「ヒューマングライコームプロジェクト」が本格始動しました

⽂部科学省 科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術研究の⼤型プロジェクトに関する作業部会の事前評価(報告)が2022年11月に公表されました。その評価結果や留意点を踏まえ、創価大学、東海国⽴⼤学機構(名古屋⼤学、岐⾩⼤学)、⾃然科学研究機構が実施主体となり、⽣命科学領域において初の⽂部科学省「⼤規模学術フロンティア促進事業」として「ヒューマングライコームプロジェクト(英語名:Human Glycome Atlas Project:HGA)」を始動することとなりました(代表:⾨松健治 東海国⽴⼤学機構・理事)。

糖鎖は、核酸やタンパク質と並び、⽣物の⽣命活動に⽋かせない「第3の⽣命鎖」とされています。本プロジェクトでは、上記3機関が互いに連携し、⽇本の総⼒を挙げて 糖鎖情報を世界に先駆けて網羅的に読み解くことを⽬指します。⽣命機能の解明をさらに推し進め、その成果が医療をはじめとしたさまざまな研究分野で応⽤されることが期待されます。

2月16日(木)には、文部科学省記者会見室において、3機関による記者会見が実施されました。出席した本学の田代康則理事長は、「本プロジェクトでは、『国立大学法人』、『大学共同利用機関法人』と『学校法人(私立大学)』による、新しい連携を進めていく計画です。本学において培ってきた融合研究の経験と研究資源をいかし、糖鎖に関わる生命機能の解明に貢献していきたいと考えています」と述べました。

当日の様子は以下のページからご覧いただけます。

教員情報

教授

西原 祥子

ニシハラ ショウコ

専門分野

機能生物化学、細胞生物学、発生生物学、医化学一般、糖鎖生物学、幹細胞生物学、生化学、分子生物学

研究テーマ

生体における糖鎖の役割を明らかにすることを目的として、研究を行っています。ショウジョウバエ個体やES細胞、iPS細胞、癌細胞、癌幹細胞、ヒトモデル細胞、オルガノイドにおいて、様々な遺伝子工学の手法を用いて、糖鎖関連遺伝子の発現を調節して糖鎖機能の解明をしています。また、一部の遺伝子については、ノックアウトマウスを作製し、解析を行っています。

(1) ショウジョウバエを用いた糖鎖関連遺伝子の解析;生物種を越えて保存されている糖鎖の生理機能の解明
ショウジョウバエは、最も遺伝学の進んでいるモデル実験動物です。「生物種を越えて保存されている糖鎖の生理活性」に焦点を置いて、ショウジョウバエの糖鎖関連遺伝子の変異体やノックダウン体の表現型の解析や生化学的分子生物学的解析から、生物の発生における糖鎖の役割を明らかにしていきます。特に、血液幹細胞の維持と分化に必要な糖転移酵素、神経の軸索形成に必要な糖鎖構造などについて、現在、解析を行なっています。

(2) ヒトや哺乳類の多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)、オルガノイドにおける糖鎖機能の解明
(1) で明らかになった糖鎖機能がヒトや他の哺乳動物にも共通するものであるか、胚性幹細胞を中心とした培養細胞で検討していきます。具体的には、ES細胞やiPS細胞を対象に、「糖鎖の幹細胞維持や分化における役割を解明する」することを目的とします。このプロジェクトでは、2008年に『ES細胞の維持に糖鎖(ヘパラン硫酸)が関与する』ことをはじめて明らかにしました。それをさらに押し進め、上述の4つの糖鎖構造がナイーブな多能性状態を維持に必要なことを明らかにしました。現在、それ以外の様々な糖鎖にまで解析の範囲を広げています。胚性幹細胞における糖鎖の機能解析の例は、今なお多いとは言えず、この分野でパイオニアとしての役割を果たしています。

(3) PAPS輸送体ノックアウトマウスの機能解析
PAPS輸送体は、糖鎖やタンパク質の硫酸化に必須であり、これがないと各々の分子は硫酸化修飾を受けられません。私達は、2003年にこれを初めて単離・同定しました。現在、ノックアウトマウスを作製して解析を行なっています。このマウスが様々な疾病を誘発することを見いだし、それらの発症機構について解析をしているところです。

(4) 未診断疾患に関わっている糖鎖関連遺伝子の機能解析
これまでの解析から、糖鎖が多くの希少な未診断疾患に関わっていると予測されたので、それらの解析も開始しました。疾病との関連が見いたされた変異をもつ糖鎖関連遺伝子の機能の喪失を、モデル生物や幹細胞からの分化系、オルガノイドなどを用いて解析し、病気との関係を明らかにしていきます。

教授

木下 フローラ聖子

キノシタ フローラキヨコ

専門分野

計算機システム・ネットワーク、生体生命情報学、応用ゲノム科学、生物分子科学

研究テーマ

糖鎖の機能解明のための糖鎖インフォマティクスリソースの開発

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