」
研究者は独自のスキルで研究活動を乗り越える必要があります。
それは例えるなら、他の人では簡単に真似できない技術を持つ職人です。
職人は自分の道を極め、技術を社会に役立てています。
私もそんな研究者になりたいと思い、この字を選びました。
略歴
2001年 創価大学大学院 工学研究科 情報システム学専攻 博士後期課程修了
博士(工学)
2000年 (株)富士通研究所 ネットワークシステム研究所 入社
2005年 創価大学 工学部 専任講師
2007年 創価大学大学院 工学研究科 博士前期課程担当
2009年 創価大学 工学部 准教授
2011年 創価大学大学院 工学研究科 博士後期課程担当
2014年 米国テキサス大学ダラス校 客員研究員
2015年 創価大学 理工学部 教授
崔 龍雲 教授
学生と共に、自律型AIロボットの可能性に挑戦!
崔 龍雲 教授
学生と共に、自律型AIロボットの可能性に挑戦!
コンピューターに導かれ、日本で出会ったロボット研究
「COMPUTER? このコンピューターとは、一体何なんだ?」
1970年代後半の韓国、浪人生だった私は、偶然手にした雑誌の記事でコンピューターという存在に出会いました。当時の私は医学部を目指す浪人生で、コンピューターや機械工学とは無縁の生活を送っていましたが、その記事を読んで以来、コンピューターのことが頭から離れなくなりました。最終的には進路を変更してコンピューター関連の大学に入学したのですが、当時はコンピューターそのものが黎明期なので、大学のカリキュラムも満足のいくものではありませんでした。どうしたものかと思っているうちに、2年半の兵役生活が始まります。しかし、その間もずっとコンピューターに対する憧れは止みませんでした。
除隊後は、さらにコンピューターを勉強するために、神戸大学への留学を決めました。先進国の大学に行けば、もっと設備が整った環境で勉強できるだろうと考えたからです。当時(1986年ごろ)はパーソナル・コンピューターが一般にも普及し始めており、コンピューターを「どう使うか」が問われる草創期でもありました。そんな時代に神戸大学で出会ったのが、コンピューター応用の代表でもあるロボットの世界です。それ以来、一貫してロボットを研究テーマにしています。
ロボット大会「ロボカップ」で学生の成長を促す
私の研究はロボットの設計や製作、センサの製作およびそのソフトウェア製作です。研究室の特色としては、自律型移動ロボットの競技大会「ロボカップ」のJapanOpen大会に10年以上連続で出場しています。ハードウェアからソフトウェアまで、学生自らチームワークでロボットを設計・製作しています。そのチーム名がTeam SOBITSです。
この取り組みは学生に好評で、研究室には連日たくさんの学生が集まり、研究に没頭しています。また、ロボカップに出場して活躍する学生には企業側も注目しており、例年大手企業グループなど、多数の有名企業への就職実績にも結びついています。
なぜ大会に出場するのかと言えば、学生には高い目標をもって実践してほしいからです。ロボカップは世界的に有名な大会なので、出場する学生は厳しい競争にさらされます。他大学との競争だけでなく、自分自身との戦いでもあります。大会の現場では、わずかでもミスがあれば、努力してきたことの全てが水の泡になってしまいます。だからこそ、自分が培ってきた技術や経験を当日の大会に総動員するわけです。
普段の大学生活の中で各自の技術を磨き、チーム全員で目標に挑戦する。そういう経験は学生を大いに成長させてくれますし、努力する学生に対して企業の採用担当者も目を光らせています。ロボット工学はソフトウェアとハードウェア、双方の技術が求められるので、企業にとっては即戦力の人材になるわけです。
研究室の学生の就職実績に関してですが、大企業に入社することがすなわち成功ではありません。むしろ私が嬉しく思うのは、学生達が自分の夢を叶えていることです。例えば、ある学生は企業の最終面接で、「ロボットの研究ができないなら」と、大手IT系グループ企業を断ってしまいました。驚くかもしれませんが、その後宇宙航空研究開発機構(JAXA)から内定を獲得し、次年度からは長年の夢であったロボット開発を仕事にしています。だからこそ、高校生の皆さんも大学生活を単位取得と就職を勝ち取るための場ではなく、「目標を見つけ、その実現のためのスキルを身に付ける実践の場」として捉え、社会に羽ばたける人材になってほしいと願っています。
育てるのではなく、共に実践する研究室
教授から手取り足取りで、指示や指導だけをもらえればうまくいくと思ったら学生は成長できません。教員を含め先輩と後輩のチームワークで、一緒に議論して実践することで必要な知識を身に付け、一人前に成長していけると考えています。私の研究室では毎日のように学生達がグループを組み、皆で議論しながら実験を繰り返しているにぎやかな様子が見かけられます。
