在外研究報告 岡部 史信 教授

スペイン・ナバラ大学

在外研究の期間および留学先

2008年9月20日から2008年3月17日までの約半年間、在外研究の機会を利用させていただき、スペインで研究することができた。今回の渡航先をスペインとした理由は以下のとおりである。現在日本では残念ながらスペイン法研究が極端に遅れているため、私を含め二十数名の日本国内のスペイン法研究者で3年前に日本スペイン法研究会を立ち上げた。私は、当研究会において事務局を担当させていただくとともに、研究分野としては労働法および障がい者法を中心に研究成果の報告などを行っている。このため、上記分野の研究をさらに深めるとともに、さらにスペイン法の全体的な研究を進めたいと考え、今回の在外研究の機会にスペインを選択した。

受入機関

受入機関は、ナバラ大学カテドラ・ガリーゲスである。この機関に受け入れをお願いした理由はいくつかあるが、特に次の2つが主たるものであった。1つは、ナバラ大学がスペイン国内においても法学研究において高く評価されており、法学部所属の各研究者の活動も活発であることである。もう1つは、スペイン最大の法律事務所の全面的な協力のもとにあるカテドラ・ガリーゲスがグローバル法研究において世界的に有名であることである。こうした理由により、この大学で勉強できる機会をいただければ、自分には気がつかないさまざまなスペイン法の諸問題を研究できると考えた。

受入責任者

私を実際に受け入れてくれ、またさまざまに研究活動の便宜を与えてくれたのは、ナバラ大学法学部教授であり、カテドラ・ガリーゲス・コーディネーターのラファエル・ドミンゴ氏である。ドミンゴ教授は、ローマ法の分野においてスペインの第一人者であると同時に、グローバル法の分野でもスペインの法学界における栄誉ある賞を受賞している著名な研究者である。そして、彼自身が中国法、インド法、日本法にも強い関心を示していたことから、今後のさまざまな連絡や共同研究活動を実現するために受け入れをお願いした。なお、実際にナバラ大学に行って初めて知ったことであるが、ドミンゴ教授と私は同年代であったため、急速に打ち解けることができ、公私にわたりいろいろとお世話になった。

研究テーマ

今回の研究の主たるテーマは、スペイン労働法の全体像の調査および今日的諸問題の分析と考えていた。しかし、期間が半年間と短いため、具体的な研究は個別的労働関係分野に限定し、その他の個人的に注目している分野、特に労働法制史、労働市場関係法制および紛争処理関係法制については資料収集にとどめることにした。
資料収集については、ナバラ大学法学部のインマクラダ・バビエラ労働法教授にたいへんお世話になり、さまざまな質問に応じていただくとともに、私の質問事項をはるかに上回る数多くの資料や情報をいただけたでなく、ナバラ大学で定期的に開催されているアランサディ・ソシアルの労働法フォーラムにも参加する機会を与えていただき、スペイン労働法学の世界で著名なセンペレ・ナバロ教授をはじめ多くの労働法学者および労働弁護士をご紹介いただいた。さらに、バビエラ教授にスペインの重要労働判例を整理したい旨のお願いをしたところ、貴重な資料を提示していただき、このおかげで約1500本の判例を日本に持ち帰ることができた。
このため、ナバラ大学滞在中には有給休暇制度および懲戒解雇制度に関する2本の論文を執筆することができ、また女性および年少者に関する労働法制史について簡単にまとめることがでた。このうち、懲戒解雇制度に関する内容は、2008年5月24日に開催された日本スペイン法研究会で報告させていただいた。現在、試用期間、賃金制度、労働時間、監督制度、労働裁判制度に関する論文を順番に作成すべく準備しているところである。

その他の活動

上記の個人的な研究以外に以下のような活動を行うことができた。
  1. 各種講演。ガリーゲス・カテドラの研究員の質問に応じて、「日本の女性天皇誕生の可能性」について原稿をまとめ提出した。また、ナバラ大学法学部では「日本の労働事情および労働法の問題点」について話す機会をいただいた。さらに、サラゴサ大学で「日本法の現状とスペイン法研究の動向」について話させていただいた。
  2. 法学研究基金への参加。現在、ドミンゴ教授が責任者として活動している、グローバル法調査機関であるフンダシオン・マイエスタスに、日本法調査員として参加することができるようになった
  3. スペイン法出版プロジェクト。今回の在外研究での最大の成果のひとつであると考えているが、日本法についての法律用語辞典をスペインで出版されているフランシスコ・バルベラン弁護士を知ることができ、同氏の全面的な協力のもとに、特にサラゴサ大学法学部の研究者を中心としたスペイン法各分野の研究員と日本スペイン法研究会の研究員が協力して、日本で初となるスペイン法研究の研究書を発刊する計画を具体化することができた。本書は、2008年度中または2009年度の早い時期までに完成させたいと考えている。

最後に

今回の在外研究に際しては、機会を与えていただいた創価大学、半年間ご迷惑をおかけした法学部の方々にはもちろん、さらに留学をするに際してさまざまなご相談にのっていただいた南山法科大学院の黒田清彦先生をはじめ日本スペイン法研究会の方々、またスペインで生活するにあたり各種の手続きをしていただいたナディアさん、マルティンくん、そのほか数多くの方々に心から感謝いたします。

本文章は、2008年5月14日に創価大学A棟130教室で開催された「在外研究成果発表会」の原稿に加筆したものです。