西原祥子所長の研究室で実施された研究成果が、米国 Cell Pressの発行する「iScience」に掲載されました

正常な個体では、ムチン型糖鎖修飾を受けたパピリンが血球細胞から分泌され、表皮細胞におけるJAK/STATシグナルを抑制することで、ストークの管形成を促進し、成虫における後脚の正常な形態形成に寄与する(左)。一方、ムチン型糖鎖の合成が抑制された個体では、パピリンの分泌量が低下するため、表皮細胞のJAK/STATシグナルが異常に活性化し、ストークの伸長不全を引き起こす。その結果、脚成虫原基の配置異常が生じ、成虫の後脚に形態異常が現れる(右)。

 本学糖鎖生命システム融合研究所の西原祥子所長の研究室で実施された研究成果が、米国 Cell Press 社発行の国際学術誌 iScience に掲載されました。
 論文の共同筆頭著者である不破尚志 元特別研究員と伊藤和義 元特任講師(現・公益財団法人 佐々木研究所 研究員)が中心となって本研究を実施しました。
 本研究では、モデル生物のショウジョウバエを用いて、哺乳類のマクロファージに相当する血球細胞が、糖鎖修飾を受けた細胞外マトリックスタンパク質を介して表皮組織の管形成を駆動するという、新たな分子メカニズムを明らかにしました。
 ショウジョウバエ幼虫の体内に存在する「成虫原基」と呼ばれる組織は、変態期に成虫の脚・翅・眼などの器官へと形を変えます。成虫原基は「ストーク」と呼ばれる管状組織によって幼虫の表皮に固定されおり、特に後脚の成虫原基は比較的長いストークによって繋留されています。これまで、このストークがどのように形成されるのか、その分子メカニズムは未解明でした。
 本研究では、遺伝学的および生化学的解析により、ムチン型糖鎖修飾を受けた細胞外マトリックスタンパク質「パピリン」が血球細胞から分泌されることで、表皮細胞の JAK/STAT シグナル伝達経路を負に制御し、ストークの管形成を促進することを明らかにしました(図左)。
 さらに、ムチン型糖鎖修飾を抑制すると、パピリンの細胞外分泌量が低下し、表皮細胞の JAK/STAT シグナルが過剰に活性化してストークの伸長が阻害されることが判明しました(図右)。この結果から、パピリンのムチン型糖鎖修飾が適切な分泌に必要であることが示唆されました。
 本研究は、「ムチン型糖鎖修飾が細胞外マトリックスタンパク質の分泌を促進し、血球細胞と表皮細胞のコミュニケーションを介して管形成を駆動する」という一連の生物学的プロセスを分子レベルで解明しました。
 哺乳類においても糖鎖合成経路やシグナル伝達経路は高度に保存されていることから、本研究で示された仕組みが哺乳類組織の管形成にも備わっている可能性があります。こうした観点から、本研究成果は糖鎖修飾異常に起因するヒト疾患の病態解明にも寄与することが期待されます。

 論文の詳細は、以下のリンクよりご覧いただけます。

教授

西原 祥子

ニシハラ ショウコ

専門分野

機能生物化学、細胞生物学、発生生物学、医化学一般、糖鎖生物学、幹細胞生物学、生化学、分子生物学

研究テーマ

生体における糖鎖の役割を明らかにすることを目的として、研究を行っています。ショウジョウバエ個体やES細胞、iPS細胞、癌細胞、癌幹細胞、ヒトモデル細胞、オルガノイドにおいて、様々な遺伝子工学の手法を用いて、糖鎖関連遺伝子の発現を調節して糖鎖機能の解明をしています。また、一部の遺伝子については、ノックアウトマウスを作製し、解析を行っています。

(1) ショウジョウバエを用いた糖鎖関連遺伝子の解析;生物種を越えて保存されている糖鎖の生理機能の解明
ショウジョウバエは、最も遺伝学の進んでいるモデル実験動物です。「生物種を越えて保存されている糖鎖の生理活性」に焦点を置いて、ショウジョウバエの糖鎖関連遺伝子の変異体やノックダウン体の表現型の解析や生化学的分子生物学的解析から、生物の発生における糖鎖の役割を明らかにしていきます。特に、血液幹細胞の維持と分化に必要な糖転移酵素、神経の軸索形成に必要な糖鎖構造などについて、現在、解析を行なっています。

(2) ヒトや哺乳類の多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)、オルガノイドにおける糖鎖機能の解明
(1) で明らかになった糖鎖機能がヒトや他の哺乳動物にも共通するものであるか、胚性幹細胞を中心とした培養細胞で検討していきます。具体的には、ES細胞やiPS細胞を対象に、「糖鎖の幹細胞維持や分化における役割を解明する」することを目的とします。このプロジェクトでは、2008年に『ES細胞の維持に糖鎖(ヘパラン硫酸)が関与する』ことをはじめて明らかにしました。それをさらに押し進め、上述の4つの糖鎖構造がナイーブな多能性状態を維持に必要なことを明らかにしました。現在、それ以外の様々な糖鎖にまで解析の範囲を広げています。胚性幹細胞における糖鎖の機能解析の例は、今なお多いとは言えず、この分野でパイオニアとしての役割を果たしています。

(3) PAPS輸送体ノックアウトマウスの機能解析
PAPS輸送体は、糖鎖やタンパク質の硫酸化に必須であり、これがないと各々の分子は硫酸化修飾を受けられません。私達は、2003年にこれを初めて単離・同定しました。現在、ノックアウトマウスを作製して解析を行なっています。このマウスが様々な疾病を誘発することを見いだし、それらの発症機構について解析をしているところです。

(4) 未診断疾患に関わっている糖鎖関連遺伝子の機能解析
これまでの解析から、糖鎖が多くの希少な未診断疾患に関わっていると予測されたので、それらの解析も開始しました。疾病との関連が見いたされた変異をもつ糖鎖関連遺伝子の機能の喪失を、モデル生物や幹細胞からの分化系、オルガノイドなどを用いて解析し、病気との関係を明らかにしていきます。

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