丹木の歳時記2026 葉月(一)
「早く、早く見に来てよ、鳥みたいな大きな蛾」。1893年5月のある夜、ファーブルは息子のポールに大声で呼ばれました。急いで駆けつけると、ポールの寝室には40頭ものオオクジャクヤママユのオスが飛びまわっていました。
寝室の隣にあるファーブルの研究室には、その日の朝に羽化した1頭のメスがいたのです。その後、メスが死ぬまでの1週間で、合計150頭ものオスが飛んできたと言います。
オスたちは一体何を頼りに遠くからやってくるのか。それ以後の4年間にわたる実験の果てにファーブルがたどり着いた結論は、メスが発する「知らせの発散物」に導かれて飛んでくるというものでした。(参考:奥本大三郎訳『完訳ファーブル昆虫記』第7巻下)
私たちは今でこそフェロモンという化学物質の存在を知っていますが、それが解明されたのは1959年、ドイツの生化学者ブーテナント(1903-1995)らによってです。
ヤママユは、羽化してからの寿命が約1~2週間です。口が退化しているため、蝶のように花の蜜を吸うことはできません。相手を求めて飛び回り、交尾の後には短い寿命を終えるのです。食べることもせず、ただ次の世代に命をつなぐためだけに羽化する。ヨーロッパのオオクジャクヤママユとは別種ですが、キャンパスでヤママユを見かけると、その一途な生き方に愛おしさを覚えます。
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