北野 晃朗 教授

「やわらかい幾何学」で空間の謎の解明に挑む!

角度も長さも関係がない図形の性質とは?

私の専門分野は、数学の一分野である幾何学、中でも位相幾何学という分野で、トポロジーともいいます。数学は2000年以上の歴史を持つ古い学問ですが、トポロジーは100年ほど前に始まった、数学の中では比較的新しい分野です。最近では物理の理論的な部分と互いに刺激しあって、関係が深まってきている分野でもあります。
 幾何学では、図形や空間の性質を扱います。小中学校の算数や数学では、図形といえば角度や長さが重要ですよね。でも、トポロジーでは、角度とか長さは関係ありません。また、直線か曲がっている線か、といったことも関係ないのです。
 例えば、一筆がきができる形があるとします。「一筆がきできる」という性質は、線がまっすぐか曲がっているかということとは関係がないですね。一見、見た目が違う形でも、「一筆がきできる」という性質は共通にもっているということもできます。
ドーナツとマグカップは同じ!?
トポロジーを説明するためによく挙げられるのが、ドーナツとマグカップの例です。一見、全く違う形に見えますが、ドーナツを縦にして両側から押し、穴をつくるとマグカップのような形になりますよね(図参照)。もちろん、ちぎれたりしないという前提ですけど(笑)。つまり、ドーナツとマグカップの形には共通する性質があると言え、トポロジーではそのように考えるのです。角度や長さが関係ないと考えるとこのような変形ができます。そこで、トポロジーは「やわらかい幾何学」と言われたりもします。

空間の性質を知るために重要な 「基本群」を研究

現在の私の研究ですが、例えば、球と浮き輪のような形を思い浮かべてみてください。地球のような球の上にいて、スタート地点にひもの端を固定し、ひもを持ったままふらふらと歩いて一周して、スタート地点に戻ってひもを手繰り寄せると、必ず手元に必ず戻ってきますね。でも、浮き輪のような形の立体上で同じようにすると、歩き方によってはひもを手繰り寄せても穴に絡まって戻ってきません。この絡まり具合をあらわしたものは「基本群」とよばれていて、その名の通り空間の性質を調べるときの一番基本的な情報になります。現在は、基本群に関する研究を中心にしています。

「受験数学」とはまるで違う数学の世界に感銘を受ける

算数や数学は昔から好きでしたが、飛びぬけてよくできたというわけでもなかったと思います。高校のときでも、私より数学の出来る同級生は何人かいましたから。ただ、数学が好きだったので、数学をずっとできればいいな、と思っていました。
 そのころ、高校の社会の先生に、数学者の広中平祐先生が書かれた『学問の発見』という本を勧められて読みました。その本には広中先生が、自分のやりたいテーマと何年もかけて格闘していく様子、あと一歩で解決できるのにその一歩が出ない、その中で苦しまれる様子や人とのかかわりが描かれていました。パッと見て正解を出さないといけないような、学校の受験数学とはまるで違う世界で、数学の世界や広中先生の美学のようなものが格好いいな、と非常に感銘を受けました。

第三志望の大学に進学 失意の中で進路を見いだす

大学受験ではある国立大学の数学科を受験したのですが不合格。合格したのは第三志望の私立大学だったので、浪人しようと思いましたが、親から「お前が浪人する精神的負担の方が私立に行く経済的負担よりも大きい」と言われ、進学しました(笑)。しかし第三志望だったので、もやもやした気分がずっと付きまとっていました。好きな数学の勉強には励みましたが、年末になると、自分は同じところをぐるぐる回っていて、らせん階段を一段ものぼっていない、というような気分にとらわれて落ち込みましたね。そんな日々を過ごすうちに、勉強して大学院へ行こう、研究者を目指そうと思うようになりました。
 研究者になろうと決めたものの、大学院へ行くと、本当にものごとをよく知っていて頭の切れる先輩たちが何人もいました。こんな人たちに混じって、この世界でやっていけるのだろうか、と不安になるばかりで、数学の世界でやっていけるかもしれない、とようやく思えたのは、博士号をとったときでした。

