多文化共生の展示から実現した ハラルフードのキッチンカー販売
国際教養学部国際教養学科 杉本一郎ゼミ
加藤百々華さん(国際教養学部国際教養学科4年)
狩野巴那さん(国際教養学部国際教養学科4年)
大橋周真さん(国際教養学部国際教養学科4年)
中村未来さん(国際教養学部国際教養学科4年)
水谷莉来さん(国際教養学部国際教養学科4年)
創価大学では2025年9月から、「東京ハラルデリ&カフェ」によるハラルメニューのキッチンカー販売をスタートしました。その導入のきっかけの一つとなったのが、2024年の創大祭で国際教養学部・杉本ゼミが行った展示です。「多文化共生キャンパスを目指して〜ムスリムの視点から考える〜」をテーマに、ムスリムの学生が抱える生活課題の解決策を提案する展示は高く評価され、創大祭アカデミックアワードの教職員賞を受賞しました。展示に向けた取り組みと、多文化共生への思いについて、5人のゼミ生に伺いました。
創大祭の展示テーマはどのように決まったのでしょうか。
加藤さん: 2024年の6月頃、展示テーマについて話し合いを始めました。杉本ゼミでは毎年、「学びを社会に還元する」という趣旨で展示を行っているので、私たちもそれを継承したいという思いがありました。
狩野さん: メンバーの中には、マレーシア・マラヤ大学からいらした客員教授のナスルディン先生の授業を受けた人が3人いました。ナスルディン先生と関わる中で、お祈りをするために自宅に帰ったり、イスラムの教えで許されているハラルフード※を食べるために自分で作った料理を持参したりと、ムスリムの生活習慣を守るために苦心されている姿を見て、より過ごしやすい環境があればという思いがあったのも、一つのきっかけになったと思います。
加藤さん: 私も寮でムスリムの留学生のサポーターをした経験があります。彼らの中にはイスラムの教えに沿ったものでないと口にできないという人もいました。ハラルフード専門のスーパーマーケットで食材を買って夕食を作り、翌日のお弁当作りにも時間をかけていて大変そうだったのを見て、少しでも負担が減るような改善策があればと思いました。
※ハラルフード=イスラム教において食べることが許されている食品や料理のこと。禁じられている食品の代表的なものとしては、豚肉や豚由来の商品、酒やアルコール、イスラム法の手順に沿った処理をしていない食肉などがある。
調査や展示づくりで工夫した点や、それぞれが担った具体的な取り組みを教えてください。
水谷さん: 宗教というセンシティブなテーマを扱うにあたって、最初はとても慎重になりました。インターネットで基本的な知識を学んだ上で、当事者の方に失礼のないよう、丁寧に話を聞くことを意識しました。
狩野さん: 最初はネット上で情報を集めていたのですが、それでは本質的な課題が見えないと感じ、ムスリムの方が日本で生活する中で直面する課題、例えば、ハラルレストランの少なさや祈りの場所の不足などを実感をもって理解するため、実際に現場に足を運ぶことにしました。
加藤さん: 杉本先生、ナスルディン先生と一緒に八王子マスジド(モスク)を訪問し、管理者の方から、例えば、豚肉を切ったまな板を使うだけで、すべての食材がハラルではなくなるなど、ハラル調理の細かなルールを伺い、とても勉強になりました。ここで、ハラル食の提供を実現する上での具体的な課題が明確になったように思います。
また、お祈りをするためにモスクと大学を往復することが大変だという話を聞き、学生の送迎支援(シャトルバス)の提案も検討しました。
大橋さん: みんなが展示を考えていた当時、私はインドに留学中でした。インドはヒンドゥー教徒が多い国ですが、私が行ったデリーはムスリムも多い地域です。現地ではハラルフードが文化として根付いていて、当たり前のようにハラル食を選べる環境があり、多文化共生とは何かを考えるきっかけになりました。そうした状況を日本に伝えたり、展示では「インドで見た共生のあり方」を紹介するコラムを担当しました。
