山上 敦士 教授

時代を超えて理論がつながる。
そんな数学の魅力に迫りたい!

フェルマーの最終定理の証明に用いられた「ガロア理論」に注目

私の専門は代数学の整数論で、その中でもガロア理論を研究テーマにしています。ガロア理論は19世紀に提唱されて以来、整数論を支えている理論です。ガロア理論を数学の問題に応用するときの特長の1つは、背理法のような論理展開を用いるということです。例えば、ある方程式が解けるかどうかという問題に対して、普通はその方程式そのものの解き方を考えていくと思いますが、ガロア理論では「どう解くか」を問うのではなく「もし解けるとすればこうだ」と仮定しながら問題に取り組みます。難しい問題を、より扱いやすい形に変える理論と表現できるかもしれません。

 ガロア理論は数学史上の難問といわれた「フェルマーの最終定理」の証明に用いられたことでも有名です。私自身もフェルマーの最終定理がきっかけでガロア理論に興味を持ちました。それ以来、20年以上にわたって研究を続けていますが、私にとっての数学の探究は、中学生の時に始まりました。

「数学を教えること」に興味を抱いた高校生活

「山上くん、この問題を解ける?」こんな一言と共に数学の問題を友人から出される毎日。それが私の中学・高校生活でした。小学生のときには九九の表を眺めているのが大好きで、数の法則に興味を持ち始め、中学校の頃には「数学のわからない問題は山上君に聞け」と校内で有名になるほどでした。問題を出してくる友人には2種類いて、単純に問題の解き方を教えてほしい人と、「お前にこの問題が解けるかな」と数学バトルを挑んでくる人です(笑)。彼らに対抗するために書店で問題集を買い集め「自主練」することも当時の楽しみでした(笑)。

ただ、当時の私に、より大きな影響を与えたのは前者の人たちでした。教えた時に感謝されるのがうれしくて、なるべくわかりやすく教えようと工夫するようになりました。「人に数学を教えることって面白い。将来は学校の先生になろう」と思ったのが、高校1年生のときだと思います。

進路選びの決め手は、自分のゆずれない価値観

進路指導の先生との面談で、教師になるには教員免許の取得が必要だと知りました。だから進路選びにあたっては、ゆずれない条件を3つ設定しました。「数学を勉強できる学部・学科であること」「教員免許が取得できること」そして「実家から通学できること」です(笑)。友人たちは「大学に進学したら、都会で一人暮らしするんだ」と息巻いていましたが、私には理解できませんでしたね。引越しやら一人暮らしやら、なぜそんな面倒なことをしなくてはいけないんだ、と(笑)。今このWEBページを読んでいる高校生のみなさんも、進路に悩んでいる方が多いと思います。進路選びの1つの考え方として、自分の興味・関心があることに優先順位を付けてみるといいかもしれません。

大学4年生で出会った、憧れの恩師

大学は北海道大学の数学科に進学したのですが、実は私の数学人生にとって一番のスランプ期になりました。なぜなら器械体操部の活動に大学生活の大部分を費やしてしまい、あまり数学の勉強ができなかったからです。これではまずいと思い、大学4年生のときに門をたたいた研究室の担当教員との出会いが大きな転換点になりました。

私の担当教員は当時、北海道大学とウィスコンシン大学を行き来する生活をされていて、数学者として国際的に活躍されていました。本当に憧れの存在でしたね。かと思えば、とても遊び心のある方で、居酒屋で割り箸の紙に計算問題を書き「これを解けるまでビールはおあずけね」なんておっしゃるわけです(笑)。中高生の頃、友人たちとワクワクしながら数学の問題を解いていた感覚が久しぶりに蘇りました。数学の面白さに改めて気づかせていただき、そこからは大学4年分を一気に巻き返すように勉強漬けの日々でした。

担当教員と共に時間を過ごすうち、将来のキャリアとして「数学者も面白そうだな」と考えるようになりました。しかし、数学者として生計を立てるのであれば多くの場合、大学教員になる必要があります。入学当初の目的であった教員免許も取得していたのですが、数学者を目指すため、教員採用試験は受けずに大学院に行きました。

まるで「大理石の彫刻」? 楽しくも大変な研究のやりがい

研究をしていて楽しいと感じる瞬間はやはり、自分が立てた仮説を数学的に証明できた瞬間ですね。「きっとAならばBなんじゃないか」と予想して、その証明に向けて論理的に命題を積み上げていきます。この論理的な作業が非常に面白くも大変なんです(笑)。前もって予想していても、実際に検証してみた先に何があるのか誰にもわかりません。イメージとしては、まるで巨大な大理石から彫刻の作品を掘り出していくような感じです。完成形のイメージはあるのに、大理石はとても頑丈で思ったように掘り進められない。でも、その過程で思わぬ面白い形になったりもします(笑)。

私自身の話で言えば、2003年に得られたアイデアを現在でも検証しています。実に20年以上、ひとつの理論に携わっていることになりますね。当時からお付き合いのある研究者と研究集会などで顔を合わせると「あの理論の検証はどうなった?」と、つい最近の話題かのように聞かれます(笑)。だから数学者にとって10年、20年は本当にあっという間です。

場所や時代を超えてつながり合う。それが数学の魅力

それでも研究する価値があると思うのは、ある研究が思わぬところで別の研究に影響を与えるということが頻繁に起こるからです。その最たる例が、先ほども話題に挙がったガロア理論です。19世紀のフランスで提唱されたガロア理論が、約150年後のイギリスで、フェルマーの最終定理の証明に用いられたのですから。数学の研究はどこで何につながるか、どんな役に立つのか、誰にもわからない。そこが非常に面白いと思います。

身近なものの仕組みを学び「つくり手」を目指せる学科

「情報システム工学科はどんな人にお薦めですか」とよく聞かれます。端的に言うと「身近なものの仕組みに興味を持てる人」ではないでしょうか。高校生のみなさんは、普段慣れ親しんでいるスマートフォンやゲームなどに対して、ふと「これはどういう仕組みになっているんだろう」と考えたことはありませんか?情報システム工学科では、現在の社会に欠かせない情報システムや情報技術について学ぶことができます。数学はそれらを支える、なくてはならない学問です。情報システムの基盤は数学そのものといっても過言ではありません。「数学は好きだけど、将来の仕事にどう活かせるのかわからない」という方は情報システム工学科への進学を是非ご検討いただきたいですね。

社会の様々な物事に対し「これはどういう仕組みになっているんだろう」と興味・関心を持つことは、ユーザーの側からつくり手の側に変わる第一歩です。その基礎となる知識・技術を学べる学科こそ情報システム工学科であるといえるのではないでしょうか。

研究を漢字一文字で表すと?

「素」

私は数の成り立ちに「素因数分解」を通して深く関わっている「素数」のことが大好きで、研究の主なテーマでもあります。また、数学に対する「素養」はどんな人にも大切なものだと思いますし、私自身、数学の研究に取り組んでいるとき「素直」で「素顔」の自分でいられると感じられるので、この字を選びました。

<略歴>
1998年 北海道大学理学部数学科卒業
2003年 同大学大学院理学研究科数学専攻修了 博士(理学)
2004年 学術振興会特別研究員(PD)(京都大学大学院理学研究科)
2006年 京都産業大学理学部講師
2008年 同准教授
2014年 創価大学工学部准教授
2021年 同大学理工学部教授
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