寺島 美昭 教授

情報をつなぎ、組み合わせ、
新しい価値を生み出す!

コンピューターとの出会いで理工系の道へ

高校2年生の時に理系の進路を選びましたが文系学問にも興味があり、特に地理関係が好きでした。民族学や歴史も好きだったので、大学では地理学研究会に所属しました。地方の村でフィールドワークを実施し、住民の方に村の伝承について聞き込み調査を行いました。そのような活動が非常に楽しくて、将来は地理学関係の仕事に進むべきかと真剣に考えた時期もありました。趣味の山登りやトレイルランニングにもその影響があるかもしれないですね。

このように文系分野にも興味がありましたが、高校卒業までに将来の仕事として選んだのは理系分野でした。特に数学や物理など計算でサイエンスを表現できる教科に興味があり、工業系の大学を志望しました。私が高校2〜3年生の時に、友人とプログラミングを競った経験も、情報システム分野を仕事にするきっかけのひとつです。

今の高校生の方には信じられないかもしれませんが、当時のコンピューターは個人ではなく企業や大学、国の研究機関が所有するものでした。その後、1980年代半ばまでに個人向けのパーソナル・コンピューターが普及し、私も情報システム分野に興味を抱くようになりました。当時は大学で情報領域を専門とする学科は少なく、電子工学科の中で情報領域に取り組む研究室に所属することになりました。

大学院ではなく、就職から研究の道へ

大学教授の方は大学からそのまま大学院に進むケースが多いのかもしれませんが、私は大学卒業後に就職を選びました。当時の私は鉄道運行システムなど、コンピューターを使った制御や管理を行うシステムに興味がありました。そのような分野を手がけている企業に入社できたのですが、配属先は研究所でした。実は研究職を志望していなかったのですが、様々な製品を開発する工場から将来、必要となる情報・知識を求められる役割であり、これを追求する技術開発が面白くなっていきました。工場から上がってくる要望を解決するために眠れない毎日でしたが、今になってみると、この緊張が結構楽しかったんですよ(笑)。会社ではまず将来の通信機器の研究開発を担当する部署に所属し、徐々にコンピューターシステム全体の開発へと範囲を広げました。この経験が今の情報システム開発手法や、無線ネットワーク研究のテーマに直結しています。

誰かの「つぶやき」が天気予報に?意外な情報の組み合わせで価値を生み出す

私はIoT(Internet of Things)など無線センサや多彩な情報を活用して新たなサービスを提供する情報システムを、そして、コンピューターだけでなくスマートフォンや自動車など、様々な機械同士がネットワークを介して連携、協調して生まれる新たな価値を利用して安全、高信頼に実現する技術を研究しています。これまでのインターネットは人がアクセスする「ヒューマン・トゥー・マシーン」のかたちでした。今は人に加えて自動車やスマートフォン、家電などが相互につながりあう「マシーン・トゥー・マシーン」の時代です。機械がインターネットのユーザーのようにつながるので、取り扱う情報は今までになく高度な知識を含み、その量は膨大で、かつ品質も様々です。これらを解析すると、今までわからなかった領域の計測や予測ができて、新たな生活スタイルを生み出すかもしれません。

例えば局所豪雨、いわゆる「ゲリラ豪雨」は高校生の皆さんも経験したことがあるかもしれません。これを予測するためには、一般的には気象庁などの観測情報を使います。ですが、これにもうひとつ別のデータを組み合わせてみると、より正確、詳細に予測できるかもしれません。例えばSNS(Social Networking Service)の書き込み情報はどうでしょうか。誰かが「渋谷にいるんだけど、急に雨が降ってきた」と書き込んだとします。この情報を気象観測システムのデータと組み合わせれば、よりリアルタイム、かつ正確に天気予報サービスを展開できるかもしれません。このように情報と情報をネットワークでつなぎ、新しい価値をつくること、それが私の研究が目指すものです。