中村さん: 私は情報を整理したりまとめたり、主に裏方の役割を担当しました。日本、台湾、リトアニア、インドと4つのタイムゾーンに分かれていたので、9人のメンバー全員が参加できるオンラインミーティングの調整が大変でしたが、留学中のメンバーも含めて連携できるように工夫しました。
準備期間中、特に印象に残った出来事はありますか。
中村さん: メンバー間で遠慮があり、最後のまとめ作業がなかなか進まず、杉本先生に叱咤激励を受けたことがありました。その時に気付いたのは、「課題解決を実現するんだ」という熱量が私たちには足りなかったということです。それまでは、どことなく「創大祭の展示のためにやっている」という感じがあったのだと思います。先生の檄で、社会を変える提案を本気で形にしなければいけない。インタビューに答えてくださった方をはじめ、協力いただいたすべての方に恩返しをする意味でも、私たちがしっかりと行動しなければいけないという気持ちが強くなりました。
狩野さん: 先生の言葉をきっかけに、全員が気持ちを一つにして、最後まで取り組むことこそが大事なんだと気づきました。オンラインのメンバーとも連携をとり、みんなで歩調を合わせてやり切るんだという空気感が生まれたことで、完成まで辿り着くことができたのだと思います。
展示当日の反響はいかがでしたか。
加藤さん: 多くの方が足を止めてくださり、「すごいね」「こんなこと知らなかった」と言ってもらえました。創価大学はグローバルなイメージがありますが、まだ改善できる部分があると知って驚く方も多かったです。私たちの展示が、多文化共生について改めて考えるきっかけになったように感じられて、うれしかったです。
中村さん: 見てくださった方からの意見もいただきたいということで、展示の最後に、提案に対して「賛成」「分からない」「反対」の意思をシールで回答してもらうコーナーを設けました。ハラルキッチンカーの導入提案に対しては「賛成」が圧倒的に多く、肯定的な反応を感じました。一方でモスクへのバスの運行については「費用は誰が負担するのか」といった現実的な意見もあり、次の課題も見えてきました。
皆さんの展示をきっかけに実現した、ハラルフードのキッチンカーを初めて見たときの気持ちを聞かせてください。
加藤さん: 実際にキャンパスにキッチンカーが来たのを目にして、胸が熱くなりました。ムスリムの人に貢献できただけでなく、ムスリムではない人たちにとっても、ハラルフードを知るきっかけづくりができたことは最高の喜びです。創価大学がグローバルな環境を推進していく上で、ハラルフードは特別なものではないと感じてもらえる一歩となったのであればとてもうれしく思います。
水谷さん: 創大生にとってハラルフードやムスリムの学生が身近にいることが当たり前、違和感のないものになるのではないかと感じています。大学の多文化共生に、一歩貢献できたことがうれしいです。
狩野さん: 展示の時には想像できなかったスピードで、キッチンカーが現実になり、本当に驚きました。自分たちの行動が大学を動かす力になるという経験を通して、声を上げることの大切さを実感しました。
大橋さん: キッチンカーの実現をとてもうれしく思います。それは単に自分たちが成果を残せたからということではなく、少なからずムスリムの方に貢献できたこと、そして彼らのための多様性の道を切り拓く可能性が見えたからで、そのことに感銘を受けています。私が留学していたインドでは宗教や文化の違いが日常に溶け込んでいましたが、日本ではまだそうではありません。このキッチンカーが、創価大学における多文化理解の象徴になることを願っています。
活動を通して、自分自身の変化や気づきはありましたか。
中村さん: ムスリム学生の声を聞く中で、自分が当たり前だと思っていた日常が、誰かにとっては不自由かもしれないと気づきました。誰かが声を上げなければ届かない現実がある。これからも「見えにくい困りごと」に目を向けていきたいという気持ちが湧きました。
水谷さん: 異文化理解は、少数派が我慢することではなく、多数派が歩み寄る努力をすることだと学びました。1人に寄り添う姿勢の大切さを、今回の活動で強く感じました。
