Vol.07

「美味しくて体に優しいお米のパンで、地域を活性化!?」-「研究室」生まれのお米のパンの魅力に迫る。

川底 瑠華 理工学部共生創造理工学科3年

八王子の特産米「高月清流米」を使用したパンを開発し、市内のパン屋で販売している丸田晋策ゼミの取り組みに注目が集まり、本年(2018年)1月には『広報はちおうじ』に取り上げられました。
農林水産省が減少する国内のお米の消費量を上げるため、力を入れている素材が「米粉」です。パン作りに適した品種の開発や学校給食での米粉パンの導入拡大など米粉を取り巻く環境が変化し、2017年には米粉用米の作付面積が前年比55%増加しました。このような中、小麦より硬い乾燥米の製粉技術が難しいため「米ゲル」「米ペースト」といった、お米の新しい加工技術の発展にも期待が寄せられています。
丸田ゼミでは、「高月清流米」を用いて新たな加工技術の開発に挑戦しています。今回、この1年間、プロジェクト・リーダーを勤めた川底さんにプロジェクトの概要やお米パンの美味しさ、魅力などの話を聞きました。

お米のパン、モチモチですね!その魅力について教えてください!

4種のお米のパン
4種のお米のパン

お米のパンの魅力は、小麦のパンに比べて、モチモチしていて腹持ちがいいんです。そのため、満腹感があり、何よりも美味しい。現在、八王子市梅坪町にあるパン屋「カフェドハルン」では、共同開発した「ピザパン(110円)」「さつまいもクリーム(160円)」「きな粉揚げボール(80円)」の3種の惣菜パンと米粉のモチモチ感をそのまま楽しめるプレーンタイプのその名も「米パン(80円)」の合計4種類のお米のパンが販売されています。これらのパンは、小麦粉8割、米粉2割となっています。
私たちは商品開発の過程で、さまざまな実験を行いました。原材料がお米なので、味噌や醤油といった日本に馴染みのある食材との相性がとてもいいんです。以前、米粉を使用したラスクを作ったことがあるのですが、お餅みたいに砂糖と醤油を合わせたタレをつけて食べるととても美味しかったです。お米は、小麦より消化が良くて健康にもいいです。授業で知ったのですが、日本の食料自給率が年々下がっていて、農林水産省が、食料自給率の目標を達成するために都道府県別の自給率を調査したところ、東京都の食料自給率は2%未満となっており、私たちの取り組みはこのような状況の改善にも少しでも貢献できるのではないかと思っています。米粉にはたくさんの魅力が詰まっています。

なぜ、お米のパンを開発することになったのでしょうか?

このプロジェクトは、理工学部共生創造理工学科の3年生が履修できる「ケーススタディ」という授業で行ったものです。丸田先生のゼミでは、「動植物の生体内に存在している巧妙な仕組みを持つ生体機能分子や効率の良いエネルギー変換システムを学び、それを応用することにより、代替エネルギー、病気の治療、食糧問題など世の中の役に立つようなアイデアを考える」というテーマで、研究計画の立案、データ収集・処理・解析、討議、発表までの過程を学生が主体となってプロジェクトを進めていきます。前年のゼミの先輩たちが「お米のパン」の製品開発のプロジェクトを行っており、私たちはゼミの仲間と話しあって、先輩たちが進めてきたプロジェクトを引き継いで、新たな加工技術の実験をしていくことに決めました。