私の研究室では先輩・後輩などの上下関係もありません。先輩だからといって技術が優れているとは限らないからです。現在は学部1年生も参加しています。私も大学院生や学部生、学年を問わず、平等に厳しく指導しています。だから私の研究室は厳しいとよく言われますが、同じくらい「優しい」と言われることも多いです。ただ厳しくするだけでなく、しっかりと学生達に向き合うことを心がけているからでしょうか。そのような方針をもう20年以上も貫いています。
「その数式は何に役立つのか?」数学を通して世界を考えてほしい
昨今は理工系学部でも、数学に苦手意識を持つ学生が増えています。あくまで私の推測ですが「数学がどのように社会に役立っているのか」を理解していない学生が多いからではないでしょうか。
例えば、AIの根本は確率統計です。確率統計がAIやロボット開発に直結すると考えれば、数学の授業もワクワクしてきませんか? 微分積分も三角関数もベクトルも、その先は全て一般社会に、ひいては私達の身の周りの環境につながっているのです。
高校生の皆さんは、ただ先生に言われるがまま数学の問題を解くのではなく「この数式は、何に対して使われるのだろうか」と興味を持っていただきたいと思います。そうすればおのずと大学で研究したいことや、将来の目標を見つけるきっかけになるのではないでしょうか。
理工系は新しいことに挑戦する学問なので、ある面では厳しい世界かもしれません。でも、難しい課題や競争の世界に飛び込むからこそ成長することができます。高校生の皆さんも、理工学部での学びを通して新しい世界に出会っていただければ嬉しいですね。
研究を漢字一文字で表すと?
「挑」
私にとって研究とは、未知の世界に挑戦することです。挑戦の精神を失った時は、私の研究室を閉める時ですね(笑)。もう30年近く、学生達と共にワクワクしながら、「これができれば、面白くなる!」と言いながら次の課題に向けて楽しく研究に挑んでいます。
略歴
1961年 韓国釜山生まれ
1983年 韓国中央大学工学部電子計算学科卒業
1990年 神戸大学大学院工学研究科修士課程修了
1995年 同大学院自然科学研究科博士課程修了.博士(工学)
1995年 創価大学工学部情報システム学科助手
2000年 同大学講師
2006年 同大学准教授
2012年 同大学教授
寺島 美昭 教授
情報をつなぎ、組み合わせ、新しい価値を生み出す!
寺島 美昭 教授
情報をつなぎ、組み合わせ、新しい価値を生み出す!
コンピューターとの出会いで理工系の道へ
高校2年生の時に理系の進路を選びましたが文系学問にも興味があり、特に地理関係が好きでした。民族学や歴史も好きだったので、大学では地理学研究会に所属しました。地方の村でフィールドワークを実施し、住民の方に村の伝承について聞き込み調査を行いました。そのような活動が非常に楽しくて、将来は地理学関係の仕事に進むべきかと真剣に考えた時期もありました。趣味の山登りやトレイルランニングにもその影響があるかもしれないですね。
このように文系分野にも興味がありましたが、高校卒業までに将来の仕事として選んだのは理系分野でした。特に数学や物理など計算でサイエンスを表現できる教科に興味があり、工業系の大学を志望しました。私が高校2〜3年生の時に、友人とプログラミングを競った経験も、情報システム分野を仕事にするきっかけのひとつです。
今の高校生の方には信じられないかもしれませんが、当時のコンピューターは個人ではなく企業や大学、国の研究機関が所有するものでした。その後、1980年代半ばまでに個人向けのパーソナル・コンピューターが普及し、私も情報システム分野に興味を抱くようになりました。当時は大学で情報領域を専門とする学科は少なく、電子工学科の中で情報領域に取り組む研究室に所属することになりました。
大学院ではなく、就職から研究の道へ
大学教授の方は大学からそのまま大学院に進むケースが多いのかもしれませんが、私は大学卒業後に就職を選びました。当時の私は鉄道運行システムなど、コンピューターを使った制御や管理を行うシステムに興味がありました。そのような分野を手がけている企業に入社できたのですが、配属先は研究所でした。実は研究職を志望していなかったのですが、様々な製品を開発する工場から将来、必要となる情報・知識を求められる役割であり、これを追求する技術開発が面白くなっていきました。工場から上がってくる要望を解決するために眠れない毎日でしたが、今になってみると、この緊張が結構楽しかったんですよ(笑)。会社ではまず将来の通信機器の研究開発を担当する部署に所属し、徐々にコンピューターシステム全体の開発へと範囲を広げました。この経験が今の情報システム開発手法や、無線ネットワーク研究のテーマに直結しています。
誰かの「つぶやき」が天気予報に?意外な情報の組み合わせで価値を生み出す
