行き詰ったら信じて前へ進む、数学の難題を楽しむように人生を謳歌!最高の方程式は、“自分の人生の勝利≒オカンの幸せ”!

山上 敦士 理工学部 准教授

今から20年ほど前、約350年もの間数学者たちを悩ませ続けた未解決問題が証明されました。「フェルマーの最終定理」です。イギリスの数学者アンドリュー・ワイルズが何年もかけ、いくつもの理論を用いて証明しました。しかし、いまだ世界にはその問題に挑んでいる数学者がいます。それはなぜか?「理由は、証明されてもなお、“不思議”が残っているからだ」と、本学理工学部の山上准教授はいいます。 
山上准教授と数学の出会いは小学生のとき。教員の先生が見せた九九表に不思議な現象を見つけ、質問をすると、「すごいことに気がついたね。先生も分からないよ」と。以来、数の不思議な法則に取り憑かれ、数字と向き合う日々が始まりました。中学に上がると、ミニテストでクラスの中でただ一人満点を取り、以来クラスでは、「数学は山上に聞け」と言われるように。嬉しくて、本屋に行っては、数学の問題集を買い、毎日問題を解くのが趣味になりました。大学院では、新しい定理を発見し、修士論文は学術誌に掲載。大好きな数字と向き合い、趣味の研究に取り組み、なおかつ、その数学を通し、学生たちの人生とも向き合います。数字の話をし始めたら、いや、もともとピン芸人のようなお人柄ではありますが、輪をかけて笑いに鋭さが光り、なおかつ漫談が、いえ、解説が止まらない山上准教授に話を聞きました。

※掲載内容は取材当時のものです。

高校生を対象にしたアドバンストサイエンスセミナーが大変に好評だと聞きました!

授業の様子

ありがとうございます。数学が好きでも、大学で数学を勉強するとか、将来数学者になろうっていう人はそういないですよね。自分もずっと、創価大学で教鞭を執ることが夢でしたが、それほど需要もないのかなかなか追加募集がありませんでした(笑)。2015年度から工学部が理工学部へと改組されるということで、ついに数学者が補充されることになり、念願叶って、創価大学に赴任することとなりました。
「数学は何のためになるの?」とか、そういう議論の前に、数学の面白さを学生たちには味わってほしいです。明確に答えが出る面白さが数学であり、答えが出てもなお、不思議が残るのが数学です。数学は、物理や化学のようには目に見えないですよね。非常に概念的、哲学的な学問なんです。問題が解けない場合、いったん、“こうであるはず”と保留して次に進むことがよくあります。
何でだろうと考え込むことも大事ですが、ともかく信じて進んでみると、保留していたことが後からよく分かり、そこからさまざまな理論が発展していくんです。数学は、生きる上で大切なことを教えてくれます。

数学は生きる上で大切なことを教えてくれる?

韓国で開催された研究集会にて

実際、そのことに気がついたのは、大学院で行き詰った時でした。それまでは、ただただ数学の問題を解くことが好きでした。毎日毎日、呼吸するのと同じ位自然と数学の問題を解いていました。大学に入って、器械体操部に入って、正直、クラブに青春の全てをかけてしまって、相変わらず問題は解いてましたが、数学の理論そのものは勉強しなかったんですよね。
数学者になろうなんて考えもありませんでしたから、高校の数学の先生になれれば位に思っていたんですけど、指導教授が面白い先生で、世界中を数学者として飛び回っていました。その先生と飲みに行くと、問題が出されるんです。そのうち、脂の乗ったおいしいそうなホッケがテーブルに運ばれてくるんですけど、骨をきれいにはがしながら「はい、じゃあ、この半分山上君のね。問題解けたら食べていいよ」って(笑)。その先生から聞く数学の話や数学者として世界を飛び回る話がかっこよくて。いつしか“世界を飛び回る数学者になりたい”と思うようになりました。それで大学院に進学したんです。
でも、それまであまりにも勉強していなかったため、周りの学生と自分を比べてしまったり、担当教員から取り組むように薦められた未解決問題に、もう頭がパンクしてしまって。いろんなもので自分をがんじがらめにしてしまったんですよね。母子家庭だったんですけど、その苛立ちを事もあろうにオカンにぶつけるようになってしまったんです。正直言うと、手も上げてしまって。ダメだとは分かってるんですけど、どうにもできない苛立ちで自分を抑えることができなかったんですね。
ある日イライラが頂点に達し、怒号の応酬になりました。自分の口をつぐませたのはオカンの一言でした。「学者になったって、幸せにならないよ!人格者になりなさい!オカンはいくらぶたれてもいいよ。でもね、オカンがいなくなったら誰ぶつの?他人様傷つけたら大変なことになるよ!オカンは心配でしょうがないよ・・・」と。もう返す言葉がありませんでした。すぐには変われませんでしたが、その時に、本学創立者の池田先生が書かれた小説『人間革命』に出合って。人間革命したい、自分も変わりたいって思ったんです。なんか、すごいターニングポイントだったんですよね。自分の中に変化が起きると共に、数学上の新しい定理を証明できて、修士論文が学術誌に掲載されて。数学の難問に行き詰っていたのではなく、そもそも自分自身に行き詰ったことで、前に進めなくなってしまっていたのかもしれません。
「ガロア表現の変形理論」が分かったって、オカンを泣かせるような博士は愚か者です。そのことが分かったから、数学の世界でもパァーッと開けたんでしょうね。気付けば、一流の研究者に支えていただきながら、UCLAでの講演や、中国・フランスなど世界各地へ出張するなど、“世界を飛び回る数学者”になっていました。

