篠宮 紀彦 教授

“バズるメカニズム”を数式で表現するには?
数学の力で社会課題の解決に挑む!

大きな衝撃を受けた、
1台のコンピューターとの出会い

私の研究テーマは情報通信ネットワークです。簡単に言えばインターネット技術であり、近年はSNSの研究に力を入れています。現在の研究テーマに至るまでは紆余曲折がありましたが、原体験として挙げられるのは、小学5年生の時に祖父が突然買ってくれた1台のコンピューターです。35年以上前ですから初歩的なコンピューターで、記録媒体は何とカセットテープです。当時のフロッピーディスクは高級なメディアで、子どもに手が出せるようなものではありませんでした。今の高校生の方からすれば、カセットテープもフロッピーディスクも使ったことはないと思いますが(笑)。

とはいえ、それでもコンピューターに違いはありません。カセットテープのデータを読み込んで動く様子には感動を覚えました。操作方法を勉強し、初歩的なプログラミングで図形を描いたり、授業で学んだ数式を入力したりして遊んでいました。数学とコンピューターという、私の研究領域に関連する分野が初めて重なった瞬間だと思います。当時、つまり1980年代後半は一般社会でもコンピューターが注目され始めていたので、将来の進路も「数学とコンピューター」が関わる分野に進みたいと考えるようになりました。
このような経験があったので、大学進学では迷わず理系を選択しました。私が大学に進学した1990年代初頭は、日本中の大学に情報工学系の学科が設立され始めたころです。コンピューターがアカデミックな分野だけでなく、産業や行政からも注目されるようになり、情報系の教育に力を入れていく機運が高まっていたんですね。特に産業界からの注目は大きく、今でいうシステムエンジニアの需要が急激に高まっていました。私もコンピューター関連の企業に就職しようと考えていましたが、最終的には研究の道を選ぶことになります。そのきっかけは、私の指導教員との出会いでした。

「とんでもない時代がやってくるんだ」
恩師の言葉で研究の道へ

指導教員の先生は、企業から大学に来られた経歴をお持ちの方でした。とある大手電気メーカーで40年以上も先進的な技術開発に携われていたため、技術だけでなく、ビジネスについても深く精通されていました。その先生は「これからのビジネスパーソンは与えられた仕事を処理するだけではなく、創造的な仕事をしなくてはいけない。その一翼を担うのが、研究経験を持つ大学院卒の人材だ」と話されていました。その話を聞いた時、私が考える研究者のイメージが「大学で論文を書く人」から「創造的な精神を持って仕事をする人」に変わりました。将来のキャリアに関する、大きな発想の転換点になったんですね。それで私も研究を通して創造的な力を養いたいと思い、研究の道を志しました。

しかし、大学院に進むということは何か研究テーマを決めなくてはいけません。実は、そこでも同じ先生に大きな影響を受けました(笑)。先生は大手電機メーカーで長年働かれた経験から、技術が社会に与える影響について、かなり正確に時代の傾向を掴んでいました。そんな先生が「これからは絶対にインターネットの時代になる。とんでもない時代がやってくるんだ」と、よくおっしゃっていたんです。

当時の私はインターネットと電話の違いもよくわかっていませんでした。一方で、インターネット関連の企業が有名になったり、Windows 95など一般消費者向けのパソコンが普及したりと、インターネットが世の中をざわつかせているような感覚を肌で感じていました。「信頼できる先生を信じて、まずはしっかりと情報通信技術について学んでみよう」と考え、情報通信、特にインターネットの技術を専門分野に決めました。

フェイクニュースはどのようにして拡散する?
社会問題に数学の力で挑む

私の主な研究テーマは、数学とネットワークの融合です。数学は物事を抽象化する代表的な学問ですが、これを現実の情報ネットワークに当てはめることで、現実の現象を数学的に分析する研究に取り組んでいます。とりわけ今、力を入れている研究テーマがSNSです。高校生のみなさんもSNSを楽しく利用されていると思いますが、一方で誤った情報や、悪意のある情報の拡散が社会問題化しています。このような問題に対し「SNSで情報が拡散する仕組みがわかれば、誤情報の拡散を防げるのではないか」という研究が海外の研究者の間で注目されています。
「“バズるメカニズム”の予測なんて可能なの?」と感じるかもしれませんが、SNSでのコミュニケーションは現実世界と異なり、ルールが決められている点がポイントです。Twitterの文字制限などが良い例ですね。これが何を意味するかというと、情報の流れにルールが決められている=情報の流れを数学的に捉えられるかもしれない、ということです。例えば物理学では気体の拡散、光や音が伝わる様子を数式で表現していますが、これらは気候や重力など、SNSの投稿ルールよりもはるかに複雑な条件をもとに計算を行っています。自然界を数学的に表現できるのなら、人が作ったSNSでも不可能ではないのです。

SNSで情報が広がる仕組みを数式で表現できれば、様々な分野に活用できると期待されています。例えばフェイクニュース問題を考えてみましょう。フェイクニュースが拡散する仕組みがわかれば、拡散される前に対策を講じられるかもしれません。現代社会ではインターネットに精通している人が意図的にフェイクニュースを拡散させているケースも多くみられ、一企業レベルではもはや対応できなくなっています。辛い思いをしている方がたくさんいると思うので、少しでも被害を防ぐことができれば、研究の意味が達成されるのではないでしょうか。

ITリテラシーが必須の時代だからこそ、
自分の興味・関心を追求しよう

情報システム工学科という学科名に対し「専門性の高い知識を求められるのでは」と身構えてしまう高校生の方も多いようですが、周りの学生もほぼ全員が同じスタート地点に立っています。仮に授業を難しいと感じたとしても、一緒に学ぶ仲間たちも同じくらい頭をひねっているはずです(笑)。むしろこの学科に必要なものは「自分はとにかくこれが好きだ、やってみたい」という気持ちではないでしょうか。
昨今は社会全体でデジタルスキルが重要視されており、文系の学生でもプログラミングを勉強する時代です。そんな時代に情報系の学部・学科で勉強する意味のひとつが「自分の興味関心を、理工学の観点から深く追求する経験を得ること」だと思います。それがゆくゆくはあなたの専門性につながり、学んだことを社会に還元するきっかけになると思います。興味の対象は何でもかまいません。私の授業を受けている学生も、ロボット、ネットワーク、ゲームなど多種多様な分野を追求しています。今の学力は問題ではありません。自分の興味関心を通じて、社会に貢献してみたいと少しでも考えている方は、ぜひ入学をご検討ください。

研究を漢字一文字で表すと?

「匠」

研究者は独自のスキルで研究活動を乗り越える必要があります。
それは例えるなら、他の人では簡単に真似できない技術を持つ職人です。
職人は自分の道を極め、技術を社会に役立てています。
私もそんな研究者になりたいと思い、この字を選びました。

<略歴>
2001年 創価大学大学院 工学研究科 情報システム学専攻 博士後期課程修了
      博士(工学)
2000年 (株)富士通研究所 ネットワークシステム研究所 入社
2005年 創価大学 工学部 専任講師
2007年 創価大学大学院 工学研究科 博士前期課程担当
2009年 創価大学 工学部 准教授
2011年 創価大学大学院 工学研究科 博士後期課程担当
2014年 米国テキサス大学ダラス校 客員研究員
2015年 創価大学 理工学部 教授
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