データ収集・分析の技術は日進月歩で進化中

研究をしていて特に面白いと感じる点は、多種多様なデータを分析すると、今まで気が付かなかった新たな価値を発見できるところでしょうか。昨今は「ビッグデータ」のように大規模なデータも比較的容易に扱えるようになりましたし、そのデータを分析する手法も驚くほど進化しています。昔に比べて研究の幅が広がり、研究のやりがいにもつながっています。例えばスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスから収集した身体のデータを医療に活用する動きが広がっています。このように既存の産業をサポートしたり、新しい産業を生み出したりできるかもしれない点も、非常に夢がある分野だと言えるのではないでしょうか。

たまに学生から「先生にとって研究のゴールは何ですか」と聞かれるのですが、むしろ社会の大きな変化を見ながら、研究を重ねれば重ねるほど「ゴールは無い」と感じます。何かを達成した時は、それをさらに発展させたり、他の分野と連携させたりできるのではないか、と気づきます。なので、一歩でも先へ研究成果をつなげていくことが目標ですね。また情報システムの発展は、セキュリティなどの課題と隣り合わせです。テクノロジーを悪用する人たちとの戦いや、法律や規制との折り合い、倫理性の遵守など、時代と共に様々な課題が発生します。それらに適切な対応を取りながら研究を進めていくことが当面の目標ですね。

外部との交流で、学生の成長を促す

私は教員ですが、指導者というよりも学生の共同研究者だと思っています。若い方の方が優れた発想力を持っていると感じるケースも多いです。なので年齢や経験はあまり気にせずに「君の研究で誰が喜ぶのか、それをイメージしながら取り組んでください」と学生の背中を押すようにしています。

ゼミの特色としては学会での企業研究者に向けた研究発表など、外部と交流して意見を頂く機会を積極的に設けています。例えばセキュリティ関係の研究発表では、外部のセキュリティ関係の研究者を招き、プロの立場からご意見をいただいています。また他大学との共同研究発表会も定期的に開催しています。学生同士で発表し合い、議論を重ね、その後は懇親会を楽しみます(笑)。このような機会があると学生も常に緊張感を持って発表に取り組みますし、議論にも熱が入ります。学生が大学の外の世界に揉まれ、たくましく成長する姿を見ることができ、私も嬉しく思っています。

理工学部で学ぶ面白さは、発展中の分野に関われること

理工学部は情報システム工学を学ぶのに非常に良いバランスの学部だと思います。なぜなら、サイエンスと工学の組み合わせが私たちの生活を便利にしているからです。例えば電話のような電波通信を考えてみましょう。電波を利用してコミュニケーションを取るためには、電波(サイエンス)だけでは役に立ちません。工学(エンジニアリング)で通信機器を作ることで、はじめて人々の生活に役立つことができます。理工学部はサイエンスによる自然科学の基礎と、工学による応用、活用の双方について理解と実践を学ぶことができる学部と言えるのではないでしょうか。

さらにいえば、今はAI(Artificial Intelligence)やロボット、量子コンピューターなど理工学系の分野は凄まじい勢いで発展しています。個人がコンピューターを利用できるようになったのは、せいぜい60年程度前であり、数千年の歴史がある医学や建築学と比べればほんのスタート地点です。それだけダイナミックに進化している分野を学ぶことは、これからの時代を担う若い世代の方にとって非常に興味深く、役に立つのではないでしょうか。

研究を漢字一文字で表すと?

「走」

研究の現場では常に前進することが大切です。それも散漫に歩くのではなく、迷いながらでも自分自身で道を選びながら、常に前に進んでいきたいという想いを込めて「走」にしました。失敗をよい経験と捉え、これからも常に緊張感を持ちながら走り続けていきたいです。

<経歴>
1984年 埼玉大学工学部電子工学科 卒業
1984年 三菱電機(株)入社. 情報電子研究所、通信システム開発センター、通信システム研究所、情報技術総合研究所 所属
2015年 創価大学理工学部教授
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