丹木の歳時記2024 霜月(一)

今月24日までは「秋の読書推進月間」です。この秋読んだ本の中で特に印象的だったのは、英国の司法精神科医グウェン・アズヘッドの著書『そして、「悪魔」が語りだす』。そこには暴力犯罪者など11人へのセラピーの事例が綴られています。心の中に「悪魔」が住み着いているような犯罪者との対話は職業とは言え勇気を要すること
でしょう。過去にどのような人生を歩み、なぜ犯罪に至ったのか。相手は容易に心を開かず最初は簡単な会話さえままなりません。そうした犯罪者に対して筆者は偏見や先入観を抱かず人間として向き合い、根気よく対話を重ね、ひたすら「悪魔が語りだす」瞬間を待ちます。登場する犯罪者の中には幼少期にネグレクトや精神的・肉体的虐待を受けていたケースも少なくありません。誰からも愛されず助けも得られず孤独感に苛まれるうちに、心に深く刻まれた傷が自身や他者への暴力性として発現したのです。過酷な経験は犯罪の必要条件でも十分条件でもなく、ましてや他者を傷つけ殺めるような犯罪が許されるものでないことは言うまでもありませんが、そこに至るまでに手を差し伸べ寄り添う人がいればまた違った人生もあったのではないか。人の心の複雑さや回復の可能性について考えさせられ、重い余韻の残る一書でした。
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