﨑山 朋子 准教授

人とは違った研究を追い求め、 「アリ」を使って、柔軟で強いシステムを研究!

集団になると賢く行動する!? 生物ネットワークの不思議
 私はアリの行動を観察して、生命現象を模倣した「柔らかいコンピュータ・システム」の研究をしています。

 

鳥や昆虫(特に社会的昆虫と呼ばれるアリやミツバチ)の群れは、特定のリーダーがいるわけではないのに、個々の個体どうしの簡単なコミュニケーションによって、集団として高度なふるまいをします。

 

 

 たとえば、アリが最短距離でエサを巣にもち帰ったり、小魚が寄り集まって大きな魚のふりをして外敵から身を守ったりするなど、群れで周囲の状況を把握して、生き残るのに有利な行動をとることが知られています。

 

 

 特定のリーダーが指令を出しているわけではありませんから、もし群れの一部が敵にやられてしまっても、群れの機能はすぐに修復します。群れ全体としては壊れにくく強い、しかも柔軟に変化に適応できる優れたしくみをもっているのです。どうしてそのようなことができるのでしょうか。

 

アリの集団行動を研究すれば かつてない情報処理の仕組みがつくれるかも!?
 私の専門分野は「群知能」と言われる分野です。「群知能」とは、前述のような生物の群れの行動をまねた、コンピュータの計算方法(数値モデル)のことです。生物の群れの仕組みに学ぶことで、環境の変化に柔軟に対応でき、扱いやすく丈夫なシステムが作れるのではないか、と考えられています。

 

 

 私の研究室では数百匹単位のアリの群れを飼っています。「アリがお好きなんですか?」とよく聞かれるのですが、特に好きではありません(笑)。実験に使うのはアリの「行動」だけですから、生物というよりはやはり情報工学で、内容はぐっと物理学寄りの研究になります。

 

中学のころから好きだった 天文学を学ぼうと、大学に進学

 私は、実は中学生のころから天文が大好きで、将来は天文学の研究をしたいと思っていました。高校には天文部がありませんでしたが、望遠鏡を持って出かけては天体観測をしていました。また、中高生の頃に好きな科目は物理でした。なかでも力学や波動が好きでしたね。

 地元の近くで天文学や宇宙物理学が学べる大学は神戸大学しかありませんでしたから、大学受験では神戸大の理学部惑星学科をめざして勉強し、無事入学が叶いました。

 ところが大学進学後、天文とは全く違う方向に進むことになります。

天体の運動よりあいまいで、 複雑怪奇な「生命現象」へと関心が移る

 大学の学部生のときは、惑星に関する物理学や、情報工学を学びました。惑星科学では、天体がどのように動くのかを、コンピュータを使った数値シミュレーションで導き出します。ですから、コンピュータで計算する手続き(アルゴリズム)や、それを実際にコンピュータにやらせる「プログラミング」の知識は必須なのです。

 

 しかし、物理学という学問全体にも言えますが、天体のふるまいにはきっちりとした法則があり、そこからはみ出すことは、まずありません。惑星科学を知れば知るほど、「答えが決まってしまっているなら、面白くないなあ」と思い始めたのです。私の興味は、天文や物理から、より複雑であいまいなシステムである生命現象の方に移っていきました。

“変わり者”の先生が主宰する研究室で アリを使った研究を始めた

 大学3年生になって、所属する研究室を選ぶときに、たまたま生命現象や、「意識と心」など哲学的なシステムを研究している教授に出会いました。惑星学科の中にいて、ひとりだけ違うことをしている、ちょっと変わった先生でした(笑)。

 私も人とは違う研究をしたかったので、「これは面白そうだ!」と、その研究室に進みました。

 

 大学4年生のときにはアリを捕まえて研究室で実験を始めました。アリを選んだのは、群れを作る生き物の中で一番飼いやすく扱いやすかったからです。

予想もつかないアリたちの動きと、 無数のニューロンが相互に作用する「脳」を対比してみよう

 脳の情報ネットワークは、ニューロンという神経細胞がたくさんつながることでできています。学生時代の研究を通して、私は一つのニューロンを一匹のアリに対応させてみることで、アリのふるまいを抽象的な意識のモデルとして用いることができるのではないかと考えるようになりました。

