小林(山本)美紀さん

<いま、どんなお仕事をされていますか?>
 

現在、上海の同済大学で働いています。同済大学は中国で最も早く創設された国立大学7校のうちの一つで、1907年に創立されました。残念ながら、同済大学と創価大学は交流協定がありませんが、私の上司は創立者の本の翻訳も手掛けていますし、同僚には創立者の思想に共鳴してくださっている方もいます。優秀で教育熱心な先生ばかりです。

私はここで外国語学院の日本語学科の外国人教員として働いています。日本語の会話や作文、文学論、日本文化事情などの講義、論文指導などを行なっています。

<現在の仕事のやりがいを教えて下さい>
 

同済大学の学生は非常に優秀です。向上心が高く、積極的で、常に前向きです。世界有数の経済都市である上海において、日本語を話せることはそれほどメリットにはなりません。日本語を話せても日本でしか使えないからです。それよりも英語をもっと極めたり、他の言語を学んだりするほうが将来の役に立つはずです。しかし、彼らは日本語を学び、日本文化を楽しみ、日本社会を知ろうとしてくれています。日本人として本当にありがたいと感じます。将来の中日友好を担う青年とともに過ごせる日々はかけがえのないものです。








コロナウィルス感染症が拡大し始めた時、同済大学外国語学院が世界に向けて「一緒に乗り越えましょう!」とメッセージを発信しました。私も同僚の先生と一緒に(同僚の先生は中国語で、私はその日本語訳で)投稿しました。

<現在の仕事を目指したきっかけはありますか?>
 

私は長崎県の対馬という離島で育ちました。小さい時から島外の世界へ憧れていて、成長するにつれて「留学したい。海外で働きたい。」と思うようになりました。高校生の時、ニュージーランドから来たALTの先生に日本文化のことを尋ねられたのですが、私はうまく説明ができませんでした。そのため大学では日本文化を学ぼうと決め文学部日本語日本文学科(当時)へ進学しました。

大学では日本文学を学び、博士論文も日本文学でまとめましたが、日本とはどのような国なのか、日本人とはどのような人々なのか、との疑問はずっと持っていました。この問いを追求するためにも、外から日本や日本語を眺めてみることは必要だと感じていました。 

外の世界に憧れ、自分の国のことをもっと知りたいと思っている私にとって、海外で日本語教師になるということは自然な選択でした。



 

<学生時代、文学部での授業やゼミで印象深い思い出はありますか?>
 

私は学生時代、お世辞にも真面目とは言えませんでしたが、興味の赴くままにいろいろな授業を履修しました。文学部の先生の授業はどれも面白く、いつも好奇心をかき立てられました。ですから、実際は講義を聞きに行っているというよりも先生方に会いに行っていたと思います。
ゼミは、「源氏物語」を学ぶゼミでしたので、飲みに行った時には「どの女君が好きか。」などの議論で盛り上がりました。また、女子ばかり7人のゼミでしたから、指導教授の西田禎元先生(創価大学名誉教授)のことをひそかに「光君」(「源氏物語」の主人公)と呼んでもいました。今考えると西田先生にはとても失礼なことをしていましたが、先生はいつもあたたかく私たちを見守ってくださり、多くの教えを授けてくださいました。本当にありがたいことです。卒業して10年以上経った今も思い出が色褪せることはありません。とても素晴らしい時間でした。

<大学時代の学びが生きていると感じることはありますか?>
 

学びとは少し違いますが、創価大学で接した「優しさ」が今の私を形成していると感じます。創価大学は優しさであふれています。そして、本気で世界平和をめざす人がいます。実社会ではこれらを見つけることはとても難しいです。ストレスの多さは優しさを忘れさせます。日々の暮らしに精一杯になると世界平和を考える余裕がなくなります。私はそれでもやはり世界平和を目指したいと考えています。もちろん、私の力なんて微力で、国や政治を動かすことなんてできません。ですが、電車で席を譲ったり、飲食店で笑顔で「ごちそうさま」を言ったりするだけで、その人を少しは幸せにできるのではないかと考えます。幸せは伝播しますから、幸せな1人が増えれば、世界はきっと平和になるはずです。甘い考えであることは承知していますが、私はやはり優しさを忘れたくないです。それが創価大生である私の誇りでもあるからです。

