留学体験(佐藤理恵さん・フォルケホイスコーレ)
留学の目的、その国を選んだ理由
私の留学の目的は主に3つあります。
①人種や文化、言語の面でのマイノリティとして生活する
海外で人種や言語の面で、マイノリティとして生活する中で得た新たな知見を、今後の言動や思考に生かしたいと思ったから。また、そのような経験を通じて成長した私が、さらに周囲にポジティブな影響を与えでいくことが出来るという事にワクワクしたから。
②全く異なる文化の中で生活し、それぞれの人生や価値観について対話する
2年間の寮生活では、日本各地から様々なバックグランドを持った友人達と生活し、何気ない会話から、今までの人生・将来の目標まで沢山語り合ってきた。その時、新たな価値観や経験に触れられることが何より楽しかったのと同時に、異文化で生まれ人たちと彼らのバックグラウンドや価値観について共有する事で、さらに多角的な視点と巡り合えるのでは!?とワクワクしたため。
③環境先進国、ジェンダー格差の少ない環境、ヒュッゲのなかで暮らす
・環境先進国→ゼミで環境問題について勉強する中で「環境先進国」で環境に優しい生活を生活する事に憧れが高まったから。
・ジェンダー格差の少ない環境→Soka Rainbow Actionsに所属し、男女格差だけではなく、LGBTQ+に対する無知から生じる不平等な差別の現状を目の当たりにしたことで、同性婚が合法化され、性別に囚われず自由に生きることが出来る国に憧れたから。
・ヒュッゲの中で暮らす→コロナ禍でゼロになった日本の社会問題の負の側面しか見ることが出来なかったとき、幸福度の高い国に対する憧れが強くなったから。
ヒュッゲ(hygge)とは…心がふんわり温かくなる方法。存在する「もの」ではく、その場の空気や経験を表す。例)人との暖かいつながりを作る方法、心の安らぎ、不安がないこと、お気に入りのものに囲まれて過ごす幸せ、キャンドルの明かりのそばでココアを飲む、などなど...
関心のある方は、以下の書籍をお薦めします。
Meik Wiking(2016).『 THE LITTLE BOOK OF HYGGE. Penguin Books Ltd., London. アーヴィン香苗(訳)(2017) ―365日「シンプルな幸せ」のつくり方―三笠書房』
以上のことを体験し、憧れを実現させるにはフォルケホイスコーレがぴったりだと思ったからです。
学校の概要、特色、選んだ理由
①フォルケホイスコーレとは
・デンマーク流民主主義の基盤を作る学校。デンマーク国内に70校前後あり、17歳以上であれば誰でも入学可能。高校卒業後などのギャップイヤーに、本当に興味のあることを探求したい人、新しいことにチャレンジしたい人が多い。
・入学試験や科目試験、単位、成績が一切ない。他人の評価ではなく本人が何を学び何に活かせるのか、という自己実現の心が重要とされている。
・ディスカッション主体の授業形式が古くから用いられており、生徒は意見を統合させる民主主義的解決の方法を自然に学ぶ。
・全寮制の学校。生徒だけでなく、先生も同じ学校の中に暮らし、年齢や国籍が異なる仲間として同じ時間を過ごす。学校生活を通じて「自分が何者であるのか」を知り、社会は多様な他者との関係で成り立っていることを体感することができる。
※上記の情報は、一般社団法人IFASを参照。
②学校選択の理由
私は、8/7から10日間 Avnø Højskoleに、8月17日から4か月間, Løgumkloster Højskoleに滞在していました。
Avnø Højskole(※)を選択した理由は、環境問題×メンタルヘルス×食生活×コミュニティを包括的な循環を重要視していたからです。環境問題に対して日常生活で実践する事で、環境の持続可能性だけでなく、人生もよりウェルビーングにすることができる環境があると確信しました。そのような場所に飛び込み、3か月実際に体験したいと思ったからです。
しかし、Avnø Højskoleでは3か月のロングコースを受講する予定でしたが、出国の1週間前に、生徒数不足によりロングコースはキャンセルするとのメールが届きました。
