困難な時代だからこそロシア語を学び、平和の架け橋に
柳井正勝(やないまさかつ) 文学部人間学科3年
宮内和嘉奈(みやうちわかな) 国際教養学部国際教養学科3年
ロシア語学習者がスピーチで競う第53回全国ロシア語コンクールで、宮内和嘉奈さん(国際教養学部3年)が初級部門の第1位、柳井正勝さん(文学部3年)が一般部門の努力賞に輝きました。国際情勢が複雑化している中、本学は2026年4月から、学部生を対象とした新しい語学教育プログラムとして、「ロシア語インテンシブコース」「中国語インテンシブコース」を開設します。言語によって日本人とロシア人をつなぐことを志す2人に、コンクール出場までの苦労や受賞の喜び、ロシア語への熱い思いを聞きました。
ロシア語に興味や関心を持ったきっかけは何ですか。
柳井 小学生の時にソビエト連邦の国歌を聞き、ロシア語の響きとメロディの美しさに魅せられて、ロシアの歴史を学び始めました。そこからロシアやロシア語への興味が広がり、創価高校時代にロシア語の基礎を身に付け、大学から本格的に学んでいます。
宮内 祖父の故郷がサハリンだと知ったことがきっかけです。私は祖父と会ったことがなく、知ったのは大学入学前なのですが、いつか祖父の生まれ育った町を自分の目で見てみたいと思うようになり、大学でロシア語に触れておこうと考えました。
大学ではロシア語をどのように学んでいますか。
柳井 1年次はロシア語の授業を週4~5コマ履修し、12~13時間は勉強していたと思います。ロシア研究会という部活にも所属して、放課後もロシア語を学ぶ仲間に刺激を受けながら、ロシアに関することを学んでいます。たまに「料理部会」もあり、カーシャというおかゆやピロシキなど、ロシア料理を作りながら楽しく活動していて、宮内さんも部活仲間なんですよ。
宮内 そうなんです。今年度は休部しているのですが、部活を通して個性豊かなロシア語学習者や先生方に触れる機会が絶えずあり、学びのモチベーション維持につながりました。ロシア研究会の主なイベントは、創大祭と毎年主催しているスピーチコンテストなのですが、特にスピーチコンテストは学外からの出場者と交流できるのも大きな魅力ですね。
全国ロシア語コンクールへの出場を決めたのはなぜですか。また、見事に入賞を果たした今の気持ちを教えてください。
柳井 全国ロシア語コンクールは、ロシア語学習者にとって一度は挑戦したいアウトプットの場です。私は昨年も出場し、初級部門(ロシア語学習歴2年以下)で2位という成績でした。今年は、カザフスタン留学から帰国して間もない時期だったので出場しない予定だったのですが、ロシア語学習でお世話になっているスヴェトラーナ・ラティシェヴァ先生からの勧めもあって、勢いで「出ます!」と(笑)。
日本語で原稿を作ってロシア語に翻訳し、さらにロシア人が使う表現に直して暗記する、というステップで準備を進めましたが、特に苦労したのはイントネーションです。ロシア語は、イントネーションの位置が違うだけで文章の意味が変わるため、スヴェトラーナ先生に確認していただきながら練習を進めました。限られた時間の中で準備して、努力賞をいただくことができて大変うれしかったです。留学で語学力を伸ばせたことをあらためて実感できました。
宮内 日本とロシアに関心がある人同士のコミュニティを広げたいと思ったことが、出場のきっかけです。出場すると決めてから当日まで、授業や就職活動、アルバイトで練習に割ける時間が限られていたので、暗記できる文章量を逆算して原稿を作っていきました。原稿作成やスピーチの練習では、創大のロシア人留学生やオンラインで仲良くしているロシアの友人たちが音声データを送ってくれたり、言葉遣いを添削してくれたり、積極的にサポートしてくれたおかげで、何とか発表できる状態に仕上げることができました。
審査発表の瞬間は、結果を残すことができた安堵感と「まさか自分が!?」という驚きが入り交じっていました。優勝という結果は、私だけのものではなく、ロシア人の友人たちとみんなでいただいたものだと思っています。
コンクールでのスピーチ内容を教えてください。
柳井 カザフスタンでの10カ月の留学経験をもとに、「留学へ行く人へのアドバイス」というタイトルで、自国の歴史や文化について知っておくことが留学先の人と打ち解けるきっかけになること、外国語を学ぶときも自国の文化を理解しておくことが重要であることなどを語りました。
一般部門は5分のスピーチと質疑応答で審査されるのですが、スピーチで料理の話をしたこともあり、私への質問は「カザフスタンのおすすめ料理は何ですか?」だったので、クイルダクという馬肉や内臓と野菜を炒めた家庭料理を紹介しました。スーパーのお惣菜コーナーにも並んでいるような一般的な料理なのですが、とてもおいしくて、留学中はお店のメニューにあったら必ず頼んでいました。
宮内 私は「美しいロシア」をテーマに、いつかロシアを訪れたら壮麗な教会建築と優美なバレエを鑑賞したいという夢や、豊かな自然の中で友情を育みたいという将来への希望をスピーチにまとめました。