私はIoT(Internet of Things)など無線センサや多彩な情報を活用して新たなサービスを提供する情報システムを、そして、コンピューターだけでなくスマートフォンや自動車など、様々な機械同士がネットワークを介して連携、協調して生まれる新たな価値を利用して安全、高信頼に実現する技術を研究しています。これまでのインターネットは人がアクセスする「ヒューマン・トゥー・マシーン」のかたちでした。今は人に加えて自動車やスマートフォン、家電などが相互につながりあう「マシーン・トゥー・マシーン」の時代です。機械がインターネットのユーザーのようにつながるので、取り扱う情報は今までになく高度な知識を含み、その量は膨大で、かつ品質も様々です。これらを解析すると、今までわからなかった領域の計測や予測ができて、新たな生活スタイルを生み出すかもしれません。
例えば局所豪雨、いわゆる「ゲリラ豪雨」は高校生の皆さんも経験したことがあるかもしれません。これを予測するためには、一般的には気象庁などの観測情報を使います。ですが、これにもうひとつ別のデータを組み合わせてみると、より正確、詳細に予測できるかもしれません。例えばSNS(Social Networking Service)の書き込み情報はどうでしょうか。誰かが「渋谷にいるんだけど、急に雨が降ってきた」と書き込んだとします。この情報を気象観測システムのデータと組み合わせれば、よりリアルタイム、かつ正確に天気予報サービスを展開できるかもしれません。このように情報と情報をネットワークでつなぎ、新しい価値をつくること、それが私の研究が目指すものです。
データ収集・分析の技術は日進月歩で進化中
研究をしていて特に面白いと感じる点は、多種多様なデータを分析すると、今まで気が付かなかった新たな価値を発見できるところでしょうか。昨今は「ビッグデータ」のように大規模なデータも比較的容易に扱えるようになりましたし、そのデータを分析する手法も驚くほど進化しています。昔に比べて研究の幅が広がり、研究のやりがいにもつながっています。例えばスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスから収集した身体のデータを医療に活用する動きが広がっています。このように既存の産業をサポートしたり、新しい産業を生み出したりできるかもしれない点も、非常に夢がある分野だと言えるのではないでしょうか。
たまに学生から「先生にとって研究のゴールは何ですか」と聞かれるのですが、むしろ社会の大きな変化を見ながら、研究を重ねれば重ねるほど「ゴールは無い」と感じます。何かを達成した時は、それをさらに発展させたり、他の分野と連携させたりできるのではないか、と気づきます。なので、一歩でも先へ研究成果をつなげていくことが目標ですね。また情報システムの発展は、セキュリティなどの課題と隣り合わせです。テクノロジーを悪用する人たちとの戦いや、法律や規制との折り合い、倫理性の遵守など、時代と共に様々な課題が発生します。それらに適切な対応を取りながら研究を進めていくことが当面の目標ですね。
外部との交流で、学生の成長を促す
私は教員ですが、指導者というよりも学生の共同研究者だと思っています。若い方の方が優れた発想力を持っていると感じるケースも多いです。なので年齢や経験はあまり気にせずに「君の研究で誰が喜ぶのか、それをイメージしながら取り組んでください」と学生の背中を押すようにしています。
ゼミの特色としては学会での企業研究者に向けた研究発表など、外部と交流して意見を頂く機会を積極的に設けています。例えばセキュリティ関係の研究発表では、外部のセキュリティ関係の研究者を招き、プロの立場からご意見をいただいています。また他大学との共同研究発表会も定期的に開催しています。学生同士で発表し合い、議論を重ね、その後は懇親会を楽しみます(笑)。このような機会があると学生も常に緊張感を持って発表に取り組みますし、議論にも熱が入ります。学生が大学の外の世界に揉まれ、たくましく成長する姿を見ることができ、私も嬉しく思っています。
理工学部で学ぶ面白さは、発展中の分野に関われること
理工学部は情報システム工学を学ぶのに非常に良いバランスの学部だと思います。なぜなら、サイエンスと工学の組み合わせが私たちの生活を便利にしているからです。例えば電話のような電波通信を考えてみましょう。電波を利用してコミュニケーションを取るためには、電波(サイエンス)だけでは役に立ちません。工学(エンジニアリング)で通信機器を作ることで、はじめて人々の生活に役立つことができます。理工学部はサイエンスによる自然科学の基礎と、工学による応用、活用の双方について理解と実践を学ぶことができる学部と言えるのではないでしょうか。
さらにいえば、今はAI(Artificial Intelligence)やロボット、量子コンピューターなど理工学系の分野は凄まじい勢いで発展しています。個人がコンピューターを利用できるようになったのは、せいぜい60年程度前であり、数千年の歴史がある医学や建築学と比べればほんのスタート地点です。それだけダイナミックに進化している分野を学ぶことは、これからの時代を担う若い世代の方にとって非常に興味深く、役に立つのではないでしょうか。
研究を漢字一文字で表すと?