その時、以前リストアップしていた学校全てに自身の状況を説明するメールを送ったところ、すぐに返信してくれたのがLøgumkloster Højskoleでした。(多くのフォルケは返信が大変遅いです)
正直、志望度はそこまで高くありませんでしたが、「留学先にも絶対に出会わなければいけない人達が待っているよ!」という友人の言葉を思い出し、思い切ってチャレンジする事にしました。
※Avnø Højskoleはデンマーク政府からの認定を受けたフォルケホイスコーレではありません。
現地での学びや活動状況
Avnø Højskole 5日間のショートコース:マクロビオティック
→穀物や野菜、海藻などを中心とする日本の伝統食をベースとした食事を摂ることにより、自然と調和をとりながら、健康な暮らしを実現する考え方。日本発祥の食文化だが、欧米を中心に世界に広まっている。
授業外では、みんなで近くの海に行き、ワイン片手に日の入りを見に行ったり、映画鑑賞やボードゲームなどを行いのんびり過ごしました。
Løgumkloster Højskole
授業
メイン:パーマカルチャー、セラミック
選択:デンマーク語、バイオダイナミックス、ダンス、哲学、合唱、スケッチ、環境活動家に関する授業、ノルディックリビング
授業外の主な活動
8月:Tønder Music Festival のボランティア
9月:プラハへの修学旅行10日間、フォレストガーデンの見学
10月:トウモロコシの収穫祭、ハロウィンパーティー
11月:リーベ(デンマーク最古の都市)&フレンスブルク(ドイツ北部の港町)のクリスマスマーケット
12月:ウェディングパーティー、卒業パーティー、卒業式
留学の成果
①人種や文化、言語の面でのマイノリティとして生活する
初の海外渡航であった今回の留学では、今までとは異なるタイプのストレスや緊張を感じることがありました。
・カタールからデンマークへの乗り継ぎの際、強い不安を感じ、常に日本人を探していた。初めて同胞という言葉を強く意識した。
・交通情報や学校のアナウンスなど、想像以上に英語よりデンマーク語が用いられていた。聞き慣れていないデンマーク語から英語へ切り替えにも体力が消費され、母国語が共通言語ではない環境で生きる心細さは、貴重な体験であった。(初日に電車を乗り間違えて目的地に辿り着けないと思った時は、駅のホームで泣きながら友人に電話していました)
そんな環境でも滞在期間を漫喫できたのは、知らない人にでも歩み寄り、話し合う姿勢のあるデンマーク人のおかげでした。
・英語で話しかけると快く英語で答えてくれる。(バス停で困っているとすぐに声をかけ、遅延情報を説明してくれました)
また、シリア難民としてデンマークに移住した方の体験談も学ぶことが多かったです。
以上のような経験を友人と共有や日本語話者ではない方との積極的なコミュニケーションなど、私が感じた事を周囲に伝える中で、マイノリティとして孤独を感じる人が1人でも減ればいいなと思っています。
②異なる文化の中で生活し、それぞれの人生や価値観について対話する
海外へ一歩飛び出し、自分の文化が「当たり前」ではない環境に身を置くことで出会えた発見や驚きの1つ1つが冒険でした。特に、政治・選挙の違い、ギャップイヤーに対する価値観、過度なソーシャルプレッシャーに対する違いが興味深かったです。
・政治、選挙
滞在期間中に4年に1度の総選挙が行われた。デンマークの投票率は平均して85%前後である。街頭演説などは行われず、立候補者と市民のディスカッション、政策や支持理由を明確に語る姿には感銘を受け、思わず質問ばかりしてしまう時もあった。一方で、選挙開票日は、スクリーンの前でビールとお菓子を抱え、ソファーに座りサッカー観戦のように盛り上がる様子にデンマークらしさを感じた。
・ギャップイヤー
高校卒業後から大学入学まで期間などに、旅行や留学など、一度立ち止まって自分と向き合う時間を設ける事。
デンマーク人の多くは、ギャップイヤーを通して様々な人と出会いながら自身の好きな事に挑戦している。その経験を通し、心から学びたいと感じてから専門的に学び始める。このような時間を確保することが難しい日本の学生とでは、人生の充実度が大きく異なると感じた。友人の話を聞く中で、人生の人生は自分で選び取る!という価値観が前提にあると感じた。日本では、多くの人が時間に追われ、仕方なく選択している人が多いというイメージがあるので、その違いに驚いた。
