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  • 大脳皮質のオリゴデンドロサイト前駆細胞の盲目による変化を発見(理工学研究科生命理学専攻・理工学部共生創造理工学科:川井秀樹教授)

2021年09月18日

大脳皮質のオリゴデンドロサイト前駆細胞の盲目による変化を発見(理工学研究科生命理学専攻・理工学部共生創造理工学科:川井秀樹教授)

生命理学専攻・川井秀樹教授と大学院生・申惠蓮さんの論文が研究誌PLOS ONE (Scopus 論文評価トップ10%以内)に掲載されました。(※1)
脳の神経回路は感覚情報や学習など経験によって変化することが知られています。そうした変化は、脳のもつ柔らかさ、つまり神経回路の形成や再編成にかかわる脳の敏感な性質(可塑性)によります。そうした脳の性質はある特定の時期(臨界期)に生じることが知られていて、経験の種類によってその時期は異なります。例えば、人間は赤ちゃんが色や模様の違い、顔の表情などを識別できるようになる時期は2ヶ月、4.5ヶ月、5ヶ月までと考えられています。また、動物では片目の視覚情報が遮断されると、脳の神経回路が再編成し、見える側の目からの情報にのみ応答するようになるのは幼少期のある時期のみといわれています。最近の研究で、こうした神経回路の変化に、神経細胞をサポートするグリア細胞が関与することがわかってきました。

本論文では、グリア細胞の一種であるオリゴデンドロサイトに注目して、盲目によるこの細胞の発達について研究しました。オリゴデンドロサイトはミエリン(髄鞘)を形成して、神経細胞間の情報伝達のタイミングを制御する重要な細胞です。この細胞が成熟する前の段階の細胞(前駆細胞)は、実は脳の細胞の約5%を占め、脳内で広くネットワークを形成していて、必要に応じて成熟したオリゴデンドロサイトになることができます。本研究で、幼少期のある時期にのみ、盲目によりオリゴデンドロサイトの前駆細胞が増殖し、未熟な状態の細胞(未分化細胞)が増加することを発見しました。この増殖にはソニック・ヘッジホッグというタンパク質が関与することが示唆されました。さらに、増加した未分化細胞が、前駆細胞ではなく、おもに成熟したオリゴデンドロサイトに成長することもわかりました。

こうした脳の発達における可塑性のメカニズムを研究することにより、脳の仕組みをより理解できるとともに、将来的には脳細胞の損傷による脳機能の回復などの治療に役に立つことが期待されます。

(※1)Hyeryun Shin and Hideki Derek Kawai, 2021, Sensitive timing of undifferentiation in oligodendrocyte progenitor cells and their enhanced maturation in primary visual cortex of binocularly enucleated mice. PLOS ONE.
・論文ウェブサイト:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0257395

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ページ公開日:2021年09月18日