Vol.67

ブルガリアの人々の心にとどけ。 独立の英雄を悼む詩をブルガリア語で朗読

渡邊 幸子(国際教養学部国際教養学科 2023年3月卒業)
木内 雄一郎(経済学部経済学科4年)

 2023年2月19日、ブルガリア大使館で行われた「ヴァシル・レフスキ没後150周年記念式典」。この式典で、国際教養学部をこの春に卒業した渡邊幸子さんと経済学部4年の木内雄一郎さんが、革命に身を捧げたブルガリアの英雄ヴァシル・レフスキを悼む詩をブルガリア語で朗読しました。朗読に臨んだ際の気持ちやブルガリアに対する思いを二人に語ってもらいました。

ブルガリア語で詩の朗読をされることになった経緯を教えてください

渡邊さん:在日ブルガリア大使館から、創大でブルガリア語を教える二宮由美先生を通じて、「革命家ヴァシル・レフスキ没後150周年記念式典で学生に詩の朗読をしてもらいたい」とのお話をいただきました。日本の大学でブルガリア語の授業を行っているところは5校ぐらいしかないそうで、そのうちの1 校ということで依頼があったようです。1篇の詩を6人の大学生で分担して朗読したのですが、創大から2人、東京外語大から4人が参加して、私がトップ、木内さんが2番目に朗読を行いました。
 私は日本でブルガリア語を学ぶ学生として、ちょっと大げさかもしれませんが、日本とブルガリアの架け橋になりたいとの思いで参加しました。

朗読された詩の内容は、どのようなものだったのでしょうか?

木内さん:詩の題名を直訳すれば『ヴァシル・レフスキの処刑』となります。ブルガリアは14世紀末から500年近くにわたってオスマン帝国の支配下にありましたが、ヴァシル・レフスキは19世紀後半にブルガリア独立を勝ち取るために戦った革命家として知られています。彼は祖国解放の機運が高まる中でオスマン帝国軍によって処刑されてしまうのですが、それを悲しんだレフスキの同志で詩人でもあったフリスト・ボテフという人が悲痛な思いを込めて詩にしたものです。
 私は、3年次の秋から交換留学生としてブルガリアに渡り、10カ月間ほどソフィア大学に学びましたが、レフスキとボテフの名前は現地でよく耳にしました。国立競技場やサッカーチームなどにレフスキの名前を冠していたり、ボテフの命日の正午には、歩いている人はもちろん車まで停まって町中で祈りを捧げたり。祖国解放に身を捧げた英雄として、二人は今なおブルガリアの人々の強い敬愛を集める存在となっています。

渡邊さん:今回の詩には、レフスキが処刑されたことに対するブルガリアの人たちの深い悲しみが描かれています。「女性や子ども、カラスまでもが悲しんで泣いている」といった表現もあり、第一印象としては暗い内容の詩だなと思いました。しかし何度も読むうちに、ブルガリア国民にとってレフスキがいかにかけがえのない存在であったかを痛切に感じるようになりました。現在のブルガリアの人々の自由な暮らしは、レフスキの勇敢な行動や尊い犠牲の上に成り立っている──。そのことを忘れないために今回この詩が選ばれたのだろうと思いました。

原語による朗読の難しさや、苦労されたことはありますか?

渡邊さん:3年次から2年間、第2外国語でブルガリア語を学びましたが、発音が難しく、言葉の抑揚をどうつけたらいいのかがわからず苦労しました。幸い創大にブルガリアからの交換留学生がいたので、その子に頼んで詩の朗読を録音してもらい、それを何度も聴いて読み方を覚えていきました。
木内さん:日本語でもない、英語でもないということで、苦労しました。発音の難しさもありましたが、英雄の死を嘆く詩なので、「感情をどう込めて読むか」がいちばん難しかったですね。
 私が読んだパートに「母が悲しんでいる」という一節があったんですが、これは文字通りの「お母さん」という意味と、「母なる国ブルガリア」を意味する比喩でもあるそうです。二宮先生や、練習に付き合ってくれたブルガリア人留学生にそのことを指摘されて、なるほどと思いました。そのようにして詩に込められた意味を理解していくことで、感情の乗せ方を自分なりに体得していきました。

詩の朗読を聴いたブルガリア人の方々の反応はいかがでしたか?

渡邊さん:式典には大使館関係者以外にも20〜30人もの在日ブルガリア人の方々が出席し、私たちの朗読にうなずきながら聴き入ってくださいました。緊張しましたが、とても喜んでいただけたので、ブルガリア語を学んでよかったと心から思いました。
 最初、朗読のお話をいただいたとき、「私たちが読んでいいのかな」と思いましたが、大使館の方からの「日本人がブルガリア語で読むことに意義があるのだ」という言葉が背中を押してくれました。世界でも話者が比較的少ないブルガリア語を母国語とする人たちに、その言語で日本人が語りかけることは、単なる意思疎通ではなく、最大限の敬意を相手に伝える行為として心に響く──。実際に朗読をしてみてそう実感できたとき、大使館の方の言葉の真意がわかった気がしました。

ブルガリア大使館にて
ブルガリア大使館にて

語学修得や留学などを通してブルガリアにどのような印象を持ちましたか?

