石井 良夫 准教授

応用数学、数理科学を駆使して 「非線形な現象」の謎の解明に挑む!

世の中の現象はほとんど「非線形システム」 でも非線形って!?

私たちの研究室では、主に非線形システムの数値計算、数値解析を行っています。非線形とは「線形ではない」ということです。みなさんになじみのある式で例を挙げると、y=axで表される一次関数は直線になり、axとbxを足すとax+bxになります。これは「線形システム」です。
 一方、aを二乗するとa2、bを二乗するとb2で、これらを足し合わせるとa2+b2になりますが、(a+b)を二乗すると、a2+b2+2abになります。2abという余計なものが出てきて、単純にa2とb2を足し合わせたものにはなりません。このように、重ね合わせの原理が成り立たないシステムを「非線形システム」といいます。さまざまな現象を数式で表すと、ほとんどが非線形の数式になります。世の中の現象のほとんどが非線形システムだといえるのです。
 このような非線形システムを数理モデル化し、計算及び解析するのですが、実はコンピューターは微分や積分などの高度な計算ができません。そこで、コンピューターが計算できるように、足し算や引き算など四則演算の形に式を修正する必要があります。これを差分化、離散化といい、このような形式に変えた数理モデル上で計算するのが数値シミュレーションです。

解かなければならない大きな問題 「層流・乱流遷移」

私たちの研究室では、こうした手法を用いて、非線形システムの一例である流体の「層流・乱流遷移」という現象を解明しようとしています。流体とは簡単にいえば液体や気体のことです。流体が流れの方向に、きれいに層状に流れている状態を層流、この流れが乱れた状態を乱流といいます。
 たとえば水道から水を少しだけ出すと、蛇口から出ている水の流れには乱れはありませんが、だんだん出す水の量を多く、すなわち流速が早くなると、水の流れが乱れるのがわかりますね。きれいな流れが層流、乱れた流れが乱流で、層流から乱流にかわることを層流・乱流遷移といいます。
 層流・乱流遷移は非常に重要な現象の一つです。例えば飛行機が飛んでいるときに、急上昇すると飛行機の表面に沿って流れていた空気が剥がれて乱流になります、この場合は失速して墜落する恐れがあります。また、水道管やパイプラインで液体を送るとき、層流で流れていたものが乱流になると急に効率が悪くなり輸送に支障をきたします。流体の流れというのはあらゆるところで見られる現象ですから、層流・乱流遷移のメカニズムを解明し、そして乱流を防ぎ利用するにはどうすれば良いのか、ということは、解かなければならない問題の一つなのです。

乱れの中の秩序構造を、数学的に記述して解明

一般に層流で流れている流体の速度をあげていくと乱流に遷移しますが、その際に重要なのが、渦構造の作用です。層流の中で速度差または速度の微小な乱れができたところに渦の構造ができ、それが相互作用して乱れていくのですが、不思議なことに乱れの中にも秩序構造ができ、最終的に乱流になるということがわかっています。その渦の構造をどう数学的に記述し、数理モデルを設計し、解いていくかというところに、先に説明した差分化、離散化そして超離散化といった方法を用いて数値シミュレーションをすることが有効だと考えています。
 研究室ではこのように数学を応用し、非線形システムの数理モデルを設計構築し、数値シミュレーションを用いてその結果から現象の理論的な解明に取り組んでいますが、身近な流体を扱うので、簡単な実験装置を作って実際の実験にも取り組んでいます。 

レーザーピンセットで粒子をつかまえる!?

このような非線形現象の層流・乱流遷移の研究以外にも、非平衡系(平衡でないこと、すなわち釣合っていないこと)の現象についても取り組んでいます。その代表的なものが、ブラウン運動というランダムな熱運動をしている粒子から、一方向の運動を取り出すという研究です。この研究の道具となるものが「レーザーピンセット」で、レーザーを集光すると、非接触でピンセットのようにものをつかむことができる装置です。
 ランダムな熱運動は使えないエネルギーですが、レーザーピンセットで粒子をつかまえて放すことを繰り返し、一方向の運動を取り出せれば、使えるエネルギーを得ることができ、いろいろな応用が可能です。数理モデルを使って数値シミュレーションすると、実際に一方向の運動を取り出すことができ、理論上は可能です。すぐには実現できることではありませんが、どうすれば実現できるかということを、レーザーピンセットを自作して模索しています。