大橋さん: 啓発活動の重要性と「個の力」の大きさを実感しました。展示をする前は誰も課題として認識していなかったことが、展示を通じて多くの人の関心を呼び、最終的に実現に至った。誰かが行動を起こすことで社会は変わるのだと学びました。
狩野さん: 一つのテーマに向き合う中で、チームで考え、意見を交わしながら形にしていく力がつきました。文化や宗教の違いを超えて対話することの大切さを、実体験として学べたのは大きな財産です。
加藤さん: 杉本ゼミの活動を通して、学問が社会と直結していることを感じました。知識を得るだけでなく、実際に行動することの意義を学び、今後の人生でも“誰かのために動く力”を磨いていきたいです。
創価大学の魅力と、後輩へのメッセージを教えてください。
水谷さん: 創価大学には、学生の声を真摯に受け止めてくれる先生方や職員の方々がたくさんいます。今回のキッチンカー導入も、そうした大学の姿勢があってこそ実現したのだと思います。自分や周りの人の可能性を信じ、広げていく力と勇気をもつ仲間が創価大学には数えきれないほどいます。そうした環境で過ごす学生生活は、一生の宝物になると思います。
中村さん: 創価大学には、多様な文化を尊重する雰囲気があります。くじけそうになる日があったとしても、無理をせずに立ち止まったり、周りに助けを求めることで、また次につながる。今回の展示に向き合って私自身、そう感じることができたので、後輩のみなさんも創価大学で頑張ってほしいと思います。
大橋さん: 身の回りで自分が疑問に思うことや、課題だと感じる点は、他の人にとってもそうである場合が多いと思います。そうした課題を学び、考え、実践につなげるところまで学生主体で行える機会は、そうそうありません。創価大学で身の回りの事柄に関心を向けて、「自分だったらどうするのか」を考える当事者意識を、ぜひ培ってほしいです。
狩野さん: 今回のムスリムフレンドリーの取り組みもそうですが、今までの大学生活を通して創価大学は、誰かのために行動を起こせる人がいて、そのアクションに対して肯定的に動いてくれる大人が沢山いる大学だと実感しています。ここは、これからの世界を変えていくパイオニアに成長できる環境が充分に整っている場所です。一緒に未来を変えていく一歩を創価大学で踏み出しましょう!
<国際教養学部 国際教養学科 4年>
加藤百々華
Momoka Kato
- [好きな言葉]
- 1日で1週間、10日分の価値を創ろう
- [性格]
- 好奇心旺盛、上昇志向
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- 歌を歌うこと、絵を描くこと、散歩
- [最近読んだ本]
- リーダーは自然体/増田弥生、金井壽宏
<国際教養学部 国際教養学科 4年>
狩野巴那
Hana Kano
- [好きな言葉]
- 夢なきものに成功なし
- [性格]
- 丁寧な討論者
- [趣味]
- 旅行、写真を撮ること
- [最近読んだ本]
- センスの哲学/千葉雅也
<国際教養学部 国際教養学科 4年>
水谷莉来
Rina Mizutani
- [好きな言葉]
- 為せば成る
- [性格]
- 思い立ったらすぐ行動
- [趣味]
- お菓子作り
- [最近読んだ本]
- 3000円の使い方/原田ひ香
<国際教養学部 国際教養学科 4年>
中村未来
Miku Nakamura
- [好きな言葉]
- 一歩ずつ前へ
- [性格]
- 静かに思考し、現実的に動く
- [趣味]
- 料理、豆から淹れるコーヒー時間を楽しむこと
- [最近読んだ本]
- かがみの孤城/辻村深月
<国際教養学部 国際教養学科 4年>
大橋周真
Shuma Ohashi
- [好きな言葉]
- AAL IZZ WELL
- [性格]
- 好奇心旺盛、行動力、明朗快活
- [趣味]
- ドライブ、音楽鑑賞(J-pop)、歌うこと、散歩
- [最近読んだ本]
- アルジャーノンに花束を/ダニエル・キイス