 

 複雑で一見予測不可能な現象を研究する「カオス理論」や「非線形科学」と呼ばれる分野があります。アリの集団行動について「アリの集団が高度なふるまいをするのは、複雑系によるものだ」というのは広く知られていました。

 でも、アリなどの生物集団におけるミクロ(個体)とマクロ(集団)の関係性についてはわかっていない部分も多いのです。

これまでの研究を通して、 「群れの中のアリは分子ではない!」と悟る

 学生時代からの研究でわかったことを一言で言うと「個々のアリは、規則的なふるまいをする分子のような存在ではない」ということでした。つまり意思をもった個体であり、単一の規則には従わないのです。

 当たり前のように思えるかもしれませんが、アリは小さく、脳も小さいですから、蓄積できる経験は限られています。それでも、仲間との相互作用や経験で、その次にとる行動自体がガラリと変わることもあるのです。そこがすごく魅力的です。現在もこの研究の延長の研究を続けています。
 私は特に、個々のアリの行動やアリ同士のコミュニケーションといったミクロな現象に興味をもっています。日々、地道にアリの行動を分析し、その様子をコンピュータで再現していきます。でも、今のところアリの動きは予測ができないですし、予定調和にはなりません。本当に興味深いです。

情報やコミュニケーションを切り口に、 「生命」や「心」の謎に挑みたい!
 私は、柔軟なネットワークや、あいまいさを許す情報の扱い方が好きです。機械的な情報処理は、狭い範囲では迅速に答えを導き出すことができるでしょう。それに対して私の研究は、根気はいるし、複雑だし、検証するのも大変ですが、より広い範囲に応用できる「解」を得られる可能性があります。
 なぜこのような研究をしているのかというと、究極的には「生命とは何か」という普遍的な問いに挑むためです。その一つの手段として、私は情報やコミュニケーションに注目しています。
 私たちが考えたり、会話をしたりするのも、実は全て脳や身体を構成する物質がもとになっています。そして脳のニューロンは生きた細胞です。経験によってネットワークが作られ、さらにそのネットワークは日々組み替えられていきます。
 意識や心は物質から浮かび上がるものだと言えますが、いったいどのように生まれるのか、実はよくわかっていません。
 群れとしてのアリの動きも、1匹1匹のアリの動きから成り立っています。それが集団となって、まるで統一された意思があるかのようにふるまっているわけです。ニューロンのネットワークから「心」が生まれるのに似ていると思いませんか?
最短距離よりも、根源的な問いを重視する。 そんな人を募集します!

 私の研究室は発足してまだ1年目です。学部の学生はアリと一緒の研究室で、ナビゲーション実験や迷路学習実験などを手がけています。アリの動きを地味にカメラで撮影して記録するのですが、実験しながら「アリの社会は簡易版の人間社会モデルそのものだなあ」と、つくづく感じます。
 この分野に向いているのは、物事をじっくり考えることができる人です。早く答えにたどり着こうとするのではなく、他方面から、さまざまな可能性を探るタイプの人がいいと思います。
 ありふれているように見えることでも、見方を変えれば新しいアプローチがあります。そのような指向性をもつ人に、ぜひ一度研究室を訪ねて来てほしいです。

研究を漢字一文字で表すと?

 漢字一文字で表現するのはなかなか難しいので、本の紹介にさせてください。
『意識する心―脳と精神の根本理論を求めて』(デイヴィッド・J. チャーマーズ著、白揚社)
タイトルの通り、「意識とは何か」という問いに挑んでいます。私の研究に少しでも興味を持たれたら、ぜひ一読してみてください。

<経歴>

2012年 神戸大学理学部地球惑星科学科卒業

2013年 神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻博士課程前期課程修了(理学修士)

2015年 神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻博士課程後期課程修了(理学博士)

2015年 日本学術振興会特別研究員(PD)

2016年 岡山大学工学部助教

2019年 創価大学理工学部准教授

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