「美しいロシア」は、日露戦争を描いた映画「二百三高地」の終盤に出てくる印象的な言葉です。この映画の中では、あおい輝彦演じる教師が、出征前、子どもたちに「ロシア人がみんな敵だと思うような考え方はいけない」と説きます。この教師のように、私もどんな情勢下でもロシア人との友情を大切にしよう、という決意が今回のスピーチの出発点でした。壇上では緊張で頭が真っ白になってしまいましたが、スピーチを終えて緊張が解けた時、客席でうなずいていらっしゃる方が目に入り、自分の夢に激励をいただいたような気がしました。
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、今、ロシア語を学ぶ意義をどう考えていますか。
柳井 言語とは、それを使う民族を表すものです。英語を介してロシア語話者とコミュニケーションを取れたとしても、ロシア語で会話しなければ、真に相手の言いたいことを理解するのは難しいと感じます。ロシアのウクライナ侵攻についても、戦争自体を肯定するつもりはありませんが、ロシア側から見える事情は日本から見えてる状況と異なるようにも思います。私は将来、ロシアが地球市民の一員として世界と友好関係を構築するために尽力していきたいと思っています。そのために、今しっかりとロシア語を学んでおくことに、大きな意義を感じます。
宮内 私も柳井さんと同じく、言語を学ぶことには、相手や現場の解像度を高める力があると思っています。ロシア語には「カチューシャ」や「イクラ」など日本語として浸透している単語もありますし、ウクライナ避難民の方の中には、ロシア語での援助を必要とする人もいます。実際、法務省や東京都はロシア語対応版の避難民向けツールを発行しているのですが、そうした事実はなかなか認知されていません。ロシア語の学びを通じて、ステレオタイプに縛られず、知ろうとする姿勢の大切さを学びました。
今後の目標を教えてください。
柳井 来年、ロシア語能力検定試験1級に挑戦する予定です。引き続きロシア語力を高め、将来的にはロシア語を使って、日本とロシアの関係強化に尽力したいと考えています。具体的には、ロシアの豊富な資源開発等の分野で、日本企業が協力できることは多いと考えており、ロシアが日本との協力関係を通じて、他の西側諸国との連携を深めていくことに貢献出来ればと考えています。
宮内 語学の面では、来年度はロシア語検定試験にも挑戦したいと思っています。また、ロシア語の理解と普及のため、ロシア語に縁がない人とロシア語圏留学経験者が交わるラフな交流会が企画できたらと考えています。また、私のロシア語の原点は祖父の故郷にあります。いつか訪れて、どんな町になり、どんな人がいたか、祖父の墓前で報告したいです。ロシア語は、私とロシアにいるかけがえのない友人たちをつなぐパスポートです。それを生涯大切にできるよう、さまざまな経験を重ね、時代や環境に翻弄されない人間性を身に付けていきたいと思います。
創大をめざす後輩たちにメッセージをお願いします。
柳井 創価大学は国際色豊かな大学で、創立者が構築した世界の学術機関との関わりも深く、語学の学習環境が整備されています。また、熱意さえあれば、先生方や職員の方々が全力でそれに応えてくれる大学です。実は私の留学も、元々希望していたロシアにはウクライナ情勢の影響で行くことが叶わず、教授に「どうしてもロシア語圏へ留学したい」と直談判してカザフスタンの交換留学先を用意していただき、実現にこぎ着けました。目標に対する自分の強い思い次第で、何でも実現できる、成長できる場所だということを、みなさんにお伝えしたいです。志ある学生をお待ちします!
С нетерпением жду мотивированных студентов в университете!(ス ネチェルペーニエム ジドゥー マチヴィーラヴァンヌィフ ストゥジェンタフ ブ ウニベルシチェーチェ/志ある学生さんをお待ちしています!)
宮内 創価大学は人間主義の大学であり、みなさんにどんな現実や過去があっても、決して否定しません。ロシアからもウクライナからも留学生を受け入れていることは、国際平和をめざす創大を象徴していると思います。今、あらためて恵まれた環境で学んでいることを実感しています。来年度にはロシア語インテンシブコースが開設され、学部での学びとロシア語の学びのかけ算も可能になり、誰でもユニークな存在になるチャンスが広がります。創大では、行動を起こせば必ず自分の居場所が見つかるはずです。みなさんとキャンパスでお目にかかるのを楽しみにしています。ロシアセンターにもぜひ来てくださいね! Спасибо! Пока-пока!(スパシーバ パカパカ/ありがとう。またね!)
<文学部 人間学科3年>
柳井正勝
Yanai Masakatsu
- [好きな言葉]
- 意志あるところに道は開ける
- [性格]
- 明朗、実直、好奇心旺盛
- [趣味]
- クラシック音楽鑑賞、ピアノ・ヴァイオリン演奏、読書、旅行
- [最近読んだ本]
- 頭じゃロシアはわからない/小林和男
<国際教養学部 国際教養学科3年>
宮内和嘉奈
Miyauchi Wakana
- [好きな言葉]
- あなたの毎日が世界を創る
- [性格]
- ズボラ
- [趣味]
- 映画鑑賞、食べ歩き
- [最近読んだ本]
- 死刑囚最後の日/ヴィクトル・ユゴー