お米のパンが販売されているカフェドハルン
お米のパンが販売されているカフェドハルン

大学コンソーシアム八王子の学生企画事業にも採択されましたね。

石川農園さんと
石川農園さんと

はい、2年連続で採択されました。私たちは、「八王子特産米の加工法と製品の開発による地域活性化」というプロジェクトを立ち上げて、八王子特産の高月清流米の米ゲルを利用した八王子を代表する加工食品の開発を目指しました。
この「大学コンソーシアム八王子学生企画事業」は、八王子の地域活性化に関わる取り組みを提案し採択されると、市より10万円の補助金がもらえます。先輩たちが、創価大学より北へ進んだ高月という地域に、秋川の清流をひいて栽培された「高月清流米」という希少な東京のブランド米があることに着目して、生産者の「石川農園」さんより高月清流米を提供してもらい商品化に向けて研究を始めました。そして、地元のパン屋の「カフェドハルン」さんに協力を依頼し、「お米のパン」として販売することになりました。
私たちは、新たな加工技術を用いて、パンの他にも応用できる素材の開発を目指して、他の品種のお米で開発されている「米ゲル」「米ペースト」という新たな加工技術を高月清流米でも利用できないかと実験を繰り返しました。店舗で販売できる商品の開発を目指して、ラスクやナン、イングリッシュマフィン、シフォンケーキといった様々な製品に適したお米の加工技術を検証してきました。試食しては実験し、実験しては試食の連続で、パン職人のカフェドハルンの石川さんには実験結果とともに改善事項を伝えて、試作品を何個も作っていただきました。

出来上がった製品はどのような場所で販売されたのでしょうか?

昨年、特設販売を5月に八王子駅前で行われた地域合同学園祭「第12回学生天国」というイベント、9月と12月には「道の駅八王子滝山」で行いました。また、10月に行われた創大祭でも模擬店を出店しました。これまで販売した場所では、ほぼ売り切れたのですが、夏に道の駅で販売したときは、急遽、売場が場外となり、炎天下でなかなか売れませんでした(笑)。商品としても成功する食感に近づいていると確信しました。
また、外で販売する時には、これまでの研究の成果をポスターにまとめ、購入してくださる方にもプロジェクトの様子をお伝えしました。そして、高月清流米の「認知度調査」もフィールドワークとして行いました。私たちのプロジェクトは、この「お米のパン」を通じて、八王子の特産米である「高月清流米」を知ってもらい、八王子の地域活性化を行うことにあります。このような活動を通じた成果もあり、12月よりカフェドハルンにて「お米のパン」の販売が始まりました。とても嬉しかったです。

学生天国での販売
学生天国での販売

原材料の高月清流米とはどのようなお米なのでしょうか?

炊き立ての高月清流米
炊き立ての高月清流米

高月清流米をDNA分析したところ、「あきたこまち」に似ていました。他にも、お米に含まれ「粘り」などを決めるデンプンの「アミロース」と「アミロペクチン」の比率も調べてみました。「高月清流米」は、そのまま炊いて食べてもとても美味しいお米です。しかし、高月清流米は、現在、「道の駅八王子滝山」での店頭販売とインターネット販売によってしか手に入らないこともあり、認知度調査を何回か行ったのですが、「知っている」との回答はほとんど0パーセントで、知名度が全くないことがわかりました。しかし、私たちの活動を通して、少しずつですが、名前を知ってもらえたかなと思っています。

プロジェクトの中で大変だったことはなんでしょうか?

実験を続けていくと様々な壁にぶつかりました。丸田先生にアドバイスをもらったり、粉の専門家の先生に話しを聞いたり、時には大きな製粉工場にも話しを聞きに行ったりもしました。学部の授業なので基本的な実験しかできないのですが、ゼミの仲間ともっとこうしたい、ああしたいという話がでてきます。実現することはできるかもしれないのですが、引き続き時間をかけて研究をする必要があります。
私たちは、「高月清流米」を用いて「米ゲル」「米ペースト」といった新しい加工素材の開発を行いました。これらの加工技術は、大量生産が難しい米粉の製造過程である製粉を行わないため、中小企業でも応用できる技術として期待されています。「米ゲル」は国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が開発した技術で、成形が容易、経時変化が少ないといった特徴があります。「米ペースト」は米を水に浸してからすり潰しペースト状にしたものです。静岡県立大学の貝沼やす子教授らによって研究開発された加工素材です。これらの加工技術を「高月清流米」で再現すると、お米の性質の違いやさまざまな条件の違いがあり、うまく再現できないんです。そのため、私たちは、水の量や温度、お米の割合などいくつも条件を変えて実験を行いました。この実験はまだまだ継続が必要です。

