【地球平和共生チュートリアル特別講義】 食と健康を「はかる」ことから始まる社会貢献
講師:上木 知規 氏(株式会社タニタ取締役)
◆開催概要
2026年7月15日、創価大学法学部において、株式会社タニタ取締役の上木知規氏をお迎えし、特別講義が開催されました。かつて体重計の代名詞であったタニタが、「健康をはかる」計測機器メーカーから「健康をつくる」ソリューション企業へと変革を遂げた軌跡と、超高齢社会における社会保障費適正化や行動変容といったマクロな課題解決に向けた取り組みについてご講演いただきました。
◆講義の主旨
1.企業ドメインの再定義と「無意識の健康管理」
● 「はかる」から「つくる」への進展:1959年の家庭用体重計や1992年の世界初の乗るだけではかれる体脂肪計など、常に技術革新を重ねてきた同社は、現在「健康をつくる」ソリューション領域へと事業を拡大しています。
● 生活動線に溶け込む計測:2022年発売に城東テクノ株式会社と共同開発した床下点検口一体型体組成計「NORNE(ノルネ)」のように、日常の中で意識させずに計測を完了させる「アンビエント(環境に溶け込んだ)な計測」を追求しています。
● 反対を乗り越えた食堂事業:「メーカーが飲食店をやるなどあり得ない」という社内の強硬な反対に対し、顧客の「レシピ本をのもととなったメニューを食べてみたい」という期待に応えることと、食というソリューションが健康をはかる真の目的の実現につながるとの思いで開設した「タニタ食堂」が、健康総合企業への転換点となりました。
2.「食」の戦略的アプローチと「失敗からの学習」
● 明確なブランドポートフォリオ:健康意識の高い層向けの「タニタ食堂」(一汁三菜・咀嚼重視)と、関心が低い層・若年層向けの「タニタカフェ」(こころの健康、一日の目標摂取量の1/2以上の野菜を取れる・カムージーやフォー)を使い分け、幅広いアプローチを展開しています。
● 失敗を糧にした改善:タニタカフェ初期に有機野菜を導入した経験から、「有機」という付加価値よりも「国産・安全・美味しさ」のバランスが重要であることを学び、現在の多様な企業コラボレーションへ繋げています。
3.データ駆動型の地域共創と国家課題への解決策
l 予防医療のエビデンス:IoTを活用した「タニタ健康プログラム」の自社導入では、社員1人あたりの年間医療費を約9%削減(健保平均比で約18%削減)する圧倒的な成果を証明しました。
l 地域ごとの課題解決:地域との共創においても、タニタは「現場の摩擦」から解決策を見出している。例えば、「ご当地タニタごはんコンテスト」は、タニタ食堂を地方展開した際の経験がきっかけとなっている。東北地域において、濃い味付けを好むという地域の食の特性とマッチせず、撤退を余儀なくされた経験があった。タニタはこれを教訓とし、地域の食文化を生かしながら、受け入れられやすい健康食と地域の伝統食を残す取り組みとして同コンテストを実施。保存性のため塩分過多になりがちな伝統食を健康的にリメイクする取り組みを実施している。また、秋田県大仙市との取り組みでは、市と協定を結び、市民約8万人を対象にした健幸づくり事業を実施している。市民全員に活動量計を配付。郵便局や薬局を「健康スポット」として活用し、活動量計をタッチするだけでデータがサーバーへ送られるインフラを整備。測定のハードルを徹底的に下げることで、無意識の継続を地域レベルで実現している。
l 社会保障費抑制への貢献:令和5年度に48兆円を超えて急増する国民医療費や健康寿命の乖離に対し、「予防」を通じた医療費の適正化と未来の公的負担抑制という社会貢献を提示しています。
◆学生からのフィードバック
講義を聴講した学生から寄せられた、特に深く本質的な気づきを2つご紹介します。
声①:一人の真剣な発意が社会を変える―「健康をはかる」から「健康をつくる」への進化
「私は上木様のご講演を通して、1人の声が企業を、そして社会を変えるきっかけになると実感しました。周囲の反対の中で1人の真剣な発意によって実現された食堂事業の淵源を伺い、今となっては当たり前に耳にすることでも、その背景には様々なアクターによる試行錯誤の繰り返しがあると感じています。貴社が直面する課題や社会の要請に応えるため、多様な事業展開に取り組まれる貴社の姿勢を学びました。また、時代に即応するために、事業に変化を取り入れることを忘れない点に感銘を受けました。貴社は1970年代以降『健康をはかる』ことを理念とされていた一方、少子高齢化という課題が重くのしかかる現在では『健康をつくる』ことに焦点を当てられています。加えて、行政や地域社会など様々なアクターと連携した事業を推進されていると拝聴しました。貴社の歴史と今後のビジョンから、社会課題 of の解決に向けた総合的なインパクトをもたらす方途があると思いました。」(地球平和共生コース・3年男子)
声②:予防医療がもたらす社会保障費への貢献と、失敗を成功に変えるタフな経営姿勢
「タニタ食堂が人々の健康を慮って、高齢化社会まで見据えた事業展開を行っている点に魅力を感じました。生活習慣病の予防は税金を結果的に減らすという文脈で訴えることで、様々なセクターと連携するきっかけになると感じました。失敗を成功に変えるためにトライし続けるタフな経営姿勢に学び、私も粘り強く今後の学生生活に励みたいと思います。」(地球平和共生コース・3年女子)
◆ 講義を終えて
質疑応答では、「ストリートファイター」や「名探偵コナン」などのIPコラボを活用した「推し活」による行動変容の工夫や、嫌いな食材は同じ栄養素を含む別の食材で補う柔軟な思考など、若者の健康づくりに向けたアイデアも共有されました。
食を通して健康力を上げ、自己治癒力をも上げていくタニタ様の方針が、ひいては国家の膨張する社会保障費の軽減に繋がっていくというお話は、きわめて公益性の高いものでした。普段からの自らの健康管理というのは「言うは易し、行うは難し」で、ままならない身体とどう付き合っていくかという点についても深く考える機会となりました。
講師が学生の質問に一つ一つ、丁寧にご回答いただく姿に感銘を受けました。一人ひとりが自らの健康を「はかり」、主体的に「つくる」自律的な社会の実現に向けて、受講生にとって企業の社会的責任と持続可能な社会のデザインをいっそう深く考える、大変に貴重な機会となりました。