130人中、108番だったことも……。 勉強が苦手だった中学時代

現在はこうして応用数学や数理科学の研究をしているわけですが、中学生の頃はものすごく成績が悪くて、全校約130人中、108番とか、そのあたりの成績をとっていて、高校に行けるのか?というくらいでした。英語も国語も社会も理科も苦手で、ただ唯一、数学だけは先生の教え方が面白くて、できるようになっていきました。高校は両親の勧めもあって、近所にあった東海大学付属相模高校に何とか入ったという感じでした。
 高校のときは帰宅部でしたが、宇宙などに興味があって、天体望遠鏡を買って友達と天体観測したりしていました。相変わらず語学や社会は苦手でしたが、物理や化学が好きになってきて、航空宇宙工学を勉強したいと考えるようになりました。当時、この分野を学べる大学は、いわゆる旧帝大と一部の私立大学だけでしたから、東海大学工学部の航空宇宙学科に進学することにしました。

受験勉強から解放され学年で2番になった高校時代

付属高校だったので一般的な受験勉強からは解放され、図書館に行ったりして自分の興味のあることを集中して勉強できたのは、とてもよかったと思っています。高校のときに、大学で勉強するような数学や物理学の専門書を先取りで読んだり、勉強したりしていました。そのおかげか、高校を卒業するときには2番の成績でした、1番じゃなかったんですけどね(笑)。

身近なのにわからないことだらけ、流体力学との出会い

大学では漠然と航空宇宙工学(ロケットや飛行機など)のテクノロジーに関連する勉強をしたいと思っていました。ところが学科にカリフォルニア工科大学から戻られた先生がおり、その先生の流体力学の講義が難しかったけどとても面白かった。流体って身近なものですが、わかっていないことがとても多いんですね。それで流体力学に興味をもち、また関連する他の分野にも興味が湧き勉強するようになり、大学では1番で卒業することができました。
 大学院は東京大学に進み、宇宙科学研究所(当時)で研究をしました。そのときの恩師は大島耕一先生と谷田好通先生で、特に大島先生は数値流体力学、谷田先生はジェットエンジン(内燃機関)に関する流体力学についてのそれぞれ第一人者でした。両先生は研究だけでなく、非常に多くの優秀な人材を育てた方で、私はその最後のほうの弟子で、公私共に大変お世話になり、今でも感謝しております。大学院で出会ったのが、非線形現象の一つである流体力学の未解決問題、すなわち層流・乱流遷移の研究です。
 大学院を修了したあとは、会社の中央研究所で機器の廃熱などに関する熱流体の研究をしていましたが、創価大学に工学部情報システム学科(当時)ができるにあたり、助手を探している、と声をかけてくださった方がいて、転職しました。一つの学部学科を立ち上げるのですから、みんな手さぐりで、装置を揃えたり実験のセットをつくったり、何でもやりました。

数学も便利な道具の一つ

数値解析、応用数学と聞くと、それだけで難しそう、と敬遠したくなる人もいるかもしれません。でも、数学ってとても便利な道具なのです。例えば、シェークスピアを勉強したければ英語を、ゲーテを勉強したければドイツ語を勉強するように、サイエンスやテクノロジーを勉強したければ、その言語である数学を勉強して使う、ということです。その先に、コンピューターというとてもよい道具があるので、シミュレーションして計算するのも、難しいことではありません。
 これだけ科学技術が発達しても、世の中にはわかっていないことがたくさんあります。こうした便利な道具を使い、それをわかるようにひもといていくことには、とてもロマンがあると思いませんか。

成功の反対は? 知的好奇心を大事にして未知に挑戦を!

成功の反対は失敗ではありません。成功の反対は何もしないことです。何かをすれば何か、たとえ失敗に至っても、失敗という結果は出ます。でも何もしなければ何も起こらないのです。ですから、学生の皆さんには、知的好奇心を大事にして未知の謎解きに挑戦してほしい、と思っています。
 もう一つ、学生の皆さんに言いたいことは、誠実であれ、ということです。これは勉強ができるとか、優秀であるとかいう以前の、約束を守るとか、親孝行をするとか、ごく基本的なことです。
 誠実な言動の積み重ねは人生の宝になります。一昔前では考えられなかったことですが、最近の学生の中には、平気で約束の時間に来なかったりするような人もいます。これはとても残念なことですね。是非、基本的なことがきちんとできる、誠実な学生であってほしいと思います。

先生にとって研究とは?漢字一文字で表すと?

「幸」

学問、研究はすべての人の幸福のためであり、人々を幸福にする研究、学問でなければなりません。 人々が幸福になるために、役立つものであるべきだという考えのもと、 自分自身の研究にも、学生への教育にも、日々向き合っています。

▼プロフィール
情報システム工学科 石井 良夫 准教授

1962年 東京都生まれ
1991年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了 工学博士
1989年 東京工科大学工学部講師(非常勤)
1991年 (株)リコー中央研究所研究員
1993年 創価大学工学部助手
1995年 同講師 

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