木内さん:2年次の時に交換留学先を選ぶ際に、この機会を逃したら一生行かないかもしれない国へ行きたいと思って、ブルガリアを選びました。なじみの少ない東欧の国でしたが、調べてみるとヨーロッパだけでなくアジアやロシアなどいろいろな文化が混じり合っていて、ヨーロッパの中でも独自性を持った魅力的な国であると知りました。
 実際、留学をしてみて一番に思ったのは、伝統文化や過去の歴史をとても大事にしている国だということ。特に国のアイデンティティにかかわること、例えば今回のヴァシル・レフスキなどが礎となった祖国の独立については、誰もが大切に思い、誇りを抱いているように感じました。
またブルガリア人は、とても義理堅く友情に厚いところがあります。大学で知り合った友人が急に「ご飯をおごるよ」と言うので、なぜだろうと思ったら「あの時のお礼だ」と2、3カ月も前のことをずっと覚えているんです。あと、僕が留学を終えて帰国する際、友人が「必ず見送りに行くから」と言ってくれていましたが、あいにく僕のフライトと彼の試験日程が重なってしまいました。それならばと、試験前夜の貴重な時間を割いて「一緒に飲みに行こう」と誘ってくれました。
 こんなふうに、受けた恩をずっと忘れなかったり、友人のために骨身を惜しまなかったりといった性質がブルガリア人にはあるように感じました。

渡邊さん:私は以前から世界中の民族衣装に興味があって、インターネットなどでよく調べていました。その中でも、ブルガリアの色鮮やかな民族衣装に魅せられました。花や葉などをモチーフとした刺繍が特徴だったので、「伝統的な衣装に植物の柄が取り入れているということは、自然を大切にしている国民なんだろうか?」「あの美しく繊細な民族衣装の背景にはどんな文化があるんだろう?」と感じたところからブルガリアへの興味が湧き、ブルガリア語履修にもつながりました。
 そういえば、こんなエピソードもありました。ブルガリアから創大へ来た交換留学生が、ブルガリア語の先生にとお土産を自国から持ってきたのですが、それがなんと自然の「石」。とてもきれいでしたが、意外すぎる贈り物だったのでびっくりしました。でも、その行動から彼らが自らの自然を心から愛していることが伝わってきたので、ほほえましく思えました。

ブルガリアという国やその言語に触れてきた経験を今後どのように活かしていきたいですか?

木内さん:ブルガリア留学やブルガリア語の勉強を通じて、自分にはまだまだ知らない世界があることを痛感しました。そして、ブルガリアの文化や習慣、国民性といったものは、それまでの自分だけの限られた物の見方では完全には理解しえないとも思いました。大切なのは、自分の価値観にとらわれず、常に他者の目線からも物を見るようにすること。今、就職活動をしていますが、そのような姿勢は将来仕事をしていく上でも活かせると思っています。

渡邊さん:食品系の仕事に就職しましたので、日本で暮らす外国人の方々とも直接かかわる可能性があります。「ブルガリア」とは離れてしまうかもしれませんが、ブルガリア語の学習や今回の朗読、さらには学部の授業で身につけた多様な価値観をうまく仕事に活かしながら、外国人の方々を支えていけたらと思います。
 それと、大使館での記念式典で朗読後に、在日ブルガリア人コミュニティの方々が「ホロ」と呼ばれる民族舞踊を披露してくれたのですが、それがとても素晴らしくて。私もプライベートでぜひチャレンジしてみたいと思っています。

後輩のみなさんにメッセージをお願いします。

渡邊さん:創大の魅力の一つに、第2外国語の豊富さがあります。フランス語や中国語などの主要な言語はもちろん、今回のブルガリア語や、スワヒリ語、アラビア語、インドネシア語など15もの言語から選択できます。
 それぞれの言語にはそれぞれの言語話者がいて、独自の文化があります。例えばブルガリア固有の文化は、ブルガリア語でしか完全に表すことはできません。言語を知ることはその民族や文化を知ることになると私は思っているので、その機会に恵まれている創大は、自分をグローバルな存在に成長させられる大学だと思っています。
 ちなみに私は、2年間、ブルガリア語を受講しましたが、そのうちの1年間は他に受講者がおらず、学生一人・先生一人のマンツーマン授業でした。たった一人の学生であっても開講してくれるような親身な対応もこの大学の魅力だと感じています。

木内さん:創大はひとことで言って、「学ぶことが楽しくなる大学」です。私は在学中、勉強ばかりしていたようなところがありますが、学びを通じて素晴らしい仲間と知り合うことができましたし、人生を充実させるための大切な指針を得ることができました。海の向こうの知らない世界を知り、新しい価値観に触れる──その大切さを知ったのも、創大の学ぶ意欲を最大限あと押ししてくれる環境があったからこそと感じています。本当に創大は素晴らしいところなので、後輩のみなさんをお待ちしています!

渡邊 幸子 Watanabe Sachiko 
[好きな言葉]
「Fake it until you become it」
[性格]

よく食べ、よく笑う

[趣味]
フラ(ダンス)
[最近読んだ本]
猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子
木内 雄一郎 Kiuchi Yuichiro 
[好きな言葉]
「それでも人生にイエスと言う」
[性格]

気さく

[趣味]
野球観戦、散歩
[最近読んだ本]
我が人生:ミハイル・ゴルバチョフ自伝/ミハイル・ゴルバチョフ
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