米ペーストの実験
米ペーストの実験
道の駅での販売
道の駅での販売

チームでプロジェクトを進めていくことも大変でした。この授業を履修したのは10名いたので、それぞれ他の授業があったり、進路も違ったりするので、モチベーションももちろんバラバラです。プロジェクト・リーダーとして、みんなの気持ちをまとめるのは大変でしたが、とても勉強になりました。お互いの状況が分かってくるとみなで分担し、協力し合えるようになりました。そして、1年間のプロジェクトを終え、大学コンソーシアム八王子の「学生企画事業補助金成果報告会」(2018年2月16日)までたどり着きました。「ケーススタディ」の授業は、どんどん学外に出て行ったので、やればやった分だけ力がついたと感じています。

販売に至るまでも多くの困難があったかと思います。

そうですね。私たちは学生なので、自分たちが開発したものをお金を出して買ってもらう、自分たちの製品を売るということは、それだけの価値のあるものを作らないといけないという責任感というか、プレッシャーがありました。と同時に、購入してくださった方にも美味しいと喜んでもらいたという思いもありました。そのため、実験や調査を何度も重ねました。お米の生産者、パンの職人、そして、購入してくださったお客様と直接やりとりしながら、試行錯誤しました。
また、プロジェクト開始当初は、ボランティアで素材を提供していただいていましたが、補助金事業としてお金がもらえるようになったり、商品を販売したりして、ビジネスモデルとして少しずつ成長してくると、試作品の開発や高月清流米の提供も、購入という形が取れるようになってきました。現実の社会では、材料費や人件費といったこともかかります。こうやって事業が成長していくことに、はじめは困惑しましたが、地域活性化に貢献できているという実感があるので嬉しさも感じています。一つの製品がどのように素材から商品化されていくのか学ぶことができました。

大学コンソーシアム八王子学生発表会
大学コンソーシアム八王子学生発表会

最後にこれからの将来について教えてください。

検証と議論を重ねた研究室
検証と議論を重ねた研究室

この1年間で、高月清流米の「米ゲル」、「米ペースト」の試作品を作ることができました。この続きを、後輩たちにやってもらえたら嬉しいなと思います。私は、このプロジェクトを通じて、米粉の健康への影響に強い関心を持ちました。日本人にも小麦の中に含まれる「グルテン」に対してアレルギーを持つ人や耐性が弱い人がいます。小麦をまったく使わないパンや麺といった「グルテンフリー」といった食品にも注目が集まっています。「米ゲル」、「米ペースト」は、クリームやアイスにも応用できる技術です。小麦が食べられない人でも、美味しいものが食べられるようになると思うので、今後の技術開発が気になります。また、私は1年生の時にフィリピンの語学研修に参加したことがあり、フィリピン滞在中に日本のお米がとても恋しくなりました。他にも小学校時代、大阪の給食で、米粉パンを食べた記憶があります。米粉の活用がさらに拡大すれば、日本の食料自給率の向上に貢献できます。
いよいよ、就職活動の時期になりました。一緒にプロジェクトに取り組んだ仲間は、ものづくりの楽しさを知って、そのような業界に進もうとしている人もいます。私は、製薬業界に進もうと考えています。もともと、人体のメカニズムなどに興味を持っていて、高校時代は生物の科目が大好きでした。人の為に役に立つ仕事がしたいと思っていて、今回のプロジェクトやその他にも創価大学での学びが自身の進路の方向性を後押ししてくれました。

かわそこ るか Ruka kawasoko

[好きな言葉]
逞しき楽観主義

[性格]
負けず嫌い

[趣味]
読書、音楽鑑賞

[最近読んだ本]
さくらももこ『そういうふうにできている』
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