・ソーシャルプレッシャー
客観的に日本での生活を振り返った際、消費者の焦りを掻き立てる事で購買意欲を引き出そうとしている広告に、自身が飲み込過れている自分に気が付いた。特に、ダイエット商品や脱毛関連の広告は過剰であるがそれが「当たり前」と感じていた。その事を伝えると、みんな驚き、窮屈すぎる!と言われた。このように生きづらさを感じてしまう日本の負の側面から、伝統文化や習慣などの素晴らしい側面を含めて、日本を客観的に振り返るいい機会であった。
日常会話といったカジュアルな内容から、社会問題まで気軽に話し合うことが出来るのは、各々の「当たり前」を尊重し合っているからであると感じました。
③環境先進国、ジェンダー格差の少ない環境、ヒュッゲのなかで暮らす
・環境先進国
ガソリン価格や自転車、エシカル商品、認証マークの普及率の高さ、身近なリサイクルショップなど、さすが環境先進国だなと思うことが多くあった。一方、ゴミ箱に区別させず溢れているお菓子袋やビール缶、キッチンスタッフの作る料理が多すぎることで発生する大量の食料廃棄があった。私はデンマーク人に対し、環境配慮に対する意識がとても高いと思っていたので、そうでない人も当然いるという発見があった。この経験から、行政が「環境配慮行動を行うことで市民がメリットを得る仕組み」に長けているという事が分かった。デンマークに関する記事には、よい側面のみ記載されている事が多かったので、直接経験から学べて良かった。
・ジェンダー格差の少ない環境
女だから、男だから、性的マイノリティといったレッテルに捕らわれず、自由に自己表現しているみんながとても輝いて見え、私自身も生きやすいなと感じた。この感覚を早く日本でも実現させたいと思った。
・ヒュッゲ
コーヒーやお茶と共にリラックス。授業では、ソファーの上でクッションを抱えたり、寝転びながら意見を主張したり、それぞれのスタイルで授業出さえも楽しんでいた。食卓にはキャンドルが必須で、想像以上に身近な存在となった。どんな時でも、居心地のいい空間を整える。その上で、集中して取り組むこともできる。形式主義ではなく、内容にこだわる価値観に感動した。
今後について
今後の学生生活では、まず卒業に向けて、就活と卒論に力を入れたいと思います。そして、20代で社会問題(特に環境問題)に貢献している企業でスキルを身につけ、30歳までにデンマークに帰り、再び友人とゆっくりコーヒーを飲みながら編み物をするのが目標です。
後輩へのアドバイス
何かに挑戦する時に困難はつきものですが、私の場合、休学・留学に対する親の反対、学校先のコースの変更、それに伴う新たな学校との手続きなど、留学に挑戦するにあたり大変なことがたくさん起こりました。一番理解して欲しい親に反対された時は、諦めた方が楽なのではないかと思いました。しかし、心からワクワクを感じ、挑戦したい事にあらがうことはできませんでした。卒業式で絶対後悔したくない!と思い、真剣に考え、遠回りしながらも行動し続けました。
滞在中も、思うように話せない英語、急遽発表される学校の行事、1週間のテント泊など、精神的にも体力的にも大変なことはたくさんありました。しかし、新たな価値観や想像以上の素敵な体験、挑戦した先で大切な友人に出会うことができました。私にとってはそれらが何よりもうれしく、困難を超える対価を得ることができたと大満足しています。
私のように、何度も壁が立ちはだかり、これでもかというほど遠回りをし、失敗する人もいるかもしれません。効率よく物事をこなしているように見える友人と比較し、落ち込むこともあるかもしれません。そんな方にエールを送ります。それでも自分を信じ、あなたが感じるワクワクを何よりも大切に挑戦し、失敗・反省、リトライを繰り返してください!いつの間にか、出会うべき友人のもとに辿りつきます。
微力ながらも応援しております。一緒に頑張りましょう!
大丈夫!自分は自分が思うより強い!