「走」
研究の現場では常に前進することが大切です。それも散漫に歩くのではなく、迷いながらでも自分自身で道を選びながら、常に前に進んでいきたいという想いを込めて「走」にしました。失敗をよい経験と捉え、これからも常に緊張感を持ちながら走り続けていきたいです。
経歴
1984年 埼玉大学工学部電子工学科 卒業
1984年 三菱電機(株)入社. 情報電子研究所、通信システム開発センター、通信システム研究所、情報技術総合研究所 所属
2015年 創価大学理工学部教授
山上 敦士 教授
時代を超えて理論がつながる。そんな数学の魅力に迫りたい!
山上 敦士 教授
時代を超えて理論がつながる。そんな数学の魅力に迫りたい!
フェルマーの最終定理の証明に用いられた「ガロア理論」に注目
私の専門は代数学の整数論で、その中でもガロア理論を研究テーマにしています。ガロア理論は19世紀に提唱されて以来、整数論を支えている理論です。ガロア理論を数学の問題に応用するときの特長の1つは、背理法のような論理展開を用いるということです。例えば、ある方程式が解けるかどうかという問題に対して、普通はその方程式そのものの解き方を考えていくと思いますが、ガロア理論では「どう解くか」を問うのではなく「もし解けるとすればこうだ」と仮定しながら問題に取り組みます。難しい問題を、より扱いやすい形に変える理論と表現できるかもしれません。
ガロア理論は数学史上の難問といわれた「フェルマーの最終定理」の証明に用いられたことでも有名です。私自身もフェルマーの最終定理がきっかけでガロア理論に興味を持ちました。それ以来、20年以上にわたって研究を続けていますが、私にとっての数学の探究は、中学生の時に始まりました。
「数学を教えること」に興味を抱いた高校生活
「山上くん、この問題を解ける?」こんな一言と共に数学の問題を友人から出される毎日。それが私の中学・高校生活でした。小学生のときには九九の表を眺めているのが大好きで、数の法則に興味を持ち始め、中学校の頃には「数学のわからない問題は山上君に聞け」と校内で有名になるほどでした。問題を出してくる友人には2種類いて、単純に問題の解き方を教えてほしい人と、「お前にこの問題が解けるかな」と数学バトルを挑んでくる人です(笑)。彼らに対抗するために書店で問題集を買い集め「自主練」することも当時の楽しみでした(笑)。
ただ、当時の私に、より大きな影響を与えたのは前者の人たちでした。教えた時に感謝されるのがうれしくて、なるべくわかりやすく教えようと工夫するようになりました。「人に数学を教えることって面白い。将来は学校の先生になろう」と思ったのが、高校1年生のときだと思います。
進路選びの決め手は、自分のゆずれない価値観
進路指導の先生との面談で、教師になるには教員免許の取得が必要だと知りました。だから進路選びにあたっては、ゆずれない条件を3つ設定しました。「数学を勉強できる学部・学科であること」「教員免許が取得できること」そして「実家から通学できること」です(笑)。友人たちは「大学に進学したら、都会で一人暮らしするんだ」と息巻いていましたが、私には理解できませんでしたね。引越しやら一人暮らしやら、なぜそんな面倒なことをしなくてはいけないんだ、と(笑)。今このWEBページを読んでいる高校生のみなさんも、進路に悩んでいる方が多いと思います。進路選びの1つの考え方として、自分の興味・関心があることに優先順位を付けてみるといいかもしれません。
大学4年生で出会った、憧れの恩師
大学は北海道大学の数学科に進学したのですが、実は私の数学人生にとって一番のスランプ期になりました。なぜなら器械体操部の活動に大学生活の大部分を費やしてしまい、あまり数学の勉強ができなかったからです。これではまずいと思い、大学4年生のときに門をたたいた研究室の担当教員との出会いが大きな転換点になりました。
