丹木の歳時記2025 水無月(一)

世の猫好きに「猫かわいがり」されている飼い猫は多けれど、「吾輩」と自称する猫ほど有名な存在はないでしょう。言うまでもなく、夏目漱石の小説『吾輩は猫である』の主人公です。この小説の連載が始まったのは、今から120年前の明治38年(1905)1月。日露戦争のさなかでした。同年5月には日本海海戦が行われ、東郷平八郎率いる連合艦隊がロシアのバルチック艦隊を対馬沖で壊滅させます。これは、司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』でも鮮やかに描かれています。漱石の親友・正岡子規は、その3年前の明治35年(1902)に結核で死去。漱石が訃報を聞いたのは、遠く離れた留学先のロンドンでした。帰国後の漱石は、森鷗外が一時住んでいた千駄木の借家に移り住み、小説の執筆を開始します。『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『草枕』といった作品が生まれたこの家は「猫の家」と呼ばれるようになりました。一方、この頃の森鷗外は軍医として日露戦争に従軍していました。明治39年(1906)に凱旋帰国した鷗外は、その後、大正5年(1916)に49歳で死去した漱石と競い合うように作品を発表していきます。同時代を生きた三人の息遣いを間近に感じることができるのは、東京・天理ギャラリーで開催中の「漱石・子規・鷗外―文豪たちの自筆展―」(6月15日まで)。特段の猫好きならずとも見ごたえのある展示です。












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