【法学部「地球平和共生コース」の授業でヒダクマ代表取締役・松本 剛によるレクチャー概要】 木を利用することは、生態系(関係性)をつくること

講師:松本 剛 氏(株式会社飛騨の森でクマは踊る 代表取締役)
◆ 講義の主旨

外部講師を招いての最初の回となった2026/5/27の「地球市民社会演習②」の授業で、岐阜県飛騨市を拠点に、地域の広葉樹(こうようじゅ)を活かした独自の価値創造と森林再生に取り組む「株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)」代表の松本剛氏をお招きし、特別講義が開催されました。

飛騨市の面積の約9割を占める森林のうち、約7割を広葉樹が占めています。しかし、曲がりやねじれ、太さの不均一さを持つ広葉樹は、従来の画一的な木材流通市場においては価値が付きにくく、多くが安価なチップ用の材などとして取引されてきました。本講義では、そうした「ままならない」広葉樹の個性を、クリエイティブとテクノロジーで新たな価値へと変換し、人と森、そして地域経済を結ぶ「関係性の生態系」を構築する試みについてお話しいただきました。

講義の主なポイント

1. 木の「ままならなさ」を価値に変えるデザインと先端技術
一律に製材された木材を求める市場に自然を当てはめるのではなく、森にある木の形に合わせて家具や空間を設計する手法を紹介。3Dスキャン技術やAR(拡張現実)などの先端テクノロジーを、飛騨が誇る伝統的な職人技術と融合させることで、曲がった木や分かれた枝など、かつては規格外とされた木に固有の価値を見出し、ユニークなテーブルの脚やインテリア材へと生まれ変わらせています

2. 産業のバリューチェーンを支える「地域の生態系」
木材を利用することは、単なる消費活動ではなく、森を育てる人、木を伐る人、製材する人、刃を研ぐ人(目立て職人)、そして加工する職人の関わり合いからなる「地域の生態系」を機能させることであると指摘。どれか一つの技術が欠けても成り立たない手仕事のバループールを守り、持続可能な関係性を地域に育むことの大切さが語られました。

3. 「森」と「林」の違いから考える持続可能なアプローチ
人の手によって単一の木種を植えて育てる「林(人工林)」と、多様な生物や樹種が複雑に交じり合う「森(天然林)」の違いを整理。一律にすべてを伐採する「皆伐(かいばつ)」ではなく、自然のサイクルと経済性のバランスを考慮した「列状間伐」など、試行錯誤を繰り返しながら100年後の森の多様性を見据えて行う「森づくり」の実践が共有されました。

学生からのフィードバック

講義を聴講した学生から寄せられた、特に深く本質的な気づきを2つご紹介します。
声①:商品の都合に資源を合わせるのではなく、資源にものづくりを合わせる
「よく耳にする『地域産業の衰退』とは、単なる人口減少や経済縮小ではなく、その土地に存在する資源にすり合わせることができていない、つまり『価値化・言語化できていない状態』ではないかと考えさせられました。
現代の経済システムでは、市場に合わせた画一的な資源を確保することが当たり前とされますが、ヒダクマさんが実践している『資源に合わせたproduction(ものづくり)』という考え方に深く共鳴しました。山に存在する木の多様性に合わせたものづくりは、森林との関係性の再構築そのものです。特に、クライアントが自ら山に入って木を選ぶプロセスは、単なる『消費者』を、消費するモノと深い関係性を持つ『主体的な人間』へと変化させる、とても面白い取り組みだと感じました。(地球平和共生コース・3年男子)
声②:森を支配対象としない、人間以外の存在も主体とする共生のあり方

「私が最も印象に残ったのは、森を人間が完全に管理・支配できるものとして捉えない視点です。これまで私は『放置林をどう活用するか』といった、人間による管理的な観点から考えがちでした。しかし、コントロールできるのは一部であり、森は多様な生物や時間の積み重ねで成り立つ存在だというお話にハッとさせられました。
​​​​​​​『市場価値のある真っ直ぐな木だけが切り出され、他は放置される』という従来の基準に対し、お客さんが自ら森に入って曲がった木を選ぶクリエイティブな実践は、一方的な森林の有効活用ではなく、地域の森と人との『関係性』を改めて捉え直そうとする試みだと感じます。森林資源を単なる『木材』としてではなく、生物多様性や人とのつながりを含めた存在として地域内で価値を循環させていくことが、これからの持続可能な地域づくりにおいて重要なのだと学びました。」(地球平和共生コース・3年女子)

講義を終えて

松本氏は、「環境に優しい」「SDGs」といった表面的なキーワードで終わらせるのではなく、割り切ることのできない自然の複雑さや、地域の現実的な課題に対して「自ら関わり、主体的に悩みながら試行錯誤すること」の意義を強調されました。
学生のフィードバックからも、単なる環境保全ビジネスという枠を超え、現代の消費社会やビジネスのあり方そのものを根本から問い直す大きな契機となったことが伺えます。本講義は、法学や社会規範、地域社会のあり方を学ぶ学生にとっても、自然資源の保全と地域経済の循環をどのように制度や協働の枠組みに落とし込んでいくかを具体的に思考する、極めて示唆に富む機会となりました。

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