私の担当教員は当時、北海道大学とウィスコンシン大学を行き来する生活をされていて、数学者として国際的に活躍されていました。本当に憧れの存在でしたね。かと思えば、とても遊び心のある方で、居酒屋で割り箸の紙に計算問題を書き「これを解けるまでビールはおあずけね」なんておっしゃるわけです(笑)。中高生の頃、友人たちとワクワクしながら数学の問題を解いていた感覚が久しぶりに蘇りました。数学の面白さに改めて気づかせていただき、そこからは大学4年分を一気に巻き返すように勉強漬けの日々でした。
担当教員と共に時間を過ごすうち、将来のキャリアとして「数学者も面白そうだな」と考えるようになりました。しかし、数学者として生計を立てるのであれば多くの場合、大学教員になる必要があります。入学当初の目的であった教員免許も取得していたのですが、数学者を目指すため、教員採用試験は受けずに大学院に行きました。
まるで「大理石の彫刻」? 楽しくも大変な研究のやりがい
研究をしていて楽しいと感じる瞬間はやはり、自分が立てた仮説を数学的に証明できた瞬間ですね。「きっとAならばBなんじゃないか」と予想して、その証明に向けて論理的に命題を積み上げていきます。この論理的な作業が非常に面白くも大変なんです(笑)。前もって予想していても、実際に検証してみた先に何があるのか誰にもわかりません。イメージとしては、まるで巨大な大理石から彫刻の作品を掘り出していくような感じです。完成形のイメージはあるのに、大理石はとても頑丈で思ったように掘り進められない。でも、その過程で思わぬ面白い形になったりもします(笑)。
私自身の話で言えば、2003年に得られたアイデアを現在でも検証しています。実に20年以上、ひとつの理論に携わっていることになりますね。当時からお付き合いのある研究者と研究集会などで顔を合わせると「あの理論の検証はどうなった?」と、つい最近の話題かのように聞かれます(笑)。だから数学者にとって10年、20年は本当にあっという間です。
場所や時代を超えてつながり合う。それが数学の魅力
それでも研究する価値があると思うのは、ある研究が思わぬところで別の研究に影響を与えるということが頻繁に起こるからです。その最たる例が、先ほども話題に挙がったガロア理論です。19世紀のフランスで提唱されたガロア理論が、約150年後のイギリスで、フェルマーの最終定理の証明に用いられたのですから。数学の研究はどこで何につながるか、どんな役に立つのか、誰にもわからない。そこが非常に面白いと思います。
身近なものの仕組みを学び「つくり手」を目指せる学科
「情報システム工学科はどんな人にお薦めですか」とよく聞かれます。端的に言うと「身近なものの仕組みに興味を持てる人」ではないでしょうか。高校生のみなさんは、普段慣れ親しんでいるスマートフォンやゲームなどに対して、ふと「これはどういう仕組みになっているんだろう」と考えたことはありませんか?情報システム工学科では、現在の社会に欠かせない情報システムや情報技術について学ぶことができます。数学はそれらを支える、なくてはならない学問です。情報システムの基盤は数学そのものといっても過言ではありません。「数学は好きだけど、将来の仕事にどう活かせるのかわからない」という方は情報システム工学科への進学を是非ご検討いただきたいですね。
社会の様々な物事に対し「これはどういう仕組みになっているんだろう」と興味・関心を持つことは、ユーザーの側からつくり手の側に変わる第一歩です。その基礎となる知識・技術を学べる学科こそ情報システム工学科であるといえるのではないでしょうか。
研究を漢字一文字で表すと?
「素」
私は数の成り立ちに「素因数分解」を通して深く関わっている「素数」のことが大好きで、研究の主なテーマでもあります。また、数学に対する「素養」はどんな人にも大切なものだと思いますし、私自身、数学の研究に取り組んでいるとき「素直」で「素顔」の自分でいられると感じられるので、この字を選びました。
略歴
1998年 北海道大学理学部数学科卒業
2003年 同大学大学院理学研究科数学専攻修了 博士(理学)
2004年 学術振興会特別研究員(PD)(京都大学大学院理学研究科)
2006年 京都産業大学理学部講師
2008年 同准教授
2014年 創価大学工学部准教授
2021年 同大学理工学部教授