大事なのは目に見えないものを見ること。 美しさが数学の魅力

数学で大事なのは、目に見えないものを見ることです。例えば、さきほどの多面体の頂点と辺と面の数の話でいうと、「100回、計算して同じだったから同じです」、ではだめ。何度計算しても同じになるということは、そこに目に見えない何かがある、それを説明する数学の言葉を見いだすのです。だから、頭の中でいろいろイメージして考えるのが好きな人には向いていると思います。
 数学の魅力は、美しいことです。その美しい世界を見たい、もっとわかりたい。よくたとえにされますが、風船がどんどん膨らむ感じですね。別の言い方をすると、山の向こうにまた違う山が見える。わからないことがわかるとその先にもっと世界が広がっていて、もっとわからないことが出てくる。それが研究の魅力です。また、研究の過程でいろいろな人とディスカッションすることで、世界はさらに広がります。そのような人とのかかわりも、私にとっては研究の大きな魅力です。

「役に立つこと」は予測できる?

「数学の勉強って何の役に立つんですか」よくそう言われます。でも、将来役に立つことって本当に予測できるのでしょうか。
 例えば、私が初めて自分でノートパソコンを買ったのは、1995年です。当時25万円ぐらいで、メモリはわずか8メガでした。またOSはマルチリンガルではなかったので、海外で端末を借りると日本語のサイトは見られない。今では考えられませんが、わずか二十数年前は、そんな時代だったのです。今広く使われているマイクロソフトのofficeも、まだ流行りだしたばかりで、次の20年後にはどうでしょうか。
 一方、高校で習う微積分は、350年前、最先端の理論でした。あまりに難解だったので、みんながわかるような形になるまでに約150年、かかりました。でも今ではあらゆるものに使われ、一番の基礎として役に立っています。これってすごいことだと思いませんか。ですから、役に立つことは何か、と問い詰めすぎることは、いいことではないと思います。

やってみたいこと、感動したことに挑戦してほしい

中学生、高校生の皆さんに数学に関してアドバイスするとしたら、わからない問題があったときに、すぐに人に教えてもらったり、答えを見たりする前に、徹底的に考えることですね。いい問題を徹底的に考えるのです。「これがわかれば、ここが突破できれば解決できるのに」というところまで自分で考えれば、解けなかったとしても、単に答えを教えてもらうのとは違い、確実に自分の中に残ります。数学の勉強では特に、そういうところが大事だと思います。
 また、別に数学ではなくてもいいので、自分がとことんやってみたいと思うこと、感動したことがあったらぜひ、それに挑戦してがんばってほしいと思っています。「感動するのはこれだけど、役に立つって考えるとこっちだよね」なんてこと言わずに。また、人とのつながりは大事にした方が、人生は開けると思います。人間が嫌いなのに人の役に立つのは無理だし、人間は好きであってほしいですね。
 人生はトライ&エラーです。何でもやってみないとわかりません。若いうちは、やってみてだめだと思って道を変えても、可能性は無限に広がっています。今は留学する機会なども豊富ですし、チャンスがあればどんどん外に出て、いろいろな人と出会い、経験を積んでほしいと思います。

先生にとって研究とは?漢字一文字で表すと?

「旅」

研究ではいろいろなテーマを追い求めているので、まるで旅をしているような感覚があります。また、実際にいろんな人と会ったり、学会や会議に出席するために旅をすることもよくあります。呼ばれるうちが華、ではないですが、いろいろな場に出て行けるように努力しながら、旅を続けたいですね。

(プロフィール)

情報システム工学科 北野 晃朗 教授
1965年 山口県に生まれる
1988年 中央大学理工学部数学科卒業
1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程数学専攻修了
       学位 博士(理学)修得
1994年 日本学術振興会特別研究員
1995年 東京工業大学理学部 助手
1996-1998年 日本学術振興会海外特別研究員としてフランスで在外研究
2002年 東京工業大学大学院情報理工学研究科 助教授
2006年 創価大学工学部 助教授
2009年 同 教授

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