先生が数学にのめりこんでいく過程には、人が持つ可能性を開花するヒントが隠れているようにも思えますね。

スタートは本当にちょっとしたことですよね。誰もが小学校で見たであろう九九表ですから(笑)。でもその中に見つけた、先生にも分からない不思議な法則に取り憑かれて、どんどん数に夢中になっていきました。中学に入ると、これまたミニテストで自分だけが満点を取った。友人たちがちょっとミスをしただけなんです。でもそれ以来「数学は山上に聞け」なんて言われるようになって。聞かれて分からないと悔しくて、本屋に行く度に数学の問題集を買って、毎日毎日ゲームに夢中になった子供のように問題を解いていました。
高校に上がると、ある時、問題集の巻末にある略解よりも、自分の問題の解き方の方が簡潔で分かりやすい答えだと思ったことがあって、自分なりの答えに自信を持つようになりました。大学では、数学のおかげで成績優秀者として授業料が免除になり、大学院に進学して、数学者ですからね。不思議ですね。研究がストレス発散のようになっていますし、これほどありがたい仕事はないです。数を見るとワクワクしますし、その不思議へ挑戦したくなります。今となってみれば、自分は非常にラッキーだったんだと思います。お世話になった先生方も含めて環境に恵まれていたんだと思います。その環境という言葉の中には、母子家庭の貧しさということも入ると思っています。

学生たちへアドバイスをお願いします!

ゼミ合宿にて

よく言うんですが、自分が夢を叶えても、その裏でオカンが泣いてたらしょうがないですし、本当の充実はありません。どうか、“自分の人生の勝利≒オカンの幸せ”となる生き方をして欲しいと思います。自分にとっても、親孝行は人生の命題です。今でも、「数学の研究でごはんがおいしくなるの?オカンは長年、ごはんを美味しく炊く研究をしてるよ!」と本気なのか、茶化しているのか、そんなことを言われていますが(笑)。
ともあれ、工学のベースとなる数学が発展すればするほど、科学技術も追いかけるように発展していきます。だから、理工学部なんです。理論の数学と実験の工学で、社会に、人々に、貢献する力ある人材をこの理工学部から輩出していきたいと思います。まぁ、自分が数学の理論はどうとか言っても、あらゆる理論を超越したオカンの愛情にはかなわないですが(笑)。行き詰ったら、信じて前へ進む、数学の難題を楽しむように、人生を謳歌してもらいたいですね。
 

やまがみ あつし Atsushi Yamagami

[好きな言葉]
「心こそ大切なれ」
[性格]
明朗快活で好奇心旺盛、我慢強くて几帳面
[趣味]
読書、音楽鑑賞、映画鑑賞、カラオケ、ギター演奏など
[最近読んだ本]
創立者の著作、数学関連の読み物、推理小説などを好んで読んでいます。最近では、「新・人間革命」27巻やサイフェルト女史との対談集「生命の光 母の歌」を読みました。数学関連では、「近世数学史談」(高木貞治著)や「フェルマーの最終定理」(サイモン・シン著、青木薫訳)がよくお薦めするお気に入りの本です。 
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