<創価大学文学部の魅力はなんだと思いますか?>
 

よく「文学部って何勉強するの?」という質問を耳にします。文学部の学びはひと言で表すことができません。しかし言い換えるとそれは「何でもできるところ」なのだと思います。アニメが好きな人はアニメを追求できます。哲学に興味のある人は哲学をとことん学べます。外国語のプロフェッショナルになりたければ外国語しか話せない環境を作り出すこともできます。

私の友人に女性アイドルが大好きな人がいます。推しのためなら全精力を注げるという方です。彼はその大好きを追求し、今、アイドル論の研究者としてとても有名になりました。

文学部に制限はありません。自分の「やりたい、やってみたい」を全て受け入れていれてくれる。それが文学部の魅力です。創価大学の文学部はここに優しさが加わります。あなたの好きな事をそのまま認め、面白いと言ってくれる人々で溢れています。もし好きな事がない方がいれば、必ずここで見つかります。創価大学文学部はあなたの好きな事をもっと好きにしてくれる場所です。それは自分自身をもっと好きになれる場所です。



 

<これからの目標を教えてください!>
 

ある時、学生からこのようなことを言われました。「先生は話しているととても優しいのに、微信(中国のメッセンジャーアプリWeChatのこと)で送ってくる絵文字はとても冷たい時がある。」。もちろん私にそのようなつもりはありません。むしろ優しさを表したくて絵文字を使うことが多いです。ですがそれが反対に感じられていたようです。

これは、同じ絵文字に対する中国人と日本人の捉え方の違いによるものです。幸いにも私は、学生が教えてくれたおかげで互いの捉え方が違っていただけだということがわかり、笑い話にすることができましたが、もし相手が正直な気持ちを打ち明けてくれなかったら、「なんて嫌な人だろう。」と感じたままになるかもしれません。これに類する摩擦はいろいろな場で見られ、大小の問題を起こしています。

外国語が話せれば外国人とコミュニケーションが取れると思われがちですが、実際はそうではありません。大切なのはなぜそのような表現をするのか、なぜそのように言うのかという、言葉の在り方を知ることです。それはその言語を使う人々を思いやることでもあり、自分自身を見つめ直すことでもあると思います。嫌だと感じた時、ちょっとだけ相手の気持ちを考えてみる。なぜ自分は嫌だと感じたのか考えてみる。それだけで無用ないがみ合いは少なくなるのではないでしょうか。外国語を学ぶことで相手を思い、自分を顧みる。そのような学びを提供できる教師でありたいと考えています。

<文学部生へ一言>
 

もしかすると、今、将来への不安を感じている方がいるかもしれません。文学部は何でも学べる場であるからこそ、自分がしたいことへの迷いも生じるかもしれません。ですが、私はそれで良いのではないかと思います。今興味を持っていること、気になっていることを追求する。1ヶ月後には興味をなくしているかもしれませんが、それで良いのではないでしょうか。人生は多くの縁で成り立っています。小さな縁が将来大きな結果へとつながることもたくさんあります。「役に立つかどうか」を考えながら日々を過ごすのはもったいないです。全ての出来事は自分らしさを形成する糧となります。毎日の小さな疑問を大切にしながら、楽しい文学部生活を過ごしてください!



 

<未来の文学部生(受験生)へ一言>
 

もしかすると、今、文学部へ進学することを悩んでいる方がいるかもしれません。巷では「文学部の学びって役に立つの?」と言われるからです。そのような声に私はいつも自信をもって答えます。役に立つことばかりが大切なことではありません。

太宰治は「正義と微笑」という作品の中でこう言っています。「日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。(中略)学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようとあせってはいかん。ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ!」

勉強とは優しさを知ることです。優しい人が増えれば世界は平和になります。つまり文学部は平和のフォートレスなのです。ですから私は自信を持って答えます。ぜひ文学部でたくさん学んでください!

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