丹木の歳時記2026 霜月(一)
電車に乗った時から何となく違和感がありました。その正体がつかめないまま、何気なく隣の女性を見ると文庫本を読みふけっています。その隣の会社員は新聞を、そのまた隣の高校生は参考書を広げています。電車内の誰もが本や新聞を読んでいるのです。まるで昭和の時代にタイムスリップしたような奇跡的な光景が違和感の正体だったのです。
ふと目を覚ますと、座席で本を読みながらうたた寝してしまっていました。あの光景はやはり夢だったようで、改めて周囲を見渡すとほぼ全員がスマホの画面を眺めていました。
先月27日から「秋の読書週間」が始まりました。文化庁が2023年度に行った調査では、1か月に1冊も読まない人は62.6%、7冊以上読む人は1.8%でした。秋の夜長はしばしスマホの画面から離れて本を開き、デジタル・デトックスするチャンスです。
慶應義塾の塾長を務めた小泉信三はこのように語っています。「本を読んで物を考えた人と、全く読書しないものとは明らかに顔が違う。或る人は、読書家が精神を集中して細字を視ることが、その目に特殊の光を生ぜしめ、これが読書家の顔を造ると言ったが、或いはそうかも知れない。しかしひとり眼光には限らない。偉大なる作家、思想家の大著を潜心熟読することは人を別人たらしめる。それが人の顔にも現れることは当然であろう(『読書論』)。
さて本欄の筆者の目に「特殊の光」が生じているかはご想像にお任せします(笑)。
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